この記事でわかること
- 相続財産清算人(相続財産管理人)の権限
- 相続財産清算人の申立方法
被相続人の財産は相続人が承継するため、預貯金は解約し、不動産や株式などは名義変更するケースが多いでしょう。
しかし、独身で両親や兄弟姉妹もいない方が死亡すると、相続人不在の状況が発生します。
相続財産は何らかの形で管理・清算しなければならないため、相続人がいない場合は相続財産清算人の選任が必要です。
今回は、相続財産清算人の役割や選任方法、選任しなかったときの影響などをわかりやすく解説します。
目次
相続財産清算人(相続財産管理人)とは
相続財産清算人とは、相続財産を管理・精算する役割を持った人です。
通常は、相続人が相続財産の管理を行います。
しかし、相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄した場合、相続財産を管理する人がいなくなるため、さまざまな不都合が生じます。
たとえば、相続財産からお金を支払ってもらえるはずの債権者は、貸したお金を回収できなくなります。
また、亡くなった人が住んでいた家を空き家のまま放置すると、治安が悪くなり、倒壊すれば近隣の家屋や人に損害が及ぶ危険性もあります。
相続人がいない不都合を解消し、財産を適切に管理するために相続財産清算人が選任されます。
相続財産清算人の権限
相続財産清算人には以下の権限があるため、相続財産の管理や処分などが可能です。
- 相続財産の保存・利用・改良行為の権限
- 相続財産の処分行為の権限
相続財産の保存・利用・改良行為には相続登記や預金管理などがあり、家庭裁判所の許可は不要です。
処分行為は家庭裁判所の許可が必要になっており、株式や不動産の売却、家財道具の処分などが該当します。
被相続人の車を廃車にする場合も、家庭裁判所の許可が必要です。
相続財産清算人になれる人
相続財産清算人に資格要件はありませんが、基本的には家庭裁判所が弁護士や司法書士を選任します。
相続財産の管理・処分には専門知識が欠かせないため、相続財産清算人は適任者が限定されます。
かつては申立人が相続財産清算人を推薦する運用もありましたが、現在は受け付けていない家庭裁判所がほとんどです。
家庭裁判所は被相続人との関係性や利害の有無などを考慮し、弁護士などの専門家を選任するケースが多いでしょう。
民法改正による相続財産清算人と相続財産管理人の違い
相続人が不在となる場合、旧民法では相続財産管理人を選任していましたが、2023年4月1日の民法改正により、名称が相続財産清算人に変更されています。
また、旧民法では官報公告を以下のように扱っていました。
- (1)相続財産管理人を選任した旨の公告(2カ月間)
- (2)債権者と受遺者に対する請求申出の公告(2カ月以上)
- (3)相続人捜索の公告(6カ月以上)
旧民法は権利関係の確定に10カ月必要でしたが、現在は(1)と(3)を同時公告できます。
(1)と(3)の公告期間が満了するまでに、(2)の公告期間も満了するため、官報公告の期間は6カ月に短縮されました。
なお、相続財産管理人の役割は財産の保存行為に限られます。
相続財産清算人の選任を請求する要件
家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる場合、以下の要件を満たす必要があります。
- 相続が発生している(死亡日が相続開始日)
- 相続財産がある
- 利害関係がある
- 相続人の存在が判明していない
清算する相続財産がある場合に限り、相続財産清算人の選任申し立てが可能です。
法律上の利害関係も申し立て要件になっており、債権者がいる状況などに限られます。
相続人が判明している場合は相続財産清算人が必要ないため、戸籍上の相続人がいない、または全員が相続放棄した場合に申し立てが認められます。
相続財産清算人の選任申し立てが必要になるケース
相続財産清算人が必要となるのは、相続人がいない場合です。
相続人がいない場合とは、次の2つのケースです。
- (1)もともと相続人がいない場合
- (2)相続人全員が相続放棄をした場合
もともと相続人がいない場合とは、被相続人に法定相続人が1人もおらず、遺言によって遺贈を受ける人も不在で相続財産を管理・処分する人がいない状態を指します。
相続人全員が相続放棄をした場合は、被相続人に法定相続人がいる場合でも、その全員が相続権を失うため、相続財産を管理・処分する人が不在となります。
管理が必要な相続財産には、プラスの財産もマイナスの財産も含まれます。
人が亡くなった場合に、相続財産が何もないケースは滅多にありません。
そのため、本来は相続人がいないすべてのケースで相続財産清算人が必要です。
そのなかでも相続財産管理人を選任する必要性が高いケースは、以下の3つです。
相続財産管理人を選任する必要性が高いケース
- 相続人全員が相続放棄した
- 特別縁故者がいる
- 被相続人の債権者がいる
それぞれのケースについて詳しく解説します。
相続人全員が相続放棄した
相続人であった人は、相続放棄をした後も相続財産の管理義務は免れません。
相続放棄をした人は、誰かが相続財産を管理するようになるまで、自己名義の財産と同じく相続財産の管理責任を負います。
たとえば、被相続人が住んでいた古い家屋が空き家となった場合です。
空き家を放置すると老朽化が進みやすくなるため、ちょっとした地震や台風で屋根などが吹き飛んだり、倒壊したりする恐れもあります。
上記のような状態によって近隣の住民に被害が及ぶと、相続人だった人が管理義務違反により損害賠償責任を負います。
ただ、相続放棄をしたにもかかわらず、いつまでも相続財産を管理するのは大変でしょう。
管理に苦労する相続財産を処分してもらうために、相続財産清算人が選任されるケースが大半です。
特別縁故者がいる
特別縁故者とは、相続人ではないけれど、被相続人と特別な関係があった人を指します。
たとえば、被相続人の介護を親身に行っていた人や、内縁の配偶者など被相続人と一緒に生活をしていた人、生計をともにしていた人です。
特別縁故者は、相続人がいない被相続人の相続財産を相続できる可能性があります。
しかし、勝手に相続財産を持ち出せません。
相続財産を特別縁故者が相続するためには、まず、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申し立てが必要です。
相続財産清算人が選任されると、相続人を捜索する公告が行われます。
相続人の不在が確定した後、家庭裁判所に特別縁故者の申立・相続財産分与請求を行い、特別縁故者に認定されると相続できます。
なお、特別縁故者が相続財産を相続するには、相続人の不存在が確定した後3カ月以内に、特別縁故者への財産分与申し立てを行わなければなりません。
相続人の不存在が確定するタイミングは、相続人捜索の公告で定められた期間が終了したときです。
被相続人の債権者がいる
被相続人にお金を貸していた債権者は、相続財産からお金を支払ってもらう権利を持っています。
相続人がいれば、必要に応じて相続財産を処分するなどしてお金を工面し、債務を支払ってもらいます。
しかし、相続人がいない場合、債権者はお金を支払ってもらえません。
もちろん、債権者も勝手に相続財産を持ち出せません。
相続財産を換価して債務の支払いを受けるためには、相続財産清算人を選任する必要があります。
相続財産清算人を選任する流れ
相続財産清算人は、家庭裁判所に選任してもらう必要があります。
ここでは、相続財産清算人を選任する方法を解説します。
相続財産清算人の選任申し立てをする
相続財産清算人を申し立てるときは、家庭裁判所に「相続財産清算人の選任の申立書」を提出します。
申立書は、家庭裁判所裁判所に設置されている書類か、ホームページからダウンロードして使ってください。
参考:裁判所:相続財産清算人の選任の申立書
申立書に必要事項を記入したら、800円の収入印紙を貼り、添付書類と予納郵便切手と一緒に家庭裁判所に提出します。
申し立てはどこの家庭裁判所でもよいわけではなく、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立ててください。
家庭裁判所による審理
利害関係人や検察官が相続財産清算人の選任を申し立てた場合、家庭裁判所は適任者を審理します。
審理の際には被相続人との関係性や利害関係の有無、相続財産の種類・状態などが考慮されます。
基本的には弁護士や司法書士が選任されますが、申立人との利害関係や清算する財産がなければ、申し立ては却下されるでしょう。
相続財産清算人の選定申し立ての必要書類
相続財産清算人の選任を申し立てる際には、以下のとおり数多くの添付書類が必要になります。
必要書類被相続人が亡くなったことを証明する書類
- ・被相続人の住民票の除票かまたは戸籍の附票
相続人がいないことを証明する書類
- ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- ・被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- ・被相続人の直系尊属(祖父母など)の死亡が記載されている戸籍謄本
- ・被相続人の子どもや代襲者で死亡しているものがいる場合には、その人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- ・被相続人の兄弟姉妹で死亡しているものがいる場合には、その人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本
- ・甥や姪などの代襲者ですでに死亡している人がいる場合には、その人の死亡の事実が記載されている戸籍謄本
相続財産を疎明する書類
- ・預貯金通帳
- ・不動産の登記事項証明書
- ・保険証券など
利害関係を疎明する書類
- ・戸籍謄本
- ・金銭消費貸借契約書(写し)
- ・賃貸借契約書など(写し)
その他
- ・相続放棄をした場合は相続放棄申述受理証明書
- ・相続財産管理人の候補者がいる場合はその人の住民票または戸籍の付票
相続財産清算人を選任する際にかかる費用
相続財産清算人を選任する際には、以下の費用がかかります。
- 申立費用
- 予納金
それぞれの費用について詳しく解説します。
申立費用
相続財産清算人の選任を申し立てる際は、家庭裁判所に以下の費用を支払います。
- 収入印紙:800円分
- 予納郵便切手:1,290円分
- 官報公告料:5,075円
郵便切手代は家庭裁判所によって若干異なるため、事前確認してください。
相続財産清算人が認めた場合、相続財産の一部を申立費用に充てられる場合もあります。
予納金
相続財産清算人を選任すると経費や報酬が発生するため、予納金を支払う場合があります。
基本的には相続財産から報酬などを支払いますが、わずかな相続しか残っておらず、相続財産清算人への支払いが不足するときは予納金が必要です。
予納金の相場は20万~100万円程度ですが、使い切らなかった部分は返金されます。
相続財産清算人が選任された後の流れ
相続財産清算人が選任された後、最終的に相続財産が処分・清算されるまでの流れについて解説します。
相続財産清算人が選任されたことが公告される
相続財産清算人が選任されると、家庭裁判所によって官報で公告されます。
公告される目的は、相続人がいる場合には申し出てもらい、相続財産に対する債権を持っている人に対して、相続財産の管理・整理の開始を知らせるためです。
相続財産清算人は、以下のような相続財産の調査や管理を行います。
- 相続財産を調査して財産目録を作成する
- 不動産の相続登記による「亡○○○○相続財産」名義への変更
- 複数の預貯金口座を相続財産清算人名義の口座へ一本化する
- 債権の回収
相続債権者や受遺者に公告される
選任から2カ月経っても相続人が現れなかった場合、相続財産清算人は被相続人の債権者や遺贈を受けた人に対して、債権を届け出てもらうよう公告します。
一定期間内に債権者や受遺者による届出が行われた場合、相続財産の中から債権額の割合に応じて支払いが行われます。
相続人捜索の公告をする
2カ月待っても債権者や遺贈を受けた人が現れず、相続債権者や受遺者に支払いなどをしてもなお相続財産が残っている場合は、家庭裁判所は相続人を捜すために公告します。
家庭裁判所が相続人を捜すために公告する期間は、6カ月以上です。
特別縁故者への財産分与をする
相続人を捜索する公告の期限内に相続人が現れない場合は、相続人の不在が確定します。
相続財産が残っている場合、公告の終了から3カ月以内に、特別縁故者に該当すると考えられる人は、家庭裁判所に対して「特別縁故者に対する財産分与の審判」を申し立てましょう。
家庭裁判所は申し立て内容を調査し、特別縁故者として認めるのが相当であると判断した場合は、具体的な事情に応じてその人に分与する財産の額を決定する審判をします。
審判が確定したら、相続財産管理人が内容に従って相続財産を特別縁故者に引き渡します。
換価できる相続財産は換価する
相続財産清算人は必要に応じて随時、家庭裁判所の許可を得て、不動産や株式などの有価証券を売却して換金します。
残余財産を国庫に帰属させる
相続財産清算人が財産の処分・清算などに対応しても、最終的に相続財産が残ったときは国庫に帰属します。
残余財産を国に引渡す手続きを行うと、相続財産清算人の業務は終了です。
相続財産清算人に関するよくある質問
相続財産清算人に関するよくある質問は、以下のとおりです。
- 相続財産清算人を選任しないとどうなる?
- 相続財産清算人はいつまで続きますか?
- 相続財産清算人の選任が却下されるケースはある?
- 相続財産清算人が引き継いだ不動産が売れないとどうなる?
それぞれの質問について詳しく解説します。
相続財産清算人を選任しないとどうなる?
相続財産清算人を選任しなかった場合、以下のような不都合が発生します。
- 受遺者が相続財産を受け取れない
- 債権者が借金などを回収できない
- 不動産関連のトラブルが発生する
相続人がいない場合は遺言書が発見されにくいため、受遺者が相続財産を受け取れない可能性があります。
債権者も借金や売掛金の回収が困難となり、土地・建物が長期間放置されると、ゴミの不法投棄や家屋倒壊などのリスクも発生するでしょう。
相続財産清算人はいつまで続きますか?
相続財産清算人を選任すると、業務終了までに1年以上かかる場合があります。
官報で相続財産清算人の選任などを公告した場合、公告期間が満了するまで受遺者や債権者へ弁済できません。
相続人捜索の公告期間は最短6カ月になっており、期間満了後は相続財産の清算・処分や、国庫帰属などの手続きも発生します。
清算・処分などの対象財産が多い場合は、相続財産清算人の業務に1年以上を必要とするケースがあるでしょう。
相続財産清算人の選任が却下されるケースはある?
相続財産清算人の選任を申し立てても、以下のようなケースでは家庭裁判所に却下されます。
- 戸籍上の相続人が判明している
- 申立人に利害関係がない
- 相続財産がない
戸籍上の相続人が明らかな場合や、申立人に利害関係がなければ、相続財産清算人を選任する必要がありません。
相続が不在で申立人に利害関係があっても、相続財産がない場合は費用倒れ(いわゆる赤字)になるため、家庭裁判所が選任申し立てを受理しないでしょう。
相続財産清算人が引き継いだ不動産が売れないとどうなる?
相続財産清算人が引き継いだ不動産が売れなかった場合、最終的には所管の財務局長に引き渡されるため、国庫に帰属します。
単独名義の不動産は所定の手続きによって国の財産となりますが、共有名義の不動産であれば、被相続人の共有持分をその他の共有者に帰属させます。
不動産に課税される固定資産税や都市計画税については、最終的な帰属先が決まるまで、相続財産清算人が納税手続きを代行します。
まとめ
日本では少子高齢化が進んでおり、生涯独身の方も増加しているため、相続人がいないケースは特に珍しくありません。
相続財産清算人が選任されると、預貯金や不動産などは清算・処分してもらえますが、業務終了までに1年以上かかるケースもあるでしょう。
被相続人との間に利害関係があり、債権回収や遺贈などが発生するときは、できるだけ早めに相続財産清算人の選任を申し立ててください。
特別縁故者に該当する場合は、必ず財産分与の審判を申し立てておきましょう。
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