この記事でわかること
- 遺産相続に借金が含まれているか調査するための方法がわかる
- 遺産に借金が含まれていたときの対処法がわかる
- 相続放棄の流れと必要書類がわかる
遺産の中に借金が含まれていた場合、財産を引き継いだ相続人は、原則として借金を返済する必要があります。
そのため、遺産相続に借金が含まれていないか、前もって調べておくことは大切です。
もし、遺産の中に借金が含まれていた場合でも、相続放棄を行なえば借金を返済する必要はなくなります。
この記事では、遺産相続に借金が含まれていないか調査するための方法と、相続放棄を行うときの手続きの流れ、必要書類について解説していきます。
目次
遺産相続には借金も含まれる
遺産相続とは、亡くなった方の一切の財産を引き継ぐものです。
遺産には、預貯金、不動産、株式などのプラスの財産が含まれる一方で、借金などのマイナスの財産も含まれます。
借金を相続すると、相続人が借金を返済する義務が生じます。
少額であれば問題にはならないかもしれませんが、数百万円単位になってくると、話は違ってきます。
相続人自身の生活に影響が出てくることにもなりかねません。
そのため、遺産相続の際には、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産がないかをしっかり調べてから相続手続きを進めていく必要があります。
遺産相続に借金が含まれるか調査する方法
相続した遺産に借金が含まれていないかどのように調査していくとよいのでしょうか。
代表的な調査方法についてみてみましょう。
通帳や郵便物を確認
金融機関からの借入れは、預金口座を通して返済されることが多いので、まずは通帳を確認してみましょう。
通帳から決まった金額が毎月引き落とされていれば、借金の可能性があります。
また、郵便物の中には、カード会社からの請求や借金の督促状が含まれていることがあります。
遺品の中に上記の書類がないかも、よく確認してみましょう。
不動産の登記簿謄本を確認
不動産の登記簿を確認すると、不動産を担保にした借金がないか調べることができます。
もし、抵当権や根抵当権が設定されていれば、被相続人が不動産を担保にして借金をしていたことになりますが、この手の借金は高額なので要注意です。
不動産が相続財産に含まれているときは、担保が付いていないかを必ず確認しておくようにしましょう。
信用情報機関に問い合わせる
銀行などの金融機関、クレジット会社や消費者金融などからの借入れに関する情報は、信用情報機関が管理しています。
1,000円程度の手数料を払えば、情報を開示してくれます。
情報開示請求をすることで、借入の状況等を調査できます。
借金を相続したときの対処法3つ
借金調査をした結果、遺産相続に借金が含まれていることが分かったら、どのように対処するとよいのでしょうか。
ケース別に3つの対処方法について解説していきます。
単純承認:プラスの財産が多い
プラスの財産が多いことが明らかな場合は、単純承認で対処できます。
単純承認とは、通常の相続のことで、相続人は被相続人の全ての財産を相続します。
もちろん、その中にはマイナスの財産も含まれますが、調査の結果プラスの財産の方が多いことは分かっていますので、安心して全ての財産を相続できます。
ただし、プラスの財産に預貯金がほとんどなく、不動産が大半を占めている場合には注意が必要です。
不動産がなかなか売れない場合は、相続人自身の預貯金を切り崩して借金を返済する必要が生じるかもしれません。
相続の際には、換価性などの財産の性質にも注意しておくようにしましょう。
相続放棄:マイナスの財産が多い
調査の結果、借金がプラスの財産を明らかに上回ることが分かったとします。
このときには、相続放棄で対処できます。
相続放棄とは、その名の通り、相続を一切放棄することです。
マイナスの財産はもちろんのこと、プラスの財産に対する相続権も放棄します。
預貯金や不動産を相続することはできなくなりますが、故人の借金についても、今後、一切支払う必要はなくなります。
限定承認:プラスとマイナスの財産どちらが多いか不明
調査した結果、借金の存在は分かったが、金額については調べきれないということもあるかもしれません。
プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない場合は、限定承認という方法を選択できます。
限定承認とは、プラスの財産とマイナスの財産の両方を相続しますが、プラスの範囲内で借金を返済すればよいという相続の仕方です。
借金の金額によっては、残ったプラスの財産を相続できる場合もあります。
ただし、限定承認は相続人全員が合意をしたうえで行う必要がありますので、相続人のうち誰か一人が単純承認や相続放棄を選択すると、この方法を利用することはできません。
また、手続きも複雑なので、通常は弁護士などの専門家に依頼して手続きを進めていくことになります。
相続放棄の手続き方法・必要書類
相続放棄の手続きをする場合は、まず以下の必要書類を揃えましょう。
相続放棄の必要書類
- 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本
- 被相続人の戸籍附票か住民票除票
- 申述人の戸籍謄本
次に、相続放棄申述書を作成して必要書類と一緒に家庭裁判所に提出します。
相続放棄申述書の作成では、相続の開始を知った日や、放棄の理由を正確に記載することがポイントです。
家庭裁判所のホームページに記載方法の見本が載っているので、参考にしながら作成しましょう。
相続放棄申述書を提出してから約1~2週間後に、相続放棄をしたかどうかの照会書が送られてきます。
照会書に回答を記載して裁判所へ返送してください。
照会書を返送後、特に問題がなければ、相続放棄申述受理通知書が郵送されてくるので、この通知書が届けば、相続放棄の手続きは完了です。
相続放棄をするときの注意点
相続放棄に関するトラブルを防ぐために、相続放棄の注意点についてもみていきましょう。
注意すべき3つのポイントについて取り上げます。
相続放棄をするには裁判所での手続きが必要
遺産分割協議で財産を一切受け取らない意志を表明し、そのことを遺産分割協議書に明記しておいても、相続放棄の効果は発生しません。
相続放棄をするには、必ず裁判所への申述が必要です。
遺産分割協議だけでは、正式な相続放棄とは認められません。
遺産分割協議が終わったので安心と考えていると、借金の請求をされたときに拒否することはできなくなりますので、注意が必要です。
相続放棄は撤回できない
相続放棄をすると、原則撤回はできません。
後からプラスの財産が見つかったのでやっぱり相続したいと思っても、撤回は認められません。
他の相続人からの脅しや詐欺で相続放棄してしまった場合は、撤回が認められることもありますが、認められる可能性は限定的です。
相続放棄をする前には、撤回できないことを頭においた上で、手続きを進めましょう。
相続放棄には期限がある
相続放棄は期限が決まっています。
相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄をしなければなりません。
相続財産を調査し、必要書類を集めていると、3か月は意外とあっという間です。
ただし、3か月を過ぎてしまったら、相続放棄が絶対に不可能というわけでもありません。
家庭裁判所が期間の延長を認める相当の理由があると認めたときには、可能です。
とはいえ、通常の手続きに比べて相続放棄が認められるハードルは高くなりますので、3か月という期限は常に意識しておく必要があります。
遺産相続に借金があったとき弁護士に相談するメリット
遺産相続に借金が含まれているときは、一度、弁護士に相談してみることもお勧めです。
弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。
手続きを確実かつスピーディーに行ってくれる
相続放棄の必要書類はそれほど多くありませんが、たとえば相続人が兄弟姉妹のケースでは、戸籍の量がかなり多くなります。
戸籍を集めている間に3か月の期限がきてしまうということもありえますし、戸籍が揃っているか読み込むだけでもかなりの手間がかかります。
弁護士に依頼するなら、相続放棄に必要な書類を迅速かつ確実に集めてくれます。
また、借金の額がよく分からないため、単純承認、相続放棄、限定承認のうち、どの手続きを選択するとよいか迷うかもしれません。
弁護士に依頼すると、状況に合った手続きの方法についてアドバイスをもらえます。
財産調査を依頼するなら、正確な借金の額を調べてもらうことも可能です。
債権者からの借金の催促に対応してくれる
被相続人の借金について、債権者から督促の手紙が届いたり、電話が入ったりすることが考えられます。
相続放棄が完了していない状態では、不安に感じるかもしれません。
また、被相続人の財産から借金を一部返済すると、相続放棄ができなくなってしまう可能性もあります。
弁護士に相続放棄を依頼しておけば、債権者からの催促や取り立てに対して、弁護士が間に入って対応してくれます。
債権者からの督促や取り立てにおびえる心配なく手続きを進めていけるのは、大きなメリットです。
期限を過ぎてからの相続放棄も可能になるかもしれない
相続放棄の期限は、相続開始を知ってから3か月です。
ただし、期限を過ぎた後に被相続人が多額の借金をしていたことが判明した場合、借金の存在を知ったときから3か月以内であることを証明できれば、相続放棄が認められる可能性があります。
とはいえ、このようなケースでは、専門的な知識が必要になりますので、弁護士に相談するのがお勧めです。
自分では無理だと思っていたケースでも、思わぬ道が開けてくるかもしれません。
まとめ
相続手続きを行う前に、遺産の中に借金が含まれていないかよく調査するようにしましょう。
もし、借金が含まれていたら、金額や相続財産に占める割合に応じて、単純承認、相続放棄、限定承認のいずれかを選択することになります。
相続放棄や限定承認は、単純承認に比べて手続きが複雑になりますので、一度、弁護士に相談してみることには大きなメリットがあります。
どの手続きを選択すればよいか迷ったとしても、専門家のサポートを活用していくなら、ベストな対応をしていくことができるでしょう。