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最終更新日:2022/12/15

遺産相続の手順VOL9 相続税対策①「贈与」で財産を減らして相続税を節税するための4つの方法

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

税金はできるだけ納めたくない…そう思っている人は多いはずです。

もちろん、法律で決められた税金ですから、きちんと納めるのは当然ですが、一方で「節税」という方法もあります。

相続税も、「贈与」という方法で節税できるのです。

ここでは、その具体的な4つの方法をご紹介します。

相続税とは?

「相続税」という言葉はよく聞きますが、あらためて「相続税って何?」と聞かれても、うまく答えることは、意外と難しいものです。

ある人が亡くなり、財産を残したとします。

その人(以下「被相続人」と言います)の配偶者や子ども(以下「相続人」と言います)が、財産を受け継ぐことになります。

これが「相続」です。

このとき、ある一定の金額以上を相続人が受け継ぐ際に、「相続税」という税金がかかってくるのです。

この「ある一定の金額」のことを「基礎控除額」と言います。

実はこの「基礎控除額」は、2015年(平成27年)1月に改正されました。

その前の基礎控除額は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」だったのです。

例えば、被相続人の遺産が7,000万円で、法定相続人が妻、子ども2人の3人だとします。

基礎控除額は、「5,000+1,000×3=8,000(万円)」となり、遺産の7,000万円よりも金額が高くなりますから、この相続人は相続税を納める必要はありません。

しかし、現在「基礎控除額」は、2015年(平成27年)1月の法改正によって、「3,000万円+(800万円×法定相続人の数)」となりました。

この計算式に、先程の例を当てはめてみますと、基礎控除額は「3,000+800×3=5,400(万円)」となり、遺産の7,000万円を下回り、相続税がかかることになります。

「遺産-基礎控除額」、つまり「7,000-5,400=1,600(万円)」に相続税が課税されるのです。

相続税は、被相続人を知った日の翌日から10ヵ月以内に税務署に申告し、納税しなければありません。

ですから、早急に法定相続人と遺産を調査して確定させ、遺産分割協議を行わなければなりません。

一方で、この相続税は、他の税金と違い、節税対策がやりやすい税金でもあります。

節税対策としては、遺産、つまり相続財産を減らすこと、そして相続税の評価額を下げることが基本です。

次の項目からは、「贈与」を使った節税対策をご紹介します。

贈与での節税対策①毎年贈与

まず一つ目は、「毎年贈与」です。

これは、自分の配偶者、子ども、孫などに毎年、金銭を贈与する方法です。

ただ、この場合に注意したいのは、贈与税です。

1年間に110万円を超える金額を相手に贈与したら、その超えた金額に「贈与税」がかかってきます。

ですから、贈与する金額は、1人に1年間で110万円以内に抑えなければなりません。

1人にたった110万円で相続税対策になるのか?と思った方がいるかもしれませんが、例えば、5人に毎年110万円の贈与を10年間続けた場合には、「5×110×10=5,500(万円)」となり、これだけ相続財産が減ることになります。

ただ、注意すべきことは3つあります。

まず、贈与した側、贈与された側ともに、贈与を認識しておかなければならないことです。

例えば、親が子どものために、子ども名義の銀行の預金口座を作り、毎年110万円ずつを預金していた場合で、もし子どもが自分に贈与されていることを知らなければ、税務署は子どもの財産ではなく、親の財産(相続財産)と認定する可能性があります。

そうならないためにも、できるだけ親子の間であっても「贈与契約書」を作っておくことが必要です。

税務署が、最も問題にすることは、親も子どもも「贈与」を認識していたかということです。

「契約書」という書面に残すことで、それを証明することができます。

2つ目は、贈与された側が、お金を自分の意思で自由に使える状態にしておくことです。

つまり、贈与された側の子どもが、自分自身で通帳や印鑑などを所有・保管しておかなければなりません。

また、その際の通帳の届出印について、親が所有している印鑑にしておかず、子ども自身の印鑑で通帳を作っておくことです。

つまり、親から子どもへお金が移動し、このことを子どもがきちんと認識しておくこと、そして子ども自身が通帳やお金の管理をしていたことが、客観的に分かればいいのです。

3つ目の注意点は、相続開始3年以内の贈与は、相続財産に含まれることです。

毎年被相続人から子どもや孫に贈与されていても、被相続人が亡くなる前の3年間に贈与していた金銭は相続財産とみなされますから、相続税の対象となるのです。

したがって、できるだけ早い時期から贈与を始めて、被相続人の健康が優れない状態になったら、贈与を中止する方が賢明です。

なお、より確かな贈与の方法として、110万円を超えた額を贈与して、あえて「贈与税」を申告するやり方もあります。

例えば、親から子どもへ「111万円」を贈与して、110万円の「基礎控除」を超えた「1万円」に対する贈与税「1,000円」を支払うのです。

こうすることで、確実に贈与した証拠が残り、後の手続きが簡単になります。

贈与での節税対策②相続時精算課税

次にご紹介するのは、「相続時精算課税」という方法です。

年間110万円以下を配偶者、子ども、孫などに贈与する「毎年贈与」は、確かに節税という方法としては有効ですが、一度に多額の贈与を行うことはできません。

そこで、贈与税の負担を軽減し、遺産の早期移転を促す方法として、2003年(平成15年)から、「相続時精算課税制度」が設けられました。

この制度は、名前が示すとおり、「相続の時に税額を精算する制度」で、贈与税と相続税が一体となったものと考えればわかりやすいでしょう。

つまり、被相続人が生前に贈与した財産も、後で相続財産に加算するというものです。

具体的には、親から子どもへ財産を贈与した際に、贈与する財産に贈与税がかかります。

この時、贈与時に納付する贈与税は一律20%と軽減されます。

この時に納める贈与税を相続税の「仮払い」と考えるのです。

そして、実際に相続があった際に、その贈与財産を含めて計算した相続税額から、あらかじめ納めた贈与税を引いて精算するのです。

この制度の一番の魅力は、贈与する際に、2,500万円の特別控除があることです。

つまり、2,500万円までは、非課税で贈与できるのです。

しかも、この特別控除2,500万円は、複数年にわたって累積で利用することができます。

例えば、父親が長男に、3年間にわたり、毎年1,000万円ずつ贈与したとします。

2年目までで、累積2,000万円ですから、この時点では贈与税はかかりません。

しかし、3年目になれば、累積3,000万円となり、特別控除の2,500万円を超えますから、贈与税がかかります。

この時、「3,000-2,500=500(万円)」に20%、つまり「500×0.2=100(万円)」の贈与税がかかります。

この時に納める100万円は、将来的に納める「相続税」の前払いと言うことになります。

贈与した親が亡くなり、相続が発生した時には、相続財産に贈与した「3,000万円」を加えて税額を計算し、算定された長男の相続税額から、すでに納めている贈与税「1,000万円」を引いて、残った金額を納めることになります。

もし、すでに納めた贈与税が算定した相続税よりも低かったら、その分だけ還付される仕組みです。

ただ、この制度を利用するには、一定の要件があります。

まず、贈与する親が65歳以上であり、そして、贈与される子どもが20歳以上であることです。

なお、贈与を受ける人は、20歳以上の代襲相続人でも構いません。

また、同じ親からは、「毎年贈与」か「相続時精算課税」のどちらかを選ぶことになります。

両方を同時に行うことはできません。

なお、この「相続時精算課税制度」の注意点としては、まず2,500万円以下を贈与して、贈与税がかからなくても、申告する必要があることです。

もう一つは、一度この制度を適用してしまうと、翌年に110万円以下の贈与があった場合でも、贈与税がかかり申告する必要が出てくることです。

贈与での節税対策③住宅取得資金贈与

次にご紹介するのは、「住宅取得資金贈与」という方法です。

この制度は、自分より前の世代の直系尊属(父母や祖父母)からの贈与が、家の新築、家の購入、家の増改築等の資金である場合、その一部の贈与税が非課税になるものです。

また、家の新築、購入をする場合には、敷地である土地を取得する資金も含まれます。

この制度が適用されるのは、2015年(平成27年)1月1日から2021年(令和3年)12月31日までの間の贈与が対象です。

この制度を受けるためには、以下の2つの要件(対象者、対象となる家)を満たしておく必要があります。

対象者

贈与する人

贈与を受ける人の直系尊属であること。

父母や祖父母、曾祖父母が該当します。

配偶者の親や祖父母、曾祖父母は当てはまりませんが、養子縁組をしている場合は、直系尊属となります。

贈与を受ける人

  • ・原則的に贈与を受けた時点で、日本国内に住所がある人
  • ・贈与を受けた年の1月1日時点で、20歳以上の人
  • ・贈与する人から見て、後の世代の直系卑属であること
  • ・贈与を受けた年に、所得税の対象となる合計所得金額が2,000万円以下
  • ・2009年分から2014年分までの贈与税の申告で、旧非課税制度である「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けていないこと
  • ・配偶者、親族、その他一定の特別な間柄の人から住宅用の家屋を取得していない、あるいはこれらの人との請負契約等によって新築・増改築していないこと
  • ・贈与を受けた翌年の3月15日までに、住宅取得等資金の全額を充てて、住宅用家屋の新築等し、同日までにその家屋に住むこと(当日までに住んでいなくても、その後すぐに住めそうであること)
    ※ただし、翌年12月31日までにその家屋に住んでいないときは、この特例を受けることができない

対象となる家

1) 新築、中古、リフォームの場合に共通する要件

  • ・家屋が日本国内にある
  • ・家屋の床面積が、 50 ㎡以上 240 ㎡以下である
  • ・家屋の床面積の2分の1以上が、居住用である
2) 新築・中古物件の場合の要件

  • ・中古の家屋であり、取得日から20年前までに(耐火建築物の場合は25年前まで)建築されたもの
  • ・中古の家屋であり、地震に対する安全性の基準を満たしていることが書類で証明されたもの
  • ・上記2つにあてはまらない中古の家屋であり、取得日までに耐震改修を行うことを申請して、贈与を受けた翌年の3月15日までにその改修により、地震に対する安全性の基準を満たしていることが、書類で証明されたもの
3) リフォームの場合の要件

  • ・リフォームの工事費用が100万円以上
  • ・リフォーム工事が、自分が所有し、かつ住んでいる家屋に行われたもの
  • ・リフォーム工事を証明する書類(確認済証の写し、検査済証の写し、増改築等工事証明書など)があること

この制度を使って非課税になる限度額は、300万円〜3,000万円ですが、以下のとおり「取得時の消費税率、契約を結んだ日、住宅の種類」によって、金額が異なります。

  • a) 2016年1月1日~2020年3月31日に契約を結んだ場合
      ・省エネ等住宅…1,200万円  ・それ以外の住宅…700万円
  • b) 2020年4月1日~2021年3月31日に契約を結んだ場合
      ・省エネ等住宅…1,000万円  ・それ以外の住宅…500万円
  • c) 2021年4月1日~2021年12月31日に契約を結んだ場合
      ・省エネ等住宅…800万円  ・それ以外の住宅…300万円

贈与での節税対策④教育資金一括贈与

最後にご紹介するのは、「教育資金一括贈与」という方法です。

この制度は、孫や子等の直系卑属に対して、1,500万円までの教育資金を贈与しても、それが非課税になるものです。

贈与された金銭の用途は、教育に関することに限定されますが、110万円を大幅に超える非課税枠があるので、一括で多くの贈与を行うことができることになります。

具体的な方法としては、信託銀行などに贈与ための専用口座を作り、その口座にお金を預けて、孫や子等が教育資金として利用することになります。

なお、この制度が利用できるのは、2013年4月1日から2021年3月31日までです。

先程ご説明したように、教育資金として最大1,500万円まで非課税で贈与することができるのですが、一番のポイントは、「教育資金の範囲はどこまでか」ということです。

この制度における教育資金の範囲は、大きく分けて次の2つです。

一つ目は、学校教育法で定められた学校等に対して支払われる資金です。

ここで説明した学校等とは、幼稚園や認定こども園、保育所、小・中学校、高校、大学、外国の教育施設などです。

これらの教育施設・機関へ直接支払う入学金、授業料等の金銭が対象となります。

他にも、学校等が業者等を通して購入を依頼しているものも、教育資金の対象になる場合があります。

二つ目は、学校等以外に直接支払われる金銭で、それが教育目的であり、社会通念上相当と認められるものも対象となります。

例えば、学習塾等に関する授業料やスポーツ、文化芸術に関する活動の資金・指導への対価、使用する物品の購入のための金銭などが、教育資金に含まれる可能性があります。

また、この制度の非課税枠の総額は1,500万円ですが、教育資金の支払先によっては、非課税の上限が異なります。

具体的には、1,500万円のうちで、学校等に対して直接支払う場合は1,500万円までで、それ以外の場合は500万円までとなります。

なお、この制度を活用するうえで、注意点が3つあります。

まず一つ目は、贈与を受ける孫や子等の所得要件です。

具体的には、贈与を受ける孫や子等の前年の合計所得額が1,000万円を超える場合には、本制度の新規契約と追加の贈与はできないことになります。

二つ目は、贈与された財産が使いきれずに余ってしまった場合で、しかも贈与された人が30歳時点で使いきれなかった分には、贈与税が課税されます。

三つ目は、領収書の保管です。

これは、教育資金として使用したことを証明するために金融機関に領収書を提出する必要があるためです。

まとめ

相続税法が2015年(平成27年)1月に改正されたことによって、相続税がかからない「基礎控除額」は、それまでの「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」から、「3,000万円+(800万円×法定相続人の数)」となりました。

この結果、それまで相続税とは無縁だった人、家族にも相続税がかかる可能性が出てきたのです。

そうなると、相続税がかからないように、さまざまな対策を講じることになります。

相続税がかからないようにするためには、相続財産を減らす、あるいは法定相続人を増やすなどの方法があります。

ただ、養子縁組によって法定相続人を増やす方法は、人数的に限界がありますし、法定相続人を増やすために養子縁組を行うことで、他の法定相続人から不満が出てくる可能性もあります。

そこで、最も有効な方法としては、相続財産を減らすことであり、生前贈与を上手く活用することになります。

本文でご紹介したように、生前贈与については、さまざまな制度があります。

ただし、税が免除、あるいは軽減される制度ですから、いくつかの要件、条件が設定されています。

利用する際は、この点を十分に注意する必要があります。

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メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。 前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

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