目次
2015年(平成27年)1月に相続税法が改正され、それまで相続税とは無縁だった家族にも、相続を念頭に置いて相続を考えなければならないことになりました。
ここでは、相続税の申告と相続税額の計算をシミュレーションで、ご説明いたします。
相続税の基本的知識
亡くなった人(「被相続人」といいます)が財産を残した場合、基本的に民法で定められた相続人(配偶者、子どもなど)が引き継ぐことになります。
被相続人の財産を相続したら、必ず相続税を納めなければならないわけではありません。
相続税には、「基礎控除」というものがあります。
「基礎控除」とは、その金額までは相続税がかからないというものです。
具体的には、相続税のうち「基礎控除」である「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」の金額までは相続税がかかりません。
例えば、相続財産が6,000万円で法定相続人が3人の場合、
基礎控除は、
3,000+(600×3)=3,000+1,800=4,800(万円)
となります。
相続税がかかるのは、「相続財産-基礎控除」ですから、
6,000-4,800=1,200(万円)
となり、1200万円に相続税が課税されることになるのです。
なお、2015年(平成27年)1月に相続税法が改正される前の「基礎控除」は、「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」でした。
法定相続人が3人の場合、改正前の基礎控除は「5,000+(1,000×3)=5,000+3,000=8,000(万円)」となり、相続財産が8,000万円までは相続税がかからないことになります。
つまり、相続税法の改正によって、かなり多くの家族に相続税の問題が発生することになったのです。
死亡後のスケジュール
被相続人が亡くなった後のスケジュールは、次のとおりです。
まず、被相続人の法定相続人、相続財産を確定する必要があります。
これは、この後に行う可能性がある「遺産分割協議」において、基本となるデータであるからです。
被相続人の法定相続人を調査するには、被相続人の戸籍謄本を取得する必要があります。
しかも、この戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡までの連続したものが必要です。
例えば、被相続人の出生時の本籍がA地で、その後でB地、C地と本籍を移転した後、死亡時がD地だとします。
まず、死亡時の戸籍謄本を所得すると、そこにはD地の前の本籍がC地だとわかります。
次に、C地の戸籍謄本(除籍)を所得すると、そこにはC地の前の本籍がB地だとわかります。
このようにして、被相続人の出生地の本籍A地の戸籍謄本(除籍)までをそろえることになります。
全ての戸籍謄本(除籍)を確認することで、被相続人の法定相続人が確定できることになります。
もう一つの相続財産の確定ですが、家や土地などの不動産は、市区町村から毎年送られてくる「固定資産税納税通知書」を確認すればわかります。
なお、相続手続きの際に不動産の「登記事項証明書」が必要となりますので、この時点で法務局から取得しておくことをおすすめします。
預貯金については、被相続人名義の通帳を集めて、できれば早めに金融機関から「残高証明書」を取り寄せておきましょう。
ただ、最も頭を悩ますのは、支払いが終わっていない借金です。
「金銭消費貸借契約書」などが残っていれば、比較的容易に調べることができますが、個人的にお金の貸し借りをしていた場合には、調べることは容易ではありません。
それでも、遺産分割協議が終わった後に、新たに借金があることがわかると、協議(話し合い)をやり直すことになりますから、被相続人の遺品から、財産の全容をはっきりさせなければなりません。
被相続人と相続財産の確定と並行して、被相続人が遺言書を残していないかを調べる必要があります。
もし、遺産分割協議が終わった後で遺言書が見つかれば、協議をやり直すことになりますから、家の中などをくまなく調べる必要があります。
遺言書があれば、基本的にはその内容に従って遺産を分割、相続します。
遺言書がなければ、民法で規定された法定相続分で分割、相続します。
ただ、相続人全員が了承すれば、法定相続分で分ける必要がありませんが、その場合は内容を「遺産分割協議書」に記載して、相続人全員が署名捺印しなければなりません。
なお、相続人の中に遺産を相続したくないと思う人がいた場合には、自分が相続人であると知った日から3ヵ月以内に、相続放棄をしなければなりません。
もし期限を過ぎれば、相続財産に借金があった場合には、それも相続することになります。
それから、遺言書、あるいは遺産分割協議書に従って、相続財産を分割、相続することになります。
そして最後に、相続税の申告、納付です。
この手続きは、被相続人が亡くなって10ヵ月以内に行わなければなりません。
遺産分割協議や相続手続きを行っていると、10ヵ月という期限はすぐに来ますから、計画を立てて行う必要があります。
なお、この期限を過ぎて相続税を申告すると、延納税が課されますから、注意が必要です。
申告しないとどうなるか?
相続人の中には「計算上、相続税がかかるような遺産の額ではないから、申告しなくてもいいのでは」あるいは「申告しなくも税務署がいちいちチェックすることはないだろう」と思っている人がいるかもしれません。
通常、被相続人が亡くなってしばらく経つと、税務署から、相続税が発生する可能性が高い人宛に、確認書(「お尋ね」という名称)が届きます。
これは、税務署に被相続人に関する情報が集約され、その情報を基に税務署が、相続税が発生する可能性があると判断した場合、その相続人を代表する人に問い合わせを行うものです。
この確認書が来た場合には、被相続人の財産、相続人の氏名、葬儀関係費用、財務の金額などを記載して、返送することになります。
もし、相続税が発生しなければ、この確認書を返送するだけで終わり、相続税の申告書を作成する必要はありません。
この確認書が来ない場合もありますが、この場合に自分で勝手に「相続税はかからないということだな」と判断してはいけません。
相続財産と法定相続人の数を基に、計算を行い、もし相続税を支払う可能性があれば、申告書を作成し、税務署に提出する必要があります。
仮に、相続税を支払う可能性があるのに申告しなかった、あるいは税務署から確認書が来たのに放置していた場合には、税務調査が入る可能性があります。
もし税務調査が入り、相続税を納めなければならないことがわかれば、納税額に15%を加算されることになります。
また、相続税を納めるべき期間、被相続人が亡くなって10ヶ月以内を過ぎてしまうと、滞納とみなされて、さらに課税されることになります。
相続税の計算方法シミュレーション
前提
ここでは、具体的な数字を挙げて、相続税を計算してみます。
相続税の対象となる財産の合計額が1億2,000万円、債務と葬儀費用の合計が2,000万円とします。
相続人は、配偶者である妻と、子ども2人(長男、次男)で、3人が相続する金額は法定相続分に従い、妻6,000万円、長男3,000万円、次男3,000万円で遺産を分割し、相続しました。
ただし、債務と葬儀費用の2,000万円は、すべて妻が負担しています。
相続人 | 配偶者 | 長男 | 次男 |
---|---|---|---|
相続税課税対象の財産 | 6,000万円 | 3,000万円 | 3,000万円 |
債務・葬式費用 | 2,000万円 | 0円 | 0円 |
相続人それぞれの相続財産の計算
相続税は、段階を踏みながら計算をします。
まず、財産を取得した相続人ごとに、相続などをした金額を計算します。
この場合、相続した財産から、借入れなどの債務を引き、正味の財産を相続人ごとに算出します。
その際の具体的な計算式は、次のとおりです。
「相続や遺贈によって取得した財産価額」+「相続時精算課税適用財産価額」-「債務・葬儀費用の金額」+「相続開始前3年以内の贈与財産価額」
=それぞれの課税価格
この計算式によると、先程の3人の正味の財産は、妻4,000万円(6,000-2,000)、長男3,000万円、次男3,000万円が課税価額です。
課税の対象となる金額の計算
次に、先程の3人の課税価額の合計から、相続税の基礎控除額を引きます。
3人の課税価額の合計は、1億円(4,000+3,000+3,000)です。
相続税の基礎控除額の計算式は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」ですから、これに法定相続人(3人)を当てはめると、4,800万円(3,000+600×3)となります。
そして、相続税が課税されるのは「相続課税価額-基礎控除額」ですから、5,200万円(1億円-4,800万円)となります。
相続税の総額の計算
ここではまず、法定相続人である相続人が、課税される遺産の総額を法定相続分に応じて取得したものとして、相続人それぞれの取得金額を計算します。
そうなると、妻2,600万円(5,200×1/2)、長男1,300万円(5,200×1/4)、次男1,300万円(5,200×1/4)となります。
次に、相続人ごとの所得金額にそれぞれの相続税率をかけて、それぞれの相続税額を出します。
1,000万円は税率10%ですから、妻260万円(2,600×10%)、長男130万円(1,300万円×10%)、次男130万円(1,300万円×10%)となります。
そして、相続人全員の相続税額を合計します。
260+130+130=520万円
各相続人の相続税額の計算
相続税の総額を、課税価額の合計額に占める各相続人の課税価額の割合で按分します。
これが各相続人の納めるべき相続税の額です。
妻…520万円×(4,000万円/1憶円)=208万円
長男…520万円×(3,000万円/1憶円)=156万円
次男…520万円×(3,000万円/1憶円)=156万円
最後に、すでに支払った贈与税があれば、その金額を差し引きます。
また、相続人によっては、特例で税金を減額させる控除などがありますので、その金額を差し引くことになります。
例えば、被相続人から生前贈与を受けたため、妻が100万円、長男が30万円、次男が20万円の贈与税をすでに支払っているとした場合、それぞれの相続人が実際に納める相続税は、次のようになります。
妻…208-100=108万円
長男…156-30=126万円
次男…156-20=136万円
相続税の計算のまとめ
以上のように、相続税の計算は各段階を踏んで行われます。
段階をまとめると、次のようになります。
- ①各相続人の課税価額の算定、合算
- ②基礎控除額の算定
- ③課税遺産総額の算定
- ④各相続人の法定相続分に応じた取得金額の算定
- ⑤各相続人の法定相続分で取得した場合における税額
- ⑥相続税の総額
- ⑦各相続人の納税額の算定
相続税申告の期限と注意点
相続税の申告期限は、相続開始後、つまり被相続人が亡くなってから10ヵ月以内です。
10ヵ月と聞くと、かなり時間があるように思えますが、相続人や相続財産の確定、相続人全員での協議(話し合い)、遺産分割協議書の作成という手順を踏まなければなりませんから、意外と期間は短いと感じる方が多いはずです。
この期限を過ぎると、実際の相続税に加算されることになりますから、10ヵ月という期限を目標に、速やかに行動することが大切です。
なお、相続税は原則として、申告期限までに現金で一括で納税しなければなりません。
しかし、相続財産の中で、不動産や有価証券(株式など)が多く含まれているために、すぐに現金を準備できないことがあるかもしれません。
そのような時には、金銭一括納付以外に、次の2つの方法が認められています。
まず1つは、延納です。
これは、相続税を分割して、5~20年の年払いで納める方法です。
ただし、延納する場合には、相続税以外に利子税を納めなければなりません。
しかも、延納が認められるには、次の条件をすべて満たさなければなりません。
- ・相続税額が10万円を超えること
- ・金銭で一度に納付することを困難とする事由があり、かつその納付を困難とする金額を限度としていること
- ・延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること。 なお、延納税額が50万円未満で、延納期間が3年以下である場合、担保は不要
- ・相続税額の申告期限(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して、税務署長に提出すること
なお、延納のため担保として提供できる財産は、次のものに限られています。
- ・国債および地方債
- ・社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの
- ・土地
- ・建物、立木、登記された船舶などで保険を附したもの
- ・鉄道財団、工場財団などの財団
- ・税務署長が確実と認める保証人の保証
2つ目は、物納です。
物納とは、相続税を現金で納める代わりに、有価証券、土地などを納税する方法です。
延納を選択しても金銭で納付することが困難な場合、納税者の申請によって、納付困難な金額を限度として、この物納が認められます。
なお、物納できる財産は、相続や遺贈によって取得した財産に限られます。
物納できる財産は、次の財産に限られ、この順番で充当されます。
- 1. 国債、地方債
- 2. 不動産、船舶
- 3. 社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
- 4. 動産
ただし、物納をするためには、次の条件をすべて満たさなければなりません。
- ・延納を選択しても、金銭で納付することを困難とする事由があり、かつその納付を困難とする金額を限度としていること
- ・申請財産は、納付すべき相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、上記の1.~4.の順位で、その所在が日本国内にあること
- ・物納しようとする財産が、管理処分不適格財産に該当しないものであること。その財産が物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
- ・相続税額の申告期限(延納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して、税務署長に提出すること
まとめ
相続税の申告、納付は、相続が開始されて10ヵ月以内に行わなければなりません。
この10ヵ月の間に、相続人や相続財産の確定、相続人全員での協議(話し合い)、遺産分割協議書の作成などがありますから、予想以上に短い期間です。
計画的に無駄なく、相続税の申告を進めましょう。
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