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最終更新日:2022/12/13

遺産相続の手順VOL17 相続争いを未然に防ぐため生前にできる対策3つ

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

相続が問題なく遂行されるように、生前にできる相続対策はないかと考えている人は多いのではないでしょうか。

生前に相続対策をしておけば、親族間の紛争を防げますし、相続に関するいろんな手続きを滞りなく行えるので、安心できますよね。

しかし、生前に相続対策をするにあたっては、相続に関して家族間で話し合いをする必要があるので、「相続について家族内で話したいが話せるような関係ではない」と悩んではいませんか?

また、生前の相続対策として具体的にどのような対策があるのか知らず、どの専門家へ相談するべきかわからないという人も多いでしょう。

そこでこの記事では、相続争いを防ぐ3つの対策として、

  • ・生前に相続対策をするための親族間の関係作り
  • ・生前にできる相続対策
  • ・遺言作成のメリットと注意点

について解説していきます。

最後までお読みいただければ、生前の相続対策について基礎知識を得ることができます。

生前に相続対策をするための親族間の関係作り

相続を争いなく進めるためには、まずは親族間の関係を良い状態にすることが重要です。

そうすることによって、滞りなく相続を進めることが難しい資産状況であっても、お互いに話し合うことで解決する可能性が高くなります。

ただ、現実的には、親族間でお互いが正直にかつ穏やかに話し合えるような関係ではない場合もあるでしょう。

相続のパターンとして多いのは、親が子供に対して遺産を残すケースですが、親が子供から尊敬されていなかったり、大事にされていなかったりすることで、しっかりと話し合えず、いざ相続となった時にもめてしまうのです。

もちろん、親族間で信頼し合える関係を作ることは簡単なことではありません。

すでに関係が壊れている状態の場合、無理に関係を改善しようとして余計に悪くなることもあるでしょう。

しかし、関係が改善するイメージが湧かないとしても、関係改善のために誠実な行動をしていくべきでしょう。

そうした行動を諦めずに継続することで親族間にお互いを尊重する関係が醸成されていくはずです。

親族間の関係が良好なものにすれば、相続が紛争化したり、長引いたりする前に相続問題を解決することができるでしょう。

ここからは、生前に可能な相続対策を紹介していきます。

親族の皆が納得がいき、穏便に進められる相続となるように、生前の相続対策をしっかり学んでおきましょう。

生前の相続対策①財産はなるべく現金化しておく

相続する資産はなるべく現金で残しておくことにより、相続人への分割が容易となるので相続の紛争化を防止できます。

逆に資産が現金でない場合は、分割できないので、資産の取り合いとなり、相続がこじれる原因となってしまいがちです。

ここでは、資産を現金化することのメリットや、現金化や分割化をしない場合の対策等について具体的に解説していきます。

相続財産を現金化するメリット

資産が現金でない場合は、分割することが困難となるため、相続人同士でその所有をめぐって争いとなりがちですし、現金化しようとしてもすぐにはできない可能性があるのです。

その結果、相続をめぐる紛争が激化し、また長期化してしまうことになります。

分割しにくい資産として代表的な例は不動産でしょう。

不動産を分割しての所有することは、たいていの建物では物理的に難しいです。

所有権を共有する方法もありますが、共有によって売却や増改築が困難となったり、不動産の今後の扱いについての方針をめぐって、もめたりする可能性が高くなってしまいます。

そのため、不動産等分割しにくい資産を生前に現金化しておくことで、将来的に相続でもめることを防止するメリットがあるのです。

現金化や分割化が困難な資産はどうする?

生前に現金化しておきたくても、資産の中にはどうしても現金化したくなかったり、分割したくないものもあるでしょう。

たとえば、家族の思い出がつまっている建物や、家族が経営している会社の株式などです。

不動産を手放したくないという場合には、リバースモーゲージを利用する方法もあります。

リバースモーゲージとは、不動産を担保として、金融機関から融資を受け取り、死亡後に不動産を売却して融資の返済に充てるという仕組みです。

不動産を所有してはいるものの、現金の少ない人が居住を続けながら収入を得ることができるので、近年注目を集めています。

会社の株式も、会社分割することによって、複数の相続人が事業承継するという手段があります。

家族が経営している会社では、相続人同士で経営方針が大きく異なることが、相続争いの原因となりがちです。

会社分割をすると会社としての規模はそれぞれ小さくなってしまいますが、経営権は明確となり、それぞれの相続人が希望している事業だけを承継できるので、相続後会社の株式や経営をめぐってもめる可能性は少なくなるでしょう。

分割せずに資産を相続する場合

分割困難な資産をそのまま相続させるケースは代償分割となる場合が多いです。

代償分割とは、共同相続人のうちの1人が現物(不動産など)を取得する代わりに、現物を取得した相続人が他の相続人に対して債務を負担(代償資金を支払うなど)する仕組みであり、分割困難な資産がある場合によく行われます。

ただし、代償資金を支払うにあたって、その現金を用意できないという場合があります。

その場合は保険金を用意してその代償資金に充てるという手段も可能です。

たとえば、不動産1,500万を相続し、代償資金600万を支払わなければならないが、その現金が足りないケースを考えてみましょう。

被相続人を被保険者とし、不動産1,500万を相続する人が受取人となる生命保険を契約しておけば、死亡保険金を代償資金へ充てることが可能となります。

死亡保険金は相続される財産という扱いでなく、遺産分割する時にもその対象とはならないので、確実に代償資金として利用できるのです。

以上のように、現金化や分割化が困難な資産でも、さまざまな方法があることがおわかりいただけると思います。

相続財産が現金でなく、相続人への分配に悩んでいるという場合は、専門家へ相談されることをおすすめ致します。

生前の相続対策②相続税評価額を低くしておく

相続財産の相続税評価額を低くすることによって、相続税の負担を抑えることができます。

相続税評価額とは、相続税を計算する時に基準となる相続財産の評価額のことです。

相続財産が現金の場合、評価額は問題となりませんが、不動産の場合は相続税評価額の負担を抑えることが可能となります。

相続税評価額を低くする具体的な方法を見ていきましょう。

相続税路線価による相続税評価額を低くする

不動産の中でも土地の相続税を計算する際には相続税路線価が用いられます。

この相続税路線価による相続税評価額を低くすることで、相続税を抑えることができます

相続税路線価による相続税評価額を低くするためには、主に以下の方法があります。

  • ①土地の減額要素を評価額に反映
  • ②土地を貸宅地とする
  • ③土地を貸家建付地とする

まず①の土地の減額要素の例の一部としては、私道がある、道路に面していない、形がおかしい、などがあります。

評価額の算定は税理士に頼むことが一般的ですが、依頼する税理士の計算によっても評価額は変わってきます。

土地の減額要素があらためて評価額に反映するように、税理士に評価額を計算してもらうことで相続税を抑えることが可能です。

次に②の貸宅地とは、家を建てたい第三者が借りた土地のことです。

自分の土地を貸宅地とすることで土地の評価額は低くなります。

借地権割合が多ければ多いほど、貸宅地の評価額は低くなり、その結果相続税の節税になります。

土地を貸宅地とすることで相続税額を抑えることが可能です。

最後に③の貸家建付地とは、自己所有している土地に自己所有する賃貸用の建物を建て、第三者に賃貸している土地のことです。

その建物に住む人には、借家権と借地権があり、土地所有者の権利が制限されるため、その分土地の評価額が低くなります。

土地を貸家建付地とすることで相続税額を抑えることが可能です。

不動産を借入金で購入する

相続財際に不動産がある場合、借入金が残っていることで、相続税評価額が低くなります。

不動産という資産から借入金という負債を差し引いて評価されるので安くなるのです。

そのため、あえて借入金を利用して不動産を購入することにより、相続税を抑えるという手段も利用できます。

ただし、借入金は相続人に負債として承継されるため、借入金の額が大きいと相続人はその返済に追われることになります。

そのため、相続税減額と借入金返済のバランスを考えることが大事です。

生前の相続対策③生前贈与は非課税枠を利用しよう

生前贈与とは、生前に将来相続人となる人に対して贈与を行うことで、相続財産を減らすことができる手段です。

さらに生前贈与では6つもの非課税枠を利用することができますので1つ1つ簡単に説明していきます。

①基礎控除

相続税は年間で110万円まで基礎控除となるので、110万円以下であれば生前贈与は非課税となります。

②相続時精算課税

60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対して贈与すると、2,500万円まで非課税枠となります。

③住宅取得資金贈与の特例

直系尊属の父母または祖父母から受けた贈与が、住宅を購入するための資金であるならば、一定の贈与税が非課税となります。

④教育資金贈与の特例

祖父母などから孫や子(30歳未満)に対する教育資金のための贈与は子や孫1人につき1,500万円を限度に贈与税が非課税になります。

⑤結婚子育て資金贈与の特例

祖父母または父母などから子供に対して結婚や出産、子育てを目的とした資金をもらう場合、1,000万円まで贈与税が非課税となります。

⑥夫婦間贈与の特例

婚姻期間が20年以上である夫婦の間における贈与が、居住用の不動産、あるいは居住用の不動産を取得するための金銭である場合、2,000万円まで控除できる制度です。

以上のように、生前贈与にはさまざまなケースで非課税枠を利用できることがわかりますね。

ご自身の家庭で、上記のいずれかに該当する可能性がある、または今後上記に該当する贈与を行いたいと考えているような場合は、有効な生前の相続対策とするためにも、専門家へ相談されることをおすすめいたします。

生前の相続対策④相続財産目録を作成して相続を円滑に進めよう

相続財産の所在と金額を明確にするために、生前から相続財産目録を作成しておくことで、相続トラブルを防止することができます。

相続財産目録とは、相続財産を詳細にまとめた一覧表のようなものであり、相続財産目録をベースにして相続税の申告や、遺産分割協議が可能です。

相続財産目録を作成するメリットとしては、相続税申告書の作成が効率的に行えること、遺産分割協議で相続人同士の話し合いがスムーズに進められること、などが挙げられます。

逆に、生前に相続財産目録を作成しないデメリットとしては、相続をめぐる手続きや協議に手間がかかることや、最悪な場合は相続財産を見つけること自体ができず、相続することができなくなってしまうことです。

近年では、金融機関の口座が長期間にわたって入出金等の取引がないことにより、休眠預金、睡眠預金に該当し、預金が金融機関のものとなってしまうケースが増えてきています。

一生懸命残した相続財産が相続されず、金融機関のものとなるのはとても残念なことですよね。

そのため、取引している金融機関は余さず相続財産目録へ記載しておくことをおすすめいたします

相続人が多大な時間や手間をかけてしまうことのないように、生前において、詳細かつ網羅的な相続財産目録を作成しておきましょう。

遺言作成のメリットと注意点

遺言は誰しもご存じの最もポピュラーな生前の相続対策であり、実際に遺言を作成しておくことで、相続人同士の紛争を事前に抑止することができます。

ただし、遺言は万能ではないことに注意が必要です。

ここでは遺言のメリットと注意点を詳しく解説していきます。

遺言がない状態では、相続人同士でそれぞれの主張を一方的にぶつけることになりがちであり、いつまでたっても協議が終わらない可能性もあるでしょう。

遺言があれば、相続人同士の仲が悪くて、相続に関して主張がかみあわなくても、強制的に一応の決着がつきます。

ただし、遺言の内容によっては、相続人同士の紛争がより激しくなってしまう可能性があります。

特に相続人の生活が相続財産を頼りにしており、遺言の内容が相続人の生活を苦しくしてしまうような場合は、遺留分侵害の問題が発生してしまうのです。

遺留分とは、相続人が法律上取得することが認められている遺産の一定割合を意味します。

遺言があっても遺留分が優先されるので注意してください。

たとえば、相続人が子供2人であり、遺言の内容が子供の一方にだけ相続財産すべてを相続させるような内容の場合でも、相続されない側の子供は遺留分を主張するために、遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求権)を行使することができるのです。

遺言は被相続人の希望ですから尊重はされるべきなのですが、遺留分を主張されて相続人同士の紛争が発生してしまうのは、できれば避けたいところです。

そのため、遺言作成にあたっては、作成の段階で相続人全員が遺言の内容を知り、皆が納得する形にすることが大事となります。

特に相続財産が相続人の生活に必要な場合は、そのことに配慮した遺言とすれば、将来的な遺留分主張を回避することができるでしょう。

遺言はご家庭の資産状況や親族間の関係を総合的に配慮した内容とすることが重要です。

遺産の分配方法や遺言の書き方によっては相続上もめる原因となりますので、遺言の作成に関して専門的知識と経験の豊富な専門家へ相談されることをおすすめいたします。

まとめ

ここまで生前の相続対策について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

この記事のポイントは、

  • ・生前の相続対策をするにあたり親族間の関係を改善し話しやすい環境を整える
  • ・相続財産を現金化しておくことで分割しやすくし、もめる財産を減らす
  • ・相続税評価額が低くなるように生前に見直しておく
  • ・生前贈与は6つの非課税枠を利用し相続税を抑える
  • ・生前に相続財産目録の作成をして相続の手続きと協議をスムーズにする
  • ・遺言作成は遺留分侵害がないように相続人全員が納得する内容にする

以上となります。

現時点で相続争いが起きていない場合でも、相続発生後に突然さまざまな問題が生じることがあります。

そうならないためにも、生前の時点で円満な相続となるように相続対策をしておくことが大事なのです。

生前の相続対策は相続争いの防止という目的以外にも、相続手続きを円滑にし、節税や減税対策にもなり、相続人がより満足する相続とすることもできます。

これまで解説してきたように、生前の相続対策は様々で、ご家庭の資産状況や人間関係など、その家庭特有の問題もあるでしょうから、何でも自己解決することは非常に困難です。

少しでも悩んでいることがあれば自分で抱え込まずに、相続問題に関して経験豊富な専門家へ相談されることをおすすめ致します。

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メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。 前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

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