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最終更新日:2022/12/15

遺産相続の手順VOL15 『相続争いに発展する家族に欠けているもの』

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

人が亡くなると、故人の財産は相続人へと受け継がれます。

具体的には遺言や遺産分割協議といったステージを通して、被相続人から相続人へと亡くなった人の遺産が継承されていくのです。

ただ、このときにそう順調には事が運ばない時があります。

今までたまっていたわだかまり等のマグマが一気に噴出することがあるのです。

これが相続争いと言われるものです。

「相続」が「争族」と呼ばれる由縁です。

ここでは、なぜ相続争いが起こるのか、その根本にある原因を検討していきます。

相続争いに発展するケース

まず事例を見ていきましょう。

事例1

父Aが亡くなりました。

相続人は妻Bと子C及び子Dです。

父Aは前妻Eと一度結婚してその間に子Cをもうけています。

その後、Eと離婚してBと再婚。

Bとの間に子Dをもうけました。

CはBやDと平素から折り合いが良くなく、小さい頃からCは虐待に近いしつけを受けていました。

また、CとDとの扱いの差は歴然としており、着る服から食べるものまで違いがありました。

Cは学校を卒業して就職し家を出た後は、ほとんど実家に寄りつかず、連絡もほとんどない状態です。

事例2

父Fが亡くなりました。

Fはアパートやマンションの不動産賃貸業を経営していて、相続人には妻G、子はHとIがいます。

HはFの会社を継ぐ予定で経営を学び、Iは結婚して家を出ました。

Fの遺産は保有不動産や現預金などたくさんあり、Iは遺産を多く欲しいと考えています。

ですが、自分が思ったよりもGとHから提示された遺産が少ないので、GやHが自分の取り分を多くしようと遺産を隠しているのではないか、自分たちに都合のいいようにウソをついているのではないかと不審に思っています。

事例1は連れ子がいるケースで、事例2は多額の遺産があるケースです。

どちらも相続人の一人であるCやIは他の相続人に対して不信感を持っています。

このようなケースにこそ、相続争いが勃発する火種がくすぶるのです。

とはいえ、このようなケースであれば必ずもめるというわけではありません。

遺産分割がまとまらない、そもそも話し合いのテーブルにつくことすらできない相続争いに発展するようなものには、ある共通項があります。

相続争いに発展する家庭の共通項

相続争いに発展する家庭の共通項として挙げられるのは、相続人の間で信頼関係がないような場合です。

上述の例で多少でも信頼関係が構築されていれば、話し合いをすることは可能でしょう。

ですが、それが初めからない、もしくは破壊されているような場合であれば相続を契機に一気に法廷闘争になることも珍しくはありません。

事例1のような場合では、長い間に蓄積されてきた恨みやつらみが一気に噴出することでしょう。

事例2のようなケースでは、一つの不信感が今までのわだかまりと掛け合わさってより複雑な問題に発展していくことがあるのです。

そこにあるのは客観的な書類等の証拠ではなく、自分の思いこみ等主観的なものがほとんどです。

もしその思いこみが強ければ、たとえ勘違いであっても周りのものが見えなくなってしまいます。

裁判になったらどうなるか?

法廷闘争になった場合

それでは、法廷闘争になったらどうなるのでしょうか?
よく裁判にして真実を追究するという台詞を耳にします。

実際、刑事裁判等ではその過程で事実が浮き彫りになっていくこともあります。

ただ、相続争いで始まった裁判というものは、真実を追究するのとはかけ離れたものではないかと思います。

確かに裁判になるということは真実を追究していく形になります。

証拠も収集していきます。

しかし、相続争いの元となる火種は長年のわだかまりが蓄積したものがほとんどであり、書面として証拠となるものはほとんどありません。

言った言わないの類のものが多く、それに人間の感情が入るので袋小路に入りやすいのが特徴です。

そして、裁判の事実認定で出す証拠等は裁判所が収集していくのではなく、当事者が法廷に証拠書類を提出していくのであり、裁判所はその出てきた証拠を元に事実を判定していくのです。

さらに言えば、裁判という所は結局のところ、争いを強制的に解決するだけの所であり、裁判をしたからといって紛争が根本的に解決することは稀です。

往々にして裁判手続きというものは時間がかかります。

他方で、相続税の申告は被相続人の死亡を知ったときから10ヵ月以内に行わなければなりません。

残念ながら、裁判を始めた時点で10ヵ月という期間はあっという間に過ぎてしまうでしょう。

争いの再燃

そうこうして裁判が終わり、一つの問題が解決したとします。

例えば、先の事例1で被相続人AがBやDのために遺言を遺し、
「私Aの全遺産はBとDに1/2の割合で相続させる」
という内容だったとしましょう。

現預金といった金銭債権であれば分けやすいのですが、これが不動産であると少し話が変わってきます。

そして、相続人Cが遺留分減殺請求をしてきたとします。

そうすると、お金でCの遺留分を払うことができるのであれば問題になりにくいのですが、お金で払えずB・C・Dの共有状態になってしまうと話し合いが不可能となり、売却等何もすることができない不動産になってしまいます。

そして再び争いになり、共有物分割請求訴訟等の法廷闘争が起こりうる事態になるのです(注:もっとも、遺留分減殺請求権は2019年7月1日施行の相続法で「遺留分侵害額請求権」として金銭請求となり、共有状態が生ずる事態は起こりえなくなりました)。

また、事業をしている方であれば、被相続人の有していた株をどう扱うかで問題が起こります。

経営権のある人が大多数の株式を所有しているのであれば経営に支障は生じにくいのですが、相続争いで経営に参加しない相続人が株式を持つ形に落ち着いてしまった場合は、株主権を行使してきたり、株主総会等で何も決められなかったりして事業に支障を生じるようになってしまいます。

このように一つの問題解決が次の問題を誘発し、争点にならなかった違う問題が起きて、再び争いになる、相続争いではこのようなことが他の紛争と違い起こりやすいのが特徴です。

裁判手続きが終わったら

そして長い裁判手続きを行った結果、どうなるのでしょうか?どちらかが反対側の相続人に謝罪し、白黒はっきりした決着がつくということには残念ながらなりません。

再び相続人間の仲が良くなるということはありえないでしょう。

しこりはしこりとして残り、他の相続人とは縁が切れてしまいます。

多くの時間とお金を費やして争った結果、気がつくと何も残らず空しさだけが残るといったところが実情ではないでしょうか。

争うリスクを減らすために

信頼関係が破壊されている、これは長い年月をかけて起きてしまった事実であり、それを短期間で修復するのは不可能でしょう。

そのような事態に陥ってしまい、問題を深刻化させないようにするためには遺言等の法的ツールを使って争いのリスクを低減させることが必要です。

また、全財産を特定の相続人や第三者に相続させる、もしくは遺贈するのではなく、遺留分を持っていて、かつ裁判を起こしそうな相続人を意識して遺言を作ることが不可欠です。

それで争いが無くなるとは言えないですが、不毛な争いに発展する危険を減らす意味では有用です。

まとめ

ここまで相続争いに発展する要因は何かについて見てきました。

根源にあるのは相続人間に信頼関係がないということがおわかりいただけたと思います。

この状態を起こさないように努めるのがベストなのですが、すでにそのような状態に陥っている方は遺言等の法的ツールを使って、紛争リスクを可能な限り低減させることが遺された相続人の方々への責務であると考えます。

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