この記事でわかること
- 遺品整理の開始時期や方法について理解できる
- 遺品整理のスケジュール作成が自分でできる
- 遺品整理が遅れた場合のデメリットがわかる
「父が亡くなったので遺品整理をしたいが、いつから始めるか迷っています。四十九日の後からがよいというけれど、相続人は私と妹だけなので、妹と話し合いができればそれより早くてもよいでしょうか?」
このように、相続人の方から遺品整理を始めるタイミングについて質問をいただくことがよくあります。
本記事では、遺品整理を始めるタイミング、遺品整理が遅れた場合のデメリットや遺品整理の方法・流れ、スムーズに遺品整理をするコツなどを弁護士が解説します。
遺品整理はいつから始めるのが良い?
遺品整理とは、親族が亡くなった際に故人の財産や持ち物を整理することです。
遺品整理を行う目的は、遺品の片づけのためだけでなく、被相続財産の全容を把握するためでもあります。
遺品整理を始める時期に「いつから」という決まりはないため、始めるべきタイミングについて迷う方が少なくありません。
本章では、遺品整理を始めるべきタイミングを解説します。
葬儀後すぐに遺品整理を行う必要がある場合
死亡届は、届出義務者が被相続人の死亡の事実を知った日から7日以内に提出する必要があります(戸籍法第86条)。
以下の場合には、葬儀が終了し死亡届を提出した後すぐに遺品整理を始めなくてはなりません。
故人が賃貸物件や介護施設に住んでいた場合
故人が賃貸物件や介護施設に住んでいた場合は、速やかに退去しなければなりません。
また、賃貸住宅を退去する際には、原状回復が求められます。
これらの場合は、退去までに遺品整理を済ませなくてはなりません。
そのため、葬儀が終わったらすぐに着手しましょう。
孤独死の場合
孤独死の場合、持ち家か賃貸物件かにかかわらず、発見次第、特殊清掃の事業者に清掃を依頼して、葬儀を行ったらすぐに遺品整理を開始しましょう。
社会保険・年金の手続き後(本人死亡の10日後~)
上記の事情がない場合で一番早いタイミングは、社会保険や年金関連の手続きを終えた後です。
健康保険の資格喪失届は本人死亡後14日以内、老齢年金の受給停止の手続は10日以内に行う必要があります。
これらの手続きを終えた後に、遺品整理を開始すると決めてもよいでしょう。
四十九日法要の後(故人死亡の49日後~)
仏教の考え方では、故人が極楽浄土に行けるかどうかの審判が下されるのが「四十九日」とされています。
また、四十九日法要では遺族が集まるので、遺品整理についての話し合いをしやすいタイミングでもあるでしょう。
そこで、四十九日法要後に遺品整理を開始するケースが一般的といわれています。
相続税の申告期限前(故人死亡後10か月以内)
相続税の申告と納税は、本人が死亡してから10か月以内に行わなければなりません(相続税法第27条2項)。
相続税は、故人の遺産が非課税額を超えている場合に相続人に課されます。
相続税を算出するためには、まず遺品整理を行い、遺産の評価総額を把握しなくてはなりません。
この期限に間に合わせるには、遅くとも故人が亡くなってから6か月後頃には遺品整理を始めましょう。
遺品整理するタイミングの決め方
遺産整理には、多くの労力と時間が必要になります。
相続人のうち、一人ですべて行うのは難しいことは想像に難くありませんが、前述したような切迫した事情がない場合には、タイミングを見極めるのが難しいでしょう。
本章では、遺品整理するタイミングの決め方を解説します。
優先すべき期限から逆算して決める
前述したように、遺品整理にあたっては、持ち家以外に住んでいた場合の退去時期や相続税申告期限など、守らなければならない期限があります。
これらの期限から逆算して、遺品整理のタイミングを決めるとよいでしょう。
たとえば、以下のような決め方が考えられます。
- 退去期限までに遺品整理を終わらせたい→〇日くらいかかる見込みなので、〇月のこの時期に開始する
- 相続税申告期限の〇日くらい前までに遺産分割協議書を作成したい→〇月のこの時期までに遺産分割協議を始める→〇月のこの時期までに遺品整理を終わらせる→その〇日くらい前に作業を開始する
期限を決めたら必要な期間を割り出す
遺品整理の整理を決めたら、具体的な作業ごとに必要な時間を割り出します。
たとえば以下のような方法です。
- 保管するものと手放すものの仕分けに〇日
- 手放すものの処分方法を決めるのに〇日
- 廃棄するものの分別に〇日
- 清掃作業に〇日
ここまでが決められれば、後は作業するだけですが、モチベーションを維持するのはなかなか難しいことです。
遺産整理を行わない、あるいは遺産整理がはかどらない場合には、どのようなデメリットが生じるのかを理解しておくことが大切でしょう。
遺品整理が遅れるデメリット・リスク
それでは、遺品整理が遅れること、あるいは遺品整理をしないことにはどのようなデメリットやリスクがあるのでしょうか。
遺品整理をしないとどうなる?
遺品整理をしないままにしておくと、以下のようなデメリットやリスクが生じます。
相続や相続税の申告に支障が出る
遺品整理の時期が遅れると、遺産分割協議を進めることができません。
そのため、相続税の申告手続きや不動産の相続登記もできなくなります。
遺産分割協議や相続税申告手続きを終えなければ、法律的には相続財産を相続人全員が共有している状態になってしまいます。
これを放置すると、さらに相続が生じて権利関係が複雑化するおそれがあるでしょう。
また、税法上の特例措置を受けられなくなるため、相続関係の手続きを期限までに済ませた場合に比べて、課税額が多くなってしまうというリスクもあります。
空き巣・火災などのリスクが高くなる
故人が一人住まいだった自宅が、次に住む人がいない状態で遺品整理をしないでいると、以下のようなリスクが上がります。
- 空き巣
- 火災
- 地震や豪雨などの自然災害による家屋損壊
特定空き家に指定されると固定資産税額が高額になる
また、特に故人が持ち家に一人住まいだった場合、遺品整理を行わないまま時間が過ぎると「空家等対策特別措置法」上の特定空き家に指定される可能性があります。
特定空き家に指定されると、自治体から改善勧告を受けます。
これに従わなかった場合、固定資産税が最大6倍になってしまいます。
遺品整理の方法・流れ
遺品整理は、自分で行う方法と、業者に依頼する方法があります。
自分で行う方法には、最後の清掃段階のみ業者に依頼するというように、手順の一部で業者を利用する場合も含まれます。
本章では、それぞれの方法で遺品整理を行う流れを解説します。
自分で行う方法
遺品整理を自分で行う場合は、以下の方法・流れに沿って行うことをおすすめします。
保管するものと手放すものを分ける
まず、相続財産として保管するものと、手放すものとを分けます。
自分で遺品整理を行う場合、つい最初にごみ処分を始めてしまいがちです。
しかし、分別と処分を同時に行うと効率が悪くなります。
効率よく整理するためには、この段階では分別に集中しましょう。
このうち、まず必ず保管するものとしては、以下のような貴重品と重要書類があります。
- 現金
- 通帳
- キャッシュカード
- 印鑑
- 遺言書
- エンディングノート
貴金属や美術品などの財物については、遺産分割協議が終わっていない段階での争いを避けるため、すべて保管してください。
廃棄するものと売却するものに分ける
手放すものについては、さらに「廃棄するもの」と「売却するもの」に分けましょう。
このうち、まだ使えそうなものや、有料買取してもらえる見込みがあるものについては売却を検討してください。
多数の品物をまとめて査定を依頼すると、相応の買取額を提示してくれることがあり得ます。
廃棄するものを分別する
廃棄するものについては、焼却ごみ・プラスチック資源ごみ・金属陶器ごみ・粗大ごみなど、自治体の分別に従ってまとめてください。
買取業者に売却する
売却を決めたものについては、買取業者に査定を依頼しましょう。
業者によっては、貴金属から骨とう品、楽器や模型などに至るまで、幅広く取り扱っています。
ただし、絵画などの美術品や酒類については、専門業者に依頼したほうが高額の査定価格を提示してもらえることが多いので、分けて依頼しましょう。
清掃を行う
賃貸物件の場合には、退去時のガイドラインを確認しながら清掃してください。
臭いや汚れがひどく、自分では掃除しきれない場合にはハウスクリーニング業者に依頼しましょう。
故人が持ち家で一人暮らしだった場合
持ち家で故人が一人住まいだった場合には、家の今後の取り扱い方を決めます。
すでに遺言や相続人間の協議で決めている場合には、それに従います。
まだ決めていない場合には、売却する・賃貸する・取り壊して土地を売却するのいずれの方法をとるかを相続人間で話し合って決めましょう。
業者に依頼する
遺品整理業者に依頼すると費用がかかりますが、遺品の量や家の状態をみて、自分で行うことが困難な場合は、遺品整理の専門業者に依頼することをおすすめします。
業者に依頼する場合は、以下の流れで進めましょう。
複数業者に見積もりを依頼する
はじめに、複数の業者(できれば3社以上)に見積もりを依頼します。
3社以上の業者から見積もりを取ることにより、遺品整理費用やサービス内容の比較ができ、悪徳業者を見抜くことができるでしょう
悪徳業者には、以下のような特徴があります。
- 料金が安すぎる上に根拠が不明瞭
- 見積もりの項目やサービス内容が不明瞭
さらに、他社の見積もりを見せることで、値引き交渉も可能になります。
業者によっては土日・祝日や早朝・深夜の作業に対して追加料金がかかることがあります。
立地その他の作業条件(エレベータのないアパートの上の階など)によっても、追加料金が必要になることもあり得ます。
見積もりを取る際には、これらの条件も含めて比較しましょう。
スケジュールを決める
依頼する業者を決めたら、作業スケジュールを相談して決めます。
原則として、業者が遺品整理の作業をするにあたっては立ち合いが必要です。
特に、手放すもののうち、売却するために一時保管するものと、処分するものを仕分ける際には相続人の判断が必要になります。
立ち合い方法については業者によって異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。
相続人が立ち会いできる日を原則として、業者と予定を合わせてください。
また、追加料金の有無についても確認しましょう。
作業を実施する
当日の作業では、はじめに立ち合いの方法や、依頼者の意思を確認してほしい事項などを打ち合わせします。
触らないでほしいものや、立ち入ってほしくない部屋や場所がある場合には、この時点で伝えましょう。
ほとんどの場合、作業は1日以内に終わります。
ただし、いわゆるゴミ屋敷状態の場合などは2日以上かかることもあります。
スムーズに遺品整理をするコツ
遺品整理には手間がかかりますが、効率よく進めるためにはいくつかのコツがあります。
本章では、スムーズに遺品整理をするコツを紹介します。
遺言書を確認して他の相続人と話し合っておく
遺品整理が進まなくなる原因のひとつとして、保管するものと手放すものの区別や、手放すものの処分方法をめぐって折り合いがつかないことが挙げられます。
これを避けるために、事前に他の相続人との間で以下のことを行っておきましょう。
- 遺言書によって故人の意思を確認する
- 貴重品以外の相続の対象品を決める
- 手放すもののうち、主要なものの処分方法(売却、寄付、供養、処分)を決める
- 遺品整理を行う相続人の判断で決めてよい範囲を定めておく
- 業者に依頼するか否か、依頼する場合はどの範囲の作業を依頼するかを決める
相続の対象品を特定した上でまとめて保管する
貴重品、貴金属、その他の財物(資産価値があるもの)は相続の対象品となります。
後になって相続人間で揉めないためにも、まずこれらを特定してリスト化しておきましょう。
相続の対象となる代表的な物として、以下が挙げられます。
貴重品 |
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財物(動産) |
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財物(不動産) |
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相続の対象品を特定したら、書類・貴金属などの小さいものはファイルや袋に入れて同じ場所に保管してください。
まとめ
遺品整理には、膨大な手間がかかります。
大切な人を亡くして気落ちしている遺族の方が、自力ですべての作業を行うのは困難です。
業者に依頼することも検討しながら、過度の負担がかからない形で進めましょう。
また、相続人間で争いが起こらないように十分話し合いの時間をとった上で、遺品整理を行う人にとって都合のよいタイミングで行うことをおすすめします。