この記事でわかること
- 山林を相続するメリット・デメリットがわかる
- 相続したけどいらない山林を手放す方法がわかる
- 山林の相続手続きの流れ・必要書類がわかる
相続財産に山林が含まれていた場合、遺産分割協議をしたが誰も相続したがらない、相続してもどう管理したらよいかわからないなど、様々な問題が起こります。
実際のところ、山林を相続すると維持管理費用や税金の負担だけでなく、将来的には自分の子どもなどの相続人が負担を引き継ぐことになるため、できるだけ早く処分したいと思っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、相続した山林を処分する方法について詳しく解説します。
山林を相続するメリット・デメリット
まず、山林を本当に処分した方がよいのか判断するために、山林を相続するメリット・デメリットを整理しましょう。
主なメリット・デメリットは以下の通りです。
- <メリット>
- 趣味目的で利用できる
- 事業目的で利用できる
- <デメリット>
- 利用するためには多額の初期投資や維持管理費用がかかる
- 様々な税金の負担が発生する
- 他人に損害を与えたときに賠償責任を負う可能性がある
- 相続で負担が後の世代に引き継がれる
では、それぞれ詳細な内容について説明します。
山林を相続するメリット
山林を所有した場合、プライベートな空間でアウトドアなどの趣味を楽しむ、豊かな自然を活かした事業を始めるといった利用が可能です。
趣味目的で利用できる
近年のアウトドアブームの高まりから、キャンプや川釣り、キノコ狩りなどを楽しむ目的で山林を個人所有される方もいます。
自然を楽しむようなレジャーの他、別荘を建て、長期休暇のときに家族でゆっくり過ごすといった利用も可能です。
故人が元々アウトドアが趣味であった場合や、コテージなどを建てている場合には、有効活用できる可能性が高いでしょう。
事業目的で利用できる
山林を活かした事業として、たとえば以下のような活用例があります。
- キャンプ場やグランピング施設の運営
- ペンションの経営
- 自生している樹木を伐採して木材の販売
- 自然農園の運営
- 太陽光発電による売電
事業によっては補助金の活用や税制面での優遇などを受けられる場合もありますが、後述する投資費用や事業リスクなどのデメリットもある点に注意しましょう。
山林を相続するデメリット
自己資産として利用できる一方、様々なデメリットも考えられます。
利用にあたり多額の初期投資や維持管理費用がかかる
山林を利用するには、様々な費用や手間が発生します。
たとえば、事業目的でキャンプ場を運営する場合、土地の開拓、設備の建設、山道の整備など多額の初期投資や維持管理費用がかかります。
また、事業を開始するのに適しているか、法的な制約はないかなど、入念な事前調査が必要です。
たとえば、以下のような項目は最低限確認が必要です。
- 水道、電気、ガスなどのインフラは利用可能か
- 警戒区域に指定されていないか(土砂崩れなど)
- 土壌汚染などの心配はないか(以前に廃棄物の集積場や工場の跡地だった場合)
- 保安林に指定されていないか(伐採や土地形質の変更に行政の許可が必要)
立地条件や地名ブランドなどでよほどの集客の見込みがなければ、事業目的で利用することはハイリスクな選択肢といえます。
現実的には、森林組合などの管理団体に維持管理を委託するケースが多く、当然ながら出資金や委託費用がかかります。
委託費用の相場は1ヘクタールあたり月額数千円ほどですが、作業内容や地域によって異なり、数万円から数十万円になることもあるようです。
趣味目的で山林を保有する場合も、建物や山道、樹木などのメンテナンスをしなければ時間の経過とともに荒れ果てることが予測できます。
利用・維持のための経費と、収益とのバランスを十分に比較検討する必要があるでしょう。
様々な税金の負担が発生する
一般的な不動産の保有と同様に、様々な税金を納付する必要があります。
税額は主に山林の評価額をもとに計算されます。
市街地に近い山林でなければ評価額は1坪あたり数十円程度であることが多く、納める額は数千円~数万円になる場合が多いです。
山林にまつわる主な税金は、以下の通りです。
- <収益にかかる所得税や住民税>
- 事業や売却で得た収益には、所得税や住民税が課されます。
- <固定資産税>
- なお、保安林の場合は非課税で、また自治体によって規定の評価額未満の場合は課税しないことがあります。
- <相続税>
- 山林を相続し、相続税が発生する場合に納付します。
- <登録免許税>
- 売却や相続などで名義を変更するときに納付します。
他人に損害を与えたときに賠償責任を負う可能性がある
山林の管理が不適切な状態のまま放置していると、思わぬ法的な賠償責任を負う可能性があります。
たとえば、所有する山林の土砂崩れや倒木などで他人に損害を与えてしまった場合などが該当します。
民法717条によると、管理団体などに委託している場合、原則として管理団体が責任を負います。
しかし、管理団体に委託していない場合、または、管理団体が適切に損害発生防止措置をとっていた場合は、所有者が責任を負うことになります。
なお、責任を負うのは「通常あるべき安全性」を欠いている場合に限られます。
たとえば、伐採や地盤の強化、防護ネットの設置など適切な管理をしていたものの、記録的な豪雨で倒木した場合は通常あるべき安全性の確保に問題はなかったといえます。
しかし、長年にわたり放置し続け、倒木の恐れがあることを知りつつ対応をしていなかった場合は、責任を問われる可能性があります。
相続した後に、どのように維持・管理していくのか、適切な管理団体を見つけられるのかなどをよく検討しましょう。
相続でのデメリットが後の世代に引き継がれる
山林を有効に利用することができ、子どもも継続して利用する意思がある場合は問題ありませんが、そうでない場合、後の世代に維持管理や処分の負担が引き継がれることになります。
特に誰も管理せず放置されていた場合は、相続する範囲の調査や処分するための整備など、より大きな負担が生じるため、山林の相続に関してはよく検討した上で手続きをすることをおすすめします。
相続したけれどいらない山林を手放す方法
メリット・デメリットを検討した上で相続したものの、やはり手放すという判断をした場合も少なくはありません。
そうした場合には、次のような方法があります。
仲介業者に売却を依頼する
山林を売却する場合、専門の仲介業者に依頼することが一般的です。
山林の登記簿謄本や固定資産税の通知書を提出し、査定を依頼します。
その後、現地調査を経て査定金額が確定し、購入希望者や業者などへ紹介してもらいます。
自治体に寄付する
売却が難しい場合、近隣の法人や自治体などへ寄付するという方法があります。
売却の場合と同じく、登記簿謄本や固定資産税の通知書を提出し、寄付先で有効活用してもらえる見込みがあるか相談します。
ただ、現実的には新たに山林を有効活用することは難しく、受け付けてもらえない場合が多いようです。
相続土地国庫帰属制度を利用する
相続土地国庫帰属制度とは、相続や遺言書による遺贈で土地を取得した相続人が、一定の条件を満たす場合に不要な土地を国に引き取ってもらえる制度です。
所有者不明の土地の発生を予防することを目的に、令和5年4月27日から導入されました。
申請方法
土地が所在する都道府県の法務局の不動産登記部門に申請します。
なお、土地が共有である場合は、共有者全員で申請を行う必要があります。
必要な費用
制度を利用するには、以下の費用が必要です。
- <審査手数料>
- 土地一筆あたり14,000円がかかります。
- <管理費相当額の負担金>
- 土地を管理するのに必要な管理費用相当額の10年分を負担する必要があります。
山林の場合、以下のように面積区分に応じて負担金が算定されます。
面積区分 | 負担金の金額 |
---|---|
750㎡以下 | 土地の面積×59円/㎡+21万円 |
750㎡~1,500㎡ | 土地の面積×24円/㎡+23.7万円 |
1,500㎡~3,000㎡ | 土地の面積×17円/㎡+24.8万円 |
3,000㎡~6,000㎡ | 土地の面積×12円/㎡+26.3万円 |
6,000㎡~12,000㎡ | 土地の面積×8円/㎡+28.7万円 |
12,000㎡超 | 土地の面積×6円/㎡+31.1万円 |
制度を利用できない場合
以下の却下事由や不承認事由に該当する場合は、制度を利用することができません。
- <却下事由(申請をすることができない)>
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権の設定がある土地
- 他者の利用予定がある土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が不明確な土地
- 所有権の存否や範囲に争いのある土地
- <不承認事由(承認を受けることができない)>
- 崖があり、管理に過分な費用や労力がかかる土地
- 管理や処分を阻害する有体物が地上または地下にある土地
- 隣接する所有者との争訟により管理や処分ができない土地
- その他、適切な造林・間伐・保育がされていないなど、通常の管理や処分をするのに過分な費用や労力がかかる土地
どのような方法が自分に合っているのか、よく検討しましょう。
山林の相続手続きの流れ・必要書類
山林を処分する場合でも、まずは相続手続きを適切に完了しておくことが必要です。
専門的な知見が必要となるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することが望ましいといえるでしょう。
山林を含む相続手続きの流れや必要となる書類は、以下の通りです。
遺言書を確認する
遺言書がある場合、原則として遺言書の内容に沿った方法で財産の分割手続きが行われます。
遺言書がない場合、後述の遺産分割協議を行い、相続財産を分割します。
相続人の範囲を確定する
誰が相続人となるのか、戸籍などを調査し、相続人の範囲を確定させます。
相続人は、配偶者、子ども、父母、兄弟姉妹などが民法で定められていますが、相続人全員が合意した場合、法定相続とは異なる方法で財産を分割することも可能です。
相続財産を確定する
山林を含めた不動産や預貯金など、相続財産の内容や評価額を調査し、目録を作ります。
相続人全員で遺産分割協議を行う
相続人全員で話し合い、相続財産をどのように分割するのか決め、遺産分割協議書を作成します。
(遺言書で相続人が確定している場合は、遺産分割協議は不要です)
相続登記をする
ここで、山林を含む不動産関係の財産については名義人変更を行い、相続登記を行います。
山林の名義人を変更するため、法務局へ以下の書類を提出しましょう。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまで)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 相続人全員の住民票
- 固定資産課税明細書
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合)
なお、令和6年4月から相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行うことが義務付けられています。
相続税の申告と納税をする
相続財産の評価額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要です。
前述の通り、山林の評価額は通常の不動産と比べ低いことが多いため、高額な相続税がかかることはまれです。
もし相続税の申告が必要な場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。
市町村長に所有者届出書を提出する
山林を相続した場合、市町村長に以下の書類を提出する必要があります。
- 森林の土地の所有者届出書
- 権利を取得したことがわかる書類(登記事項証明書や土地売買契約書など)の写し
- 土地の位置を示す図面
届出の期限は、所有者となった日から90日以内です。
もし遺産分割協議が完了していない場合は、相続開始の日から90日以内に法定相続人の共有物として届出をします。
届出をしなかった場合、10万円以下の罰金が科される可能性があるので注意しましょう。
相続放棄について
もし相続手続きが完了しておらず、かつ、相続開始があったことを知ったときから3か月以内の場合は、相続権を放棄することで山林の相続を回避できます。
ただし、相続放棄は財産の一部だけを放棄できず、すべての相続財産を放棄することになります。
なお、相続人全員が相続放棄をした場合は、相続人がいなくなり、山林は国庫に帰属します。
まとめ
山林を相続した場合、まずは冷静に山林を所有することについてのメリット・デメリットを整理し、自分が山林を処分するべきかどうかを判断しましょう。
処分する場合は、適切な相続手続きの完了が前提になります。
相続手続きを完了させた後は、時間が経過するにつれて山林の状態が悪くなり処分が難しくなるケースもあるため、売却や寄付、相続土地国庫帰属制度の利用などの方法で、できるだけ速やかに手続きを行うようにしましょう。
相続・処分に関する手続きや、そもそも山林を相続するか決められないといった際には、葬儀が終わったタイミングで弁護士などの専門家に相談されることをおすすめします。