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人が亡くなり、その人の遺産を相続する際に、相続税を納める場合があります。
以前は、お金持ちが納める税金というイメージがあった相続税ですが、法律の改正により、納める世帯が増えてきました。
ここでは、相続税はいくらまでが無税なのか、その際に法定相続人はどのように関係してくるのか、詳しくご説明いたします。
相続税の考え方
人が亡くなると、通常その人が持っていた財産をその人の配偶者(夫や妻)、子どもなどが、引き継ぐことになります。
相続税とは、このように、亡くなった人の財産が引き継がれていく段階で課される税金のことです。
財産の引き継ぎのことを「相続」と言います。
また、相続だけでなく、亡くなった人の財産を遺贈する場合、死因贈与にも相続税が課されることになっています。
遺贈とは、故人が生前に作成した遺言書によって、ある人に財産を与えること、死因贈与は「私が亡くなったら、〇〇を差し上げます」という贈与契約のことです。
遺贈も死因贈与も、相続と同様に、人の死亡を原因として、その人の財産が移動することになりますから、相続税が課されることになるのです。
そうは言っても、自分の財産を家族に引き継いでもらうのに、なぜ税金が課されるのか、と不思議に思う人も少なくないはずです。
この相続税の大きな目的に、「富の再配分」があるのです。
もっと分かりやすく言うと、偶然親が資産家だったために、苦労することなく多額な財産を引き継ぐ人と、そうでない人が存在することは、不公平であるという考え方があるのです。
そして、労せずして親から多額の財産を受け継いだ人には、それ相応の税金を課して、社会に還元しようという論理です。
相続税が課されるケース
相続税には基礎控除額がある
相続税が課されるのは、相続、遺贈、死因贈与によって財産を継いだ人ですが、そうは言っても、実際に相続税を納めなければならない人は、それほど多くはありません。
以前の相続税の「基礎控除額」は、以下のとおりでした。
なお、基礎控除額とは、相続税がかからない金額のことです。
5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)
※法定相続人については、後で詳しくご説明します。
例えば、法定相続人が3人いた場合、「5,000+(1,000×3)=8,000(万円)」となり、相続財産の合計額が、8,000万円を超えなければ、相続税を納める必要がありませんでした。
現在の基礎控除額
しかし、法律の改正により、2015年(平成27年)1月1日の相続・遺贈から、基礎控除額は次のようになりました。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
もし法定相続人が3人いた場合には、「3,000+(600×3)=4,800(万円)」となり、相続財産の合計額が、4,800万円を超えなければ、相続税を納める必要はありません。
しかし、法律が改正する前と比べて、法定相続人が3人いた場合には、基礎控除額に3,200万円の差があることになります。
この基礎控除額の変更によって、相続税はもはや他人事ではなくなってしまった感があります。
法定相続人とは
先程ご説明した基礎控除額で、法定相続人という言葉が出てきましたが、これは民法という法律で決められた相続人を意味しています。
法定相続人と法定相続分について
次に、法定相続人と法定相続分について、列記します。
なお、法定相続分とは、民法で決められている遺産の配分のことです。
また、以下に出てくる「被相続人」とは、亡くなって財産を残した人のことです。
まず、被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、彼らが法定相続人であり、第1順位の相続人です。
配偶者は、常に子どもと同順位の相続人で、法定相続分は配偶者が遺産の2分の1、子どもも遺産の2分の1です。
子どもが2人以上いる時には、各自の相続分は均等となります。
例えば子どもが2人いる場合には、それぞれ遺産の4分の1ずつを相続することになります。
なお、被相続人が亡くなる以前に、被相続人の配偶者が亡くなっていた場合には、全て子どもが遺産を相続することになります。
非嫡出子にも法廷相続分がある
また、以前は非嫡出子(婚外子)の相続分は、実子の2分の1とされていましたが、法律が改正されて、現在は実子と同じ相続分になっています。
さらに、被相続人に養子がいた場合も、実子と同じ相続分になります。
子どもがいない場合
被相続人に子どもがいないときには、配偶者と直系尊属(被相続人の父母)が法定相続人になります。
この場合、法定相続分は、配偶者が遺産の3分の2、直系尊属が遺産の3分の1となります。
直系尊属が2人いる場合には、各自の法定相続分は均等です。
例えば、被相続人の父母がともに健在であれば、それぞれ遺産を6分の1ずつ相続ずることになります。
なお、被相続人が亡くなる以前に、被相続人の配偶者が亡くなっていた場合には、全て被相続人の直系尊属が遺産を相続することになります。
被相続人に子どもも直系尊属もいない場合には、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。
この場合、法定相続分は、配偶者が遺産の4分の3、兄弟姉妹が遺産の4分の1となります。
兄弟姉妹が2人以上いる場合には、各自の法定相続分は均等です。
例えば、被相続人の兄弟姉妹が3人いる場合には、それぞれ遺産を12分の1ずつ相続することになります。
なお、被相続人が亡くなる以前に、被相続人の配偶者が亡くなっていた場合には、全て被相続人の兄弟姉妹が遺産を相続することになります。
相続税の計算方法
相続の計算は、次の3つのステップに従って、行われます。
- ① 相続人などの各自の課税価格を計算する。
- ② 基礎控除後の課税価格を法定相続分で分けて税額を算定し、また合計する。
- ③ 相続人などの各自の実際の取得分に応じて配分する。
相続人などの各自の課税価格を計算
まず、1つ目のステップですが、相続人一人一人について、相続税の課税価格を以下の計算方法で算定します。
(本来の相続財産+みなし相続財産の価額)-非課税財産の価額-債務及び葬式の費用+(相続時精算課税の適用を受けた贈与財産+3年以内の贈与財産)
なお、故人の財産を取得した人には、法定相続人だけでなく、遺贈によって財産をもらった第三者、相続を放棄した人で生命保険を受け取った人なども含まれます。
上記の計算式によって、算定した各自の課税価格を合計して、相続税の課税価格を算出します。
基礎控除後の課税価格を法定相続分で分けて税額を算定
2つ目のステップでは、先程求めた相続税の課税価格の合計から、相続税の基礎控除額を引きます。
基礎控除額は、先程ご説明したように、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。
この法定相続人の数では、相続放棄した人を含みます。
また、被相続人に養子がいる場合には、次のルールが適用されます。
- ① 被相続人に実子がいる場合は、法定相続人とみなされる養子の数は1人まで
- ② 被相続人に実子がいない場合は、法定相続人とみなされる養子の数は2人まで
このルールは、養子を無制限に法定相続人とみなせば、相続税の課税を逃れるために「養子縁組」が利用される可能性があるためです。
ただし、次の人は、実子とみなされるために、上記の養子の制限は受けません。
- ① 特別養子
- ② 配偶者の実子(連れ子など)で、被相続人の養子となった人
- ③ 実子または養子がすでに亡くなっているため、代襲相続人となった人(孫など)
- ④ 結婚前の配偶者の特別養子で、結婚後に養子となった人
相続税の課税価格の合計から基礎控除額を引いた金額を「課税遺産総額」として、その総額を法定相続人が法定相続分に応じて取得したものとして、各相続人に振り分けます。
そして、各自に振り分けた金額(法定相続分に応じた取得金額)に税率を適用して、それぞれの税額を算出します。
最終的に、各相続人の税額を計算することで、相続税の総額を算出することになります。
相続人などの各自の実際の取得分に応じて配分
最後の3つ目のステップでは、各自が税務署に納める相続税の金額を算出します。
先程算出した「相続税の総額」を各自が実際に取得した財産の価格に応じて、各自に振り分けることになります。
この際に、「各自の課税価格÷課税価格の合計額」という「按分割合」を使います。
具体的には、「各自の相続税額=相続税の総額÷按分割合」という式になります。
この「各自の相続税額」が算出されたら、「2割加算」と「税額控除」を行います。
2割加算とは、財産を取得した人が、「1親等の血族(父母または子)」以外、「配偶者」以外だった場合は、先程算出した「各自の相続税額」に20%を加算します。
また、財産を取得した人が、「贈与税額控除」、「配偶者の税額軽減」、「未成年者控除」、「障害者控除」、「相次相続控除」、「外国税額控除」、「相続時精算課税制度に係る贈与税額控除」に該当する場合には、税額控除が適用されることになります。
いくらまで無税になるか?
それでは、遺産がいくらまでは相続税が無税になるかという問題ですが、それは基本的に法定相続人の人数によって決まります。
次に、法定相続人の人数によって、無税になるライン、つまり基礎控除額を算定してみます。
基礎控除額は、先程ご説明したように、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で算定します。
- ・法定相続人が1人の場合…3,000万円+(600万円×1)=3,600万円
- ・法定相続人が2人の場合…3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
- ・法定相続人が3人の場合…3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
- ・法定相続人が4人の場合…3,000万円+(600万円×4)=5,400万円
- ・法定相続人が5人の場合…3,000万円+(600万円×5)=6,000万円
- ・法定相続人が6人の場合…3,000万円+(600万円×6)=6,600万円
- ・法定相続人が7人の場合…3,000万円+(600万円×7)=7,200万円
- ・法定相続人が8人の場合…3,000万円+(600万円×8)=7,800万円
- ・法定相続人が1人の場合…3,000万円+(600万円×9)=8,400万円
- ・法定相続人が1人の場合…3,000万円+(600万円×1)=9,000万円
ただし、上記の金額は、あくまでも目安です。
先程の「相続税の計算方法」の項目でご説明したように、3番目のステップで、「2割加算」や「税額控除」の調整を行うからです。
それでも、一応の目安として、基礎控除額の遺産が、無税になるラインの目安となります。
つまり、当然のことながら、、法定相続人の数が多ければ多いほど、無税になる遺産額のラインは上がるということになります。
有効な節税対策
法定相続人の人数が多ければ、無税になる遺産額のラインが上がると言っても、法定相続人を増やすことは、なかなか至難の業です。
それでも、先程ご説明したように、以下に示す人は、実子とみなされ、法定相続人としてカウントされます。
- ① 特別養子
- ② 配偶者の実子(連れ子など)で、被相続人の養子となった人
- ③ 実子または養子がすでに亡くなっているため、代襲相続人となった人(孫など)
- ④ 結婚前の配偶者の特別養子で、結婚後に養子となった人
特別養子がいる場合
まず①の「特別養子」ですが、これは、子どもが幼児の時に、養親の子どもとして、実子と変わらない状況を作り出す制度です。
通常の養子と違って、次のような条件があります。
- ・養子となる子どもは、特別養子縁組請求の時に、原則として、6歳未満であること
- ・養親の1人は、25歳以上、他方は20歳以上であること
- ・養親になれるのは夫婦のみ
- ・夫婦は共同で養子縁組をすること
- ・養子となる子どもの父母の同意が必要であること
- ・養親は審判確定の日から10日以内に届け出ること
- ・養親が養子を6ヶ月以上監護すること
※ただし、夫婦の一方が他方の嫡出子を養子とする場合は一方だけでよい
※父母が意思表示できない時、父母が子どもを虐待している時は不要です
※届出があった後、養親の氏で新戸籍を編成して入籍させ、もとの戸籍からは除籍する
特別養子は、通常の養子と違って、養親との養子縁組が成立すると、実の親との親子関係は解消されます。
配偶者の実子がいる場合
次に、②の「配偶者の実子(連れ子など)で、被相続人の養子となった人」ですが、子どもがいる人と再婚をしても、自分とその子どもとの間には、戸籍上の親子関係はありません。
戸籍上の親子となるには、養子縁組をする必要があります。
養子になると、法定相続人となります。
実子または養子がすでに亡くなっていて、代襲相続人がいる場合
次に、③の「実子または養子がすでに亡くなっているため、代襲相続人となった人(孫など)」です。
代襲相続とは、例えば被相続人に配偶者と孫が1人いたとします。
通常は、配偶者と子どもが法定相続人ですが、すでに子どもが亡くなっているため、相続することができません。
しかし、子どもに子どもがいた場合、つまり被相続人に孫がいた場合、その孫が子どもの代わりに相続人となります。
これを代襲相続人と言います。
結婚前の配偶者の特別養子で、結婚後に養子となった人がいる場合
最後に、④の「結婚前の配偶者の特別養子で、結婚後に養子となった人」です。
これは、配偶者が結婚までに特別養子縁組をした養子がいた場合、その配偶者と結婚することで、自分の養子となった人のことです。
まとめ
相続税の基礎控除額が引き下げられたことで、相続税を納めるケースが増えてきています。
相続税はいくらまで無税になるのか、大きなポイントなるのが、法定相続人の人数です。
法定相続人は、実の子どもだけでなく、養子も含まれますので、実際にご自分のケースを整理しておき、きたる遺産相続の際に備えておくことをおすすめします。