この記事でわかること
- 相続税の申告書を作成して提出しなければならない場合がわかる
- 相続税の申告書の内容や実際に提出する書式を知ることができる
- 相続税申告書を作成する際の注意点や作成する際のコツがわかる
ほとんどの人にとって、自らが相続人となることは多くても2回です。
また、相続が発生しても相続税が発生することはかなり少数であり、ほとんどの人は相続税とは無縁となっています。
ただ、相続税がかからなくても、相続税申告書を作成して提出しなければならないケースは多くあります。
そこで、どのような人が相続税申告書を提出しなければならないのかを確認していきましょう。
また、作成する相続税申告書とはどのような書類なのか、その内容や必要となる書類についても解説します。
目次
相続税の申告書を提出する人
相続が発生しても、すべての人が相続税申告書を作成するわけではありません。
それでは、相続税申告書を提出しなければならない人とは、どのような人をいうのでしょうか。
相続税の申告義務者は遺産を受け取った人
まず、相続税の申告書を提出しなければならない人を解説する前に、相続税の申告・納税義務者について確認しておきます。
相続税の申告をしなければならない人とは、相続税の課税対象となった財産を受け取った人です。
遺産分割で相続税の課税対象となる財産を受けるのは法定相続人ですが、相続税の申告義務が生じるのは法定相続人に限りません。
遺言書がある場合には、遺贈により法定相続人以外の人に財産が渡る可能性があります。
また、死亡保険金を法定相続人以外の人が受け取る場合もあります。
このような場合には、法定相続人以外の人に相続税の申告・納税義務が生ずることとなるのです。
法定相続人でなければ、相続税が発生しないというのは誤りです。
相続が発生してからどのような財産の動きがあったのかを確認し、相続税が発生していないかを確認する必要があります。
相続税の申告義務のある人が、以下の(1)~(3)に該当する場合、相続税の申告書を提出しなければなりません。
(1)財産の合計額が基礎控除額を上回り相続税が発生する
相続税額を計算するには、まず相続財産の相続税評価額を求め、さらに基礎控除額を求めなければなりません。
相続財産の相続税評価額は、その財産の種類に応じた評価方法で計算を行う必要があります。
相続税評価額は、その財産の時価とは大きく異なるため、必ずその評価額を確認するようにしましょう。
この時、同じ種類の財産でも、いくつかの評価方法がある財産もあります。
たとえば、土地は路線価法式と倍率方式という2つの評価方法のいずれかで計算を行います。
土地の評価方法は、その所在地により定められているため、いずれの方法によるのか確認しておくようにしましょう。
また、基礎控除の額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
そのため、法定相続人の人数さえ確定すれば、その額を求めることができます。
誰が法定相続人となるのかは、遺産分割や慰留分を計算するためにも重要なため、事前に調べる必要があります。
その上で、基礎控除の額がいくらになると想定されるのか、その金額を計算しておきましょう。
そして、相続財産の額より基礎控除の額の方が大きいのであれば、それ以上相続税の計算をする必要はありません。
逆に相続財産の額の方が基礎控除より大きい場合は、相続税申告書を提出しなければなりません。
(2)申告することで相続税額がゼロとなる
基礎控除の額より相続財産の額の方が大きくなる場合、(1)に該当するため相続税の申告をしなければなりません。
ただ、相続財産の額が大きくなるからといって、必ずしも相続税が発生するとは限りません。
中には特例を適用することで、相続税がゼロとなる場合もあります。
しかし、特例を適用することで相続税額がゼロとなる場合、納税義務はなくても相続税の申告はしなければなりません。
相続税に関する特例は、相続税の申告書を提出することではじめて適用を受けられるためです。
代表的な特例としてあげられるのが、小規模宅地等の特例です。
被相続人の自宅の敷地については、その相続税評価額を80%減額することができます。
そのため、特例適用後の相続財産の額が基礎控除の額を下回り、相続税が発生しない場合があるのです。
しかし、この特例を適用するためには相続税申告書を税務署に提出する必要があります。
申告書を提出していない場合は、仮に小規模宅地等の特例が適用できる場合でもその適用を受けることはできません。
また、配偶者の税額軽減の特例も、相続税申告書を提出することではじめて適用を受けられます。
配偶者が、法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい方の金額までの財産を取得した場合には、相続税がかかりません。
しかし、実際にどれだけの財産を取得したのかは、相続税申告書を提出しなければわかりません。
そのため、申告書を提出してはじめてその適用を受けることができるのです。
(3)相続時精算課税制度で生前贈与を受けている
相続時精算課税制度は、2,500万円までの財産の生前贈与について贈与税を非課税とする制度です。
その代わり、相続が発生した時には贈与された財産を相続税の対象として相続税の計算を行います。
そのため、相続時精算課税制度により生前贈与を受けた人は、その財産の内容について相続税申告書に記載して相続税を計算します。
贈与をした時には贈与税が発生しなかった場合でも、相続税が発生することがあるため、注意が必要です。
なお、相続時精算課税制度により贈与を受けることができるのは、推定相続人または孫です。
孫の場合、相続時精算課税制度を適用することができる一方で、法定相続人にはならない場合もあります。
ただこのような場合でも、孫は相続税申告書を提出しなければならないのです。
相続税の申告書一覧
相続税申告書はその書式が決まっており、第一表から第十五表まであります。
ここでは、各表の名称についてご紹介していきます。
なお、実際に相続税申告書を作成する際には、この順番どおりに作成するものではありません。
- 第1表 相続税の申告書
- 第2表 相続税の総額の計算書
- 第3表 財産を取得した人のうちに農業相続人がいる場合の各人の算出税額の計算書
- 第4表 相続税額の加算金額の計算書
- 第4表の2 暦年課税分の贈与税額控除額の計算書
- 第5表 配偶者の税額軽減額の計算書
- 第6表 未成年者控除額・障害者控除額の計算書
- 第7表 相次相続控除額の計算書
- 第8表 外国税額控除額などの計算書
- 第9表 生命保険金などの明細書
- 第10表 退職手当金などの明細書
- 第11表 相続税がかかる財産の明細書
- 第11・11の2表の付表1 小規模宅地等の特例などの計算明細書
- 第12表 農地等についての納税猶予の適用を受ける特例農地等の明細書
- 第13表 債務及び葬式費用の明細書
- 第14表 純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額等の明細書
- 第15表 相続財産の種類別価額表
【共通】作成・提出が必要な申告書・書類
相続税申告書の各表には、具体的にどのような内容を記載していくのでしょうか。
ここでは、すべての相続人が作成することとなる申告書とその記載内容を解説していきます。
第1表
第1表には、相続財産の総額や、各相続人が納付する相続税額を記載します。
つまり、すべての相続に関する計算を終えて最終的な結論にあたる内容を記載しているのが第1表です。
第2表
第2表には、基礎控除の額と相続税の額を計算して記載します。
基礎控除の額を計算するためには、法定相続人の人数を確定しなければなりません。
そのため、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本が必要となります。
第11表
相続財産を細目ごとに記載するとともに、その相続税評価額や取得した相続人を記載します。
この第11表に、すべての相続財産を記載しなければなりません。
また遺言書や遺産分割の内容に基づいて、相続した人を記載しその相続人ごとの合計額を求めます。
第13表
被相続人に借入金や未払金などの債務がある場合、その債務の内容や金額について記載します。
また葬式費用についても、いつ誰にいくら支払ったかを記載します。
いずれの事項も、実際に負担した人や支払った金額を記載し、その人の相続財産から控除します。
第15表
相続財産や債務・葬式費用の種類ごとに、その価額を記載します。
他の書類で財産や債務の金額を計算して集計し、その結果を第15表に記載することとなります。
【内容次第】作成・提出が必要な申告書・書類
相続税申告書には、多くの書類がありますが、実際には先ほど紹介したものだけで相続税の計算ができるケースもあります。
ただ、これ以外にも使用頻度の高い申告書があるため、その内容について確認しておきましょう。
第4表
相続税の2割加算の対象となる人が納める相続税について、その税額を計算するための書類です。
兄弟姉妹が相続する場合などは、法定相続人となった場合でも2割加算の対象となります。
また、孫や相続人でない人が遺贈により財産を取得した場合も、2割加算の対象となります。
2割加算の対象となる人がいるのに、第4表で加算の計算を行わないとペナルティが課される可能性もあります。
第14表と第4表の2
相続開始前3年以内に贈与が行われた場合、その贈与された財産は相続税の計算対象となります。
そこで、第14表に贈与された財産の内容や金額を記載します。
また第4表の2には、その贈与により納めた贈与税額を記載します。
贈与税額については、相続税の計算後にその相続税額から控除することができます。
第5表
配偶者の税額軽減の適用を受ける場合に、その金額を記載する書類です。
配偶者が法定相続分あるいは1億6,000万円のいずれか大きい方の金額までは、相続しても相続税が発生しません。
そのため、一次相続の際には適用を受けるケースが多くなるでしょう。
なお、遺言書か遺産分割協議書で遺産分割の方法が確定していなければ、適用を受けることはできません。
第9表
相続により法定相続人が死亡保険金を受け取った場合、非課税枠があり、それを超えた部分に相続税が課されます。
受け取った保険金の金額や受取人、そして非課税額や課税対象となる金額を記載していきます。
第11.11の2の付表1
小規模宅地等の特例の適用を受ける場合に作成します。
小規模宅地等の特例を適用することで相続税額がゼロとなる場合は、必ず申告書を税務署に提出する必要があります。
なお、小規模宅地等の特例は、遺言書か遺産分割協議書で遺産の分割方法が確定していなければ適用することはできません。
その他
第6表の未成年者控除・障害者控除、第7表の相次相続控除の適用を受けるケースもあります。
また、第10表の死亡退職金を受け取った場合の明細も、必要となるケースがあるでしょう。
これらの適用を受ければ納付する相続税額は軽減されるため、忘れずに申告書を作成し、税務署に提出しましょう。
相続税申告書を作成するコツ・注意点
最後に、相続税申告書の作成のコツや注意点についてまとめました。
相続税申告書の記載内容は膨大ですが、そのコツをつかめば誰でも作成することができます。
ここでは、特に注意すべきポイントをまとめています。
申告書の作成順に注意する
相続税申告書を作成する際に、第1表から順番に作成することはできません。
第1表は、すべての計算を終えてからでなければ作成することができないのです。
申告書の作成手順としては、相続財産の内容を記載した後、相続税額を計算し、最後に控除額を計算します。
申告書の中では、第9表の生命保険金、第10表の死亡退職金、第11表の相続財産から順番に作成するようにしましょう。
基礎控除の額をしっかりと計算する
相続財産の額が基礎控除の額以内であれば、そもそも申告する必要はありません。
そこで、基礎控除の額をしっかりと計算するようにしましょう。
特に、誰が相続人になるのか複雑でわかりにくい場合は注意が必要です。
申告・納付期限を確認しておく
相続税の申告・納付期限は、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
この間に申告書を作成し納税を済ませなければ、ペナルティを受けることとなります。
また、ペナルティより影響が大きいのが、特例の適用です。
期限内に申告しなければ、税額が軽減される特例の適用を受けることができなくなる場合もあるため、注意しなければなりません。
まとめ
相続税の計算は、相続税申告書の記載に沿って計算を行う必要があります。
ただ、相続税申告書の内容を見ただけで理解するのは、極めて困難と言わざるを得ません。
ここで紹介した相続税申告書の作成内容を踏まえたうえで、できることは自分で行うようにしましょう。
また、相続税の計算に不安を感じた場合は、早めに専門家に相談するようにしましょう。