この記事でわかること
- 相続手続きをしなかったらどうなるか
- 何年までなら相続手続きを放置しても問題ないか
相続が開始し、銀行預金や不動産などの遺産を相続した場合、遺産分割協議や名義変更などの手続きが必要です。
相続の手続きは一般的になじみがなく、忙しい中でつい忘れてしまうケースもあるかもしれません。
ただし、相続の手続きを放置すると納める税金が増えたり、期限を過ぎて申請ができなくなるケースがあります。
うっかり忘れたままになってしまい、後から思わぬペナルティを受けないよう注意しましょう。
ここでは、相続の手続きや放置した場合のリスクなどを解説します。
親が亡くなった後に相続手続きをしなかったらどうなる?
ここからは、相続手続きをしなかった場合どうなるのかを解説します。
推定相続人が増加する
推定相続人とは、相続が開始したら相続人になると推定される人です。
相続手続きをせずに長期間放置した場合、推定相続人の数が増え、権利関係が複雑化する恐れがあります。
たとえば、夫、妻、兄、妹の4人家族で夫が死亡した場合、相続人は妻、兄、妹の3人です。
相続手続きをしないまま兄と妹が死亡し、それぞれに子どもが2人ずついる場合、代襲相続といってその子どもが相続人となります。
この場合、推定相続人は妻、兄の子ども2人、妹の子ども2人の計5人です。
代襲相続はさらに下の代に続くため、手続きが遅くなるほど推定相続人が増える可能性があるでしょう。
借金の返済義務を負う
被相続人に借金など負の遺産があった場合、相続人が返済義務を承継します。
もし被相続人が事業を営んでおり、高額な借金がある場合、相続人の生活が破綻してしまう恐れがあるかもしれません。
そのような事態を避けるため、相続人は家庭裁判所の手続きにより相続放棄できます。
相続放棄が認められると、相続人は相続財産を一切承継しません。
ただし相続の開始を知ったときから3カ月を過ぎると相続放棄はできないため、相続人は返済義務を免れなくなります。
預貯金・有価証券の権利が消滅する
被相続人の預貯金は、金融機関が相続開始を知った後に凍結されてしまい、払い戻しができなくなります。
凍結を解除するには、相続人全員で手続きをしなければなりません。
手続きをせずに5年経過すると、預貯金の払い戻し請求権は消滅時効にかかるため、払い戻しができなくなる恐れがあります。
口座の凍結前に勝手に預金を引き出す行為も、他の相続人とトラブルになる可能性があり、避けた方がよいでしょう。
遺産に株式がある場合も、相続人への名義変更の手続きが必要です。
名義変更手続きをせずに5年経過し、通知を受領せず、配当金の受取もしないと、株主所在不明とみなされます。
株主所在不明の場合、株式を発行会社により売買されたり、議決権の行使や配当金の受領などの権利も失う恐れがあります。
相続回復請求権・遺留分損害請求権がなくなる
相続権回復請求とは、相続財産を承継する権利を侵害されたときに相続人が行う回復請求です。
請求が認められると、権利を侵害している者へ遺産の返還などを請求できます。
相続権回復請求には、以下のように時効が定められています。
- 相続権の侵害を知ったときから5年
- または相続開始から20年
遺留分とは、法定相続人に保証されている遺産の最低限の取り分です。
たとえば、他の相続人への生前贈与や第三者への遺贈などで相続分が侵害された場合、侵害された遺留分相当額を請求できます。
配偶者や子供、両親に遺留分が認められていますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分は「相続開始から10年」または「遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知ったときから1年」を経過すると請求できなくなります。
遺留分侵害額請求については「遺留分侵害額請求権(旧:遺留分減殺請求)の行使方法とは?注意点や順序についても解説」の記事で詳しく解説します。
相続登記のペナルティを課される
相続登記とは、被相続人の不動産の名義を承継する相続人に変更する手続きです。
相続登記は2024年4月1日から義務化されました。
正当な理由なく以下の期限内に相続登記をしない場合、10万円以下の過料を科せられる可能性があります。
- 相続で不動産の取得を知った日から3年以内
- 遺産分割協議で不動産を取得した日から3年以内
2024年4月1日以前に取得した不動産も対象です。
この場合、2024年4月1日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
相続する不動産の固定資産税が高くなる
固定資産税とは、 毎年1月1日時点で不動産を所有している人にかかる税金です。
固定資産税は、土地が居住のために使用されるときは特例により次の基準で減額されます。
- 小規模住宅用地(200㎡以下の部分):1/6に減額
- 一般住宅用地(200㎡を超える部分):1/3に減額
不動産を長年放置するなど、適切に管理されていない空き家であると認定された場合、この特例が適用されません。
小規模住宅用地の場合、最大で6倍の固定資産税を納付する必要があるため、注意しましょう。
相続税にペナルティが課される
相続税の申告・納付期限は「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」です。期限内に納付しなかったときは、以下のように相続税の本税に延滞税が加算されます。
延滞税の加算割合(令和4年1月1日から令和6年12月31日まで)
- 納付期限の翌日から2ヶ月以内:年2.4%
- 納付期限の翌日から2ヶ月以降:年8.7%
相続税の滞納を続けた場合、国税庁により財産を差押えられます。
また、相続税には「連帯納付義務」もあるため、滞納している相続人がいるケースは、他の相続人が代わりに納税しなければなりません。
相続手続きをしない・放置する人がいる理由
相続手続きを放置する理由は、以下の通りです。
- 私生活が忙しくて相続手続きまで手が回らない
- 相続財産が少ないため手続きによってマイナスになる
- 相続人が遺産の存在や相続権に気づいていない
- 相続人間で遺産をめぐってトラブルになっている
- 相続人間で遺産分割をするのが面倒で放置している
相続手続きが大変なときは、弁護士や司法書士、税理士などに依頼して手続きを進めるのがおすすめです。
専門家のサポートを受けて、ペナルティを課されずに余裕を持った相続手続きを心がけてください。
期限がある相続手続き一覧
ここからは期限ごとに相続手続きの流れについて見ていきましょう。
【3カ月】相続放棄・限定承認
相続放棄は、相続財産のすべてを承継しないための手続きです。
制度の不正利用を避けるため、家庭裁判所から申立人へ照会書などが送付され、意思確認が行われます。
限定承認は、相続財産に含まれる借金など負の遺産を除いて財産を承継するための手続きです。
家庭裁判所を介した手続きで、相続人全員の同意が必要であり、財産調査や清算手続きなど時間や労力がかかります。
相続放棄と限定承認は、「相続開始を知った日から3カ月以内」に家庭裁判所へ申立てをしなければなりません。
期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄と限定承認の手続きはできなくなるため注意しましょう。
【4カ月】準確定申告
準確定申告は、被相続人が亡くなった年に確定申告が必要だったとき、相続人が代わって申告をする手続きです。
準確定申告が必要になるのは、たとえば被相続人が以下のケースにあてはまる場合です。
- 事業所得や不動産所得がある場合
- 給与所得が2,000万円を超える場合
- 公的年金などの収入が400万円を超える場合
- 不動産を売却した場合
相続人は「1月1日から被相続人が死亡した日まで」の期間で確定した被相続人の所得金額と税額を申告します。
申告期限は「相続開始を知った日の翌日から4カ月以内」で、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署へ申告します。
申告期限を過ぎると延滞税が発生するため、期限内に申告できるよう準備を進めておきましょう。
【10カ月】相続税申告
相続税の申告は、原則として相続財産が以下の基礎控除を超える場合に必要です。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+( 600万円×法定相続人の数 )
基礎控除を超える場合だけでなく、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、各種特例を利用する場合も必要になるケースがあります。
申告先は、準確定申告と同じく、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
手続きを放置してしまい、10カ月の申告・納付期限を過ぎると延滞税が発生します。
さらに隠蔽や虚偽などの悪質な脱税行為とみなされた場合、重加算税が加算される可能性があるため注意しましょう。
【1年】遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求をする場合、相続開始または遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に次の方法で請求しましょう。
- 内容証明郵便で意思表示する
- 裁判上で遺留分侵害額請求の調停や訴訟を行う
まずは遺留分を侵害する受遺者や受贈者へ意思表示をしなければなりません。
意思表示の方法として、内容証明郵便により送付日や送付内容を記録するのが一般的です。
遺留分の対象は、受贈者が相続人以外の第三者である場合、相続開始前の1年間にされた贈与などです。
他の共同相続人へ遺留分侵害額請求をする場合は、相続開始前の10年間まで遡って請求できます。
【2年】葬儀代・埋葬料の受給手続き
被相続人が社会保険に加入していた場合、次のように葬祭費や埋葬料を受給できます。
国民健康保険:葬祭費
葬式を行うと、葬儀費用を補填するための葬祭費が支給されます。
金額は自治体によって異なりますが、1万円〜7万円ほどです。
健康保険:埋葬料・埋葬費
会社員の方などが加入している健康保険にも支給制度があります。
健康保険の場合、葬儀費用ではなく、火葬費用や僧侶への謝礼などの補填です。
支給上限は5万円で、被相続人が加入していた健康保険の組合へ申請します。
どちらも葬祭や埋葬などを行ってから2年以内の申請期限があるため注意しましょう。
【3年】死亡保険金の受取・相続登記
被相続人が生命保険に加入していた場合、一般的に保険会社への請求期限は相続発生の翌日から3年以内です。
支払日は請求から1週間以内などの場合が多く、まとまった資金が手に入るため、早めに請求をしておきましょう。
相続登記は、不動産の相続を知った日から3年以内に申請しなければなりません。
期限内に相続登記をしないと10万円以下の過料が科される可能性があります。
その他に様々なトラブルの原因となるため、相続発生後はすぐに相続登記を済ませておくのが望ましいです。
【5年】相続回復請求権
相続回復請求権の行使する場合、主に次の2つの方法があります。
- 内容証明郵便で意思表示する
- 裁判上で相続回復請求の訴訟を提起する
「相続権の侵害を知ったときから5年」または「相続開始から20年」の時効消滅を回避するため、内容証明郵便を利用しましょう。
なお、相続権の侵害が侵害者の故意や過失による場合、5年や20年の消滅時効は適用されません。
相続権を侵害している者へ内容証明郵便で請求をしても拒否されたときは、裁判上の手続きへ進みます。
【ケース別】相続手続きの注意点
以下のケースで相続手続きを進める際は、注意しましょう。
- 相続人が認知症を発症している
- 相続人に未成年者がいる
ケースごとの注意点について解説します。
相続人が認知症を発症している
相続人の中で認知症を患っている方がいる場合、軽度であればご本人が遺産分割協議や相続放棄などを手続きできます。
ただし重度の場合、相続手続きを進めるための判断ができなくなるため、成年後見制度を利用します。
成年後見制度は、財産の管理などが難しくなった方に代わり、財産管理や重要な契約などを行う後見人を選任する制度です。
後見人を選任する場合、家庭裁判所での申立てから選任まで半年から1年ほどかかります。
後見人を選任せず、他の相続人が勝手に代筆して手続きをした場合などは私文書偽造罪に問われる可能性もあるため注意しましょう。
相続人に未成年者がいる
未成年者が法律行為をする場合、法定代理人の同意が必要です。
通常、親権者が法定代理人となりますが、遺産分割協議では親権者が未成年者を代理できません。
遺産分割協議は、親権者と未成年者が共同相続人として利益が相反する関係となり、未成年者に不利益を及ぼす恐れがあるためです。
この場合、家庭裁判所の手続きで特別代理人を選任します。
特別代理人は、未成年者と利害関係がない祖父母などを選任するケースが一般的です。
選任できる親族がいない場合、弁護士などへ依頼しましょう。
なお、2022年4月1日以降は18歳以上であれば単独で遺産分割協議へ参加できます。
まとめ
相続の手続きは煩雑な作業が多く、どのように手続きをしたらよいかわからないケースもあるかもしれません。
期限が定められている手続きがほとんどであり、放置してしまうと不利益を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
相続の手続きで不安がある場合、弁護士などの専門家に相談しましょう。
特に相続人間や第三者との争いがあるために手続きを放置していたケースでは、弁護士の介入により進展する可能性が高くなります。
弁護士へ相談し、スムーズに相続の手続きを進めていきましょう。