この記事でわかること
- 法定相続分、法定相続人がわかる
- 法定相続と遺産分割や遺言の関係がわかる
- 遺留分や特別寄与料についても理解できる
相続制度を何となく知っている方は多いのではないでしょうか。
しかし、正確な法定相続人や法定相続分を理解していなければ、自分で考える相続分と、実際に相続できる額に差が出るかもしれません。
また、相続についての正確な知識がなければ、争族の種になりかねないでしょう。
この記事では法定相続分、法定相続人の基本的知識をわかりやすくお伝えします。
そのうえで、遺産分割や遺言と法定相続制度の関係、遺留分と法定相続分の違い、加えて最新の制度である特別寄与料を解説します。
簡潔な具体例を随所に盛り込んでお届けしますので、相続について知識を得たい方は、ぜひ参考にしてください。
法定相続分とは
相続人は、亡くなった方の権利や義務一切を引き継ぎます。
「法定相続分」の意味は、「法律で定められた相続割合」です。
民法という法律で、法定相続分と法定相続人が定められていて、原則として、その規定に従って相続します。
では、法定相続分と違う割合で相続する場合はあるのでしょうか。
法定相続人による遺産分割協議と遺言について簡単に確認しておきましょう。
法定相続人による遺産分割協議
被相続人が残した相続財産は、被相続人の死亡と同時に、法定相続人が相続します。
この「相続」の意味は、法定相続人による遺産分割協議をしないかぎり、共有となるということです。
共有は争いの宝庫
たとえば、被相続人が有していた次のような財産は、遺産分割協議により分けないかぎり、法定相続人の共有となります。
- ・土地
- ・建物
- ・預貯金
- ・株式
- ・車
- ・骨董
- ・指輪
- ・その他財産権
これら相続財産は原則としてすべて遺産分割の対象です。
共有は争いの宝庫という法格言があるくらいです。
遺産分割協議で家族関係がぎくしゃくしないよう、注意しましょう。
遺産分割協議の方法
遺産分割協議は原則として話し合いによります。
ただし、遺産分割協議が整わない場合、遺産分割調停を申し立てます。
遺産分割調停の申立先は、家庭裁判所です。
家庭裁判所とは、家族間の問題解決や少年審判を行う裁判所ですが、遺産分割についてはいきなり裁判に進むわけではありません。
調停前置主義といい、まず、遺産分割調停が行われます。
ただし、遺産分割調停に非強力な法定相続人がいると、何年も遺産分割協議が整わないケースもあることは理解しておきましょう。
法定相続制度と遺言の関係
財産をのこしていく人が法定相続分通りの相続を望まない場合、遺言書を書かなければなりません。
遺言書は被相続人の意思を尊重するためのツールです。
ただし、後述する遺留分との関係を、遺言者は忘れてはならないでしょう。
法定相続人の範囲と順位
次に、法定相続人の範囲と順位を見ていきましょう。
法定相続人の範囲
ドラマの相続争いの場面で、親族がたくさん集まっていることがあります。
被相続人の子、孫、おじ、おば、兄弟の妻や夫など、複数の関係者が集まっているシーンを見たことがありませんか?
確かに、先祖代々の祭祀については、必ずしも法定相続人や法定相続分で承継するわけではないので、このような一族での話し合いも大切です。
しかし、法定相続人は、民法により一定の範囲に限られていることを、しっかりと理解しておきましょう。
法定相続人の「範囲」は以下の通りです。
- ・配偶者
- ・子
- ・直系尊属
- ・兄弟姉妹
つまり、被相続人の叔父、叔母、兄弟姉妹の妻や夫は法定相続人ではないということです。
法定相続人に関する注意点
法定相続人は配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹だということがわかりました。
ただし、法定相続人については、勘違しやすい点があるので、注意しましょう。
法定相続人に関する注意点
配偶者 | ・内縁の夫・妻は含まない ・離婚した元夫や元妻は含まない |
---|---|
子 | ・養子、婚外子を含む (養子、婚外子の法定相続分は嫡出子と平等) |
直系尊属 | ・順位に注意(後述) |
兄弟姉妹 | ・半血兄弟も含む(両親の一方を同じくする兄弟姉妹) ・順位に注意(後述) |
とくに、配偶者については、法律婚が相続人の条件です。
事実婚のパートナーに相続させたい場合、遺言をのこす必要があります。
法定相続人の順位
では、上述した範囲の人なら、必ず相続人になれるのでしょうか?
次に、法定相続人の順位を確認します。
法定相続人の順位
常に法定相続人となる | 配偶者 |
---|---|
第1順位 | 子、孫、ひ孫(代襲相続の場合) |
第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
被相続人の配偶者は、常に相続人となり、他の法定相続人とともに相続します。
また、「順位」の意味が大切です。
第1順位の法定相続人がいなければ第2順位の法定相続人、第2順位の法定相続人がいなければ、第3順位の法定相続人が相続するということです。
第1順位 子
被相続人の子は、第1順位の法定相続人となります。
第1順位の子がいる場合、先述のとおり、養子、婚外子、離婚した元妻や元夫との間の子も、現在の配偶者の子と同順位の法定相続人です。
ただし、事実上の養子(縁組届出をしていない)は、相続人ではありません。
配偶者の前夫(妻)の子も、養子縁組していない場合は法定相続人にならないので、注意しましょう。
注意しなければならないのは、代襲相続です。
被相続人の死亡より以前に子が他界している場合、被相続人の孫が子に代わって相続します。
第1順位の場合、代襲相続の制限はないので、被相続人の子も孫も死亡している場合、ひ孫が相続人となります。
このケースでは、YとAが法定相続人です。
第2順位 直系尊属
直系尊属は第2順位の相続人です。
したがって、被相続人に子がいる場合は相続人となりません。
直系尊属が相続人となるケースでは、まず、父母が相続人となります。
父母もいない場合、祖父母が存命なら祖父母が相続人です。
代襲相続についてですが、直系尊属の場合は認められていません。
このケースでは、YとA、Bが法定相続人です。
第3順位 兄弟姉妹
第1順位の相続人も、第2順位の相続人もいない場合のみ、被相続人の兄弟姉妹が第3順位として相続人となります。
被相続人の配偶者は、兄弟姉妹とともに相続人となります。
代襲相続についてですが、被相続人の兄弟姉妹は1代限りです。
つまり、被相続人に子も直系尊属もいないケースで、兄弟姉妹がすでに他界している場合、姪や甥が代襲相続することができます。
しかし、姪も甥もいない場合、姪や甥の子は、代襲相続できません。
兄弟姉妹の代襲相続は1代限りとされているからです。
法定相続分の計算方法
まず、法定相続分を理解しましょう。
法定相続分
配偶者と子 | 配偶者1/2 子1/2 |
養子、婚外子の法定相続分は実子と平等 例:配偶者1/2 長男1/4 次男1/4 |
---|---|---|
配偶者と直系尊属 | 配偶者2/3 直系尊属1/3 |
例:配偶者2/3 父1/6 母1/6 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者3/4 兄弟姉妹1/4 ※半血兄弟姉妹は他の兄弟姉妹の1/2 |
例:配偶者3/4 兄1/8 妹1/8 |
同順位の者がいる場合、原則として法定相続分を平等に相続します。
つまり、被相続人に配偶者と子が2人いた場合、配偶者が2分の1、子2人で2分の1なので、子それぞれの法定相続分は4分の1となります。
ただし、兄弟姉妹が相続人となるケースでは、例外があります。
両親の一方を異にする兄弟姉妹は、両親を同じくする兄弟姉妹の2分の1が法定相続分です。
【ケース別】法定相続分の例
実際のケース別に法定相続分の例を見ていきましょう。
配偶者と子が相続人の場合
次に、法定相続分の具体的な計算方法を見ていきましょう。
配偶者と子が相続人の場合、法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1です。
子が数人いる場合、2分の1を平等に相続します。
このケースでは、法定相続分は、Yが2分の1、Aが2分の1です。
被相続人の財産が6,000万円の場合、Yが3,000万円、Aは3,000万円相当が法定相続分です。
配偶者と直系尊属が相続人の場合
配偶者と直系尊属が相続人の場合、法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1です。
父母がいる場合、祖父母は相続人にならないので注意しましょう。
このケースでは、法定相続分は、Yが3分の2、Bが3分の1です。
被相続人の財産が6,000万円の場合、Yが4,000万円、2,000万円相当がAとB合わせた法定相続分です。
つまり、Aは1,000万円、Bは1,000万円相当が法定相続分となります。
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の法定相続分を有します。
Xの父と母はXより前に他界しています。
このケースでは、Yが4分の3、AとBは合わせて4分の1の法定相続分です。
したがって、AとB各自の法定相続分は、8分の1となります。
被相続人の財産が6,000万円の場合、Yが4,500万円、AとBは各750万円相当が法定相続分です。
相続の承認・相続放棄があった場合
次に、相続の承認・放棄の特徴を見ておきましょう。
単純承認 | 被相続人の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ |
---|---|
限定承認 | ・被相続人の債務額と、残る財産の額になるか不明なケースで利用 ・相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ ・家庭裁判所に法定相続人全員で申述する必要がある |
相続放棄 | 被相続人の権利や義務を一切受け継がない(始めから相続人でなかったことになる) 家庭裁判所に申述する必要がある 被相続人の生前に相続放棄をすることはできない |
法定相続人や法定相続分に影響を及ぼすのが相続放棄です。
また、相続放棄をした人の子や孫は代襲相続できません。
たとえば、このケースでAが相続を放棄すると、Yが100%相続します。
なお、Aに子a(Xの孫)がいても、aは、代襲相続しません。
なお、相続の承認・放棄は、相続が開始したことを知ったときから3か月以内に行う必要があります。
相続欠格・廃除があった場合
被相続人の遺言書を破棄した場合など、法定相続人になれない事由を「相続欠格」といいます。
また、被相続人を虐待した人を法定相続人から外すことができ、その手続きを「廃除」といいます。
参考:相続欠格事由
- ・故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせたもの
- ・上記の者を死に至らせようとしたために、刑に処せられた者
- ・被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(一定の場合を除く)
- ・詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、または変更することを妨げた者
- ・詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、または変更させた者
- ・被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
相続欠格事由に当たる相続人は、当然に相続人になれません。
廃除については、遺言または被相続人が生前に家庭裁判所に廃除の審判を申し立てる手続きにより行います。
また、廃除できる相続人は、遺留分を有する推定相続人なので、遺留分を有しない兄弟姉妹を廃除することはできません。
相続人の廃除事由
- ・被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたとき
- ・推定相続人にその他の著しい非行があったとき
相続欠格と廃除、相続放棄の大きな違いは、代襲相続についてです。
相続放棄、相続欠格、廃除の代襲相続について
代襲相続なし | 相続放棄 |
---|---|
代襲相続あり | 相続欠格、廃除 |
法定相続分と遺留分の違いとは
遺留分とは、一定の法定相続人に認められる権利です。
遺留分制度は、法定相続分と遺言の調整をはかっています。
遺留分を害する遺言
遺留分を害する遺言も有効ですが、遺留分を害された遺留分権利者は、受遺者に対して金銭の支払いを求めることができます(遺留分侵害額の請求)。
被相続人の兄弟姉妹に遺留分は認められません。
遺留分割合
・配偶者のみ ・子のみ ・配偶者と子 ・配偶者と直系尊属 ・配偶者と兄弟姉妹 |
遺留分を算定する財産の価額の2分の1 ただし、兄弟姉妹に遺留分は認められない |
---|---|
・直系尊属のみ | 遺留分を算定する財産の価額の3分の1 |
・兄弟姉妹のみ | 遺留分は認められない |
遺留分侵害の例その1
このケースで、XがAに全財産を譲る旨の遺言をのこしていたとしましょう。
この遺言はYの遺留分を害していますが、無効ではありません。
Yが遺留分を主張しなければ、問題ないからです。
しかし、Yが遺留分を主張したいと思った場合、遺留分はどのくらいでしょうか?
Yは、Aに対して4分の1の遺留分を主張し、遺留分侵害額請求をすることができます。
被相続人の財産が6,000万円の場合、1,500万円相当がAの遺留分です。
遺留分侵害額の請求は金銭の請求となります。
遺留分侵害の例その2
このケースで、XがBに全財産を譲る旨の遺言をのこしていたとしましょう。
Yが遺留分を主張したいと思った場合、Bに対して3分の1の遺留分を主張し、遺留分侵害額請求をすることができます。
被相続人の財産が6,000万円の場合、2,000万円相当がYの遺留分です。
遺留分侵害の例その3
Xの父と母はXより前に他界している例です。
このケースで、XがYに全財産を譲る旨の遺言をのこしていたとしましょう。
しかし、兄弟姉妹に遺留分はないので、A、Bは遺留分侵害額の請求をすることはできません。
特別受益と寄与分、相続分の譲渡
最後に、特別受益と寄与分という制度、相続分の譲渡について見ておきましょう。
特別受益とは
被相続人から贈与を受けていた法定相続人がいる場合、その贈与額を遺産に戻して法定相続分を計算します。
特別受益の例は以下のとおりです。
- ・マイホーム購入資金
- ・多額の学費
- ・多額の生活費
贈与を受けた法定相続人が、贈与された額を考慮せず相続できるとなると、他の相続人と比較した相続額が不公平になってしまいます。
特別受益を相続財産に戻すことで、相続人間の公平をはかるのが、特別受益の制度です。
寄与分とは
被相続人の介護や家業の手伝いなど、被相続人に寄与した人に認められるのは寄与分です。
ただし、寄与分は法定相続人にのみ認められています。
例外的に、令和元年7月の改正民法施行により、「特別寄与料」の制度ができました。
相続の開始後、一定の人は相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の「特別寄与料」の支払いを請求することができる制度です。
参考:特別寄与制度
- ・被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供
- ・被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族(一定の者を除く)
- ・特別寄与料の支払いについて、当事者間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求できる
(ただし、特別寄与者が相続の開始および相続人を知った時から6か月内または相続開始の時から1年内) - ・特別寄与料の額は、次の点を考慮して、家庭裁判所が定める寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情
ただし、法定相続人の寄与分も、それ以外の人の特別寄与も、簡単に認められるわけではありません。
相続分の譲渡
法定相続分も譲渡することができます。
法定相続分を譲渡された者は、譲渡した者の立場で遺産分割協議を行うことができるので、遺産分割協議の煩雑さから逃れたい人は、検討してもよいかもしれません。
たとえば、相続人がA、B、Cとしましょう。
AがBに相続分を譲渡すれば、BとCが遺産分割協議の当事者となります。
AとCはあまり良い関係性でない場合は、相続分の譲渡も有効な手段でしょう。
まとめ
法定相続分の意義、法定相続人の範囲、実際の法定相続分の計算方法などを見てきました。
法定相続制度と遺産分割協議や遺言の関係も参考になったでしょうか。
日本の相続制度は第二次世界大戦後、がらりと変わりました。
それまでの家父長制度が廃止され、現在の形になったのです。
各ご家庭で相続や「家を継ぐ」ことに対する考え方があるでしょう。
その考え方と、民法で定める法定相続制度が必ずしも一致するとはかぎりません。
財産を次世代に承継させる側の人も、承継する側の人も、法定相続制度を客観的にとらえたうえで、相続対策を怠らないようにしましょう。
財産をのこす側の方は必要に応じて遺言書を作成することをおすすめします。
のこされる側の方は、日頃より家族で相続について話し合いをしておきましょう。
いざ相続が発生してから慌てるよりも、備えあれば憂いなし。
家族の絆を残すためにも、早めの相続対策が大切です。