この記事でわかること
- 法定相続人とは何かが理解できる
- どのような人が法定相続人になるのかがわかる
- 法定相続人の相続順位を知ることができる
- 法定相続人の範囲についての注意点がわかる
人が亡くなると、その人の遺産を相続人で分けなければならないことは、ほとんどの方がご存知のことでしょう。
しかし、いざ遺産を分けようとしたとき、具体的にどのように分ければよいのかを正確にご存じの方は多くないかもしれませんね。
遺産を分けるべき親族の範囲は、民法で定められています。
民法で定められた相続人のことを、法定相続人といいます。
また、民法には法定相続人が複数人いる場合の優先順位や、どの相続人がどれくらいの遺産をもらえるのかについても定められています。
本稿では、法定相続人について詳しくご説明したうえで、法定相続人の範囲や相続順位、注意すべき点についても解説していきます。
法定相続人とは
法定相続人とは、亡くなった人(被相続人)の遺産を取得できる人、つまり相続人になる人として民法に定められている人のことです。
民法の第886条から第895条において、どのような人が相続人になるのかや、相続順位について定められています。
もっとも、被相続人は遺言によって法定相続人以外の人に遺産を譲り渡すこともできます。
法定相続人に遺産を譲り渡す場合でも、遺言によれば相続順位や相続分についての民法の規定にかかわらず、自由に遺産分割の内容を指定することができます。
被相続人の遺言がない場合は、法定相続人が民法に定められた相続順位と相続分にしたがって遺産を分割することになります。
ただ、法定相続人全員の同意がある場合は、民法の規定にかかわらず自由な形で遺産を分割することができます。
法定相続人の範囲と法定相続分
民法には、法定相続人の範囲だけでなく、どのような立場の法定相続人がどれくらいの遺産をもらえるのかという相続分についても定められています。
ここでは、法定相続人の範囲と法定相続分についてご説明します。
法定相続人の範囲
誰が法定相続人となるかについては、民法の第887条~第890条で以下のように決められています。
- ・配偶者
- ・直系卑属(子どもや孫など)
- ・直系尊属(父母や祖父母など)
- ・兄弟姉妹
被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人となります。
ただし、内縁の配偶者は相続人となることはできません。
直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹は常に相続人となるわけではなく、相続順位にしたがって、先順位の法定相続人がいないときにのみ相続人となります。
相続順位については、次項で詳しくご説明します。
代襲によって相続人となる人もいる
被相続人が亡くなるよりも前に子どもが既に亡くなっていた場合、孫がいれば孫が相続人となります。
孫も亡くなっている場合でひ孫がいる場合は、ひ孫が相続人となります。
このように、本来の法定相続人が既に亡くなっている場合に、次に近い世代の人が相続することを「代襲相続」といいます。
直系尊属でも代襲相続は起こります。
被相続人が亡くなるよりも前に父母が既に亡くなっている場合で、祖父母がいる場合は祖父母が相続人となります。
祖父母も亡くなっている場合で曾祖父母がいる場合は、曾祖父母が相続人となります。
兄弟姉妹にも代襲相続は起こりますが、一代のみに限られます。
つまり、被相続人が亡くなるよりも前に兄弟姉妹が既に亡くなっている場合はその子ども(甥・姪)が相続人となりますが、甥・姪も亡くなっている場合には代襲は起こりません。
相続放棄をした人は初めから相続人とならない
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。
したがって、相続放棄をした人が有するはずだった相続権は、次の順位の法定相続人に移ります。
また、相続放棄をした人の子どもや父母が本人を代襲して相続することもありません。
法定相続分
法定相続分は、民法第900条に定められています。
各法定相続人の相続分は常に一定というわけではなく、次のようにケース別に決められています。
配偶者と子どもが法定相続人であるとき
法定相続分は配偶者が1/2、子どもが1/2となります。
子どもが複数人いる場合は、1/2の法定相続分を均等に分けることになります。
配偶者と直系尊属が法定相続人であるとき
法定相続分は配偶者が2/3、直系尊属が1/3となります。
直系尊属が複数人いる場合は、1/3の法定相続分を均等に分けることになります。
配偶者と兄弟姉妹が法定相続人であるとき
法定相続分は配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4となります。
兄弟姉妹が複数人いる場合は、1/4の法定相続分を均等に分けることになります。
法定相続人の相続順位
次に、法定相続人の相続順位についてご説明します。
まず、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は常に相続人となります。
内縁の配偶者は相続人と離れませんが、法律上の婚姻関係があれば法定相続人となります。
したがって、被相続人が亡くなった時点で別居していた配偶者や、離婚訴訟をしていた配偶者、婚姻したばかりの配偶者などでも婚姻関係がある限り、法定相続人となります。
その他の法定相続人については、民法第889条によって次のように相続順位が定められています。
- 第1順位:直系卑属(子どもや孫など)
- 第2順位:直系尊属(父母や祖父母など)
- 第3順位:兄弟姉妹
相続順位についてわかりやすいように図にまとめましたので、参考になさってください。
直系卑属が相続人となる場合
第1順位の法定相続人は、子どもや孫などの直系卑属です。
被相続人に子どもがいる場合は子どもが相続人となり、父母や兄弟姉妹は相続人となりません。
被相続人に配偶者と子どもがいる場合は、配偶者と子どもが共同相続人となります。
孫やひ孫は、被相続人が亡くなったときに既に子どもや孫が亡くなっている場合に代襲して相続人となります。
直系尊属が相続人となる場合
第2順位の法定相続人は、父母や祖父母などの直系尊属です。
被相続人に子どもや孫などの直系卑属がおらず、父母がいる場合は父母が相続人となり、兄弟姉妹はいても相続人となりません。
被相続人に配偶者と父母がいる場合は、配偶者と父母が共同相続人となります。
祖父母や曾祖父母は、被相続人が亡くなったときに既に父母や祖父母が亡くなっている場合に代襲して相続人となります。
兄弟姉妹が相続人となる場合
第3順位の法定相続人は、兄弟姉妹です。
被相続人に子どもや孫などの直系卑属がおらず、父母や祖父母などの直系尊属もいない場合にのみ、兄弟姉妹が相続人となります。
被相続人に配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が共同相続人となります。
兄弟姉妹の子ども、つまり甥や姪は、被相続人が亡くなったときに既に兄弟姉妹が亡くなっている場合に代襲して相続人となります。
ただし、甥や姪の子どもが代襲して相続人となることはありません。
法定相続人の範囲における注意点
法定相続人の範囲については先ほどご説明しましたが、実際の相続ではイレギュラーなケースも多いものです。
「このような場合は、どのように考えればいいのか」とお悩みの方も少なくないことでしょう。
また、同じ相続のケースでも、民法上の遺産相続の場面と相続税を計算する場面で法定相続人の範囲が異なることもあります。
そこで、法定相続人の範囲における注意点について、民法上の注意点と相続税法上の注意点とに分けてご説明します。
民法上の注意点
法定相続人の範囲における民法上の注意点としては、次の6つが挙げられます。
1. 相続放棄をした人がいる場合
「相続放棄」とは、被相続人の遺産に関する一切の相続権を放棄することです。
法定相続人が相続放棄をすると、その人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。
つまり、その相続に関しては、その人はいなかったものとして扱われることになります。
例えば、法定相続人として妻と子どもがいる場合、妻が相続放棄をすると子どものみが相続人となります。
このケースで子どもも相続放棄をした場合、父母がいれば父母が相続人となり、父母もいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
そのため、後順位の法定相続人が、知らないうちに被相続人の借金などを相続してしまうケースもあるので注意が必要です。
なお、相続放棄をした人はいなかったものとして扱われるため、その人の子どもが代襲して相続することはありません。
2. 被相続人と養子縁組をした人がいる場合
「養子縁組」とは、実際の血縁関係の有無にかかわらず、法律上の親子関係を発生させることです。
養子縁組をすると、養親と養子との間に親子関係が発生するため、養子も養親の法定相続人となります。
法定相続分は、実子も養子と同じです。
注意が必要なのは、養子縁組をすることによって法定相続分が減る人や、相続人となれない人が発生する可能性があることです。
例えば、法定相続人が実子1人のみだった場合、もう1人と養子縁組をすると、実子の法定相続分は1/2に減ってしまいます。
また、父母や兄弟姉妹が法定相続人だった場合に養子縁組をすると、父母や兄弟姉妹は相続人となれなくなります。
3. 被相続人が認知した子どもがいる場合
被相続人が婚外子をもうけた場合、その子を認知しいていればその子も法定相続人となります。
そのため、被相続人が亡くなった後に家族が戸籍を調べると、面識のなかった法定相続人が見つかることも珍しくありません。
なお、被相続人と前妻との間に子どもがいた場合、離婚しても親子関係は切れないため、前妻との子どもも法定相続人となります。
これに対して、後妻の連れ子は被相続人と養子縁組をしない限り、相続人とはなりません。
4. 相続欠格に該当する人や相続人廃除された人がいる場合
相続欠格とは、相続において一定の不正な行為をした法定相続人の相続権を失わせる制度のことです。
どのような行為が相続欠格に該当するかについては、民法第891条に定められています。
相続人廃除とは、被相続人に対して虐待や侮辱行為をしたり、その他の著しい非行がある相続人について、被相続人の意思によってその相続人の相続権を剥奪することです。
相続欠格に該当する人や相続人廃除された人は、相続人となることができません。
ただし、その人に子どもなどがいれば、代襲して相続人となります。
5. 行方不明の法定相続人がいる場合
遺産分割の話し合いは、法定相続人の全員が参加して行う必要があります。
行方不明の法定相続人がいる場合、そのままではいつまで経っても遺産分割の話し合いを進めることができません。
その場合には、失踪宣告の手続きをすることが必要です。
失踪宣告の手続きをすれば、一定期間の経過後に行方不明の人が死亡したものとみなされます。
その後、他の法定相続人によって遺産分割の話し合いを進めることができるようになります。
6. 法定相続人が誰もいない場合
被相続人に身寄りがなく、法定相続人がいないこともあります。
その場合には、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます。
相続財産管理人は、遺産を管理したうえで、相続人や相続債権者を捜索します。
所定の捜索手続きを行っても相続人や相続債権者が現れない場合、最終的に遺産は国庫に帰属します。
なお、被相続人は遺言によって法定相続人でない人に対して遺産を譲り渡すこともできます。
相続税法上の注意点
民法と相続税法とで法定相続人の範囲が異なる点は、次の2点です。
1. 養子縁組をした法定相続人の範囲
民法上は、養子縁組をすることができる人数に制限はありません。
相続税を計算する際には基礎控除というものがあり、法定相続人の人数が多ければ多いほど基礎控除額が大きくなります。
そのため、節税対策として養子縁組が行われることもよくあります。
ただし、節税目的での養子縁組を無制限に認めると、相続税を適切に課税することが難しくなってしまいます。
そこで、相続税法上は、相続税を計算する上で法定相続人として認められる養子の人数を次のように制限しています。
- ・実子がいる場合…養子は1人まで
- ・実子がいない場合…養子は2人まで
2. 相続放棄をした人がいる場合の法定相続人の範囲
民法上は、相続放棄をした人は初めから相続人とならなかったものとみなされます。
そのため、当初は3人いた法定相続人のうちの1人が相続放棄をすると、結果的に法定相続人は2人となります。
これに対して相続税法上は、相続放棄をした人がいる場合でも、本来の法定相続人の人数に基づいて相続税を計算することとされています。
なぜなら、相続放棄も相続税対策に利用されることがあるからです。
例えば、法定相続人として子ども1人がいて、その他に親族として5人の兄弟姉妹がいるとします。
この場合、子どもが相続放棄をすると5人の兄弟姉妹が法定相続人となるため、基礎控除額が飛躍的に大きくなります。
このような節税目的での相続放棄を防止するため、相続税法上は相続放棄はなかったものとして扱うこととされています。
まとめ
法定相続人の範囲や相続順位などは、相続人の人数が少ない単純なケースではそれほど問題となることはありません。
しかし、身分関係が複雑になっている家庭の場合や、節税目的で養子縁組や相続放棄を行ったような場合には注意が必要です。
遺産相続の手続きを間違いのないように進めるために、ぜひ本稿を参考になさってください。