この記事でわかること
- 相続した家に相続税がかからないケースについて理解できる
- 相続税の基礎控控除が自分で計算できる
- 家を相続した時に使える控除・特例がわかる
家を相続すると、相続税の心配が出てきますが、家を相続しても、すぐに相続税がかかるわけではありません。
相続税には基礎控除があって、相続財産の総額が基礎控除内に収まる場合には、相続税はかからないこととなっています。
基礎控除以外にも様々な控除や特例があり、利用すれば相続税がかからない可能性もあるのです。
この記事では、土地や自宅にかかる相続税の心配事や計算の流れを分かりやすく解説します。
目次
相続した家に相続税がかからないケース
相続財産の課税対象額が基礎控除内に収まる場合、相続した家に相続税はかかりません。
さらに、相続税には様々な控除や特例が存在し、これらを活用することで相続税の軽減や免除が可能です。
そのため、相続税を支払う必要がなくなる場合も考えられます。
具体的な条件については、専門家や税務当局と相談することをオススメします。
基礎控除の範囲内で相続財産の合計額が収まる場合
もし、相続財産の課税対象合計額(遺産総額)が基礎控除内に収まる場合、相続税の申告や納税は不要です。
具体的には、相続財産の評価額が基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」以下の金額であれば、相続税は課されません。
小規模宅地等の特例を活用すれば基礎控除内に収まる場合
相続した土地に小規模宅地等の特例を適用し、相続財産の課税対象額が基礎控除内に収まる場合、相続税はかかりません。
小規模宅地等の特例は、相続した土地の評価額を最大8割減額することができる制度です。
土地が相続財産の大半を占める場合、この特例を利用すると土地の評価額が大幅に下がり、相続税がかからなくなる可能性が高まります。
ただし、特例の利用には土地の用途や相続人に関する条件があり、すべての土地に適用できるわけではありません。
また、特例を活用して相続税を回避できても、相続税の申告は必要ですので、注意が必要です。
小規模宅地等の特例については、後ほど詳しく説明します。
配偶者控除を活用すれば基礎控除内に収まる場合
配偶者が相続した財産に対して、相続税の配偶者控除を適用することで、配偶者の相続税の非課税額が、次の2つの金額のうち高い方まで引き上げられます。
- 1億6,000万円
- 法定相続分に基づく相続の額
したがって、たとえば配偶者が土地などの財産を相続した場合、最低でも1億6,000万円までは相続税がかからなくなります。
故人が多額の財産を残していない場合、相続税は免除されることが一般的です。
配偶者控除を活用して、基礎控除内に収まる場合には相続税の支払いは不要ですが、相続税の配偶者控除を利用した場合でも、相続税の申告は必要です。
相続税の配偶者控除については、後ほど詳しく説明します。
相続した家の相続税計算方法
相続税の計算における「正味遺産額」は相続により取得した土地、建物、現金などの資産から、借金や未払いの債務、葬儀費用などを差し引いた金額のことです。
また、生命保険金や死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」が非課税限度額として設定されており、これを超える金額は相続税の計算に加えられます。
法定相続人が妻と子供2人だと仮定して、具体的な相続税の計算方法を見てみましょう。
今回利用できる控除は基礎控除と配偶者控除だけであるとします。
正味遺産額は1億6,800万円であるとします。
手順①: 基礎控除を財産から差し引く
正味遺産額から基礎控除額である「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を差し引いた金額が課税対象遺産額です。
妻と子供2人の場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円となります。
したがって、課税対象遺産額は次のように計算されます。
手順②: 相続税の総額を計算する
課税対象遺産額を法定相続分に分割したと仮定し、それぞれの相続分を計算します。
妻:1億2,000万円 × 1/2 = 6,000万円
長男:1億2,000万円 × 1/4 = 3,000万円
長女:1億2,000万円 × 1/4 = 3,000万円
次に、相続税の速算表を使用してそれぞれの相続分に対する相続税の金額を求めます。
長男:3,000万円 × 15% – 50万円(控除額) = 400万円
長女:3,000万円 × 15% – 50万円(控除額) = 400万円
手順③: 実際の取得割合に基づいて相続税の総額を按分計算する
求めた相続税の総額をもとに、実際の相続割合に応じて各相続人の相続税額を計算します。
実際の相続割合(妻60%、長男30%、長女10%とする)に基づいて、各相続人の相続税額は以下の通りです。
長男の相続税額: 1,900万円 ×30% = 570万円
長女の相続税額: 1,900万円 ×10% = 190万円
さらに、各相続人の相続税額に関連する各種税額控除等がある場合、それらを加算または減算して最終的な相続税額を求めます。
手順④: 各種税額控除を差し引く
実際の相続税支払い額は長男の相続税額:570万円、長女の相続税額:190万円です。
家を相続した時に使える控除・特例
この章では、家を相続した時に使える控除・特例について説明します。
基礎控除
基礎控除は、どんな相続においても自動的に適用される減額措置です。
基礎控除の金額は法定相続人の数に応じて変わり、一般的には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
たとえば、配偶者と3人の子供が相続人の場合、基礎控除は「3,000万円 +(600万円×4人)」で、合計5,400万円になります。
相続財産の評価額が6,000万円の場合、基礎控除を差し引いた額、つまり600万円が課税対象となります。
しかし、相続財産の評価額が5,000万円の場合、基礎控除を差し引くと-600万円となり課税対象の財産が存在しないため、相続税はかからず、相続税の申告は不要です。
基礎控除は他の控除や特例とは異なり、別途申告手続きを行う必要がない点に留意してください。
配偶者居住権
配偶者居住権は、2020年4月から適用された新しい法制度です。
この制度は、特に夫(妻)が亡くなった妻(夫)の住居と生活費を保護することを主要な目的としています。
たとえば、3,000万円の現金と3,000万円の自宅を持っている夫(妻)が亡くなった場合、妻(夫)は自宅の所有権を相続して家に住み続けることができます。
しかし、3,000万円の不動産を単独で相続する場合、残りの3,000万円の現金は他の相続人に分配されることになり、妻(夫)は生活費の不安を抱えることになります。
ここで、配偶者居住権が登場します。
この制度は、不動産の所有権と居住権を別々に考えることを認めています。
具体的には、妻(夫)はあえて不動産の所有権(1,500万円分)を他の相続人に譲り渡し、その代わりに1,500万円分の居住権だけを相続します。
こうすることで、現金も1,500万円相続でき、老後の生活に安心感を持つことができます。
つまり、不動産の所有権と居住権を分け、不動産の価値を下げることで、生活費を確保することができるのが配偶者居住権の制度です。
配偶者の税額軽減
「配偶者の税額軽減」とは、相続人に被相続人の配偶者がいる場合に適用される特例のことです。
この特例は、非課税の範囲が非常に大きい特例のひとつです。
配偶者であれば、相続税の法定相続分までの金額、または1億6,000万円の非課税枠が提供されます。
したがって、配偶者が相続した財産の評価額が1億6,000万円以下の場合、配偶者は相続税を支払う必要がありません。
また、評価額が1億6,000万円を超えている場合でも、配偶者の法定相続分以下の金額は非課税となります。
つまり、評価額が1億6,000万円を超え、かつ、配偶者の法定相続分を超えている部分にのみ相続税が課される仕組みです。
いずれの場合でも、大幅な節税が期待できる特例となっており、相続税を軽減するための効果的な手段となります。
おしどり贈与
配偶者間の贈与には、最高で2,000万円までの税金控除を受けることができる『配偶者控除(通称:おしどり贈与)』という制度が存在します。
この特例は、婚姻期間が20年以上の配偶者に対し、主に不動産や不動産購入のための資金を贈与する場合に適用されます。
おしどり贈与は、税金控除の額が大きく、年間で110万円までの暦年贈与の控除も同時に受けることができます。
控除の額が大きいため、魅力的に思えるかもしれません。
しかし、相続税の分野では、おしどり贈与以外にも配偶者の税金負担を軽減するための他の控除や特例も存在します。
したがって、おしどり贈与が最善の選択であるかどうかを判断する際には、他の特例や控除との比較が必要です。
未成年控除
相続人が未成年である場合、未成年者控除が適用されます。
この控除の額は、未成年者が18歳に達するまでの年数に応じて控除される金額が設定されており、1年につき10万円が控除される仕組みです(令和4年4月1日以前に発生した相続または遺贈により財産を取得した場合は20歳未満の未成年者が対象)。
未成年者控除を完全に使い切ることができない場合、その残りの控除分は、通常は親などの扶養義務者の相続税からも控除することができます。
相次相続控除(二次相続)
相次相続とは、相続が連続して発生した場合に適用される控除のことです。
たとえば、祖父が亡くなり、その直後に子である父も亡くなるようなケースを考えてみましょう。
相続税は通常、相続が発生する度に支払わなければならないため、支払額が大きくなってしまうことがあります。
これは、相続税を支払う人にとって負担が大きいことを意味します。
しかし、同じ財産について相続が続けて発生する場合、前回の相続から経過した年数に応じて一定の納税額が控除される制度があります。
この控除を受けるための計算はやや複雑です。
詳細については、税理士に相談することをおすすめします。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、正確には「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」という長い名前の制度です。
この特例は、故人が所有していた自宅、店舗、事務所などの土地に関し、特定の条件を満たす場合、土地の評価額を最大8割減額できる制度です。
小規模宅地の特例を適用すると、相続した土地の評価額を大幅に減らすことができます。
たとえば、相続した土地が5,000万円と評価されていても、この特例を適用できれば評価額は1,000万円まで減額される可能性があり、相続税を大幅に軽減できるメリットがあります。
小規模宅地等の特例は、相続税の節税対策において非常に有力な手段です。
この控除を受けるための計算はかなり複雑ですので、詳細については税理士に相談することをおすすめします。
まとめ
ここまで相続税についての説明、特に自宅を相続する場合の計算方法についてお話しました。
相続税には多くの制度や特例が存在し、評価額の計算も複雑です。
特例の利用に不安を感じる場合や相続税が発生する可能性がある場合、積極的に税理士に相談しましょう。
税理士は様々な控除や特例を活用する知識や経験がありますので、相続税の支払いを軽減するためのアドバイスを受けることができます。