この記事でわかること
- 相続財産に土地があると相続人どうしでトラブルに発展しやすい理由がわかる
- 土地を相続人の共有財産とした場合に起こる問題点を知ることができる
- 土地を兄弟で相続する場合にトラブルを回避するための方法を知ることができる
亡くなった人が保有していた財産は、すべて相続人が相続することとなります。
現金や有価証券のように、複数の相続人で相続する際に分割しやすい財産もありますが、土地など、平等に分けるのが難しいものも少なくありません。
特に土地は、マイホームを所有していた被相続人の場合、自宅が相続財産になるため、相続でもめる原因となることの多い財産です。
そこで、土地が相続財産となる場合、どのように相続するといいのかを考えてみましょう。
また、1つの土地を複数の相続人で相続する場合の方法について、そのメリット・デメリットとともに確認しておきましょう。
目次
不動産があると兄弟で遺産相続のトラブルが起こる理由とは
被相続人がマイホームを保有していた場合、必ず自宅の土地や建物が相続財産となります。
また、先祖代々の土地を保有しており、駐車場や農地として利用している場合も、その土地が相続財産となります。
さらに、投資用の物件を購入して、自宅以外の土地や建物を保有しているという人もいるでしょう。
このように、相続財産に土地や建物などの不動産が含まれているケースは少なくありません。
ところが、このような不動産が相続財産に含まれている場合、相続を行ううえでトラブルになることが多いのです。
土地が1つだけの場合、もめる確率はかなり高い
被相続人が保有していた不動産が自宅だけのように、相続財産に含まれる土地が1つだけの場合、かなりの確率で相続人どうしの争いになります。
どうして土地が1つだけの場合にもめることが多くなるのでしょうか。
そこには、いくつかの原因が考えられます。
1つの土地を分けて相続することが難しい
1つの土地を相続する場合にもめることとなる一番の原因は、その土地を誰が相続するかをめぐって争いになるためです。
土地も預貯金や有価証券などと同じように、2つ以上に簡単に分割することができればそれほどもめることはないかもしれません。
しかし、現実的には土地を分けることは簡単な話ではありません。
また、相続人が相続した土地や建物を自宅として利用する場合のように、そもそも分割することができない場合もあります。
1つの土地を1人の相続人が相続しようとすれば、誰が相続するのかという争いになってしまうのです。
土地と同程度の価値を持つ財産がない
土地が相続財産に含まれている場合に、もめる原因は他にも考えられます。
それは、土地以外の財産がそれほど多くないため、1人の相続人が土地を相続することとなった場合に、他の相続人が土地以外の財産を相続しても平等に遺産分割することが難しいということです。
相続財産の評価額の半分以上を自宅の土地建物を占めるということも珍しくありません。
このような場合、自宅を相続した人とそれ以外の人では相続した財産の額に大きな差が出ることとなってしまうため、もめる原因となりやすいのです。
土地が2つ以上あってももめることがある
それでは、土地が2つ以上あればもめることはないのでしょうか。
実は、土地が2つ以上あっても相続人どうしでもめることは少なくありません。
それは、どうしてなのでしょうか。
土地の価値が全く同じものはない
相続財産に含まれている土地が2つ以上ある場合、その土地の評価額はまちまちです。
土地の評価額は、その大きさ、立地、形状など、様々な要因で変わるため、2つとして同じ価値を持つ土地は存在しません。
仮に同じ大きさの土地であっても、土地の所在地によってその価値は異なるため、結局はどの土地を相続するかによる争いが起こる可能性が高いのです。
土地から得られる収益にも違いがある
土地を誰かに貸して賃料を得ている場合、その土地から得られる収益は土地によって異なります。
土地の評価額が高い方が収益性も高いことが多く、その土地を誰が相続するかをめぐって争いになることが考えられるのです。
相続した土地を兄弟で分ける方法
遺産分割を行う際には、すべての相続人ができるだけ平等に財産を取得できるよう、様々な方法を検討することとなります。
ところがこれまで見てきたように、相続財産に土地がある場合にその土地をそのまま相続する人がいると、相続人どうしのバランスがとれなくなってしまうことがあるのです。
そこで、相続した土地を兄弟など何人かの相続人で分けて相続することがあります。
ここでは、相続する際に土地を分ける方法について解説していきます。
相続した土地を分ける方法(1)換価分割
換価分割とは、そのままでは分割できない財産を売却してお金に換えた後、そのお金を分割する方法です。
換価分割を行った場合、相続した土地や建物は誰の手にも残りません。
そのため、被相続人が住んでいた自宅を相続してそこに住む人がいる場合には、換価分割を行うことはできません。
一方で、いずれ売却つもりである土地の場合には、早めに売却して現金化できること、そして遺産分割を行う際に、現金であればどういった割合でも自由に分割することができるため、相続人が不満を持ちにくいといえます。
相続した土地を分ける方法(2)現物分割
現物分割とは、1つの財産を1人の相続人が相続する方法です。
ただし土地を相続する場合、そのままの状態で現物分割により相続しようと思ってもうまくいかず、トラブルになることがよくあります。
そこで、現物分割を行う前に土地の分筆を行うのです。
分筆とは、1つの土地を2つ以上の土地に分けることをいいます。
もともと1つの土地だったものを2つに分け、それぞれを兄弟で相続すれば争いが生じる可能性が少なくなるため、このような方法が利用されるのです。
ただし、自宅を相続してそのまま住み続ける人がいる場合には、自宅の敷地を分割するわけにはいきませんから、この方法を利用することはできません。
ほとんどの場合、分筆した土地は、その後売却するか第三者に賃貸されます。
相続した土地を分ける方法(3)代償分割
代償分割とは、土地を相続した人がその土地を相続する代わりに、他の相続人に現金など自分が保有する財産を渡すことをいいます。
この方法が有効なのは、被相続人の自宅を相続した人がその自宅に住む場合です。
自宅を相続する人は、その自宅の一部が兄弟であっても他人名義になるのは、その後、安心して住み続けることができないため困ります。
一方、兄弟の住む自宅の一部を相続した他の相続人も、実際には自分でその土地を使うことはできず、売却することも難しいため、ほとんどメリットはありません。
だとすれば、自宅を相続する人は安心してその家に住み続けられるように、そして自宅を相続しなかった人は代わりに現金をもらうことでお互いに満足のいく遺産分割をすることができるのです。
相続財産に現金など他の財産が多くある場合は代償分割をする必要はありませんが、他にまとまった財産がない場合には、非常に有効な手段となるのです。
ただ、自宅を相続する人が、現金などの手持ちの財産を用意できなければこの方法を利用することはできないことは覚えておかなければなりません。
相続した土地を分ける方法(4)共有分割
土地や建物などの不動産の所有権は、最終的に登記を行うことで証明されます。
不動産の登記を行う際、その土地や建物のうち、どれだけの部分を所有しているのかを謄本に記載することとなります。
相続登記を行う際に、所有割合を相続人で決めることができるため、1つの土地について、2人で2分の1ずつ相続することもできますし、3人で1人が2分の1、他の2人が4分の1といった形にすることも可能です。
共有にする際の持分を調整すれば、すべての相続人が納得するような形の遺産分割を行うことができます。
相続財産を売却したくない場合、そして相続人が自分で現金を用意できない場合など、他の方法で遺産分割を行うのが難しい場合には、土地や建物を共有分割する方法もあるのです。
相続した土地を分ける方法(5)相続放棄
相続放棄とは、その名のとおり被相続人の残した遺産の相続権を放棄することです。
相続放棄をするためには、単に相続しないという意思表示をするだけでは足りず、相続が発生してから3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きをしなければなりません。
通常は、被相続人の残した財産より借入金などの債務の方が多い場合に相続放棄が行われることが多いのですが、それ以外のケースでも相続放棄が利用されることがあります。
たとえば、相続財産を一切相続しないことで合意した相続人がいる場合、そのことを明確にするために相続放棄することがあるのです。
相続放棄の手続きは、すべての相続人が一斉に行う必要はなく、相続放棄したい人だけが手続きを行えばいいいため、このようなことが可能なのです。
ただ、相続が発生してから3か月以内に手続きしなければならないこと、そして家庭裁判所で手続きをしなければならない手間などを考えると、誰もが利用できる方法ではないかもしれません。
共有分割で土地を相続してはいけない理由とは
土地を兄弟で相続する場合、共有分割を行うのがもめずに遺産分割する最も手軽な方法です。
遺産分割協議書に2人以上の相続人が一緒に1つの土地を相続することを記載しておき、その遺産分割協議書を使って相続登記を行えば、その土地は共有となります。
そのため、共有分割が利用されるケースが他の方法に比べて多いのです。
共有分割が利用されやすい理由とは
手軽に利用できる理由は、その手続きや費用面にあります。
たとえば土地を分筆するためには、土地の測量を行い、役所や隣地の所有者の立会いのもと境界の確認を行い、正式に境界が確定したら登記を行わなければなりません。
また、換価分割を行う場合には、相続税の申告・納税とは別に、土地の売却による所得税の申告・納税の手続きも必要です。
代償分割を行う際には、土地の評価額の何割かに相当する現金などの財産を自分で用意しなければならず、利用にあたっては高いハードルがあります。
結果的に、共有分割を行うのが最も簡単で、余分な費用もほとんどかからないのです。
共有分割を利用した場合の問題点
ただし、手軽に利用できるからという理由で共有分割を利用した場合、問題はその後に起こってしまいます。
共有している土地は、分筆した場合とは異なり目に見える境界線はなく、物理的に分割することはできません。
共有となっている土地を売却する際には、その共有者全員が同意して売却するしかないのです。
共有の割合に大きな差がある場合でも、売却する際にはその割合の大小は関係ありません。
たとえ共有割合が9/10と1/10であったとしても、1/10を保有する人が売却しないと言えば売却することはできないのです。
共有財産としたために、その後売却できないまま放置されてしまう土地は、決して珍しくありません。
共有分割を行って相続した直後は、共有となっていても将来的にはどちらかの名義になるよう贈与や売買を行おうと考えているかもしれません。
しかし、共有の状態がしばらく継続すると、そのままでも問題が起こらないためほとんどの場合放置されてしまいます。
その後、共有者の1人が亡くなった時にその土地が相続財産となります。
ところが、共有者のうち1人が亡くなった時には、相続人が相続してもすぐに利用も売却もできない状態となっているため、再び共有分割が行われたり、適切に遺産分割が行われない可能性があったりします。
こうして、2人の共有となっていた土地が、気づいたら何十人もの共有者がいる状態になってしまうことも起こり得るのです。
また、共有となっている土地が収益物件である場合、それぞれの所有者が確定申告を行う必要があります。
収益と経費を計算した後、共有割合で按分して各共有者に分割し、それぞれの共有者が確定申告を行い納税するという流れは複雑で、中心となって取りまとめる人がいなければ適切に処理することも難しいでしょう。
一方、固定資産税の納付は共有者それぞれが行うのではなく、代表者がまとめて行うこととなるため、その精算などの手間を考えておく必要があります。
土地を売却して分割する場合の注意点
土地を共有分割せず、しかも兄弟間でもめることのないような方法を考えておかなければなりません。
そこで候補となるのが換価分割です。
土地を売却し、売却によって得た現金を全員で決めた割合で分けるという流れで分割を行うことができます。
しかし、注意点を理解したうえで進めていかないと、思わぬトラブルに発展する可能性もあるため、それらの注意点について確認しておきましょう。
売却価格について相続人どうしの条件を決めておく
売却する際にもめやすいのが、売却価格についての考え方の違いです。
同じ土地についても、早く売却してしまいたいと考える人と、高い金額で売却できるまでじっくり買主を探したいと考える人とでは、売却価格に対する考え方が異なります。
ただ、実際に購入希望者が現れてからその価格について検討し始めると、契約が成立するまでに時間がかかるため、その間に購入希望者が別の土地を探して購入してしまう可能性もあります。
土地の売買にはタイミングも重要な要素なのです。
そこで、最低限これ以上の金額であれば売却するという基準の価格を最初に決めておき、それ以上の価格で購入希望者が現れた場合には売却するといった形にしておくのが望ましいでしょう。
所得税が発生する可能性があることを知っておく
土地を売却した場合、その売却により生じた利益に対して所得税や住民税が課税されます。
利益の計算を行う場合に、その土地を購入した金額がわかっている場合は被相続人が購入した時の価格を引き継いで計算します。
購入した金額がわからない場合には、売却価格の5%を概算取得費として利益の額を計算することとなるため、ほぼ確実に利益が生じて税金を支払うこととなります。
被相続人の所有時期も含めて5年を超えて所有していた土地については、利益の金額に対して約20%の税金が発生します。
税金も支払って残った金額を、相続人で分割することとなるため、約20%の税金については頭に入れておかなければなりません。
遺産分割協議書に記載しておく
換価分割を行う際には、いったんその土地を1人の相続人が相続し、売却後残った金額を相続人で分けるというのが一般的な流れです。
土地を相続した人がその土地を売却し、税金も支払った後の金額を分けるという換価分割の一連の流れを遺産分割協議書に記載しておく必要があります。
しかし、遺産分割協議書に記載のないまま土地の売却代金を他の相続人に渡してしまうと、贈与として贈与税が課税される可能性が出てきてしまいます。
ただでさえ大きな税負担をしなければならないうえ、贈与税までかかってしまっては意味がありません。
遺産分割協議書への記載方法について、あらかじめ確認しておく必要があります。
土地を分筆して分割する場合の注意点
1つの土地を2つに分ける場合、様々な手続きが必要になることは先に説明しました。
しかし、これ以外にも分筆を行ううえでは注意しなければならないことがあります。
同じ大きさに分けても土地の価値は異なる
土地を分筆する際、同じ大きさに分ければそれで平等というわけではありません。
相続税法上は、土地の価値はその土地の面する道路の路線価や土地の形状によって変わります。
また、実際に土地の売買を行ううえでは、その土地の形状や接道状況、日当たりや周辺の環境によってその価格が決まることとなるのです。
同じ大きさに分ければそれで問題ないというわけではないため、どのように分けたらすべての相続人が納得するか、よく検討して分筆する必要があります。
細かくなりすぎた土地は利用価値が下がる
土地の分筆を行うということは、分筆された後の土地はその前より小さな土地として利用されることとなります。
分筆前の土地がかなり大きな土地で、分筆しても一般的に市場に流通するくらいの大きさがあれば問題はありません。
しかし、分筆した後の土地が小さすぎるような場合は、売却しようとしても売却できない可能性があります。
また仮に売却できたとしても、かなり低い金額での売却となってしまう可能性があるのです。
たとえば、分筆前の土地が3,000万円で売却できる見込みがあったのに、2つの土地に分筆したらそれぞれ1,000万円でしか売却できないということであれば、分筆する意味は一切ありません。
しかし、実際にはこのようなことが起こる可能性は十分に考えられるのです。
土地を保有し続けたいという相続人と土地を売却したいという相続人がいる場合に、双方の意見がまとまらず、やむなく分筆するというケースがあると思います。
しかし、土地を保有し続けたとしても、分筆後の土地をどのように利用するのか、具体的なプランがなく、また収益性に問題がある場合には分筆せずに売却して換価分割を行う方が経済的といえるのです。
兄弟で土地を相続した時にもめない方法とは
兄弟で土地を相続する場合、様々な分割方法や考え方があることがおわかりいただけたと思います。
どのような方法で遺産分割を行うとしても、以下のようなポイントに注意しておけば、相続の際にもめる可能性を抑えることができるはずです。
いずれも基本的なことばかりですので、忘れないようにしましょう。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議書は、遺言書のない状態で遺産分割を行う際に絶対に必要になるものです。
遺産分割協議書には、誰がどの財産を取得したのかを明記します。
また、代償分割や換価分割を行う際には、その過程についても記載されます。
遺産分割協議が成立した証として作成されるものであり、後から「やっぱり代償分割ではなく換価分割をやり直したい」といった無理な要求を拒んだり、将来的に相続人が亡くなって次の相続が発生した場合に、相続財産を明らかにするための資料として用いたりすることで、トラブルを避けることができるのです。
すべての記録を残しておく
土地を売却してから分割する場合などは、実際に売却するまで代表者1人で対応することが多いと思います。
そのため、すべての書類や記録を残しておき、実際にいくらで売却したのか、あるいはどれだけの経費がかかったのかを他の相続人にも確認してもらう必要があります。
代表者として手続きを進めたり、打ち合わせをしたりするのは大変ですが、売買に関する書類を隠蔽したり金額をごまかしたりすることのないように気を付けましょう。
不動産の価格を事前に知っておく
換価分割を行うにしても、代償分割を行うにしても、分筆して相続するにしても、その土地の価格を事前に知ったうえで手続きを進めることが必要です。
適正な不動産の価格を知らないまま売却してしまい、後から売却価格が安すぎたといって相続人どうしのトラブルになってしまっては、本来相続トラブルを避けるために行うはずの売却が何の意味もなくなってしまいます。
無用な争いを防ぐため、様々な情報を共有するようにしましょう。
まとめ
相続にトラブルやもめ事は付き物です。
しかし、トラブルに発展しやすい場合には傾向があり、特に土地などの不動産を何人かの相続人で相続する場合にはもめやすいといえます。
相続でトラブルになってしまうと、その後の兄弟の関係は悪化する一方で、場合によっては相続後、会うことも口を利くこともなくなってしまいます。
相続で兄弟の人間関係が崩壊してしまうほど悲しいことはありません。
そのようなトラブルを回避するため、土地の価値を知り、土地の分割方法を知ったうえで、適切な分割方法を選択するようにしましょう。