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最終更新日:2023/3/23

相続放棄ができないケースとは?対処法や手続きのポイントを解説

弁護士 石木貴治

この記事の執筆者 弁護士 石木貴治

東京弁護士会所属。
メーカー2社で法務部員を務めた後、ロースクールに通って弁護士資格を取得しました。
前前職の経験を生かし、実情にあった対応を心がけてまいります。 お気軽に相談いただければ幸いです。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/ishiki/

この記事でわかること

  • 相続放棄ができないケースがわかる
  • 相続放棄したくてもできない場合の対処法がわかる
  • 相続放棄の手続を失敗しないためのポイントがわかる

被相続人の財産に借金や分割できない不動産があった場合、相続放棄を検討する人もいるでしょう。

しかし、いざ相続放棄をしようとしても相続放棄できないケースがあるので注意が必要です。

どのような場合に相続放棄ができなくなってしまうのでしょうか。

この記事では、相続放棄したくてもできないケース、相続放棄ができない場合の対処法について解説します。

相続放棄ができないと被相続人の借金を背負うことになってしまうため、相続放棄で失敗しないポイントを事前に確認しておきましょう。

相続放棄ができないケース

相続放棄ができないケース

いつでもどのような状況でも相続放棄できるとすれば、誰が相続人となるのかいつまでも確定しないことになりかねません。

そこで、一定の条件が成立した場合には、それ以後の相続放棄ができないことになっています。

また、手続き上の書類が不足していても相続放棄することはできないため、この点もあわせて確認します。

熟慮期間を過ぎてしまった

相続放棄するかしないかを決めるためには、一定の期間が必要です。

その期間のことを熟慮期間といいます。

この熟慮期間を過ぎてしまった場合には、それ以後に相続放棄することはできず、法定相続人となることが確定します。

相続放棄を行う場合の熟慮期間は、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月とされています。

何らかの事情で被相続人が亡くなったことを知らなかった場合には、その事実を知った日から3ヶ月以内が熟慮期間です。

また、自分が法定相続人となっていることに気づかない場合もあります。

代表的な例が、第一順位の法定相続人である子供が相続放棄して、第二順位以降の相続人に相続権が移行する場合です。

このような場合には、自分が相続人となったことを知った日から3ヶ月間が熟慮期間とされます。

なお、熟慮期間を延ばすための手続きを行うこともできます。

ただ、これも家庭裁判所に対して申立てを行う必要があり、また、3ヶ月を経過してしまった後に延長することはできません。

単純承認が成立してしまった

単純承認とは、被相続人が残したすべての遺産を相続することを認めることをいいます。

単純承認が成立すると、その後に相続放棄を行うことはできなくなります。

単純承認が成立する場合には、先に紹介した熟慮期間が経過した場合も含まれます。

このほか、遺産を売却または消費した場合や、遺産を隠した場合も単純承認が成立します。

遺産の中のごく一部だけ処分した場合でも単純承認は成立するため、被相続人の借金の有無がはっきりしない間は慎重に行動しましょう。

なお、建物の修繕工事を行うように、遺産を維持するための行動は単純承認にならないと考えられます。

また、遺産の中から葬儀費用を支出するのも単純承認にはあたらないとされます。

ただ、これらの行為も、必要以上に遺産を使うと単純承認が成立してしまう可能性があるため、注意が必要です。

書類が不足している・不備がある

相続放棄を行うためには、必要な書類を準備して家庭裁判所に提出しなければなりません。

相続放棄の必要書類

  • 相続放棄申述書
  • 収入印紙800円(申述人1人分)
  • 連絡用の郵便切手
  • 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
  • 申述人(放棄をする相続人)の戸籍謄本

しかし、それらの書類が全部そろっていないのに家庭裁判所に申立てを行っても、受理されません

相続放棄の申立てを行う際には、必ず書類がそろっていることを確認しましょう。

また、不足している書類を揃えるために、申立ては余裕を持って行うことが大切です。

相続放棄申述受理申立が行われたと認められてしまった

申述者の真意によらないで相続放棄申述受理申立が行われたと認められる場合、その相続放棄の申述は認められません。

真意によらないとは、申述を行った人が本当は相続放棄したいと考えていないのに、何らかの原因で相続放棄の申述をしなければならなかったことをいいます。

例えば、本人が知らないうちに、別の人が勝手に相続放棄申述受理申立を行った場合が該当します。

他の人に脅されて、あるいはだまされて相続放棄申述受理申立を行った場合も、真意によらない申立にあたります。

さらに、成年被後見人、被保佐人、被補助人や未成年者は、法律行為を行うのに一定の制限を受けます。

このうち成年被後見人と未成年者は、自身で相続放棄申述受理申立を行うことはできず、単独で行った場合は真意によらない申立に該当すると判断されます。

相続放棄ができない場合の対処法

相続放棄の申立てを行うための熟慮期間が過ぎてしまうと、単純承認が成立してしまいます。

また、相続放棄の申立てが家庭裁判所で受理されなければ、相続放棄をすることはできなくなってしまいます。

しかし、このような状態になったからといって、相続放棄ができなくなるわけではありません。

相続放棄するための対処法はあるため、その内容について確認しておきましょう。

熟慮期間が過ぎても相続放棄できる可能性は高い

基本的に、相続放棄の熟慮期間を過ぎてしまうと相続放棄ができなくなりますが、例外的に相続放棄が認められるケースもあります。

ただし、相続放棄が認められるのは熟慮期間が経過したことについてやむを得ない事情があると認められる場合に限定されます。

  • 被相続人に財産が何もないと信じていた場合
  • 被相続人が抱える債務の存在を知らなかった場合
  • 自分が被相続人と血がつながっている子供であり、相続人となることを知らなかった場合
  • 遺産分割協議が成立した後に債務が見つかった場合
  • 被相続人が死亡したことをまったく知らなかった場合

ただ、このような事情があったとしても、必ず相続放棄が認められるわけではありません。

どのような事情があっても、最終的には個別に家庭裁判所で判断されます。

これらの手続きを行うためには、まず弁護士に相談するようにしましょう。

即時抗告を行える

即時抗告とは、家庭裁判所の決定に不服がある場合、申立てをすることで高等裁判所に審理をしてもらう手続きのことです。

家庭裁判所が相続放棄の申立てを却下した場合などは、2週間以内に即時抗告を行うことができます

即時抗告の申立てを行う際には、抗告状と即時抗告の理由を明らかにする書類が必要です。

どうして相続放棄の申立てが認められなかったかを分析し、その内容に対応する理由を記載して即時抗告を行う必要があります。

相続放棄の申立てが却下されるのは、熟慮期間が経過しているか、単純承認が成立しているかのいずれかが多いでしょう。

即時抗告を行う際には、退出する書類でこのような状況に該当しないことを説明しなければなりません。

そのため、即時抗告を行う際には、弁護士に依頼することが必要とされます。

相続放棄で失敗しないようにするには

相続放棄の手続きは家庭裁判所で、非常に厳格な規則に基づいて行われます。

そのため、手続きを適切に、かつ順番に進めていかないと、本来は相続放棄できたはずなのに相続放棄できないといった事態に陥ることもあります。

また、相続放棄の手続きを最初からやり直すといったことはできないため、確実に手順を進める必要があります。

相続放棄を行う際に失敗することなく確実に行えるよう、以下にあげる点に注意しながら、進めていきましょう。

相続財産調査を確実に行う

相続放棄するかどうかを決定する一番のポイントは、相続財産に含まれる債務の額が不動産や預金などの財産の額を上回るかどうかです。

ただ、相続人は相続財産にどのようなものが含まれているのか、すべてを完璧に把握しているわけではありません。

被相続人が亡くなる前に、財産の内訳を相続人に知らせていることは少なく、一番身近な存在であるはずの相続人でも、相続財産の中身を知るのは亡くなった後になることがほとんどです。

そのため、相続放棄が認められる間は相続財産の調査を確実に行う必要があります。

もし相続財産の調査が中途半端になり、多額の借金があることが後から分かっても、相続放棄することはかなり難しくなります。

また逆に、相続放棄しない方が良かったとしても、その取り消しは認められません。

相続放棄の手続きを早めに行う

相続放棄の手続きには、厳格な期限が定められています。

通常は、被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に相続放棄の申し立てを行うものとされ、この期限を超えての申し立ては認められません。

また、当初は自身が相続人になっていると知らなかった場合は、自身が相続人であると知った日から3ヶ月以内に申し立てを行うこととされています。

いずれのケースでも、相続放棄の手続きを行うことのできる期間は非常に短いため、すべての手続きを早めに行うことが大切です。

また、相続放棄の申し立ての期間を延長伸長することができますが、その際は別に申し立てを行わなければなりません。

期間伸長の申し立てを行う場合も、期間は限られているため、やはり早めの手続きが求められます。

相続人の資産や負債に手をつけない

相続放棄をするということは、相続財産に一切手をつけないという選択をしたことを意味します。

相続財産の相続権を有する相続人は、相続財産を単純承認して相続する、限定承認して債務を上回る分だけ相続する、そして相続放棄して相続しないの3つの手続きの中から1つを選ぶこととなります。

このうち、限定承認と相続放棄については家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認については特別な手続きは必要ありません。

そのため、知らないうちに単純承認が成立し、相続放棄ができなくなることがあるのです。

単純承認が成立する最も典型的なケースは、相続財産を取得・売却した場合や相続財産に含まれる債務の返済を行った場合です。

相続放棄するかもしれないと考える場合は、相続財産に手をつけないようにしましょう。

相続放棄の手続き

相続放棄するためには、家庭裁判所で所定の手続きを行わなければなりません

相続放棄しようとする相続人は、必要書類を揃えて家庭裁判所に相続放棄の申立てを行います。

相続人の立場によって必要書類が異なるので、確認してそろえるようにしましょう。

相続放棄の手続きの詳しい内容は以下の記事をご覧ください。

まとめ

相続放棄をしようとしても、場合によっては相続放棄できないことがあります。

相続が発生した日から3ヶ月が相続放棄の熟慮期間になっており、この熟慮期間を過ぎてしまうと相続放棄ができなくなってしまいます

また単純承認が成立してしまった場合や、書類の不備・不足があった場合も基本的に相続放棄はできません。

確実に相続放棄を行うためには、相続財産の調査や相続放棄の手続きを早めに行いましょう。

熟慮期間の超過などで相続放棄ができないケースでも、相続放棄をするための対処法があるので、まずは専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。

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