相続に関しては、遺産をどう分けるかといった遺産分割の方法や、相続税の軽減方法等が話題になることが多いと思います。
ただ、一方では、様々な事情から被相続人の財産を承継したくないという場合もあるかもしれません。
そこで本記事では、そのような場合にとりうる手段である相続放棄について、どのような制度で、どのような取り扱いになるのか、また、相続放棄という手段を選択するケース、実際に相続放棄を行う場合の注意点、最後に、相続放棄の手続き方法についてみていきたいと思います。
相続の3パターン:単純承認、相続放棄、限定承認
人が亡くなった場合に、誰がその亡くなった方(被相続人といいます)の有していた財産を相続するかは、民法の第886条から890条で定められています。
この相続人を法定相続人といいます。
ところで、法定相続人といえども、被相続人の有していた財産を引き継ぐことを強制されるわけではありません。
たとえば、被相続人が多額の債務を負担していたような場合には、そのまま相続してしまうと、相続人はその多額の債務も引き継ぐことになってしまい、酷な結果となってしまいます。
そこで、民法第915条は、相続人に相続を単純承認するか、限定承認するか、それとも相続放棄をするかを選択することを認めています。
単純承認とは、相続人の有していた相続財産をそのまま無制限に承継することをいいます(民法第920条)。
限定承認とは、相続人が有していたプラスの財産の範囲でのみ債務を引き継ぐという条件をつけて相続を承認する制度です(民法第922条)。
相続放棄とは
前述の単純承認、限定承認に対して、相続放棄とは、法定相続人が相続開始後に、自らの意思で相続の効果として被相続人の財産を承継することを拒絶する意思表示をいいます(民法第938条)。
相続放棄がなされると、相続放棄をした相続人ははじめから相続人とはならなかったものとされます(民法第939条)。
その結果、相続を放棄した相続人は、被相続人が有していた財産を承継することはありません。
また、被相続人が債務を負担していた場合、相続によって被相続人の債務は、相続割合に応じて当然に相続人に引き継がれることになります。
しかし、相続放棄をした場合には、そもそもはじめから相続人にならなかったわけですから、債務を承継することも無いわけです。
相続放棄を選択すべき場合
では、具体的に相続を放棄することが妥当な場合とはどのような場合なのかご紹介していきます。
被相続人が債務超過の場合
相続放棄を選択する典型的な場合が、被相続人が多額の債務を負担するなど、債務超過となっている場合です。
相続が開始された場合、相続人は被相続人が有していたプラスの財産のみならず、債務などのマイナスの財産も承継することになります。
しかも、プラスの財産については最終的に相続人間の遺産分割協議によって、誰がどれだけの財産を取得するかを決定することができます。
しかし、債務などのマイナスの財産については、相続人はその法定相続割合に応じて、当然に債務を負担することになります。
相続人間で、誰がどれだけの債務を負担するかの合意をした場合であっても、相続人はそのことを債権者に対して主張することはできません。
その結果、明らかにプラスの財産よりも債務の方が多い場合や、相続財産全体としては債務超過ではないとしても、被相続人が遺言で相続財産の多くを遺贈していたり、遺産分割方法の指定等をしていた結果、当該相続人が相続によって取得するプラスの財産よりも、法定相続分に応じて負担する債務の方が超過するような場合には、相続を放棄することで債務を免れることができるため、メリットが大きいということになります。
そこで、このような場合には、相続放棄を選択することが合理的といえるでしょう。
ところで、被相続人が債務超過の場合でも、相続放棄ではなく、限定承認すれば、プラスの財産の範囲でしか債務を承継しないから、問題はないのではないかという疑問が生じるかもしれません。
しかし、限定承認については、相続人が複数いる場合には全ての相続人が共同してやらなければならず、相続人が一人でも限定承認に反対すれば限定承認ができないという制限があります。
これに対して、相続放棄はここの相続人が独自に判断して放棄することができるという大きな特徴があります。
また、限定承認をした場合には、その後、各債権者に対して債権の申し出を催告して、さらに、被相続人の財産を全て換金してこれを債権者に分配して、それで残余があった場合に初めて相続人間で残った財産を分配するという手続きをとるため、その手続きが非常に煩雑であり、また時間もかかることになります。
そのような理由から、実際の取り扱いでも限定承認という制度は、余り利用されていないのが現実です。
被相続人が保証人等になっている場合
被相続人自身が相続開始の時点では具体的な債務を負担していたわけではなくても、誰かの債務の保証人になっている場合には、相続人はその保証人としての債務を引き継ぐことになります。
その結果、主たる債務者が債務を返済しない場合には、相続人が請求を受けることとなるリスクを抱えることになります。
従って、このような場合にも、被相続人が負担している保証債務の内容次第では、相続放棄を選択する事が合理的という場合があることになります。
相続財産を特定の相続人に承継させたい場合
被相続人の事業を相続人の一人が承継することを目的とし、相続財産を特定の相続人に集中させて相続させたいような場合には、他の相続人が相続を放棄することによって、その目的を達成させる場合があります。
この場合には、遺産分割協議の中で、全財産を当該相続人に相続させる旨の遺産分割協議を行う方法もあります。
しかし、相続人の債権者が、その相続持分を差し押さえてくる等の法律関係の錯綜を回避する為には、相続放棄という方法で確定的に相続割合に対する権利を喪失させることが適切な場合があります。
相続争いに巻き込まれることを回避したい場合
相続人や受遺者などが多数いて、その利害関係が複雑になっている場合には、遺産分割協議自体がなかなかまとまらないといった場合があります。
特に、本来、相続人となるべき者が、被相続人について相続が開始される前に亡くなっていて、その子供が代襲相続するような場合には、利害関係人の人数も非常に多くなり、さらに、相続人間の関係が希薄になるため、利害関係の対立が尖鋭化する危険があります。
そのような場合には、相続人間の対立に巻き込まれることを回避するために、相続放棄をしてしまって、そのトラブルから抜け出すという方法も考えられるでしょう。
特に、相続とは別に、一定額の生命保険金を受領している場合などには、それで十分であるとして、遺産分割には加わらないという選択が賢い選択といえる場合もあるでしょう。
相続放棄を行う場合の注意点
相続放棄をする際には、相続放棄をするために必要な要件や、相続放棄によって周囲に与える影響など、いくつか注意しなければならないことがあります。
以下ではその主なものについて見ていきます。
相続放棄には期間制限がある
相続放棄は、自分が相続人となる相続が開始されたことを知ったときから3か月間という熟慮期間内に行わなければなりません(民法第915条)。
この熟慮期間を過ぎてしまうと、相続を単純承認したものとみなされ(民法第921条第2号)、相続による被相続人の財産を承継することになります(民法第920条)。
つまり、被相続人が債務を負担していた場合には、その債務も承継することになってしまうわけです(法定単純承認)。
したがって、相続放棄をするためには、相続開始後できるだけ早期に被相続人の財産状態などを確認して、相続放棄をするべきかいなかを決断しなければなりません。
3か月あるからゆっくり考えればいいと思う方もいるかもしれませんが、被相続人の財産を検証するのは思ったよりも困難な作業です。
のんびりしていたら、熟慮期間が過ぎてしまったといった事態になりかねません。
相続人は相続開始後、被相続人の財産状態を調査することができ(民法第915条第2項)、その調査結果に基づいて相続放棄をするか否かを判断する事になります。
ただ、例外的に3か月の熟慮期間経過において相続放棄が認められる場合があります。
①熟慮期間の延長が認められた場合
裁判所に熟慮期間の延長を申請し、それが認められた場合(家事審判事件法第201条)。
熟慮期間中に相続財産の調査を行ったが、期間満了までにその調査が完了しない場合に、期間の伸長を裁判所に求めることができます。
それが認められた場合には、その伸長された期間までに相続放棄を行えば、有効な相続放棄と認められるのです。
②特別な事情がある場合
熟慮期間の3か月経過した相続放棄申立でも、熟慮期間の3か月以内に相続放棄をすることが困難であったと認められる特別な事情がある場合については、熟慮期間経過後でも相続放棄が認められる場合があります。
この特別な事情としては次のような事例が挙げられています。
・最高裁判所昭和59年4月27日判決判例タイムズ528号81頁
相続人が被相続人には全く財産がないと信じていて、被相続人の財産の調査を期待することが困難な事情があり、そう信じることについて相当な理由があるときは、相続人が相続財産の全部または一部を認識したときから熟慮期間は起算されるとしました。
・東京高等裁判所平成12年12月7日決定判例タイムズ1051号302頁
自ら被相続人の積極及び消極の財産を全く承継することが無いと信じ、かつ、そのように信じたことについては相当の理由があった場合について、特別な事情があるとして熟慮期間経過後の相続放棄申立を認めました。
・東京高等裁判所平成19年8月10日決定家庭裁判月報60巻1号102頁
相続財産にはほとんど財産的価値がなく、かつ、被相続人には負債はないと信じており、かつ、相続人が被相続人の相続、債務の存在を知ったのが相続開始から3か月以上経過した後である場合には、特別な事情があるものとして、熟慮期間は相続・債務の事実を知ったときから起算すべきであるとしました。
このように、熟慮期間の後の相続放棄を認めた事例もありますが、ただ、これが否定された裁判例もあるため、3か月経過後でも相続放棄ができると考えるのはリスクが高いといわざるを得ません。
基本的には3か月以内に相続放棄を行う必要があると認識しておく必要があります。
相続開始前に相続放棄はできない
相続放棄は相続が開始した後でのみ可能です。
被相続人が亡くなる前に、相続放棄の意思表示をしても無効です。
論理的に考えても、被相続人が亡くなる前の時点では相続が開始されていないのですから、被相続人の近親者といえども、未だ具体的な権利を有していないわけです。
ですから現実に発生していない権利を放棄する等ということはそもそもあり得ないのです。
また、仮に相続開始前の放棄が認められるとすると、推定相続人間で放棄の強制などがなされる危険が否定できないでしょう。
現実に、相続放棄は家庭裁判所にその旨の申述をしなければならないとしており、現実に家庭裁判所では相続開始前の相続放棄の申述を認めていません。
先順位相続人が相続放棄すると後順位相続人が相続人となる
相続放棄がなされると、その者ははじめから相続人とはならなかったことになります。
その結果、共同相続人の一人が相続を放棄すると他の相続人の相続分が増加したり、次順位の相続人が相続することになります。
たとえば、配偶者と長男・次男の3名が相続人の場合、通常であれば配偶者が1/2、長男・次男がそれぞれ1/4を相続します。
しかし、長男が相続を放棄すると相続人は配偶者と次男の2名となり、配偶者が1/2、次男が1/2相続することになり、次男の相続分が増加します。
また、配偶者が相続を放棄すると、相続人は長男と次男の2名となり、長男・次男はそれぞれ1/2を相続することになります。
また、相続人が配偶者と子供1人の合計2名のみの場合、本来は配偶者1/2、子供1/2の相続分ですが、この場合に子供が相続を放棄すると第1順位の相続人がいないことになるため、第2順位の直系尊属が相続人になり、配偶者の相続分は2/3、直系尊属の相続分が1/3となり、直系尊属は思いもかけずに相続人となることになります。
これが特に問題となるのは、被相続人が債務超過の場合です。
この場合、配偶者や第1順位の相続人が相続を放棄したことによって、思いもかけずに第2順位以降の相続人が相続することとなった場合、第2順位以降の相続人が被相続人の財産状態を認識しておらず、相続放棄をしないまま債務を承継することになってしまう危険があることになります。
したがって、相続放棄をする場合には、後順位相続人ともきちんと話をしてから行うことが好ましいでしょう。
なお、相続人が全員相続放棄をした場合には、相続財産が宙に浮いてしまいます。
この場合には民法第951条以下に従って、相続財産を相続財産法人としてこれを精算し、さらに残余がある場合には特別縁故者に分与します。
それでも残余がある場合には、その財産は国庫に帰属することになります(民法第959条)。
相続を放棄しても一定の範囲で相続財産を管理しなければなりません
相続を放棄した場合、相続人とはなりません。
だからと言って、相続財産に対して何もしなくてもいいというわけではありません。
相続人が相続を放棄した場合、共同相続人がいる場合には他の共同相続人や、後順位の相続人が相続財産を取得することになります。
また、相続人がいなくなった場合には相続財産法人として相続財産管理人が選任されて相続財産を管理・処分することになります。
しかし、これらの他の相続人や相続財産管理人が選任されるなどして相続財産を管理できるようになるまでは、相続放棄をした相続人が、引き続き、相続財産を管理する義務を負います(民法第940条)。
相続放棄した相続人の子供は代襲相続できない
代襲相続という制度があります。
これは、相続人となるべき者が被相続人よりも先に亡くなっていたような場合、その者の子供がいる場合などには、相続人になるべきであった者の子供が代わりに相続により財産を承継できるという制度です。
具体的にみてみましょう。
被相続人には、配偶者と子供が1名いたとすると、本来であれば配偶者が1/2、子供が1/2を相続することになります。
そして、将来、その子供が亡くなった場合には、その子供の子供(今回の被相続人からみたら孫)がその財産を取得することになるはずでした。
ところが、被相続人の子供が、被相続人よりも先に亡くなっていたとすると、被相続人の子供は相続人とはなりえません。
この場合、次順位の相続人が相続すると、被相続人の孫は被相続人の子供が被相続人よりも先に亡くなったという偶然によって、被相続人の財産を相続できないという不利益を被ることになってしまいます。
そこで、法律は、このような場合には、被相続人の孫は、被相続人の子供に代襲して相続財産を取得できるとしました。
これを代襲相続といいます。
ところで、相続放棄に関しては、被相続人の子供が相続を放棄した場合、その放棄した相続人の子供は、放棄した相続人に代わって、代襲相続による財産の承継をすることができるのかということが問題となります。
結論としては、これは否定されていて、相続放棄した者の子供は被相続人を代襲相続することはできません。
相続放棄は、相続人となるべき者が自らの意思で選択した判断ですので、被相続人の子供が先に亡くなったという偶然による事態とは異なるからです。
相続放棄をする者は、それによって自分の子供が被相続人の財産を承継できなくなるということも想定したうえで、相続放棄の決断をすることが可能だったことになりますので、それについて相続人の子供(被相続人の孫)の期待権を保護する必要は無いということになります。
さらに、代襲相続を定めた民法第887条第2項は「被相続人の子が、相続の開始前に死亡したとき、又は第891条(欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったとき」と規定していて、代襲相続が生じる場合を被相続人の子の死亡、欠格、廃除と限定的に規定しています。
したがって相続放棄をした場合、その放棄した相続人に子供がいた場合でも、もはや代襲相続によって財産を取得することはできなくなる点には注意が必要です。
相続人は相続放棄をした場合でも被相続人の生命保険金を受け取れる
相続人が、被相続人がかけていた生命保険の受取人となっていた場合、その者が相続を放棄したケースでも、生命保険金を受け取れるかということが疑問視されることがあります。
これは、生命保険金が、相続税の算定においては相続財産として取り扱われることから(みなし相続財産)、相続放棄をした場合には生命保険金の受領権も放棄したものとされるのではないかという観点から議論されうるのです。
しかし、相続税の計算において生命保険金が相続財産に加算されるのはあくまでも相続税の計算という場面に限定してのものです。
生命保険金は、保険会社との保険契約に基づいて発生するもので、受取人として指定された者が保険会社から直接受領できる金銭ですので、その受取人の固有財産と考えられます。
したがって、相続を放棄した者であっても、生命保険の受取人となっている以上、問題なく生命保険金を受領することができます。
なお、相続放棄をした者が保険金を受領するに際しては、一点注意事項があります。
それは、通常、生命保険金を受け取った相続人については、その受領金額に関して一定の非課税金額が定められています。
しかし、この非課税金額は相続人についてのみ認められます。
その結果、相続放棄をした者は「当初から相続人にならなかった」ものとして扱われるため、この非課税枠の適用は受けることができません。
その結果、受領した保険金全額について課税されることになります。
相続財産を取得・処分等した場合には相続放棄はできなくなる
民法第921条第1号は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は相続を単純承認したものとみなすとしています。
これを法定単純承認といいます。
つまり、相続財産の一部でも自ら取得したり、これを処分等した場合には、相続財産を自ら取得する意思を表明し、それを実現したものですので、今さら相続放棄は認められないとしたのです。
この法定単純承認との関係で問題となるのが、被相続人が掛けていた積立型の生命保険における解約返戻金の取り扱いです。
解約返戻金は、被相続人自身が保険料を支払い、最終的には自らその返戻金を受け取ることを想定しています。
つまり、この場合の返戻金は、通常の死亡保険における生命保険金とは異なり、本来、被相続人自身が取得する金銭であったということになります。
その結果、万一、相続放棄をした相続人が、この解約返戻金を受領し、これを処分したり、費消してしまった場合には、被相続人の相続財産に属すべき金銭を処分してしまったことになり、民法第921条第1号により法定単純承認が成立してしまいます。
その結果、もはや、相続放棄をすることはできないことになってしまいます。
この点は、十分に注意する必要があります。
連帯保証人は相続放棄しても債務を免れることはできない
被相続人が多額の債務を負担していた場合、相続人は相続を放棄することによって、その債務を承継することを回避できます。
これは、被相続人が負担していた債務を承継することを、相続を放棄することによって回避することができるためです。
ところで、被相続人の配偶者や子供が、被相続人の債務の連帯保証人や、連帯債務者になっていた場合、相続放棄することによって、被相続人が負担していた債務を承継することは回避できます。
しかし、その者が自らの債務として債権者に対して負担している保証債務や連帯債務については、元々、その者が債権者との間で締結した連帯保証契約や連帯債務を負担する旨の契約に基づいて自身が独自の債務として負担するものですので、相続を放棄したからといって免れることはできません。
相続放棄の手続き
家庭裁判所への申述
相続放棄をするには、先にも述べたとおり、熟慮期間として定められた相続開始を知ったときから3か月以内に、家庭裁判所に申述することが必要です(民法第938条)。
単に他の相続人などに「相続を放棄する旨」を通知しただけでは、相続放棄の効力は認められません。
相続放棄の申述を刷る家庭裁判所は、被相続人が亡くなる直前に居住していた住所地の家庭裁判所です。
相続人の住所地の家庭裁判所ではありませんので間違わないようにしてください。
相続放棄申述書
家庭裁判所への相続放棄の申述は、相続放棄申述書という書類を家庭裁判所に提出する方法で行います。
相続放棄申述書の書式および書き方は裁判所のホームページで公開されていますので、そこからダウンロードすることができます。
参考: 「裁判所のホームページ」
費用
相続放棄する際には、相続放棄申述書に800円の収入印紙を貼付する必要があります。
又、その他に、連絡用の郵便切手を納める必要があります。
この切手の種類、枚数は家庭裁判所によって異なりますので、家庭裁判所に直接確認する必要があります。
ちなみに、千葉家庭裁判所では84円切手を3枚(合計252円)とされています。
参考: 「申立時に必要な予納郵便切手一覧表(主な事件について)」
相続放棄申述書の提出
相続放棄申述書の提出は、家庭裁判所の窓口に直接持参する方法でも、郵送で送る方法のどちらでも可能です。
相続放棄申述書の提出に際しては以下の添付書類を一緒に提出する必要があります。
<共通>
- ①被相続人の住民票の除票又は戸籍附票
- ②相続を放棄する相続人の戸籍謄本
<放棄者が被相続人の配偶者の場合>
- ③被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
<放棄者が被相続人の子供またはその代襲者の場合>
- ③被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- ④放棄者が代襲相続人の場合は、被代襲者である被相続人の子の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
<放棄者が被相続人の直系尊属の場合>
- ③被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- ④被相続人の子が既に亡くなっている場合には、その方の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)。
- ⑤被相続人の直系尊属で既に亡くなっている方がいる場合にはその方の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
<放棄者が被相続人の兄弟姉妹の場合>
- ③被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- ④被相続人の子が既に亡くなっている場合には、その方の出生から亡くなるまでの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)。
- ⑤被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- ⑥被相続人が兄弟姉妹の代襲相続人の場合には、被代襲者(代襲者の親、被相続人の兄弟姉妹)の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
照会書
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると、家庭裁判所から照会書が送付されます。
これは、相続放棄が本当に本人の意思に基づいて提出されたこと等を確認するものです。
この照会書に対して回答書を提出すると、相続放棄の申述の内容について審理がなされることになります。
相続放棄申述受理通知書
相続放棄に問題がないと判断されると、相続放棄が受理されます。
相続放棄の申述が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付されます。
基本的には、これで相続放棄の手続きは終了します。
ただ、被相続人が債務を負担していた場合などには、別途、相続放棄申述受理証明書を家庭裁判所に申請して取得し、これを債権者に提出するなどして、自らが相続を放棄していて、債務を承継しないということ証明する必要があるかもしれません。
この相続放棄申述受理証明書は放棄者が家庭裁判所にその交付を申請する必要があります。
相続放棄の撤回について
相続放棄は、一度してしまうと、これを撤回することはできません(民法第919条第1項)。
たとえば、債務超過と思って相続放棄したが、その後確認したところ、さらにプラスの財産が見つかり相続放棄自体を撤回したいと思ったとしても、もはやできないこととなるのです。
ですから、相続放棄をする際には、しっかり相続財産の内容を確認したうえで判断する必要があります。
相続放棄の期間は3ヶ月と短いので注意
相続放棄には、相続を知ってから3ヶ月と期間が決まっています。
「自分が相続人になった」ことが判明して、そこから3ヶ月以内に手続きを終わらせなればいけません。
ただし相続放棄するまでに、相続人の確定・死亡した方の財産調査・相続の割合について話し合いなども必要です。
さらに相続破棄は裁判所への書類提出が必要になるため、早めに取り掛からなければいけません。
相続を知って3ヶ月が過ぎてしまうと、相続を認めた扱いになります。
期限が過ぎた段階で「相続を放棄したい」と主張しても難しいので、必ず期限内で手続きを進めましょう。
相続破棄を弁護士に依頼するメリット
相続破棄は自分だけでも手続きできますが、なるべく弁護士に依頼した方が安全です。
下記では弁護士に依頼するメリットを紹介します。
期限内に手続きを終わらせられる
相続破棄には3ヶ月以内という期限があるため、なるべく早めに手続きを終わらせる必要があります。
ただし相続が始まると、財産の調査・相続人の確定・話し合いなど、やるべきことはたくさんあります。
加えて葬儀の手配なども必要なので、忙しい状況の中で裁判所へ出向き相続破棄の申し込みをしなけばいけません。
そこで弁護士に相続破棄の手続きを依頼すれば、面倒な書類の手配を任せられます。
相続に精通している弁護士なら、完全に任せられるため、スムーズな手続きができます。
自分で相続手続きを進めるのに不安を少しでも感じるなら、早めに弁護士依頼した方がいいでしょう。
相続破棄の期間延長を依頼できる
相続破棄の期間は3ヶ月以内と決まっていますが、手続きすれば期間延長も可能です。
例えば3ヶ月以内に財産の調査が終わらない場合は、裁判所に申立をして延長を認めてもらえます。
期間延長の依頼も弁護士に任せれば、スムーズでしょう。
裁判所への申立は必要な書類を準備して、抜かりのない書面作成が必須になります。
自分でやって間違うよりも、初めから専門家に依頼した方が確実です。
親族との交渉を任せられる
遺産相続では、親族との話し合いが必要になります。
誰がどのぐらいの遺産を相続するのか・自分は相続破棄したいけど他の親族はどうするつもりなのか?と決めることはたくさんあります。
遺産をめぐって親族で争いになるケースもあります。
そこで弁護士に依頼をしておけば、各自の希望を聞き落とし所を作って、交渉してくれます。
自分たちだけで話し合うと、感情的になったり仲が悪くなる危険性もあるため、弁護士に依頼した方がいいでしょう。
「弁護士に依頼すると、本気で戦うような気がして嫌だ」と思うかもしれませんが、交渉が難航する前に弁護士に依頼すれば、スムーズな話し合いができます。
むしろ親族間のトラブルを避けるために、弁護士への依頼がおすすめです。
まとめ
以上、どのような場合に相続放棄を選択する事が妥当か、そして、実際に相続放棄を行う場合の注意点、さらに、相続放棄の手続きの概要についてみてきました。
相続放棄は一度してしまうと、もはや撤回することができないので、相続財産の内容や遺言などの内容をきちんと確認してから判断する必要があります。
ただ、一方で、その行使には3か月以内という期間制限があるため、相続が開始されたときには速やかに相続財産を確認するとともに、遺言の有無等を確認する必要があります。
くれぐれも、判断が遅れることによって、過大な債務を抱え込むような事態になってしまったり、相続争いに巻き込まれることのないように気をつけましょう。
また、最終的に相続放棄をするか否かは相続人の判断になりますが、弁護士などの専門家に、具体的な事情の元における相続放棄のメリッと・デメリットを相談する事も有効だと思います。
必要に応じてそのような専門家の意見も参考にするといいでしょう。