この記事でわかること
- 生前の遺留分放棄の流れ、必要書類と費用
- 遺留分放棄のメリットとデメリット
- 遺留分放棄と相続放棄の違い
- 生前の遺留分放棄は撤回できるのか
- 生前の遺留分放棄の念書は有効か
遺留分とは、相続において法律で保障された最低限の取り分のことで、兄弟姉妹以外の相続人に認められています。
遺留分は遺言書よりも優先されるため、遺言書の内容を希望通りにしたい場合、親族に遺留分を放棄してほしい、と思うこともあるでしょう。
本記事では、生前に遺留分放棄できるケースや手続きの流れ、必要書類、メリットとデメリットなどを解説します。
また、一度放棄した遺留分を後に撤回できるのかなど、よくある疑問にもわかりやすく解説します。
生前の遺留分放棄について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
遺留分放棄は生前にできる?
遺留分は、被相続人がまだ生きている間、つまり生前でも放棄することが可能です。
ただし、生前の遺留分放棄を行うには、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
この許可は、誰に対しても無条件で認められるものではなく、主に次の3つの要件が判断基準になります。
- 遺留分の放棄が本人の自由な意思によるものであること
- 放棄の理由や必要性に合理性があること
- 放棄をする人が、それに見合った見返りを受けていること
たとえば、父の会社を長男に継がせるため、「全財産を長男に相続させる」という遺言書を作るケースがあります。
次男が遺留分の放棄を望み、生前に相当額の金銭を贈与されていれば、見返りの要件も満たされます。
このように条件がそろえば、家庭裁判所の許可が得られやすくなるでしょう。
生前に遺留分放棄する流れ
被相続人の生前に遺留分を放棄するには、相続人本人が家庭裁判所に申立てを行い、裁判所の許可を得る必要があります。
ここでは、遺留分放棄の流れと必要書類や費用について解説します。
生前の遺留分放棄の流れ
生前に遺留分を放棄する場合、まずは遺留分を放棄したい相続人が申立てを行うことから始まります。
申立先は、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
申立てに必要な書類をそろえて裁判所に提出すると、後日、家庭裁判所から照会書または審問期日の通知が届きます。
照会書が届いた場合は、その内容に対して回答を行います。
審問期日が指定されたときは、指定日に家庭裁判所で審問を受けましょう。
審問では、遺留分の放棄が申立人本人の自由な意思によるものかが確認されます。
あわせて、放棄の理由などについても裁判官から直接説明を求められるでしょう。
こうした照会や審問を経た上で、家庭裁判所が遺留分放棄の可否を判断し、許可または不許可の結果が申立人に通知されます。
無事に許可が下りれば正式に遺留分放棄が成立し、審判書謄本が送られてきます。
生前の遺留分放棄の必要書類と費用
遺留分放棄の申立てには、主に以下の書類が必要です。
- 遺留分放棄許可申立書
- 被相続人になる人の戸籍謄本
- 申立人の戸籍謄本
- 被相続人になる人の財産目録
場合によっては、遺留分放棄の理由を記載した上申書を添付することで、審査がスムーズに進むことがあります。
必要書類に不明な点がある場合は、専門家に相談しながら準備を進めると安心です。
遺留分放棄の費用は、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手代です。
切手代は裁判所によって異なるため、事前に確認しましょう。
書類の提出は、裁判所の窓口に持参するほか、郵送で行うことも可能です。
郵送する場合は、書留などの受け取り確認ができる方法を利用しましょう。
遺留分放棄のメリット・デメリット
遺留分放棄の最大のメリットは、遺言書の内容が優先されやすくなることです。
その結果、被相続人の希望に沿った形で財産が分割される可能性が高くなるでしょう。
たとえば、特定の相続人に多くの財産を残したいときや事業承継を円滑に進めたい場合に有効です。
また、あらかじめ遺留分を放棄してもらうことで、相続発生後の遺留分侵害額請求によるトラブルを防ぐ効果も期待できます。
一方で、デメリットもあります。
遺留分を放棄した相続人は、遺留分侵害額請求を行う権利を失い、後からその権利を主張することはできません。
また、家庭裁判所への申立てや審問など、一定の手間や時間がかかり、状況によっては許可が下りない可能性もあります。
なお、遺留分を放棄していても、被相続人が亡くなった後は相続人の立場は残ります。
そのため、他の相続手続きには引き続き関与する必要があり、相続手続きから逃れられるわけではありません。
生前の遺留分放棄に関するよくある質問

「遺留分放棄と相続放棄はどう違うのか?」「遺留分放棄の念書は有効なのか?」といった質問も多く寄せられます。
遺留分を放棄した後、気が変わったらそれを撤回できるのかも気になるポイントといえるでしょう。
ここでは、こうしたよくある疑問について解説します。
遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄と相続放棄の最も顕著な違いは、相続権があるか否かです。
遺留分放棄とは、最低限の取り分とされる遺留分だけを放棄する手続きで、相続人としての立場は失われません。
つまり、遺留分を放棄しても、遺言や遺産分割協議によって財産を受け取ることは可能です。
また、遺留分放棄は生前でも死後でも行うことができますが、生前に行う場合は家庭裁判所の許可を得る必要があります。
一方、相続放棄は、被相続人の死後に行う手続きです。
相続放棄を希望する場合は、死亡後3カ月以内に、家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄は、相続人としての資格そのものを放棄することを意味します。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(借金)も含めて、すべての相続を放棄することになります。
遺留分放棄の念書は有効?
念書とは、作成者が約束した内容を書き記し、相手に提出するものです。
被相続人が生きている間に作成された生前の遺留分放棄の念書には、法的な効力はありません。
前述したように、生前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可を受けることが法律で定められています。
この制度は、被相続人が相続人に対して一方的に放棄を強いることを防ぐために設けられたものです。
家庭裁判所の許可を得ずに作成された念書は、たとえ署名や押印があっても無効とされます。
そのため、念書を書いたとしても、相続開始後に遺留分を請求することができます。
一方で、被相続人が亡くなった後に作成された念書は、本人の自由な意思に基づいている限り、有効とみなされる場合があります。
ただし、その内容や作成の経緯によっては効力が争われる可能性もあるため、慎重に対応する必要があります。
生前の遺留分放棄は撤回できる?
生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄した場合、原則として撤回はできません。
ただし、放棄の原因となった事情に重大な変化が生じた場合には、例外的に撤回が認められる可能性があります。
撤回を希望する場合は、放棄の許可を出した家庭裁判所に対し、「遺留分放棄許可の取消し」を申し立てます。
その際、撤回を求める理由や背景をできるだけ具体的に申立書に記載しましょう。
状況によっては、追加の資料提出や事情説明を求められることもあります。
家庭裁判所がその理由に合理性があり、放棄の継続が不合理・不相当であると判断すれば、撤回が認められることがあります。
撤回は必ずしも許可されるわけではなく、最終的な判断は家庭裁判所に委ねられます。
そのため、生前の遺留分放棄は慎重に検討した上で行いましょう。
まとめ
遺留分放棄の手続きは、家庭裁判所が求める書類や資料の内容などケースごとに異なる場合があります。
そのため、ご自身だけで手続きを進めると、思わぬリスクが生じるおそれがあります。
家族に遺留分の放棄を希望する場合は、まずは相続や遺留分に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
専門家が入ることで手続きがスムーズになるだけでなく、家族にも安心感が生まれ、トラブルの予防にもつながるでしょう。















