この記事でわかること
- 生命保険金が遺留分の対象に含まれるか含まれないかがわかる
- 生命保険金以外に遺留分の対象となるのはどんな財産かがわかる
- 遺産相続を弁護士に依頼するメリットがわかる
生命保険金は、原則として遺留分の対象には含まれませんが、例外的に含まれる場合もあります。
生命保険金が遺留分に含まれるかどうかで、遺留分の額は大きく左右されます。
そのため、相続開始時に被相続人が被保険者となっていた生命保険金があった場合、遺留分に含まれるか含まれないかをしっかり理解しておくことが大切です。
この記事では、生命保険金が遺留分の対象となりうるのはどんなケースかについて解説していきます。
また、生命保険金以外に遺留分の対象となる財産についても解説しますので、遺留分について詳しく知りたい方は参考にしてください。
目次
遺留分とは
遺留分とは、法律によって決められている相続財産の最低限の取り分のことです。
遺留分の割合は、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。
被相続人の兄弟姉妹は遺留分の対象ではありません。
法律によって遺留分が認められていることによって、直系尊属にある相続人が遺留分に満たない財産しかもらえない場合、他の相続人や第三者に対して、遺留分に相当する金銭を支払うよう請求できます。
たとえば、相続人が長男と二男のみだったとします。
二男にのみ全財産を渡すという遺言があった場合、長男は遺留分として遺産の4分の1に相当する金銭を支払うよう二男に求めることができます。
また、第三者(愛人など)に全ての財産を遺贈するという遺言があったとしても、配偶者には相続財産の4分の1が遺留分として認められているので、その分に相当する金銭を支払うよう請求できます。
生命保険金は原則として遺留分の対象ではない
生命保険金は、原則として遺留分の対象にはなりません。
生命保険金は、保険金を受け取る人の固有財産であり、被保険者である被相続人の相続財産を構成しないと考えられているからです。
この点で、生命保険契約によって発生する死亡保険金は遺留分の計算には含まれないのが原則であるという最高裁判決があります。
平成16年10月29日の最高裁判決
「被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。」
上記の判決によると、「死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらない」とあり、生命保険金は原則として遺留分の対象外となることが理解できます。
この判決の趣旨に基づいて、具体例で考えてみましょう。
たとえば、相続人が長男と二男の2人で、二男に全ての財産5,000万円を相続させると遺言書に書いてあったとします。
しかし、そのうちの2,000万円は生命保険金です。
この場合、長男の遺留分は、保険金2,000万円を除いた3,000万円×1/4の750万円となります。
もし、保険金が遺留分に含まれていたとすると、長男の遺留分は、5,000万円×1/4の1,250万円となり、500万円ほど差が生じることになります。
このように、より多くの財産を渡しておきたい相続人を生命保険金の受取人にしておくことで、財産を渡したくない相続人の遺留分を生前から減らしておくことができるのです。
生命保険金が遺留分の対象になるケース
しかし、どんな場合でも生命保険金が遺留分の対象にならないかというと、そうではありません。
先ほどの最高裁判決にも、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる」とあったように、例外的に生命保険金が遺留分の対象になることがあり得ると判例も認めています。
では、具体的にどんなケースで、生命保険金が遺留分の対象となるのでしょうか。
生命保険金が遺産全体のかなりの割合を占めている場合には、他の相続人との間に著しい不公平が生じるため、遺留分の対象となると判断される可能性があります。
たとえば、相続人が長男と二男の2人だったケースで考えてみましょう。
やや極端な例ですが、被相続人の相続財産が100万円で、二男のみが受取人になっている生命保険金が1億円だったとします。
このようなケースでは、生命保険金が不相当に過大であると評価される可能性は高いといえるでしょう。
生命保険金が遺留分として認められると、長男は相続財産100万円に生命保険金1億円を加えた1億100万円相当を遺留分の計算に含めることができるようになります。
ただし、生命保険金が遺産全体のかなりの割合を占めている場合でも、受取人である相続人が、生前被相続人の介護を一手に引き受けていたなど、特別の事情がある場合には、遺留分の対象とならないこともあります。
生命保険金が遺留分の対象となるかどうかは、事案ごとに様々な事情を考慮して総合判断されることに注意しましょう。
遺留分の対象になる財産
生命保険金について考えてきましたが、生命保険金以外で遺留分の対象となる財産にはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、相続開始時の財産があります。
相続開始時の財産とは、被相続人が相続開始時に持っていた財産で、遺贈された財産も含まれます。
また、生前に贈与した財産も遺留分の対象です。
相続人以外に対する生前贈与は、相続開始前の1年間にされた生前贈与が遺留分の対象となります。
相続人に対する生前贈与は、特別受益とされる場合、相続開始前の10年間にされた生前贈与が遺留分の対象です。
たとえば、生前、被相続人から結婚資金として金銭を贈与された場合、特別に利益を受けたといえるため、特別受益に該当します。
この贈与が相続開始の10年内にされた場合、特別受益となり、遺留分の対象となるというわけです。
遺産相続を弁護士に相談するメリット
遺産相続には、遺留分をはじめとした複雑な制度が沢山あるため、弁護士に相談することで多くのメリットを得られます。
ここからは、代表的な2つのメリットについて紹介します。
遺産相続が不公平な場合に遺留分侵害額ができるか確認してもらえる
遺産を相続した結果、他の相続人と比べて財産が明らかに少ないといったケースがあるかもしれません。
遺産相続に納得がいかない場合、他の相続人との交渉や手続きを自分で行うこともできますが、なかなか一筋縄ではいきません。
この記事で考えてきたように、生命保険金は原則として遺留分には含まれませんが、例外的に遺留分の対象となる場合もあります。
しかし、この点についての裁判例はあまり多くなく、どのようなケースで遺留分に含まれるかは、事案によっても判断が分かれます。
弁護士に相談すれば、生命保険金が遺留分の対象になるケースなのか、法律のプロの観点からアドバイスをもらえます。
また、遺留分の行使には、他の相続人とのハードな交渉を行う必要がありますが、弁護士に依頼すれば、弁護士が相続の不公平を是正するために手続きを進めてくれます。
遺産相続が不公平だと感じた場合は、一度弁護士に相談してみましょう。
相続対策・遺留分対策を確実に行える
生前の相続対策を行う人も増えています。
遺留分対策を含めた相続対策をしっかり行っておけば、相続発生後に、相続人間で争いが起きるのを防ぐことができます。
しかし、各相続人の遺留分の計算は自力でできたとしても、どの財産が遺留分に含まれるかどうかを判断するのは容易ではありません。
自己判断で生前対策を行った結果、相続開始後にトラブルが発生してしまうことも十分に考えられます。
この点で、事前に弁護士に相談しておくと、確実な生前対策を行うためのアドバイスをもらえます。
また、相続発生後も、生前対策に関わっていた弁護士を交えることで、より円滑に相続手続きが進む可能性が高くなります。
生前の相続対策を確実に行っておきたいなら、相続を専門とする弁護士に相談してみましょう。
まとめ
生命保険金は原則として遺留分には含まれませんが、相続人間に著しい不公平が生じる場合は、例外的に遺留分に含まれることがあります。
しかし、生命保険金が遺留分に含まれるかどうかは、事案ごとに異なり、自分で判断することは簡単ではありません。
また、この点に関する裁判例が十分蓄積されていないため、議論が尽くされていないというのも現状です。
自分では無理かと思っていたが、実際は生命保険金が遺留分に含まれるというケースもあるかもしれません。
もし、相続発生時に生命保険金が見つかった場合は、一度弁護士に相談することを検討してみましょう。