この記事でわかること
- 秘密証書遺言の特長と、他の遺言形式との違い
- 遺言を秘密証書遺言にすることのメリットやデメリット
- 秘密証書遺言を作成する流れや、作成時の注意点
遺言書と聞くと「一字一句を自分で手書きするのが面倒そう」とか「生きている間に内容を知られたくない」などと思う方は多いでしょう。
しかし、秘密証書遺言という形式なら、パソコンで作成しても問題なく、死後に開封されるまで中身を秘密にすることができます。
このページでは、秘密証書遺言の概要とメリット・デメリット、作成の流れやその注意点について詳しく解説します。
秘密証書遺言とは
遺言は、本人が亡くなった後ではその内容の真意を確認することができないため、法律で形式や要件が厳格に定められています。
秘密証書遺言は、民法に規定されている3つの遺言形式のひとつで、他の形式として自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
秘密証書遺言は「内容が誰にもわからない」遺言
秘密証書遺言はその名の通り、内容を秘密にしたままその存在の証明を受ける遺言の形式です。
本人が作成した遺言は、封筒に入れて封印がされた状態で公証役場に持ち込まれるので、誰にも中身を見られることがありません。
また、公証人から存在の証明を受けた秘密証書遺言は、家庭裁判所が検認を行うまで開封されないため、第三者による偽造や変造を受けにくいのが特徴です。
秘匿性がある点で公正証書遺言と異なる
公証人が関わる遺言の形式には、秘密証書遺言の他に公正証書遺言があります。
公正証書遺言は、本人が証人2名と公証人の前で遺言の内容を口述し、それを公証人が文章にまとめる、という流れで作成されます。
証人と公証人には遺言の内容がすべて知られてしまうため、公正証書遺言は秘密証書遺言よりも秘匿性に劣る、と言えるでしょう。
偽造防止の観点では自筆証書遺言より優位
自筆証書遺言は、手数料も証人の手配も必要なく、公正証書遺言とともに多く使われている遺言書の形式です。
遺言書は法律によって厳格に要件が定められており、秘密証書遺言はパソコンや代筆での作成が認められている一方、自筆遺言証書は本文の自筆が必須です。
また、家庭裁判所の検認前に開封されても遺言書の効力には影響がないため、秘密証書遺言に比べると偽造や変造のリスクが心配されます。
【補足】:自筆証書遺言のリスク回避には保管制度の活用を
自筆証書遺言については、2020年7月から「自筆証書遺言保管制度」という法務局のサービスが利用できるようになりました。
法務局が自筆証書遺言を管理・保管してくれるこの制度では、遺言書の偽造・変造や破棄、紛失といったリスクを避けることができます。
また、希望すれば本人の死亡が確認されたときに指定した人へ遺言書の存在を通知してもらえるので、遺言書が眠ったままになることもありません。
秘密証書遺言を作成するメリット・デメリット
先述したように、遺言書の3つの形式にはそれぞれに一長一短があるため、遺言書をどの形式で作成するかは重要な問題です。
ここからは、秘密証書遺言の持つ特徴を、メリットとデメリットに分けてさらに詳しく解説していきます。
秘密証書遺言のメリット
遺言書の書き方についての書籍などでは「あまり使われない形式」として解説を省略されることすらある秘密証書遺言ですが、この形式には次のようなメリットがあります。
遺言の内容が第三者に知られない
秘密証書遺言は、本文をしたためた人にしか内容がわからないため、3つの形式の中では最も秘匿性が高い遺言書です。
公証役場に秘密証書遺言を持ち込むときには既に封筒に入れて封印も押しているので、公証人や証人は「遺言書が本人のものであること」の確認しかできません。
遺言の内容を絶対に誰にも知られたくない、と考える人にとっては最適な遺言形式であると言えるでしょう。
遺言者の自筆である必要がない
秘密証書遺言は、自筆証書遺言のように本文の自筆を要件としていないので(民法第970条)、パソコンで作成しても、他人の代筆によるものでも有効です。
そのため、手先が不自由で自ら長い文面を書き起こすことが困難な方にとっては、メリットを享受できる遺言形式であると言えます。
ただし、署名は自筆でなければならず、封筒への封印と同じ印鑑を押印しなくてはならない点にも注意が必要です。
偽造・変造のリスクを避けることができる
秘密証書遺言は、したためた遺言を封筒に入れた後に封印を押印するので、中身の偽造や変造を行うことは極めて困難な遺言形式です。
しかも、秘密証書遺言は開封前に家庭裁判所による検認を受ける必要があり、封印と併せて中身の偽造や変造のリスクを二重に避けることができます。
秘密証書遺言のデメリット
一方で、秘密証書遺言は次のような様々なデメリットも抱えています。
法的有効性に不備が残ることが多い
秘密証書遺言は、遺言の書き方に詳しい人から助言をもらわない限り、誰からの確認を受けることもなく封印されます。
そのため、開封してみたら要件に不備があって法的に有効でなかった、というパターンが多く見られる遺言形式です。
普段から親族同士の仲がよくない場合、遺言が無効となれば相続人全員で遺産分割協議を行わなければならず、相続で揉め事になる恐れがあります。
公証役場での手続きに費用と手間がかかる
秘密証書遺言を作成するには、公証人に支払う手数料が11,000円かかります。
また、遺言書が自身のものであることを証明してくれる証人を2名手配して、公証役場へ同行してもらう必要があります。
証人を依頼できる人を探すことが難しい場合には、公証役場に相談すれば対応をしてもらうことが可能です。
遺言書を紛失する恐れがある
秘密証書遺言は、作成手続きが終わった後に本人が持ち帰り保管しなければならないため、紛失をしてしまうリスクはどうしても避けられません。
また、作成記録は公証役場に残るものの、秘密証書遺言が作られた旨を遺族に通知する制度はなく(公正証書遺言も同様)、遺言書が開封されずに終わってしまう可能性もあります。
家庭裁判所の検認の手続きに時間がかかる
家庭裁判所による検認は、偽造や変造を防止できる一方、手続きには1カ月以上の期間を要します。
遺言書が発見されてから遺族に遺言内容が伝わるまでに手間と時間が取られる、というのは大きなデメリットと言えるでしょう。
なお、検認は遺言書を開封する前に行う必要があることや、検認では遺言書の有効性は判断されないという点にも注意が必要です。
秘密証書遺言を作成する流れ・必要書類
ここまでで、秘密証書遺言の特長を理解していただけたでしょう。
では、秘密証書遺言を作成する手順はどのような流れになるのでしょうか。
順を追って見ていきましょう。
遺言書の本文を作成する
遺言は、自分の死後に財産をどのように処分したいか、などの希望を伝える人生最後の意思表示です。
相続は「法定相続人」という民法で定められた範囲の親族の中で行われますが、遺言では友人などの第三者に遺産を分け与えることもできます。
自筆証書遺言と違い、秘密証書遺言は本文を自筆する必要はなく、パソコンで作成しても、信頼できる人に代筆してもらうなどしても無効にはなりません。
ただし、秘密証書遺言を自筆によらず作成する場合には、すべてのページに署名捺印を行う必要があります。
遺言書を入れた封筒に封印をする
遺言書の記載内容と自筆の署名、捺印を確認したら、遺言書を封筒に入れ、糊付けしたフラップと胴にまたがるように封印を押します。
封印に使用する印鑑は、遺言書の本文に用いたものと同じでなければなりません。
2名の証人を連れて公証役場へ遺言書を持参
遺言書の準備ができたら、その遺言書が自らのものであることを証明してくれる人を2名連れて、事前予約を入れて公証役場に遺言書を持参します。
このとき、相続人となる人や公証役場の関係者などは秘密証書遺言の証人になれないので、遺言の内容に利害関係がない人を証人に選ぶ必要があります。
証人になってくれる人が身の回りに見当たらない場合には、公証役場に手配を依頼することもできるので、相談するのがよいでしょう。
公証役場での手続き後は遺言書を自宅で保管
公証人による説明と遺言書の存在の確認を受け、遺言書の入った封筒に封紙が貼付されたら、秘密証書遺言は完成します。
公証役場での手続が完了した後は、秘密証書遺言は自宅で大切に保管することになります。
秘密証書遺言を作成するときの注意点
遺言は、亡くなった後で修正や補足の説明ができませんから、作成には慎重に取り組まなければなりません。
残される家族が円滑に相続手続きを進められるよう、秘密証書遺言を作成するときには次のようなことに注意しましょう。
財産については特定できる表記にする
先述したように、秘密証書遺言は代筆を依頼した場合を除いて、本人以外は誰もその内容を把握することができない遺言形式です。
そのため、遺言書に示された財産の表記が曖昧だと、故人の遺志を正確に反映した財産の分配ができません。
銀行預金であれば金融機関の支店名や口座番号、不動産であれば登記簿上の地番など、遺言書では譲り渡す財産を特定できるように表記する必要があります。
借財も含めてすべての財産の受遺者を指定する
遺言書に記載のない遺産については、すべての相続人による遺産分割協議でその分配を決めることになります。
遺産分割協議が円滑に進まない恐れがある場合は、すべての財産について余さず受遺者を指定するようにしましょう。
このとき、借金やローンなどマイナスの財産があるときは、それについても包み隠さず引き受け手を指定しておく必要があります。
また、兄弟姉妹を除く法定相続人には遺留分という「相続を保障された一定の割合」があり、財産の分配に当たっては遺留分への配慮も欠かせません。
遺言執行者を指定する
遺言書が法的に有効であれば、原則として故人の財産は遺言書に沿って相続人等へ分配されることになります。
しかし、実際に遺言書の内容通りに遺産を分割するには相続人全員の同意や協力が必要ですし、事務手続きも複雑になりがちです。
そこで、相続人を代表して遺言の内容を実現するための一切の手続き取り仕切る人を、遺言執行者として定めます。
故人の意思に沿った相続が円滑かつ迅速に行われるよう、あらかじめ受任者の同意を得た上で、遺言書に遺言執行者の指定をしておくことが重要です。
可能であれば本文は自筆する
秘密証書遺言はパソコンでの作成や代筆によるものでも有効ですが、できるだけ本文を自筆することをお勧めします。
作成した秘密証書遺言が何らかの事情で無効になってしまったとしても、自筆の遺言書であれば、「有効な自筆証書遺言」として生きる可能性があるからです。
このようなケースは、たとえば以下のような場合が挙げられます。
秘密証書遺言が無効になる場合 | 自筆証書遺言としては有効である理由 |
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1.封印の印鑑が本文に押印した印鑑と異なる場合 | 自筆証書遺言は封印が不要なので影響なし |
2.証人になることができない人(相続人等)を証人にしてしまった場合 | 自筆証書遺言は証人が不要なので影響なし |
3.家庭裁判所の検認前に開封されてしまった場合 | 開封した者は科料の対象になるが、自筆証書遺言としては有効性に影響なし |
大切な家族へのメッセージを付言事項に遺す
遺言書には、遺産の具体的な配分方法を示した本文の他に、残される家族へのメッセージを「付言事項」として書き添えておくことができます。
たとえば、遺言書の内容を定めた経緯や遺品となる品々についての思い出、お世話になった人への感謝などを書いてもよいでしょう。
付言事項には法的な拘束力はありませんが、相続が円満にまとまってほしいという想いを遺言書に添えることには、大きな効果が期待できます。
まとめ
様々な事情により「生きている間は遺言書の内容を絶対に秘密にしておきたい」と望む方はいらっしゃるでしょう。
秘密証書遺言なら、遺言書があることは公証人に証明してもらいつつ、その内容を誰にも知られずに人生の最後を迎えられます。
ここで紹介したメリットやデメリット、作成における注意点を参考にして、秘密証書遺言の活用を検討してみてください。
秘密証書遺言の作成に際して不安なことがあれば、弁護士など身近な法律の専門家に相談してみるとよいでしょう。