この記事でわかること
- 相続における遺留分について理解できる
- 非嫡出子の相続割合や遺留分割合がわかる
- 認知の有無によって変わる非嫡出子の相続権がわかる
- 認知の方法や遺留分侵害額の請求手続きがわかる
非嫡出子(ひちゃくしゅつし)とは婚姻関係のない男女間に生まれた子であり、隠し子や婚外子(こんがいし)とも呼ばれます。
一方、法律上の婚姻関係にある男女の子を嫡出子いい、当然のこととして親が亡くなった場合は第1順位の相続人になります。
夫(父親)に非嫡出子がいたとしても、家族には知らされていない場合が多く、遺言などによって非嫡出子の存在を知るケースもあるでしょう。
非嫡出子の登場は家族にとって想定外ですが、条件を満たせば嫡出子と同じく第1順位の相続人として相続権を持ちます。
相続人となった非嫡出子には法定相続分や遺留分も保障されますが、もし遺留分が侵害されていたらどのように請求するべきでしょうか?
また非嫡出子に保障される遺留分はどれだけの割合になるでしょうか?
今回は非嫡出子の相続権や相続割合、遺留分の侵害額請求について詳しく解説します。
目次
遺留分とは
相続が発生した際、侵害されることなく必ず取得できる財産が「遺留分」です。
つまり「これだけは必ずもらえる財産」であり、侵害されている場合は、侵害している相手(多くもらいすぎの相続人)に返還請求できます。
遺言書には遺留分を知らずに書かれたものもあり、財産のほとんどが正妻とその子に渡ってしまう場合もあります。
非嫡出子には不利な状況といえますが、条件次第では侵害された遺留分を取り戻せるため、権利としてしっかり主張するべきでしょう。
またかつての遺留分は現物返還でしたが、2019年7月の法改正により金銭を請求できるようになっており、請求しやすく返還が受けやすくなっています。
では非嫡出子の遺留分がどれくらいになるのか、相続割合とともに解説します。
嫡出子と非嫡出子の相続割合・遺留分割合は同じ
法定相続人には民法によって定められた相続割合があり、相続人が配偶者と子であれば、それぞれ1/2ずつになります。
また最低保障額になる遺留分は法定相続分の1/2であり、相続人が配偶者と子であればそれぞれ1/4、子1人であれば1/2になります。
非嫡出子も場合によっては嫡出子と同じ相続割合になり、遺留分も同一割合で保障されます。
かつては嫡出子の1/2でしたが、2013年9月の判例によって憲法違反とされたため、同年9月4日からは嫡出子とまったく同じ扱いになりました。
法改正以前の決着事案が覆ることはありませんが、非嫡出子が不利益を被らないよう法整備も進んでいるということです。
認知がないと非嫡出子に相続権はなし
嫡出子と非嫡出子の相続割合や遺留分は同じであると解説しましたが、父親の認知が前提となります。
認知されていない非嫡出子の戸籍は父の欄が空白であり、血のつながりはあっても法律上の親子(父子)関係ではないため、相続権がありません。
では、認知はどのようなタイミングや方法によって行われるのでしょうか?
任意認知
父親が「間違いなく自分の子だ」と認めることを任意認知といい、必要書類を市町村役場に提出すると、子の戸籍に父親の氏名が記載されます。
基本的に任意認知は父親の意思のみで行えますが、子(非嫡出子)が成人している場合は本人の承諾が必要であり、胎児の場合は母親の承諾が必要です。
ただし、任意認知によって父方の戸籍に移るわけではなく、母親が出生届を出していれば母方の戸籍に入っているため、名字も母方姓のままです。
遺言認知
何らかの事情により生前に認知できない場合、遺言書によって認知する方法もあります。
遺言認知では非嫡出子を認知する旨を記載し、子の母親や本人の氏名、住所・生年月日、戸籍筆頭者なども合わせて記載します。
また遺言認知には遺言執行者の選任も必要であり、家庭裁判所へ申立を行います。
遺言認知は遺言者の死亡とともに効力が発生し、遺言執行者は就任後10日以内に役所へ届出するようになっています。
強制認知
裁判認知とも呼ばれますが、父親が認知してくれない場合、子または母親が父親に対して認知を求める手続きです。
いきなり訴訟するのではなく、まず家庭裁判所へ認知調停を申し立て、調停委員が間に入って話し合いを進めます。
合意に至った場合は裁判所によって「合意に相当する審判」が行われ、認知の効力も発生しますが、調停不成立の場合は裁判所へ訴訟提起します。
死後認知
任意認知も遺言認知もせずに父親が死亡した場合、死後3年以内であれば裁判所へ訴訟提起できます。
訴訟できるのは子または母親、もしくは法定代理人であり、検察官を相手(被告)とした訴訟になります。
認知された場合、すでに遺産分割協議が終わっていても他の相続人に金銭支払いを請求でき、非嫡出子の存在を知った上で行われた遺産分割協議は無効になります。
ただし、父子関係を証明するためにDNA鑑定を行う場合もありますが、正妻や嫡出子の協力を得られないケースもあります。
どうしてもDNA鑑定が必要な場合は弁護士に相談し、間に入ってもらう方がよいでしょう。
非嫡出子が遺留分侵害額請求をする方法・必要書類
認知された非嫡出子は父親の相続人になるため、一般的な方法で遺留分の侵害額を請求できます。
遺留分侵害額請求はまず相続人同士の話し合いからスタートし、必要に応じて調停なども行いますが、不安がある場合は相続弁護士に相談しておくとよいでしょう。
なお、遺留分侵害額請求には以下のような期限があります。
- ・遺留分の侵害を知った日から1年間
- ・相続開始から10年間
時効が成立しないよう早めに準備し、手続きに必要な書類も漏れがないように気を付けてください。
相続人同士で話し合う
遺留分侵害額請求は相続人同士の話し合いから始めてください。
とはいっても、正妻や嫡出子からみると自分たちの取り分が減ってしまうため、非嫡出子の登場は歓迎できるものではありません。
正当な権利の行使ではあるものの、相手が態度を硬化させると話し合いに応じてもらえない可能性もあるため、敵対心をあおらない冷静な対応も必要です。
また1回の話し合いで決着するとは限らず、長期化する恐れも十分に考えられます。
遺留分請求の時効も考慮し、長引きそうな場合は早めに弁護士などへ相談してください。
内容証明郵便の送付
話し合いの途中であっても、一度内容証明郵便を相手に送付しておきましょう。
遺留分請求の話し合いがまとまらない場合、調停へ移行する可能性もありますが、内容証明郵便を送れば消滅時効が6か月間猶予されます。
内容証明郵便を送付する際の注意点ですが、法的な強制力はないため送付によって決着が早まるわけではありません。
しかしきちんと受け取ったか、あるいは無視(受取拒否)しているかなど、相手のスタンスをみる目安にはなります。
文面もネット上に多くの記載例がありますが、今後のやりとりをスムーズにするため、作成は弁護士へ依頼した方がよいかもしれません。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
話し合いが平行線となり決着しない場合、遺留分侵害額の請求調停を家庭裁判所へ申し立てます。
請求調停は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てますが、当事者同士の合意があれば他の家庭裁判所でも申立できます。
調停とは話し合いによる決着を目指すものであり、裁判官1名、調停委員2名が当事者から事情を聞き、助言や解決策を提示します。
当事者同士が顔を合わせることはなく、小会議室のような場所で話し合いが進むため、あまり構える必要はないでしょう。
なお、申立には次に解説する書類等が必要になります。
遺留分侵害額の請求調停に必要な書類
請求調停を申し立てる場合は以下の書類等が必要となり、調停委員が指示する資料などを揃える場合もあります。
- ・収入印紙1,200円分
- ・連絡用の郵便切手
- ・申立書とその写し(相手方の人数分)
- ・父親の出生から死亡時までの連続した戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・遺産の目録
- ・遺言書または遺言書の検認調書謄本の写し
- ・遺産に関する証明書(預貯金通帳の写しや不動産登記事項証明書など)
調停を有利にするためには証拠となる資料も重要であり、遺留分侵害の発生経緯や、侵害額の算定根拠となる資料も揃えておくとよいでしょう。
なお、非嫡出子がすべての書類を準備するのは困難ですが、遺産目録や証明書類などは遺言執行者が業務として準備してくれます。
遺留分侵害額の請求訴訟を起こす
調停による解決が見込めない場合は訴訟しか手段がなく、請求額によって以下のように裁判所が変わります。
- ・140万円以下の請求額:簡易裁判所
- ・140万円以上の請求額:地方裁判所
遺留分侵害額の請求者は原告となり、証拠書類とともに訴状を裁判所へ提出します。
訴状などの写しは呼出状とともに被告(遺留分を侵害している相手方)へ送付され、答弁書などの書類を提出して第1回期日を迎えます。
その後は追加書類提出などの指示もありますが、証拠書類の収集は初心者にとって難易度が高く、指示された書類が具体的に何なのか分からない場合もあります。
訴訟提起する場合は弁護士の協力が欠かせないため、準備段階から相談しておくとよいでしょう。
まとめ
民法改正によって非嫡出子の遺留分も嫡出子と同じになりましたが、認知によって相続権を持たなければ意味がありません。
父親がどのタイミングで認知するかは分かりませんが、認知しないまま死亡しても次の手があるため、遺留分獲得まで諦めないことが肝心です。
しかし父親の正妻や子が非嫡出子に協力的というケースは少なく、話し合いに応じなかったりとトラブルへ発展する事例も多々あるようです。
遺留分を確実に取り戻すためには法律職への相談が近道になりますが、弁護士や司法書士、税理士などの専門家を個別に探すのは大変な作業になるでしょう。
相続問題の解決は、ぜひ各士業が在籍している法律事務所へ相談してください。