この記事でわかること
- 現金手渡しで生前贈与するリスクがわかる
- 現金手渡しで生前贈与する方法がわかる
- 現金手渡し以外で生前贈与する方法がわかる
相続税の節税でよく知られているのが生前贈与です。
しかし、その方法を間違えると生前贈与とみなされず、結局相続税の課税対象とみなされることがあります。また、控除や特例をしっかり理解して手続きをしないと、多額の贈与税が課税されることもあります。
今回は、生前贈与できる色々な財産の中から、現金の生前贈与と生前贈与の節税効果について説明します。
目次
現金手渡しで生前贈与する3つのリスク
生前贈与を現金手渡しで行う場合、いくつか注意すべき点があります。
定期贈与とみなされる可能性がある
たとえば、毎年プレゼントとして現金を手渡しで生前贈与をしている場合、税務署に『定期贈与』とみなされて総額に対して贈与税が課される可能性があります。
定期贈与というのは、たとえば『1000万円を10年に分けて毎年100万円ずつ贈与する』といったような取り決めをして、そのとおり手続きを履行することです。
定期贈与とみなされると、贈与を開始した初年度に総額の贈与がされたとみなし、贈与税が課されます。
そのため、生前贈与をする場合は、毎年同じ時期に贈与をするのではなく、毎年異なった時期に贈与をし、その都度贈与契約書を作成した方が、定期贈与とみなされる可能性は低くなるでしょう。
亡くなる3年前の生前贈与は相続税の課税対象となる
生前贈与をする場合、相続税対策で亡くなる直前に贈与をする人もいますが、被相続人が亡くなる前3年以内にした生前贈与については、相続財産に持ち戻されて相続税の課税対象となります。
ただし、すべての生前贈与が対象となるわけではなく、相続や遺贈を原因として相続財産を取得した法定相続人に対する生前贈与のみが対象となります。
なお、この制度は、2023年の税制改正により、亡くなる前7年以内の生前贈与について、相続財産に持ち戻されて相続税の課税対象となります。
この措置は、2024年1月1日以降の贈与により取得する財産に関わる相続税について適用されることになっています。
贈与を原因とした財産移転である証明ができないと、相続税が課税される危険性がある
相続が発生すると、税務署は被相続人の預金を確認する権限があります。
そこで、被相続人の出金に使途不明なものが発見されると、それは相続財産であるとみなし、相続税の課税対象とする場合があります。
現金手渡しで生前贈与をする場合、不動産などと違いそれを公示する制度がないため、贈与契約書を作成するなど証拠となる書類を準備しておかないと、たんす預金のための出金とみなされる可能性があります。
現金手渡しでも税務署に隠すことはできない
銀行振込による生前贈与と異なり、現金手渡しであれば税務申告をしなくてもバレないのではないかと考えてしまいますが、実際には隠し通すことは難しいでしょう。
税務署は、税金を徴収するために個人の資産等を調査する権限が与えられていますので、相続税調査にあたって被相続人の預金口座を調査する権限もあります。
口座の預金に不透明な出金等があると報告を求められることもあり、場合によっては脱税と疑われ、下記のような附帯税が課される可能性があります。
- 無申告加算税
- 重加算税
- 過少申告加算税
- 延滞税
現金手渡しで生前贈与をする方法
上記リスクを理解した上で、実際に現金手渡しによる生前贈与をする場合の方法について説明します。
贈与契約書を作成する
まずは、下記の要件を満たす贈与契約書を作成することをおすすめします。
- いつ
- 誰に
- 何を
- どうやって
- どんな条件で
贈与手続き全般に該当することですが、契約が成立するために、契約書を作成することは必須ではありません。
しかし、現金手渡しの方法による生前贈与の場合、それが贈与であることを証明する方法がありません。
最低でも、上記要件を満たした贈与契約書を作成した上で、できれば公証役場にて確定日付(その日にその契約書が存在していたことを公証人が証明してくれる手続き)を取得しておくことをおすすめします。
多少費用はかかりますが、証明力は増すでしょう。
贈与税が発生する場合は申告する
生前贈与は、1年間に110万円以内なら贈与税の申告も必要ありません。
あえて110万円を超える贈与(たとえば111万円)を行い、贈与税の申告と納税を行えば、税務署に生前贈与の証拠を残すことができるので、上記確定日付と同様に、証明力を増す手段としては取りうる手段の一つと考えられます。
また、その際に贈与契約書も添付して申告すれば、確定日付を取得しなくてもその日にその契約書が存在していたことを証明することができるでしょう。
ただ、贈与税申告をすれば必ず生前贈与が認められるわけではない点にはご注意ください。
生前贈与を含めた贈与税・相続税を節税する方法
ここからは、生前贈与を活かした節税方法を見ていきましょう。
暦年贈与控除
まず、一番オーソドックスな方法としては、暦年贈与があります。
前述したとおり、贈与税は1年間に110万円以内であればかかりません。
現金で毎年110万円以内の生前贈与をする場合、振込による方が後々生前贈与であることの証明もしやすいのでおすすめです。
なお、振込で証拠が残るとはいえ、贈与契約書は作成しておいた方がよいでしょう。
相続時精算課税制度
振込による暦年贈与控除を適用するのは、現金手渡しによる贈与と比較すると、記録が残り税務上問題は起こりにくいと言えます。
しかし、最高でも1年間に110万円しか贈与することができないため、短期でまとまった金額を贈与したい場合はこちらの制度を適用した方がニーズに合います。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対する贈与については、2500万円までは贈与税がかからず生前贈与をすることができ、2500万円を超えた金額について一律20%の贈与税が課税されます。
ただ、この制度を一度適用すると、以下の点がデメリットとして挙げられます。
- 暦年贈与控除を適用することはできなくなる
- 贈与した金額は相続時に相続財産とみなされて相続税の課税対象になる
生命保険
次に考えられるのが、生命保険に加入することです。
生命保険については、相続税の基礎控除(※)とは別に『500万円×法定相続人の数』の控除があるので、かなり相続税の節税効果が見込めます。
相続税に関しては、基礎控除が定められており、『3000万円+600万円×法定相続人の数』が控除額になると定められています。
たとえば、被相続人が夫、法定相続人が妻と子供2人の場合、『3000万円+600万円×3人=4800万円』となります。
住宅取得等資金の非課税制度
相続税の節税効果が見込める制度としては、住宅取得等資金の非課税制度もあります。
父母や祖父母から子や孫に対して居住用家屋の新築等のために住宅取得等の資金を贈与した場合、一定額までは贈与税がかからずに済みます。
一定額というのは二段階あり、耐震性・省エネ性・バリアフリーなどいずれかの評価基準を満たす住宅(省エネ等住宅)の場合は1000万円、満たさない住宅の場合は500万円になります。
この制度は、2023年12月31日までとなります。
結婚・子育て資金の非課税制度
父母や祖父母から18歳以上50歳未満の子や孫に対する結婚・子育て資金の一括贈与は、1000万円までは贈与税がかかりません。
この制度は、2023年税制改正で2025年3月末までの延長が決まりました。
教育資金贈与の非課税制度
父母や祖父母から30歳に達するまでの子や孫に対する教育資金の一括贈与は、1500万円まで贈与税がかかりません。
この制度は、2023年税制改正により、2026年3月末までの延長が決まりました。
まとめ
今回は、現金手渡しによる生前贈与をするリスクや、仮に贈与をする場合の手続きの方法、現金手渡し以外の税制控除を適用した生前贈与について解説しました。
現金手渡しによる生前贈与には、様々なリスクがあります。
対応策として、リスクを負って手続きをするよりも税制上認められている様々な非課税制度等を利用して、節税を考えた方がよいでしょう。
いずれにしても、生前贈与による相続税の節税には、税法上の専門的な知識が必要とされますので、ぜひ専門家に相談しましょう。