この記事でわかること
- 成年後見人には判断能力が低下した人の家族もなれることがわかる
- 家族が成年後見人になれないケースがありその実例がわかる
- 家族が成年後見人になる際に注意しなければならないことがある
認知症などで、老化とともに判断能力が低下することはよくあります。
このような場合、判断能力が低下した人は、一切の法律行為ができなくなってしまう場合があります。
しかし、法律行為ができないと、日常生活を送る上でも不都合になることがあるでしょう。
そこで設けられているのが、成年後見人制度です。
後見人が、判断能力が低下した人のサポートをすることで、財産の管理などを行えるようになります。
成年後見人には家族もなれるのか、家族が成年後見人になれないケースはあるのか、解説していきます。
目次
成年後見人とは
成年後見人は、認知症や知的障害などで判断能力が低下した人をサポートする役割を果たす人です。
判断能力が低下した人をサポートせずにしておくと、犯罪に巻き込まれてしまう可能性があります。
また、自身では財産の管理ができず、何もできないまま放置されることになりかねません。
そこで、正常な判断が難しい人をサポートする人を後見人とし、本人のために後見を行うようにすることができます。
すでに判断能力が低下した人の後見人を決めるのが、法定後見制度です。
また、元気なうちに後見人を決めておくのが、任意後見制度であり、この2つをまとめて成年後見制度と呼ばれます。
成年後見人は家族でもなれる
成年後見人になれる人は、特に何かの資格がなければならないわけではありません。
成年後見人になれない人については、民法に規定がありますが、それ以外に特別な規定はありません。
成年後見人になれない、欠格事由は以下のとおりです。
- 未成年者
- 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をし、または訴訟した者並びにその配偶者及び直系血族
- 行方の知れない者
成年後見人は他人の財産の管理も行うため、破産者や、被後見人との訴訟係争中などの状況にある人はなることができません。
これらの欠格事由に該当しなければ、家族でも成年後見人になることができます。
成年後見人に家族がなれないケース
家族であっても成年後見人になることはできます。
ただし、成年後見になることのできない欠格事由に該当する場合は、どのような事情があっても成年後見人になることはできません。
先述したように、過去に後見人などを解任されたことがある人、あるいは破産者などは成年後見人になることができません。
この規定は、家族であっても適用されるため、家族でも成年後見人になれないことがあり得ます。
また、欠格事由とは別に、家族が成年後見人になれない可能性が高いケースがあります。
成年後見人は最終的に家庭裁判所が選任するものですが、以下のような事例では、裁判所は家族以外の人を成年後見人に選ぶ可能性が高いと考えられます。
- 家族間に対立がある場合
- 現金や有価証券などの金額や種類が多い場合
- 収支の金額が過大で、第三者による管理が必要と判断された場合
- 本人と後見人候補者の家族に貸借や立替金がある場合
- 本人と後見人候補者の家族が疎遠である場合
- 本人と後見人候補者の家族の生活費等が分離されていない場合
- 後見人としての適性を見極める必要がある場合
- 後見人候補者が後見事務を行う自信がない場合
- 後見により本人の財産を利用しようとしている場合
- 本人の財産の運用を目的としている場合
- 本人の財産の状況が不明確で、専門家の調査が必要と判断された場合
このように、後見人は本人の財産を管理する事務を行う以上、後見人となった人が本当に後見事務を行うことができるのか、あるいは後見人となることに問題ないかが問われます。
そして、後見人となることに懸念がある場合は、裁判所は別の人物を後見人とする決定を行います。
成年後見人の役割・権限
成年後見人になった人は、具体的に後見人としてどのような仕事を行うのでしょうか。
実際に後見人になる前に、その仕事の内容を知っておくことは、非常に重要なことといえます。
成年後見人の仕事①財産管理
成年後見人になった人は、判断能力が低下した本人に代わって財産の管理を行います。
成年後見人の仕事として真っ先に上がるのは、この財産管理となります。
具体的には、預金口座の入出金のチェックを行い、把握していない内容の収入と支出がないか確認します。
もしあるはずの収支がない場合は、相手先に問い合わせを行うなどの対処が必要です。
また、収支の管理を行った結果、税金が発生するのであれば、その申告や納税の手続きを行う必要があります。
成年後見人の仕事②身上監護
身上監護とは、本人の日常生活のサポートを行うことをいいます。
判断能力が低下しても、日常生活を送るにあたって法律の制約はありません。
しかし、日常生活の延長にあることの中にも、判断能力が低下している本人にはできないことがあります。
たとえば、自宅のリフォームを行いたい場合、判断能力が低下した本人では契約することができません。
そこで、成年後見人が本人に代わって業者を選定し、リフォームのプランを決定します。
また、本人の状態によっては、自宅で生活することが難しくなる場合もあります。
このような場合には、介護施設を探し、入所までのサポートを一貫して行うこととなります。
さらに、本人が医療行為を受ける際にも、成年後見人のサポートが必要になる可能性があります。
この他、介護サービスを受けるために要介護認定を受ける、介護事業者と話し合いを進めるのも重要な仕事となります。
成年後見人の権限
成年後見人の権限は、法定後見人と任意後見人では若干の違いがあります。
法定後見人の場合は、すべての内容は法律に定められており、財産管理や身上監護などがその内容となります。
一方で、日用品(食料や衣料品など)の購入に関する取消の権限はありません。
また、介護などの事実行為や医療行為を受ける時に、本人に代わり承諾することはできません。
さらに、婚姻・離婚・養子縁組の決定・遺言などの身分行為を代理する権限もありません。
任意後見人の権限は、本人が元気なうちに結んだ任意後見契約に基づいて、権限が付与されます。
ただし、契約をもってしても成年後見人の権限の範囲外のものは、成年後見人として行うことはできません。
成年後見人の手続きの流れ・必要書類
成年後見人を選任する手続きは、法定後見制度を利用する場合と、任意後見制度を利用する場合で異なります。
どのような流れで後見人を選任するのか、解説していきます。
まずは、法定後見人の選任を行う際の流れを確認しておきましょう。
法定後見制度を利用する場合は、本人や配偶者、四親等内の親族などが申立てを行います。
申立書類には、後見人候補者を記載するようになっていますが、必ずしも希望通りになるとは限りません。
申立書類と添付書類を裁判所に提出すると、裁判所で家族の意向確認などの審理が進められます。
すべての審査が完了するまでは目安としては1~2か月ほど要し、その後裁判所が後見人を選任します。
法定後見人の申立てを行う際は、以下の書類が必要になります。
法定後見人の申立てに必要な書類
- 申立書
- 申立書付票
- 申立人の戸籍謄本
- 後見人候補者の戸籍謄本、住民票、身分証明書、登記事項証明書
- 本人の戸籍謄本、戸籍の附票、登記事項証明書
- 診断書
任意後見制度を利用する場合は、本人が元気なうちに任意後見受任者と任意後見契約を締結しておく必要があります。
実際に認知症を発症してしまった後では、任意後見契約を締結することはできません。
任意後見契約書は公正証書で作成する必要があるので、公証役場に行きます。
任意後見契約にあたって必要な書類は、以下のとおりです。
任意後見契約に必要な書類
- 本人の印鑑証明書、戸籍謄本、住民票
- 任意後見受任者の印鑑証明書、住民票
その後、本人の判断能力が低下してきたら、任意後見監督人の選任を裁判所に申し立てることとなります。
この申立ては、本人の他配偶者、四親等内の親族、任意後見人受任者によって行われます。
この時に必要な書類は、以下のとおりです。
任意後見監督人の選任申立てに必要な書類
- 申立書
- 診断書
- 本人の戸籍謄本、住民票
- 後見登記事項証明書
家族が成年後見人になるときの注意点
前述したように、家族であっても欠格事由に該当しなければ、成年後見人になることができます。
ただし、家族が成年後見人になる際には、いくつかの注意点があります。
成年後見人としての義務がある
成年後見人は、後見事務として財産管理を行うだけではありません。
裁判所に対して1年に1回、定期報告書と呼ばれる書類を提出しなければなりません。
定期報告書は、後見人が正しく財産の管理を行っていることを示すものです。
定期報告書では、財産の管理の状況を明らかにする必要があるため、日常的に領収書の管理を行う必要があります。
また、収支についてまとめておく必要があります。
居住用不動産の売却は勝手にできない
成年後見人は、本人の財産管理を行うことが最大の目的となります。
その財産管理を行う際に、本人の自宅を売却しようと考えることがあります。
介護施設に入所するため、あるいは相続税対策を行うため、自宅を処分した方がいいことがあるからです。
しかし成年後見人は、勝手に本人の自宅を売却することはできません。
もしどうしても自宅を売却する必要がある時は、裁判所の許可を得る必要があります。
売却の許可を得るには、本人のために行うことが明らかでなければなりません。
売却して得たお金を、介護や入院のために使うといった、明確な理由が必要です。
なお、本人の自宅を賃貸、使用貸借する場合も同様です。
成年後見人をやめることはできない
成年後見人となった人は、基本的に本人が亡くなるまで、成年後見人として後見事務を継続しなければなりません。
成年後見人を辞任するには、家庭裁判所の許可が必要となるため、途中で交代を申し出ても簡単にはやめられないものと覚えておきましょう。
まとめ
成年後見人制度は、名前だけ知っていてもその中身を知らないという方が多いかもしれません。
成年後見人になる人は、必ずしも弁護士などの専門家である必要はなく、家族でも成年後見人になることができます。
ただ、成年後見人になった人は、その後見事務を適切に行う必要があり、不正がないようにしなければなりません。
裁判所に対する報告義務もあるので、成年後見人になるかどうか、慎重に判断するようにしましょう。