この記事でわかること
- 孫が法定相続人になるケースがわかる
- 孫を養子にした場合の相続税がわかる
- 孫への生前贈与のポイントがわかる
祖父や祖母にとって孫は、目に入れても痛くないという表現をするくらい、可愛くてしかたない存在です。
孫の成長を見守るために、できるかぎり元気でいたいと、食生活や運動など健康維持に気をつけている方も多いのではないでしょうか。
孫が大きくなったとき、進学費用や生活費で困ったらどうしようと心配してしまうのが祖父心・祖母心かもしれません。
孫に遺産を相続させたいと願う方もいるでしょう。
この記事では、孫に遺産を相続させるためのポイントや注意点を解説します。
とくに、相続税や生前贈与の注意点もお伝えしますので、孫に遺産を相続させたい方は参考にしてください。
目次
相続人になれる順位
民法では相続人になれる順位と相続分を定めています。
孫に相続させる方法を知るには、まず、基本的な相続の知識を備えておかなければなりません。
始めに、民法のルールを見ていきましょう。
法定相続人と法定相続分
民法で定められた相続人と相続分を法定相続人、法定相続分といいます。
遺言をのこさないかぎり、法定相続人が法定相続分にしたがって相続します。
ここでは、法定相続人になる人を見ていきましょう。
配偶者は常に相続人
被相続人(亡くなった方)の配偶者は、常に相続人となります。
配偶者には、内縁のパートナーや離婚した元夫や元妻は含まれません。
法定相続人の順位
配偶者以外の法定相続人は第1順位から第3順位まで決められています。
法定相続人の順位は次のようになっています。
法定相続人の順位
配偶者 | 常に法定相続人となる | 内縁の夫・妻は含まない |
---|---|---|
第1順位 | 子、孫(代襲相続の場合) | 養子、婚外子も含む |
第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母) | 子がいない場合に法定相続人となる |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 半血兄弟も含む(両親の一方を同じくする兄弟姉妹)、 子も直系尊属もいない場合に法定相続人となる |
子は第1順位の相続人
上述のとおり、被相続人の子は、第1順位の法定相続人です。
配偶者がいれば、配偶者とともに子が相続人となります。
子が相続人となる場合、次の点に注意しなければなりません。
- ・離婚した元妻や元夫との間の子も法定相続人となる
- ・養子も法定相続人となる
- ・婚外子も法定相続人となる
法定相続分
法定相続分は以下の通りです。
法定相続人と法定相続分
第1順位(子) | ・法定相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1 (子が数人いる場合、2分の1を平等に相続) ・実子も養子も婚外子も法定相続分は平等 |
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第2順位(父母、祖父母) | 法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1 (父母が相続人の場合、父母は6分の1ずつ平等に相続) |
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第3順位(兄弟姉妹) | 法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1 (兄弟姉妹は6分の1ずつ平等に相続。ただし、父母の一方を異にする兄弟姉妹は、他の兄弟姉妹の2分の1を相続) |
代襲相続
相続人が被相続人の死亡前に亡くなっているケースでおこるのが代襲相続です。
子の代襲相続人は孫やひ孫など直系卑属です。
いいかえれば、子が亡くならないかぎり、孫は法定相続人にはなりません。
法定相続人ではない孫に遺産をのこすには、遺言書をのこすなどの方法を検討する必要があります。
孫が遺産を相続するための方法3つ
孫は代襲相続が起こらないかぎり法定相続人ではないため、孫に遺産を相続させるには、次の3つのいずれかの方法によらなければなりません。
- ・遺言書で孫に遺産をのこす
- ・生前贈与する
- ・孫と養子縁組する
遺言書で孫に遺産をのこす
孫に遺産をのこす方法の1つに、遺言書を活用する方法があります。
遺言書の活用法、遺言書を書く際の注意点など見ていきましょう。
孫に遺贈する
たとえば「孫〇〇に、次の財産を遺贈する」旨を遺言書に記載すれば、孫に遺産を継がせることができます。
遺贈とは、遺言書を書いた人が亡くなったら財産を譲るという意味です。
遺贈は、生前贈与と反対語のようなイメージでとらえるとよいでしょう。
遺贈は遺言で行わなければ効力がないので、注意しましょう。
法律上の遺言は、法律のルールにのっとって遺言書を書くことです。
口頭で家族に意思を伝えても、法律上の遺言にはならず、孫に財産を継がせることはできません。
遺言書の種類と注意点
遺言書の種類と作成の注意点のポイントを確認しておきましょう。
遺言には普通方式と特別方式があり、通常、普通方式によります。
普通方式遺言の種類と注意点のポイント
自筆証書遺言 | ・自筆証書遺言は、遺言者が、その内容、日付および氏名を自書し、これに押印 ・パソコンやワープロでの作成は不可 ただし、自筆証書に添付する目録は、パソコンやワープロで作成できる |
---|---|
公正証書遺言 | ・公証人に遺言の内容を書いてもらう遺言書 ・公正証書遺言をするには証人2人が必要 ・証人には欠格事由があり、推定相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族は証人になれない |
秘密証書遺言 | ・遺言者が、遺言書に署名し押印して遺言書を封じ、証書に用いた印で封印 ・証人2人以上が必要 ・公証人が、遺言書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載したあと、遺言者および証人とともにこれに署名し押印 |
孫に生前贈与する
孫に財産を継がせるには、自身の生前に孫に贈与する方法もあります。
遺贈とちがい、必ずしも契約書を作成する必要はありません。
ただし、のちのトラブル防止のため、贈与する財産の内容を記載した贈与契約書の作成をおすすめします。
また、孫に財産を贈与したつもりでも、財産を孫名義にしなければ、贈与したはずの財産が遺産にまぎれてしまう可能性もあります。
生前贈与を検討する場合、不動産や預貯金など財産の名義の移転方法も考える必要があるでしょう。
孫と養子縁組する
孫に遺産を相続させる方法として、孫との養子縁組があります。
養子縁組すれば、孫は養親の実子と同順位の法定相続人となります。
先述したとおり養子の法定相続分は実子と同じ割合です。
確実に孫に相続させたい場合、養子縁組も検討するとよいでしょう。
ただし、15歳未満の孫を養子とするには、孫の法定代理人が孫に代わって養子となる意思表示をします(代諾養子縁組)。
つまり、孫の親が反対すると、養子縁組できない場合もあるということです。
また、養子縁組すると原則として、孫の氏(姓)は養親の氏になるので、その点にも注意しましょう。
孫に遺産を相続させる際の注意点
孫を養子として遺産を相続させた場合、相続税に注意が必要です。
基礎控除額
まず、基礎控除額の計算において、基本を押さえておきましょう。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
養子がいれば、法定相続人が増えるので、基礎控除額もあがります。
しかし、数人の孫を養子としても、すべての孫が相続税において基礎控除の対象となる法定相続人なるわけではないので、注意しましょう。
養子がいる場合の相続税の基礎控除額の注意点
- ・被相続人に実子がいる場合は、普通養子のうち1人までを法定相続人に含める
- ・被相続人に実子がいない場合は、普通養子のうち2人までを法定相続人に含める
- ・特別養子縁組による養子はその数すべて法定相続人に含める
相続税の2割加算
自分の孫を養子とすると、相続税が高くなるケースもあります。
相続税の2割加算という制度があるためです。
被相続続人の子が相続開始前の死亡などにより、孫が代襲して相続人となっているときを除き、被相続人の養子である孫は、相続税額の2割加算の対象です。
孫を養子とするかどうか検討する際は、相続税など総合的に考えるようにしましょう。
【参考】孫への生前贈与を活用しよう
養子縁組や遺贈はためらわれるという方は、孫への生前贈与を検討してもよいでしょう。
生前贈与では贈与税が心配ですが、贈与税を軽減できる制度を利用する方法を確認します。
孫への生前贈与の贈与税の特例
孫への生前贈与で贈与税の特例を受けるには、次の3つの活用が考えられます。
- ・住宅取得資金の贈与
- ・教育資金の贈与
- ・基礎控除額の利用
住宅取得資金の贈与
住宅取得資金の贈与の特例を受けることができる贈与の条件は以下のとおりです。
- ・平成27年1月1日から令和3年12月31日までの間の贈与
- ・父母や祖父母など直系尊属からの贈与
- ・自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築等に充てるための住宅取得等資金の贈与
この場合は、一定額まで贈与税が非課税となります。
教育資金の贈与
以下の条件に当たる贈与の場合、教育資金の贈与の特例を受けることができます。
- ・平成25年4月1日から令和3年3月31日までの間の贈与
- ・30歳未満の孫の教育資金に充てるための贈与
- ・金融機関等との一定の契約に基づき、祖父母が孫に書面により贈与した金銭を、孫が銀行等に預入をした場合など
この場合も、取扱金融機関の営業所等を経由して手続きをすることにより、一定額まで贈与税がかかりません。
教育資金の贈与の特例は、信託受益権の設定や、一定の有価証券取得のケースでも受けられる場合があります。
ただし、非常に細かい要件があるので、金融機関や弁護士への相談をおすすめします。
基礎控除額の特例を利用
贈与税の基礎控除額は、1年で110万円までみとめられています。
孫に基礎控除額の範囲内で贈与する場合、贈与税がかかりません。
基礎控除額の特例を利用してもよいでしょう。
まとめ
孫に遺産を相続させる方法や、相続税の注意点、生前贈与の活用法を見てきました。
一見、簡単に見える孫への相続ですが、孫の親や他の相続人との関係には十分に配慮して行う必要があります。
孫に多額の遺産を遺贈すると、他の相続人が遺留分侵害額の請求をするかもしれません。
また、未成年者の孫を養子にすると、遺産分割協議が複雑になってしまいます。
孫が未成年者であり、孫の父や母も法定相続人のケースでは、父や母は孫のために遺産分割協議をすることはできません。
互いに利益が相反してしまうからです。
そのため、家庭裁判所に孫の遺産分割協議を行う人(特別代理人)選任の申し立てを行わなければなりません。
このように、孫に遺産を相続させるには、細心の注意を払う必要があります。
可愛い孫のためにも、弁護士、税理士に相談したうえで、遺産を相続させることをおすすめします。