この記事でわかること
- 負担付贈与とは何かがわかる
- 負担付贈与にかかる税金を理解できる
- 負担付贈与のメリット・デメリットや負担付贈与の具体例を知ることができる
目次
負担付贈与とは?
負担付贈与とは、受贈者に無償で財産を与える見返りとして何らかの債務を負担してもらう贈与です。
負担付贈与をした場合、贈与された財産価額から債務負担額を差し引いた額に応じて贈与税を計算します。
負担付贈与の具体例を詳しくみていきましょう。
負担付贈与の具体例
どのような財産を贈与するか、どのような債務を負担してもらうかについては、特に制限はありません。
当事者同士が合意すれば、どのような条件でも付けることができます。
負担付贈与の具体例としては、以下のようなものがあります。
- ・家を贈与する代わりに、残りの住宅ローンを支払ってほしい
- ・土地を贈与する代わりに、自分が死ぬまでは無償で使わせてほしい
- ・車を贈与する代わりに、借金を支払ってほしい
- ・毎月〇万円を贈与する代わりに、ペットを飼育してほしい
受贈者が負担する債務は、贈与者に対するものばかりでなく、第三者に対するものでも構いません。
父が子に家を贈与する代わりに、母を介護してほしいというケースもあります。
負担付贈与にかかる税金
普通の贈与でも負担付贈与でも、一定の場合に贈与税がかかります。
贈与税の計算方法は、普通の贈与の場合と負担付贈与の場合で異なり、負担付贈与の方が税額が高くなります。
ここでは、負担付贈与にかかる税金について詳しく解説します。
贈与税の計算方法
負担付贈与には贈与税がかかります。
贈与税を計算するときには、以下の計算式を用います。
贈与税の計算式
(贈与された財産の価額-基礎控除)×贈与税率-控除額=贈与税額
基礎控除額は、一律110万円です。
贈与税率と控除額は、贈与された財産の価額に応じて定められています。
負担付贈与にかかる贈与税を計算するときは、受贈者が負担する債務の額を贈与された財産の価額から差し引きます。
例えば、父親から評価額2,000万円の家を贈与され、その代わりに住宅ローンの残り500万円を支払う債務を負担した場合の贈与税額は、以下のとおりです。
財産の評価額に注意が必要
贈与される財産が現金や預貯金の場合は、額面がそのまま評価額となります。
しかし、その他のものを贈与する場合は、その財産の金銭的な評価額を計算しなければなりません。
不動産を贈与する場合は、普通の贈与と負担付贈与では評価額が異なるので注意が必要です。
普通の贈与の場合は、相続税を計算するときに用いられる「相続税評価額」によって贈与税を計算します。
それに対して負担付贈与の場合は、通常の市場における取引価格、つまり時価によって贈与税を計算します。
相続税評価額は時価よりも低く、概ね時価の8割程度の金額になります。
したがって、普通の贈与よりも負担付贈与の方が評価額が高いため、贈与税額も高くなってしまいます。
相続時精算課税制度によって節税も可能
普通の贈与の場合も負担付贈与の場合も、節税するために相続時精算課税制度を利用することができます。
相続時精算課税制度とは、贈与された財産の価額が2,500万円までであれば贈与税を支払わず、その分を将来相続が発生したときに相続税として精算することができる制度です。
相続税は基礎控除額が3,600万円と大きいので、贈与された財産とその他の遺産の総額が3,600万円以内であれば、贈与税も相続税も支払わずに贈与を受けることが可能になります。
この制度を利用した方が有利となるかどうかは、税理士などの専門家に相談してみると良いでしょう。
譲渡所得が発生すると所得税や住民税がかかる
贈与であっても、負担付贈与の場合は、譲渡所得税や住民税が贈与者にかかる場合があります。
受贈者に債務を負担してもらうということは、贈与者がその分の利益を受けたのと同視できるからです。
例えば、父親が長男に評価額1,500万円の家を贈与し、その代わりに住宅ローンの残り1,800万円を支払ってもらう負担付贈与をしたとします。
この場合、父親は差し引き300万円の利益を受けたことになります。
この利益は譲渡所得となるので、所得税が課せられます。
また、所得が生じると、住民税も課せられることになります。
消費税は非課税
負担付贈与に消費税がかからないとは限りませんが、消費税は事業者との取引において課せられるものです。
したがって、個人間の契約である限り、普通の贈与でも負担付贈与でも消費税は非課税となります。
負担付贈与のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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負担付贈与のメリットとしてまずあげられるのが、あらゆる負担をしてもらうことで、その負担の軽減が図れることです。
負担の中身としては、住宅ローンのようにお金を支払うものがあります。
一方で、介護のようにお金の支払い以外の形で負担するものもありますが、このいずれの負担も軽減できます。
贈与の契約は口頭でもよく、非常に手軽な手続きで成立することもメリットといえます。
また、負担付贈与が成立していたにもかかわらず、その負担を受贈者が履行してくれない場合があります。
この場合、贈与を行う必要はなく、負担付贈与の契約を解除することができます。
一方、贈与されたものに不備や欠陥があると、負担だけが重荷となり、贈与者と受贈者の間でトラブルになるリスクがあります。
贈与では、売買と違い欠陥のあるものを贈与しても、贈与者には責任はないため、注意が必要です。
また、負担付贈与では後から負担が発生する場合があり、約束通り負担してくれるかという不安を抱えることとなります。
負担付贈与契約書のひな形
負担付贈与は口頭でも成立しますが、贈与と負担のそれぞれの内容を明確にしておくために、契約書を作成しておくことが求められます。
具体的にどのような項目を記載するのか、契約書の一般的な書式の内容を確認していきます。
まず贈与については、贈与者が誰で受贈者が誰なのか、そしてどのような財産を贈与するのかを明記します。
不動産を贈与する場合には、その不動産の登記に基づいて、財産を特定できるようにしておきます。
また、贈与する時期がいつになるのかも、契約書に明記します。
不動産の場合は固定資産税の負担を、贈与者と受贈者でどのように分担するのかも記載しておきましょう。
一方、負担付贈与の負担については、受贈者が何を負担するのかを記載します。
金銭などを負担する場合は、どのようなものを負担するのか記載します。
また、介護などを行う場合は、いつまでその負担が続くのかを記載します。
前もって期間が決まる場合もあれば、何かが起きた場合にその負担が終了する場合もあるため、はっきりさせておく必要があります。
負担付贈与を使った方がよいケース
負担付贈与は、全てのケースにおいて贈与税が高くなるわけではありません。
したがって負担付贈与を使った方がよいケースとは、特定の財産を特定の相手に負担付贈与をしたい場合で、かつ、贈与税がかからないか普通の贈与と贈与税額が同じになるケースです。
具体的な事例をご紹介します。
預貯金1,000万円を負担付贈与するケース
父親が長男に預貯金1,000万円を贈与し、その代わりに自分が亡くなるまで身の回りの世話をしてほしいという負担付贈与をしたケースで考えてみましょう。
預貯金1,000万円の評価額は、普通の贈与の場合も負担付贈与の場合も同じで1,000万円です。
この場合は、どちらでも贈与税額は同じになります。
したがって、父親が長男に身の回りの世話をしてもらうことを望み、預貯金1,000万円について遺産分割に委ねるのではなく長男に取得させたい場合は、負担付贈与を使うメリットがあります。
贈与税額に差が出るのは不動産を贈与する場合だけ
預貯金だけでなく、不動産以外の物を贈与する場合は、普通の贈与でも負担付贈与でも贈与税額に差は生じません。
不動産を贈与する場合にのみ、「時価」を用いるか「相続税評価額」を用いるかという違いがあるため、普通の贈与と負担付贈与とで贈与税額に差が生じます。
したがって、預貯金や現金はもちろん、自動車や貴金属・骨董品などの動産、株式などの有価証券などを贈与する場合も、贈与税額は普通の贈与でも負担付贈与でも同じになります。
負担付贈与を使わない方がよいケース
不動産を贈与する際に贈与税がかかる場合は、負担付贈与を使わない方がいいでしょう。
贈与税額が大きくなればなるほど、負担付贈与を使うデメリットが大きくなります。
また受贈者に贈与税がかからなくても贈与者に所得税や住民税がかかる場合は、負担付贈与を使わない方がよいケースといえます。
負担付贈与を使わない方がよいケースを具体的な事例でご紹介します。
3,000万円の家(住宅ローン残高500万円)を負担付贈与するケース
父親が長男に3,000万円の家を贈与し、その代わりに住宅ローンの残り500万円を支払ってもらうという負担付贈与をするケースで考えてみましょう。
この場合、860万円もの贈与税がかかってしまいます。
相続税なら3,600万円の基礎控除があるので、他に大きな遺産がないか他にも相続人がいる場合は相続税がかからない可能性が高いです。
したがって、このケースでは負担付贈与よりも、相続税の対象となる負担付死因贈与か負担付遺贈を行う方が有利です。
まとめ
負担付贈与とは、財産を無償で与える代わりに何らかの債務を負担してもらう贈与のことです。
たとえば「家を贈与する代わりに、残りの住宅ローンを支払ってほしい」といった場合などで柔軟に活用できます。
ただし、普通の贈与よりも負担付贈与の方が贈与税の税額が高くなるので、負担付贈与を利用する際は注意が必要です。
負担付贈与のメリット・デメリットや、使った方がよいケース・使わない方がよいケースを比較して、税金で損をしないようにしましょう。
負担付贈与をしたいけれど税金面で不安がある方は、税理士などの専門家に相談してみてはいかがでしょうか。