この記事でわかること
- 不動産などの売買を適正な価格で行わないとみなし贈与となることがわかる
- みなし贈与の税額の計算方法がわかる
- みなし贈与と判断されないようにする対処法がわかる
不動産を親から子にあげれば贈与税がかかってしまい、多額の税金が発生します。
そこで、大きな税負担を避けるために、贈与ではなく通常より低い価格で売買しようと考えることがあります。
低い金額で売買すれば、安く購入した人にとっては利益がありますが、このような取引は「みなし贈与」と判断される可能性があるため、税金計算を行う際に注意が必要です。
この記事では、みなし贈与となった場合の贈与税・所得税の計算方法やみなし贈与と判断されないための対処法について解説します。
目次
所得税と贈与税は二重課税される?
不動産などを売買する時、絶対この価格でなければならないという金額はありません。
物件ごとに適正な価格があり、それぞれ異なるためです。
適正な価格あるいは時価について売主と買主の両者が合意すれば、売買が成立します。
ただし、親から子に不動産を売却する際には、時価より大幅に低い金額で売買が成立することがあります。
子の負担を少しでも軽減してあげたいと考える、親心が働くからです。
また、通常の高い金額で不動産を売却しても、親に対する税金の額が大きくなるだけだからです。
そのため、あえて低い金額で親から子に不動産を売却することがあります。
不動産をもらった場合だけでなく、安く手に入れることができた場合も、子にとっては大きな利益があります。
しかし、不動産をタダでもらった場合には贈与税がかかるのに、低い金額で売買した時に子が課税されないのは不公平です。
時価より低い金額で売買することを「みなし贈与」といい、売主・買主それぞれに課税が生じます。
みなし贈与で売主には所得税が課税される
売主に対しては不動産を譲渡したことによる譲渡所得が発生し、所得税が課されます。
譲渡所得の計算方法は、通常の売買が行われた場合と変わりありません。
不動産の売却価格から、その不動産を取得した時の費用を控除します。
また、売却にかかる経費がある場合は、譲渡経費として差し引くことができるため、譲渡所得の金額となります。
譲渡所得の金額に対しては、所有期間に応じて15.315%あるいは30.63%の税率を乗じて、所得税額を計算します。
みなし贈与で買主には贈与税が課税される
みなし贈与が行われると買主にも税金が発生します。
これは、買主が通常より低い金額で不動産などの資産を購入した際に、利益を得ていると考えられるためです。
買主に対して課される税金は、所得税ではありません。
時価より低い金額で資産を購入した際に、時価と購入金額との差額を贈与されたものとみなして、贈与税が課されます。
そのため、その不動産の時価を求めた上で、購入金額との差額を計算しなければなりません。
その上で、その差額について贈与税の計算を行います。
なお、売主と買主の双方に税金がかかることから、二重課税ではないかと考える方もいるでしょう。
しかし、課税対象になる金額がそれぞれ異なるため、実際には二重課税にはなっていません。
売却価格に対しては売主に、時価と売却価格との差額については買主に、それぞれ税金が発生する仕組みです。
みなし贈与の贈与税・所得税の計算方法
それでは、実際にみなし贈与が発生した場合に、売主と買主にかかる税金の計算方法はどのようになるのでしょうか。
具体例を使って、その計算方法を解説していきます。
事例
- 父親(65歳)は子(長男・30歳)に対して、保有する土地を1,000万円で譲渡した
- 譲渡された土地の譲渡時点での時価は、5,000万円と計算された
- この土地は先祖代々の土地であり、購入して取得したものではない
土地を贈与すれば多額の贈与税が発生することを懸念した父親は、子どもに1,000万円で土地を売却しました。
ただ、1,000万円という売却価格は時価より大幅に低いためみなし贈与となり、売主と買主の双方に税金が発生します。
売主にかかる所得税の計算方法
売主である父親には、その売却価格について所得税がかかります。
「売却価格-取得費-譲渡経費」で譲渡所得の金額を計算しましょう。
なお、売却した土地は先祖代々の土地でその取得費が不明であることから、概算取得費の計算を行います。
概算取得費の金額は「売却価格×5%」となるため、このケースでは1,000万円×5%=50万円となります。
また譲渡経費として計上すべき金額はないため、譲渡所得の金額は1,000万円-50万円=950万円です。
譲渡所得の金額が計算されたら、その金額に税率を乗じて所得税を計算します。
譲渡所得に対する所得税の税率は、その不動産を保有していた期間に応じて決定されます。
不動産の所有期間 | 税率 | |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で5年以上 | 15.315% |
短期譲渡所得 | 売却した年の1月1日時点で5年以内 | 30.63% |
事例の場合、先祖代々の土地を売却した場合については長期譲渡所得となるため、950万円×30.63%=約145万円の所得税がかかります。
買主にかかる贈与税の計算方法
みなし贈与が行われた場合、時価と売却価格の差額が贈与税の対象となります。
そこで、購入した不動産の時価をいくらと考えるのか、その確認が必要です。
不動産の時価を求める方法や、何をもって時価とするのかについての決まりはありません。
そこで、合理的に時価と認められる金額を求める必要があります。
時価というのは、そのみなし贈与が行われた不動産の価格という意味合いを持ちます。
通常は直近における不動産の取引価格が時価と言えますが、他人が行った近隣の不動産の売買価格を知ることはできません。
そこで、相続税評価額を80%で割り返した金額、あるいは固定資産税評価額を70%で割り返した金額を時価とします。
このように求めた時価と売買価格との差額は、買主にとって売主からの利益を得たものと判断されます。
そのため、みなし贈与があると買主に贈与税が発生するのです。
このケースでは、時価5,000万円の土地を1,000万円で購入しているため、その差額は4,000万円となります。
この金額から基礎控除額110万円を差し引いた金額3,890万円が、実際の贈与税の計算対象となる金額です。
親から18歳以上の子に対する贈与税の計算は、以下の速算表を用いて行います。
基礎控除後の価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
結果として、3,890万円×50%-415万円=1,530万円の贈与税がかかります。
みなし贈与と判断されないようにする対策
みなし贈与とされるのは、不動産の低額譲渡だけではありません。
どのようなケースがあるのかを確認して、みなし贈与と判断されないようにしましょう。
保険金の受取り
生命保険の満期保険金を受け取った際に、その掛け金となる保険料を受取人自身で負担していない場合があります。
この場合、受け取った保険金の金額を贈与されたものとして、贈与税の計算が必要です。
保険金について贈与税が課されないようにするには、保険料負担者と保険金の受取人を同一人物としておく必要があります。
その上で、保険金を受け取った後、必要に応じて現金を贈与すれば、一度に多額の贈与税が発生することはありません。
掛け金を負担していない個人年金
生命保険金と同様、個人年金を受け取る場合も掛け金と受取人が異なると、みなし贈与と判断される可能性があります。
この場合、注意しなければならないのは、実際に年金として受け取った金額が贈与税の対象になるわけではないことです。
個人年金を受け取る権利が確定した時点で解約返戻金の金額を確認し、その金額に相当する贈与があったものとします。
年間110万円に満たないため贈与税は発生しないという考え方はできません。
一度に多額の贈与税が発生しないようにするには、保険料の支払いを受取人と同一にしておく必要があります。
そして、保険料を支払うのに合わせて贈与を行いましょう。
債務免除や債務引き受け
親が子に対してお金を貸していたものの、借金の返済を求めないまま債務免除を行うことがあります。
この場合、返済を免除された金額については経済的な利益を得ており、贈与されたのと同じこととなります。
また、金融機関に借り入れを行っていた子が返済に行き詰まった場合、親がその返済を肩代わりすることがあります。
この場合は親から子に現金を贈与し、子はその現金で借金返済を行っていることと同じです。
そのため、親が債務を引き受けて肩代わりした場合もみなし贈与に該当し、贈与税の計算対象となります。
親子間のお金の貸し借りは、もともと贈与とみなされやすい取引です。
貸し借りをした場合は必ず決まった時期に返済を行い、むやみな債務免除を行わないようにしましょう。
まとめ
親子間での不動産の売買を行うと、どうしても第三者との取引に比べて金額が低くなる傾向にあります。
そのことは税務署もよくわかっているため、その金額に問題はないか、特に目を光らせています。
みなし贈与とならないようにするためには、周辺での取引情報を収集し、価格が適正であると証明する必要があります。
また、親子間で売買するのではなく、何年かに分けての贈与なども検討するといいでしょう。
みなし贈与の判定は素人では難しいケースもあるため、みなし贈与かどうか迷った場合は専門家に相談することをおすすめします。