この記事でわかること
- 不在者財産管理人とは
- 不在者財産管理人のメリットとデメリット
- 不在者財産管理人の申し立ての流れについて
突然、行方不明になった人や、連絡先や居住先がわからず、帰ってくる見込みのない人のことを不在者と言います。
不在者が相続人の中にいると、相続が発生したときに本人の意思確認ができないため話が進まず、トラブルが起こることがあります。
そこで活用したいのが、不在者財産管理人という制度です。
今回は、不在者財産管理人の制度の概要から申立て方法、費用の目安まで、わかりやすく解説していきます。
目次
不在者財産管理人とは
不在者財産管理人の申立てを検討する場合、その役割や制度の概要をしっかり理解しておく必要があります。
ここでは、不在者財産管理人について詳しく解説します。
不在者財産管理人の概要
不在者財産管理人とは、不在者に代わって、不在者の財産を管理・運用・処分する人です。
不在者財産管理人を立てる場合は、家庭裁判所に申立てを行い、選任される必要があります。
不在者財産管理人が就任すると、不在者の代わりに不在者の財産を管理し、必要な法律行為を行うことができます。
相続手続きや不動産の管理などをスムーズに行うために、非常に重要な役割と言えます。
不在者財産管理人は原則として、相続人や財産の受取りに関わる人など、利害関係のある人は就任できません。
粛々と財産管理を行うことが求められるため、家庭裁判所は利害関係のない親族や、弁護士などの専門家といった中立的な立場の人を選任します。
実際には、法律の専門知識が必要となるため、弁護士が選ばれることが多いでしょう。
管理人の選任後は、裁判所の監督のもとで活動し、必要に応じて報告義務が課せられます。
不在者財産管理人の役割
不在者財産管理人の役割は、ただ財産を預かるだけではありません。
不在者に代わって、法律的に重要な手続きを行うこともあります。
ここでは不在者財産管理人の役割について詳しく解説します。
不在者の財産を管理する
不在者財産管理人のもっとも基本的な役割は、不在者が持っている財産を管理することです。
たとえば、不在者が所有する不動産を放置すると、固定資産税の支払いが滞ることや、建物が老朽化して周囲に迷惑をかける恐れがあります。
また、銀行口座の預金が管理されていないと、引き落としや支払いに関する問題が起きることも考えられます。
こうした財産のトラブルを防ぐため、管理人は不在者の財産を管理し、必要な手続きを行います。
ただし、重要な契約や財産の処分を行う場合には、家庭裁判所の許可が必要です。
勝手に財産を売却・利用できるわけではなく、あくまでも不在者の利益を守る立場として、慎重な管理が求められます。
不在者の代わりに遺産分割協議を行う
相続の場面において、不在者がいることで話し合いが進められず、手続きが止まることは大きな問題です。
遺産分割協議は、すべての相続人が合意しなければ成立しないため、一人でも不在者がいると進められません。
不在者を除いて勝手に進めた場合、協議は無効とされ、手続きのやり直しが必要になる可能性や、最悪の場合、損害賠償請求など訴訟の恐れもあります。
ここで不在者財産管理人を選定すれば、家庭裁判所の許可を得ることで、不在者に代わって協議に参加することができます。
協議が進めば、期限内に相続手続きを完了させることができるでしょう。
財産目録の作成・裁判所へ報告
不在者財産管理人は、財産目録の作成も行います。
不在者財産管理人は不在者の財産について、定期的に裁判所へ報告する義務があります。
そのため、どのような財産があり、財産を適切に管理しているか確認できるよう、財産目録を作成しなければいけません。
不在者の財産で支払いや処分を行った場合は、裁判所へ報告する際に収支報告書を作成し、目録とともに提出する必要があります。
不在者財産管理人の任期
不在者財産管理人には、あらかじめ決められた任期はありません。
不在者財産管理人の任期が終了するときは、不在者が戻ってきたときです。
または不在者の死亡が確認された場合や、失踪宣言がされた時も、その時点で管理人の役割は終了します。
管理人本人がやむを得ない事情で辞任を希望する場合は、裁判所の許可を得れば辞任が可能です。
長期間にわたって任期が続く場合でも、定期的に裁判所の監督が入り、報告義務なども課されるため、無制限に任されるわけではありません。
失踪宣告とは
失踪宣言とは、行方不明から7年が経過した時点で、死亡の真偽は別として形式上、不在者を亡くなったものとして扱う制度のことです。
相続が発生した時点で失踪宣言を行えば、不在者は亡くなったものとして話が進むため、最初から管理人を置く必要はありません。
不在者財産管理人が必要なケース
不在者財産管理人が必要なケースとは、以下のような場合です。
- 相続人の中に行方不明者がいて、遺産分割ができない
- 不在者が所有していた不動産を売却・管理する必要がある
最も多いケースが、相続手続きを行う場合です。
相続税の納付は、相続開始から10カ月以内と期限が決められています。
遅れるとペナルティを課される可能性もあるため、スムーズに相続手続きを進めなくてはならず、不在者がいる場合は不在者財産管理人が必要と言えます。
また、不在者と不動産を共有している場合など、売却や管理で不在者の許可が必要になることもあります。
不動産の老朽化など管理が必要な場合に、不在者財産管理人が必要になるケースが考えられます。
不在者財産管理人のメリット・デメリット
不在者財産管理人を申し立てるかを検討する前に、制度のメリットとデメリットを理解しておきましょう。
ここでは、それぞれの特徴を詳しく解説します。
メリット
不在者財産管理人のメリットは、以下のようなものです。
- 相続手続きが進められる
- 不在者の財産を保全できる
一つずつ見ていきましょう。
相続手続きが進められる
不在者財産管理人を立てることの最も大きなメリットは、相続手続きを進められることです。
相続手続きが進まなければ、相続税の納付期限に間に合わないリスクや、相続財産の管理ができないといったリスクが考えられます。
また、協議が進まない間に、相続人に認知症など健康の問題が出る場合や、相続人が亡くなることもあります。
成年後見や代襲相続になると、より一層協議が複雑になるため、手続きが進みません。
不在者財産管理人を選任することで、相続手続きが複雑になることを防ぎ、スムーズに進めることができます。
不在者の財産を保全できる
不在者が所有している財産は、管理されず放置していると、損失や劣化のリスクが高まります。
たとえば、空き家になった家屋が放置されて雨漏りや倒壊の危険が生じることや、税金の支払いが滞って延滞金が発生するケースもあります。
また、金融機関の口座や株式なども、放置することで不正利用などのトラブルにつながることもあります。
不在者財産管理人は、不在者の財産を調査し、必要に応じて管理・保全の手続きを行うことができます。
家庭裁判所の監督のもとで動くため、勝手に財産を処分されたり、不正に使われたりする心配もありません。
デメリット
一方で、不在者財産管理人を立てることのデメリットは、以下のようなものがあります。
- 申立てから就任まで時間がかかる
- 管理人の変更はできない
- 報酬が必要
一つずつ見ていきましょう。
申立てから就任まで時間がかかる
不在者財産管理人の選任には、非常に時間がかかることが大きなデメリットです。
申立てから実際に管理人が選任されるまでは、平均して3~6カ月かかります。
本当に不在であるか念入りに調査が行われ、管理人を選任する必要があるか審議されるためです。
実際に選任し就任するまでには、半年以上の期間が必要です。
また、管理人が遺産分割協議に参加するためには、裁判所に対して権限外行為許可を申請し許可される必要があります。
この許可が下りるまでにも数カ月~半年ほどかかるため、遺産分割協議が行えるのは申立てから8~9カ月後になるでしょう。
不在者財産管理人の変更はできない
一度家庭裁判所によって選任された不在者財産管理人は、原則として途中で変更することができません。
連絡が取りづらい、対応に不満があるなどと感じても、管理人を変更してもらうことは基本的にできません。
改任が認められるのは、管理人が職務を果たしていない場合や、やむを得ない事情があるときに限られます。
しかしその際も、審査などで相当の期間が必要になります。
報酬が必要
専門家が不在者財産管理人に就任した場合、職務に対する報酬が必要です。
報酬の相場は、1~5万円/月程度です。
基本的に不在者の財産から支払われるため、不在者が戻ってきた場合、報酬をめぐってトラブルになることもあります。
また、不在者の財産が足りない場合は、予納金として申立人がまとまった額を支払う必要があります。
そのため申立人の負担が大きくなることも考えられます。
不在者財産管理人の申し立て

ここでは、不在者財産管理人の申し立ての要件や流れについて解説します。
不在者財産管理人を申し立てる要件
不在者財産管理人を申し立てるには、一定の要件を満たしていることが必要です。
- 対象者が不在者であること
- 財産管理人を置いていないこと
不在者とは、法律上は「従来の住所または居所を去って、容易に戻る見込みがない者」と定義されています(民法第25条)。
行方不明になって少なくとも1年以上経っていることや、連絡先が不明であることを証明する必要があります。
すぐに連絡が取れる見込みがある場合や、単に住所や連絡先がわからないというだけでは、管理人の申請はできません。
また、すでに不在者財産管理人を置いている場合、一度選任された管理人を変更することはできないため、再申請することはできません。
不在者財産管理人申し立ての流れ
ここでは、不在者財産管理人の申立ての流れを解説します。
①申立先の確認
申立先は、不在者の住所地や居住地を管轄する家庭裁判所です。
本人の現住所がわからない場合でも、以前住んでいた場所をもとに確認しましょう。
②資料を準備・提出
申立書と必要書類をそろえ、管轄の家庭裁判所へ提出します。
基本的には窓口にもっていきます。
郵送でも対応している場合もありますが、裁判所ごとに運用が異なるため、事前によく確認しましょう。
③審査
裁判所によって不在者について調査が行われ、不在者財産管理人の必要性や選定について審査が行われます。
数カ月~半年程度の時間がかかります。
④審査の結果
管理人が必要と認められれば、家庭裁判所が適任者を選任します。
選任通知が届いた時点で、管理人の職務が開始されます。
必要書類
不在者財産管理人の申立ての主な必要書類は、次のとおりです。
- 申立書
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 不在者財産管理人候補者の住民票など
- 申立人の戸籍謄本または利害関係を証明する書類
- 不在であることを証明する資料
- 不在者の財産に関する資料(通帳の写し、不動産の登記簿謄本など)
申立人が相続人の場合は、その関係性を証明するために、申立人の戸籍謄本などが必要です。
不在者が音信不通かつ行方不明であることを証明する必要があるため、郵便の不在通知や捜索願などの客観的な資料も準備しましょう。
なお、追加の資料を求められる場合もあります。
管轄の家庭裁判所の窓口または公式ホームページで、最新情報を確認しておきましょう。
申立て費用
不在者財産管理人の申立てには、様々な費用がかかります。
ここでは、代表的な費用の内訳と目安金額を解説します。
●収入印紙代(申立手数料)、切手代
申立費用は収入印紙で800円を納めます。
裁判所からの通知や連絡のための切手代も必要です。
金額は裁判所ごとに異なるため、提出先の家庭裁判所に確認しましょう。
参考:「不在者財産管理人選任」(裁判所)
●報酬
専門家が不在者財産管理人に選任した場合の報酬が必要です。
月1~5万円程度が相場です。
不在者の財産から支払われます。
●予納金
不在者の財産が不足し、報酬を支払えない場合は予納金として、申立人が納める必要があります。
財産管理に必要な業務量や、不在者の財産から不足している金額をもとに計算されます。
予納金の相場はおよそ20~100万円とされます。
●その他費用
必要書類の取得にかかる費用や交通費などがかかります。
合計すると、申し立てにかかる初期費用は、およそ5万円~100万円程度が目安となります。
実際には財産の状況や裁判所の判断によって変動するため、事前によく確認しましょう。
まとめ
不在者財産管理人は、不在者の財産を守り、相続手続きを進めるために有効な制度です。
しかし申立ては裁判所の手続きのため難しく、時間も費用もかかります。
特に相続が始まっている場合は、速やかに対応することが重要です。
お困りの場合は、まずは弁護士など専門家に相談してみましょう。















