この記事でわかること
- 不在者財産管理人の概要、手続き方法、費用
- 失踪宣告の概要、手続き方法、費用
- 不在者財産管理人と失踪宣告の違いと選択の判断基準
相続手続きを進めている中で、相続人の一人の行方がわからない、という問題に直面することは珍しくありません。
その際に検討されるのが「不在者財産管理人」と「失踪宣告」という制度です。
この2つの制度は、申立てに必要な行方不明期間や費用、手続きの流れ、そして最終的な法的効果が大きく異なります。
本記事では、それぞれの制度の概要や費用、手続き方法、そしてどちらを選ぶとよいかの判断基準を解説します。
実際の相続手続きにおいては、どちらの制度を選択するかによって、その後の進み方や最終的な結果に大きな違いが生じます。
誤った判断を避けるためにも、ぜひ最後までお読みいただき、正しい知識を身につけましょう。
目次
不在者財産管理人とは
相続人の一部の人が行方不明の場合、そのままでは遺産を分けることができません。
このような状況を解決する選択肢の一つとして利用されるのが、不在者財産管理人制度です。
ここでは、不在者財産管理人の概要とその職務、選任申立ての手続きや費用について詳しく解説します。
不在者財産管理人の概要と職務
不在者財産管理人は、行方不明となった人(不在者)の財産を、本人に代わって「管理・保存」する人で、家庭裁判所が選任します。
財産目録や管理報告書を作成し、家庭裁判所に提出する義務があります。
不動産の売却など重要な財産「処分」を行う場合も、不在者に不利益となる処分は原則として認められず、処分行為には家庭裁判所の許可が必要です。
遺産分割協議への参加は財産の処分となるため、家庭裁判所の許可が得た上で不在者に代わって協議に加わることになります。
不在者財産管理人の職務は、不在者が戻った場合や死亡が確認された場合、または失踪宣告がなされた場合に終了します。
遺産分割が終わっても、不在者の生死が明らかになるまでは職務が継続するため、長期間にわたることもあるでしょう。
不在者財産管理人の選任手続きと費用
不在者財産管理人を選任するには、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。
申立てができる人は、不在者の配偶者や相続人、債権者などの利害関係人です。
申立てには以下のものが必要です。
- 家事審判申立書
- 不在者の戸籍謄本や戸籍附票
- 不在に関する証明資料
- 不在者の財産に関する資料 など
申立ての費用は、収入印紙代(800円程度)、郵便切手代、戸籍謄本等の取得費用(1,000円~5,000円程度)がかかります。
また、不在者の財産を管理するための費用と不在者財産管理人の報酬が必要です。
それらの費用は原則として不在者の財産から支払われますが、不足する場合や財産が不動産の場合は、申立人に相当額の予納金の納付を求められます。
申立てから不在者財産管理人選任までの期間は、一般的に2~3カ月程度といわれています。
失踪宣告とは
失踪宣告は、長期間行方不明となっている人について、法律上、死亡したものとみなし、法的関係を確定するための制度です。
相続手続きが進まない場合や、婚姻関係を解消したい場合などに利用されます。
ここでは失踪宣告の概要や要件、手続き方法や費用について詳しく解説します。
失踪宣告の概要と要件
失踪宣告は、行方不明者の生死が一定期間明らかでない場合に、家庭裁判所の審判によって法律上死亡したものとみなす制度です。
普通失踪は、行方不明となってから7年間生死が不明であることが要件です。
一方、特別失踪(危難失踪)は、戦争・船舶事故・震災などの危難に遭遇した後、1年以上生死が不明な場合に認められます。
申立てができる人は、以下に限られます。
- 配偶者
- 相続人
- 遺言による受遺者
- 生命保険金の受取人
- 財産管理人など利害関係人
家庭裁判所は申立てによって審理・公告を経て失踪宣告を行います。
失踪宣告が確定すると、行方不明者は法律上死亡したものとみなされ、相続や保険金請求、婚姻関係の解消などの法的効果が生じます。
失踪宣告の手続きと費用
失踪宣告の申立ては、行方不明者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所にて行います。
必要書類は申立書、行方不明者の戸籍謄本や戸籍の附票、失踪を証する資料、申立人の利害関係を示す資料などです。
失踪を証する資料とは、たとえば警察の捜索願受理証明、不在者財産管理人の選任決定書、返送された手紙、家族や関係者の陳述書などが該当します。
費用は、収入印紙800円、郵便切手3,000円程度、官報公告費用として4,816円が必要です。
申立て後は家庭裁判所の調査や公告(普通失踪は3カ月以上、特別失踪は1カ月以上)を経て、異議がなければ失踪宣告がなされます。
家庭裁判所では、警察や行政機関、親族などから聞き取り調査などを行い、慎重な審理を行います。
そのため、申立てから失踪宣告が確定するまで、手続き全体は半年から1年以上かかることもあるでしょう。
不在者財産管理人と失踪宣告の違い

相続人が行方不明の場合、「不在者財産管理人」と「失踪宣告」のどちらを選ぶかは、状況や目的によって大きく異なります。
不在者財産管理人は、行方不明者が生存していることを前提に財産を守る制度であり、比較的短期間の行方不明でも利用できます。
一方、失踪宣告は、長期間生死不明の人を法律上死亡とみなすための制度で、相続を開始させる強い法的効果があります。
両制度の違いを理解し、適切な手続きを選ぶことが重要です。
制度の目的・効果・法的違いを比較
不在者財産管理人と失踪宣告の違いについて、制度の目的、効果、法的違いによって比較してみましょう。
| 不在者財産管理人 | 失踪宣告 | |
|---|---|---|
| 制度の目的 | ・行方不明者(不在者)の財産を保護、管理することが目的 ・不在者が生存していることを前提 |
・行方不明者を法律上「死亡とみなす」ことで、相続などの法律関係を明確にすることが目的 |
| 効果 | ・財産管理人が財産の保存、管理、家庭裁判所の許可があれば処分ができる ・不在者自身の法律関係は維持される |
・不在者は死亡したものとみなされ、相続開始や婚姻解消など、死亡に伴う法律効果が生じる |
| 法的違い | ・民法25条~29条 ・不在者の生存を前提に、家庭裁判所が選任 ・家庭裁判所の監督下 |
・民法30条~31条 ・生死不明7年(普通失踪)または1年(特別失踪)経過後、家庭裁判所の審理と公告を経て死亡とみなす |
不在者財産管理人は「生存前提の財産管理」、失踪宣告は「死亡とみなすことによる法律関係の清算」が最大の違いです。
また、相続や婚姻の扱いなど本人の法的地位に大きな違いが見られます。
相続からみた判断のポイント
次に、相続ではどういう場合に不在者財産管理人と失踪宣告の選択を判断すべきかを見ていきましょう。
| 不在者財産管理人 | 失踪宣告 |
|---|---|
| ・行方不明者が相続人にいる場合、財産管理人を遺産分割協議に参加させることで相続手続きが可能 ・不在者の法定相続分を下回る分割は原則不可 |
・失踪宣告が確定すると、不在者は死亡とみなされ、その時点で相続が開始し、通常の相続手続きが進められる |
不在者財産管理人は、行方不明から7年(普通失踪)が経過していない場合や、早急に遺産分割協議を進めたい場合に有効です。
ただし、相続手続きが終わっても財産管理人は終了しないため、生死判明や失踪宣告まで費用がかかり続けることに注意しましょう。
失踪宣告は、行方不明から7年以上経過することによって確定するため、法的に死亡とみなされます。
そのため、行方不明者の相続開始を確定させたい場合に利用するとよいでしょう。
まとめ
相続手続きで行方不明の相続人に対処する際、不在者財産管理人と失踪宣告の選択は状況によって異なります。
不在者の生存可能性や財産規模、手続きの緊急性を踏まえ、制度の特徴を理解した上での判断が重要です。
特に、失踪宣告の7年要件や不在者財産管理人の継続管理義務など、専門知識を要するポイントが多数存在します。
自分で判断が難しい場合は、早めに専門家に相談し、状況に応じた適切な手続きを選択しましょう。
専門家に依頼することで、必要書類の収集から家庭裁判所への手続きまで、判断を誤ることなくサポートが受けられるでしょう。















