この記事でわかること
- 山林の売買が難しい理由
- 山林を売買する際の注意点や取引の流れ
- 買い手が付きづらい山林の処分方法
山林は日本の国土のおよそ三分の二を占めており、その約57%が個人や企業が所有する「私有林」です。
思いがけず山林を相続するなどして、不要な山林の売却に悩む方も多いでしょう。
ここでは、山林の売買が難しい理由や、売買に際して手続きや税金面で気を付けるべきポイント、売買以外の山林の処分方法などについて解説します。
山林売買が難しい理由
相続などによって山林の所有者になった人の多くは、その処分に頭を悩ませます。
山林はなぜ売買が難しいのか、まずはその主な理由について見ていきましょう。
山林は活用しづらい
地目が「山林」となっている土地のほとんどは、造成などの手間を加えなければ、宅地や農地にするなどの有効活用がしづらい土地です。
また、竹木が自然に生育できるくらいに人の生活になじみの薄い場所なので、不動産としての市場価値は非常に低い評価になってしまいます。
山林の売却には不動産業者も消極的
土地の売却は、一般的には不動産業者に仲介を依頼して行いますが、上記の理由により商品価値が低い山林の取扱いには、ほとんどの不動産業者が消極的です。
ニーズの低い土地を売る立場としては、価格は安く設定しなければなりませんし、長い時間をかけてもなかなか買い手が現れないこともあるためです。
山林売買をするときの注意点
山林も不動産ですから、個人が売買する機会は頻繫にはありません。
ここでは、山林の売買にはどのようなことに気を付けるべきか、分かりやすく解説します。
売却する山林の状態を確認する
山林の売却をするにあたり、まずは売買対象である山林の現状を確認する必要があります。
具体的には以下の項目が挙げられます。
- 道の有無
- 傾斜の程度
- 樹木の生育具合や樹種、樹齢など
現地を直接確認することが難しいときは、法務局で土地の登記簿を取得する、あるいは市町村役場で森林簿や森林計画図を入手して調査を行いましょう。
売却する山林の相場を確認する
自身で買い手を直接探すにせよ、不動産業者に仲介を依頼するにせよ、売却する山林の相場を把握することは極めて重要です。
都道府県の地価調査では、山林を「都市近隣山地」「農村山地」「林業本場山地」「山村奥地山地」の4つの評価区分に分類しています。
都市近隣山地
市街地の近郊にある山林は、交通の便はもとより電気やガス、水道などのインフラ面でも条件がよいので、当然ながら価格相場は高くなります。
宅地への転換可能性が高いことから取引の対象になりやすく、1平米当たり1000円から1500円程度がおおよその相場です。
農村山地
農村集落の周辺にある、里山のような山林は「農村山地」という分類になります。
人の生活圏のすぐ近くにあって、宅地や農地への転用も期待できるのであれば、1平米当たり数百円程度で取引される可能性があります。
林業本場山地
林業経営のための山林や地方の有名林業地は、「林業本場山地」という分類になります。
一般的に宅地やその他の用途に転換しにくい上、条例等により開発が規制されている場合が多いため取引相場は低く、1平米当たり百円程度です。
山村奥地山地
交通インフラが未整備である等、不便な山奥の山林のことです。
活用するためには多額の費用がかかるため、不動産としての需要は少なく、4つの評価区分の中で最も低い取引相場になります。
山林を売却したときの税金
山林の木を伐採して売買したり、立木のまま取引したりしたときには、山林所得として課税されます。
ただし、山林取得から5年以内に売却する場合には、山林所得ではなく事業所得か雑所得としての課税です。
山林を土地付きで譲渡した場合、土地の部分については、譲渡所得税として、所得税と住民税が課税されます。
各税金の計算方法については、この記事の後半で詳しく説明しましょう。
売れない山林はどう処分すればよいか
売買契約は、買い手がいないと成立しないので、条件が折り合わずなかなか山林が売れないという事態はどうしても起こり得ます。
しかし、このような場合でも、経費を自己負担して売れない山林を処分する方法がいくつかありますので、後に詳しく解説していきます。
山林売買をする流れ・必要書類
山林の売却にあたっての注意点が理解できたところで、次に、実際に山林売買がどのように進むのかを見ていきましょう。
ここでは、山林売買に必要な書類についても説明します。
山林売買の一般的な流れ
山林を売買するのに決められた手順はありませんが、おおむね次のような流れで取引が進められます。
1:不動産業者に査定を依頼する
山林の売却は、まず、その山林の妥当な価格について不動産業者に査定を依頼することから始めます。
土地の面積については、高額な費用をかけて測量をせず、登記上の数字をそのまま使うのが一般的です。
売却しようとする山林の境界が不明確である場合は、隣接する土地の所有者に協力してもらい、境界確定を行います。
2:買い手を見つけて売買契約を締結する
山林の買い手は、自ら見つけてくる他に、森林組合に相談する、または不動産業者に仲介を依頼する方法もあります。
購入希望者が見つかったら、お互いの希望条件が合致していることを確認して契約書も作成し、売買契約を締結します。
3:所有権移転登記などの手続きをする
山林の売買契約をしたら、土地の所有権移転登記や固定資産税の清算を行い、一連の売買手続きは完了となります。
なお、売買する山林が都道府県の地域森林計画の対象になっている場合は、買主から市区町村に所有者届出をしてもらう必要があります。
山林売却の手続きの必要書類
山林の売買契約は売主と買主の意思表示だけで足りますが、所有権移転登記を行うためには、法務局に提出する書類の準備が必要です。
また、売却したい山林に関する資料は、取引をスムーズに進めるために調えておきましょう。
所有権移転登記に必要となる書類
売買を原因とする不動産の所有権移転登記の手続きには、申請書の他、以下の添付書類が必要になります。
書類の種類 | 備考 | |
---|---|---|
1. | 買主の住民票 | |
2. | 売主の印鑑証明書 | 発行から3カ月以内のもの |
3. | 登記識別情報通知 | または登記済権利証 |
4. | 固定資産課税明細書 | |
5. | 売買契約書 |
なお、不動産登記手続きには専門的知識が必要となり、書類の作成や収集に手間もかかるため、司法書士に依頼することが一般的です。
不動産売買に用意するべき書類
売却したい山林について次のような資料があると、買い手の知りたい情報を伝えやすくなり、取引がスムーズに進むでしょう。
書類の種類 | 備考 | |
---|---|---|
1. | 登記事項証明書 | 地番や地目、地積などが分かる。法務局で入手 |
2. | 固定資産税課税明細書 | 自治体から毎年送付される。紛失の際は自治体に再発行依頼 |
3. | 公図 | 土地の区画や形状が分かる。法務局で入手 |
4. | 地盤図 | 土地の地盤や地質を示した図。東京都区部と千葉県北部の地盤図が、地質調査総合センターのHPで入手可 |
5. | 森林情報 | 各自治体が提供する山林についての情報。自治体HPで閲覧可 |
山林売買にかかる費用・税金
山林売買を検討する上で、やはり気がかりなのが費用や税金の問題です。
ここからは、山林の売買にかかる費用や税金について解説していきます。
山林の売却に必要な費用
先に述べたように、山林は他の用途の土地に比べて取引相場がとても安いため、売却代金よりも費用の方が高くなることも珍しくありません。
山林の売買に必要な費用をきちんと把握して、売却に臨みましょう。
売買契約書に貼付する印紙代
一般的に、契約内容を明らかにするために契約書を作成しますが、不動産売買契約書には売買契約に応じた額の収入印紙を貼付する必要があります。
印紙税法では、印紙税の納税義務者を「課税文書の作成者」としており、売主が契約書を調えるのであれば売主が印紙代を負担することになります。
ただし、同内容の契約書を2通作成して契約当事者双方が1通ずつ保管する場合には、それぞれが1通分ずつの印紙代を負担するのが慣例です。
不動産売買契約書に貼付する印紙代は以下のようになっています。
土地売買契約額 | 印紙代 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
~10万円 | 200円 |
~50万円 | 400円 |
~100万円 | 1,000円 |
~500万円 | 2,000円 |
~1,000万円 | 10,000円 |
~5,000万円 | 20,000円 |
~1億円 | 60,000円 |
※令和6年4月1日以降に作成された売買契約書の場合
(参照元:国税庁 https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/08/10.htm)
売買契約後の登記にも登録免許税などがかかる
土地を購入した人は、所有権の移転登記をする必要がありますが、登記申請の際には登録免許税を納めなければなりません。
不動産の売買の登録免許税は、令和8年3月末日までは固定資産税評価額の1.5%、それ以降では2%が課税されます。
また、不動産の登記申請手続きを司法書士に依頼する場合には、その報酬も別途に発生します。
仲介手数料の負担は割高になることも
山林は、不動産の仲介手数料を規定した宅地建物取引業法の適用外ですが、実際には多くの不動産業者が、山林の取引にはこの法律に準じた手数料を適用します。
同法に基づく国土交通省の報酬告示には、売買金額400万円以下の物件につき売主が支払う仲介手数料を「上限を18万円+消費税とする」と定めています。
このため、たとえば不動産業者の仲介で山林を10万円で売却し、上限額の手数料を支払えば、8万円+消費税分の赤字です。
山林の売却益には税金が課される
山林を売買して、費用を上回る金額で売却ができたときには、その差額である売却益に税金がかかります。
売却益に対して所得税と住民税がかかる
山林を土地付きで売却した場合、「売却額から取得額と売却費用を差し引いた利益」に税金がかかります。
相続の場合で、故人がいくらでその山林を取得したのかが不明であれば、「売却額の5%」で算出した値を概算取得額とします。
売却費用は、不動産業者の仲介手数料や印紙税など、売却に要した直接的な費用です。
この「売却額 - (取得額 + 売却費用)」に、山林の保有期間により異なる以下の税率を乗じた金額が、課税金額となります。
売却益への課税税率は山林の保有期間で決まる
山林を売却する年の1月1日時点において所有期間が5年以下のときには「短期譲渡所得」が、5年超のときは「長期譲渡所得」の税率が適用されます。
それぞれの場合における、所得税率と住民税率は次の表の通りです。
また、平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として所得税額の2.1%が別途課税されます。
土地所有期間 | 所得税率 | 住民税率 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% |
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
なお、相続で引き継いだ山林を売る場合には、被相続人がその山林を所有していた期間も合算して「所有期間」とされることに注意しましょう。
林業を行っている人には「山林所得」に税金が
山林の木を伐採して売買したり、立木のまま取引したりしたときには、山林所得として課税されます。
山林所得の計算式は、「立木等の売却額 - 営林の必要経費 - 特別控除額(最高50万円)」です。
上記計算式で求められた山林所得に対し、「山林所得 × 1/5 × 税率 × 5」の金額が所得税として課税されることになります。
なお、上記計算式における税率は「山林所得の1/5」の金額により変動し、その値については以下の表に示します。
山林所得金額 | 所得税の税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~9,749,000円 | 5% | 0円 |
9,750,000円~16,499,000円 | 10% | 487,500円 |
16,500,000円~34,749,000円 | 20% | 2,137,500円 |
34,750,000円~44,999,000円 | 23% | 3,180,000円 |
45,000,000円~89,999,000円 | 33% | 7,680,000円 |
90,000,000円~199,999,000円 | 40% | 13,980,000円 |
200,000,000円~ | 45% | 23,980,000円 |
(参照元:国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2023/pdf/P/P8.pdf)
山林売買が難しいときの処分方法
山林はもともと不動産としての需要が少ないため、年単位の時間をかけて探してもなかなか買い手が現れないこともよくあります。
このようなときは、次に挙げるような売買以外の処分方法を検討してもよいでしょう。
森林経営管理制度を活用する
買い手を探している間にも適切な管理を続けていないと、山林は次第に荒れた状態になり、ますます買い手が付かなくなってしまいます。
山林の管理は間伐や枝打ち、下刈り等の専門的な作業を要するため、林業経営者や地域ボランティアに委託するのが無難です。
森林経営管理制度は、市町村が無償で山林の管理委託の仲介をしてくれる制度ですから、活用を検討するのがよいでしょう。
ただし、山林が林業経営に適さない場合は管理委託ができない他、譲渡や売却ではないため固定資産税の負担は残るという点にも、注意が必要です。
相続土地国庫帰属制度を活用する
相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月から開始された国による新しい行政制度です。
この制度では、一定の要件を満たした土地を相続や遺贈によって取得した人が、手数料と負担金を支払って、その土地を国に引き取ってもらうことができます。
ただし、建物がある土地や、崖や埋設物があるなど通常の管理処分に過分な労力や費用を要する場合などは、申請が却下または不承認となってしまいます。
また、審査手数料が土地一筆あたり14,000円と比較的高くで、負担金も最低で20万円かかるため、利用に際しては専門家とよく相談するのがよいでしょう。
有償の山林引取サービスを活用する
条件が悪く、公的な制度を使って山林を処分することもできない場合には、不動産業者や財団が提供する山林引取サービスを利用しましょう。
山林引取サービスは基本的に有償ですが、前述した公的な制度に比べると条件が厳しくなく、間口の広い山林の受け入れ先と言えます。
まとめ
山林は、営林など明確な目的をもって取得したものでなければ、活用の幅が限られるため持て余しがちになります。
売却をしたくても買い手が付きにくい山林は、放置すると相続税や固定資産税が課されますから、厄介な財産と考える方もいるでしょう。
相続などで取得した山林の処分にお困りの方は、売買の機会を気長に待つか、売買以外の制度やサービスを上手に利用することをおすすめします。