この記事でわかること
- 相続手続きの流れがわかる
- 相続手続きの期限がわかる
- とくに急がなければならない相続手続きがわかる
遺産相続で目がいきがちなのが、被相続人の預貯金の払い戻し、不動産の登記ではないでしょうか。
相続財産に債務はあるのか、相続の承認・放棄はいつまでできるのかなど、大切なことに目がいかないかもしれません。
しかし、相続手続きの中には、期限が定められている手続きや、他の相続手続きと深く関係する手続きがあります。
この記事では相続手続きの内容を整理し、相続手続きで何を行わなければならないか解説します。
そのうえで、期限が定められている相続手続き、相続手続きの重要なポイントをお伝えします。
相続手続きの参考にしてください。
目次
相続手続きの流れ
相続が発生すると多くの手続きをしなければなりません。
相続手続きの流れは大きく分けると5つの項目があります。
- 1.遺言書関係(検認は期限あり)
- 2.相続放棄や承認(期限あり)
- 3.相続人・財産調査から承継まで
- 4.相続税関係(期限あり)
- 5.遺留分の主張(期限あり)
それぞれの概要を押さえましょう。
相続手続き1 遺言書関係
被相続人(亡くなった方)のお葬式や火葬を行い、死亡届を出すだけでも大変ですが、それ以外にも多くの相続手続きがあります。
遺言書探し
まず、遺言書がのこされていないか、被相続人の自宅や貸金庫などを探すことになります。
弁護士に保管を依頼しているなど、遺言があることがはっきりしているケースなら探しやすいでしょう。
また、被相続人が公正証書遺言を作成しているケースなら、被相続人の自宅近くの公証役場などに問い合わせると、遺言が見つかる場合があります。
遺言書の検認(期限あり)
遺言書が見つかったら、公正証書遺言でないかぎり、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
検認を要する遺言書は、次の2つです。
- ・自筆証書遺言
- ・秘密証書遺言
なお、後述しますが検認手続きには期限があります。
相続手続き2 相続放棄・承認(期限あり)
相続放棄・承認の期限までに手続きをしなければ、単純承認とみなされてしまいます。
単純承認
単純承認とは、被相続人の権利・義務一切を引き継ぐ意思を表すことです。
単純承認の方式は定められていないので、相続人が口頭で行えます。
単純承認すると、遺産分割しないかぎり、相続人の財産と負債の額をすべて相続します。
限定承認
限定承認とは、被相続人のプラスの財産と負債のどちらが多いかわからないとき、行われる承認の方法です。
限定承認は、相続人が複数いる場合、相続人全員で家庭裁判所に申述しなければなりません。
相続人の1人から行ったり、口頭で限定承認したりできませんので、注意しましょう。
限定承認すると、相続財産の範囲内で相続債務・遺産を弁済するという限定をつけて相続することになります。
相続放棄
相続放棄とは、被相続人の権利も義務も一切引き継がないと意思を表示する手続きのことです。
相続放棄は、相続人が家庭裁判所に申述しなければなりません。
口頭や、自分で作成した書面で相続放棄の手続きを行うことはできないので、注意しましょう。
なお、後述しますが相続の承認・放棄には期限があります。
相続手続き3 相続人・財産調査から承継まで
遺言書探しや相続の承認・放棄と並行して、相続人を確定したり財産を調査したり、財産の承継に向けて手続きを進めます。
相続人調査・財産調査
相続が開始したら相続人や相続財産の確定を行います。
相続人の確定では、被相続人が出生してから死亡するまでの戸籍謄本や除籍謄本を集めなければなりません。
相続財産の確定は、不動産については市区町村が発行する名寄せ帳を取り寄せたり、権利証を確認したりすれば比較的容易に調査できます。
一方、金融資産については、被相続人名義の通帳や株式配当の通知書など、さまざまな書類を探して確定しなければなりません。
遺産分割協議・不動産の相続登記
相続人と相続財産が確定したら、必要に応じて遺産分割協議をします。
どの財産を誰が相続するか確定したら、不動産の相続登記や預貯金払い戻しを行います。
なお、遺産分割協議が整わなければ遺産分割の調停・審判を利用する場合もあるでしょう。
相続手続き4 相続税関係(期限あり)
遺産分割協議や不動産の相続登記、預貯金の払い戻しなど相続財産の承継と並行して、相続税関係の手続きをしなければなりません。
準確定申告や相続税の申告・納税、相続税の軽減措置の適用には期限があります。
相続税関係は早急に手続きを進める必要があるでしょう。
相続手続き5 遺留分の主張(期限あり)
遺言により遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額の請求をすることができます。
遺留分侵害額の請求は、とくに手続きの方法は定められていないので、口頭や自分で作成した書面で請求してもかまいません。
なお、後述しますが遺留分侵害額の請求は期限内に行う必要があります。
相続手続きの中で期限のあるもの
今まで見てきた相続手続きの中には、期限が定められている手続きがあります。
相続手続きと期限
相続手続きの内容 | 期限が定められている手続き |
---|---|
(1)遺言書関係 | 検認(遅滞なく) |
(2)相続人・相続財産確定 | なし |
(3)相続の承認・放棄 | 相続放棄、限定承認(相続開始を知ったときから3カ月内 |
(4)相続税関係 | ・準確定申告(相続開始後4カ月) ・相続税の申告・納税(相続開始後10カ月) ・相続税の軽減措置の適用(相続税申告期限後3年) |
(5)遺留分の主張 | 遺留分侵害額の請求(相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年経過したとき) |
相続手続きで期限を延長できるもの
相続開始後はやるべき手続きがたくさんあります。
どうしても期限までに間に合わないとき、期限を延長できる手続きを知っていると心強いので確認しましょう。
期限の延長ができる相続手続き
相続の承認・放棄 | 3カ月の熟慮期間内に相続人が相続財産の状況を調査しても、単純承認・限定承認・相続放棄のどれをするか決定できない場合 (家庭裁判所に相続人などが申し立て) |
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相続税の申告期限 | ・災害その他やむを得ない理由があるは、その理由がやんだ日から2カ月の範囲内で延長 ・一定の特殊な事由の生じた日後1カ月以内に申告期限が到来するときは、その事由が生じたことを知った日から2カ月の範囲内で延長 (特殊な事由の例 相続人の失踪宣告があったときなど) |
相続税の納付期限 | 一定の事由に当たるときは延長 |
遺産相続手続きで重要なポイント
今まで見てきたとおり、遺産相続には多くの手続きが必要です。
しかも、相続が開始してから数カ月以内に行わなければならない手続きもあります。
1つ1つの相続手続きを怠ってしまうと、多くの負債を抱えてしまったり、延滞税が発生したりします。
最後に、相続手続きで重要なポイントを見ておきましょう。
同時に多くの手続きを行う
前述の通り、遺産相続には、遺言書の検認や相続人の確定などさまざまな手続きがあります。
それぞれの相続手続きが密接に他の手続きと関連性があるので、どれか1つだけ行うのではなく、すべて同時に進めましょう。
とくに、相続財産が確定できなかったり、遺言書の検認を怠ったりすると手続きに支障をきたします。
相続財産が確定できないと、遺産分割協議が進まず、相続税申告・納付もできません。
遺言で相続不動産の遺贈がなされていれば、遺言書に従って相続登記をするので、検認を怠ると登記できません。
短い期間にいろいろな手続きを進めるのはたいへんですが、同時並行で行いましょう。
期限に注意
相続の承認・放棄の期限の延長は、必ずしも認められるとはかぎりません。
最近は、相続の承認・放棄の期限が延長できるという情報だけが一人歩きしているようなので、注意しましょう。
相続の承認・放棄の期限の延長は、家庭裁判所が決めます。
家庭裁判所の判断を待たずに、自分で「延長できるから」と相続手続きをせずにいると、被相続人の多額の債務を負いかねません。
また、相続税納付期限を延長してもらったとしても、延納利子税がつくことも知っておきましょう、
期限がない手続きも怠らない
遺産分割や相続登記には期限の定めがありません。
しかし、何年も遺産分割や相続登記をしないでいると、次の相続が発生したときに非常に複雑になります。
たとえば祖父が亡くなり相続手続きをしないでいるうちに、父親が亡くなり、ついで母親が亡くなったケースでは、相続が3回発生しています。
このような数次相続と呼ばれるケースでは、遺産分割協議に参加する人が多くなり、遺産分割の話し合いがたいへんです。
相続登記も複雑になり、登録免許税がかさむ可能性があります。
期限が定められていない相続手続きについても、早急に行うことが大切です。
専門家に依頼
遺言書関係、相続人や相続財産の調査、相続の承認・放棄、遺産分割協議や登記、相続税申告など、相続手続きは複雑です。
また、手続きにはスピードが要求されます。
自分で相続手続きをする場合、相当な労力と時間をかけなければなりません。
相続手続きにわかり辛いことがあったり、忙しくてなかなか手続きが進まなかったりする場合、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
相続手続きの流れや内容、期限の定めについて見てきました。
相続手続きで重要なのは、スピードと正確性です。
簡単に見えて、自分で行うと相当な時間と手間がかかる手続きもあります。
相続人確定のために戸籍謄本を取り寄せるだけでも、忙しい合間をぬって自分で行うと、数週間から数カ月かかる場合もあるでしょう。
相続の承認・放棄手続きをおこなおうとしても、わかり辛い面があるかもしれません。
その点、専門家にまかせれば、スピーディーに正確に手続きを進めてもらえます。
遺産相続が控えている方、遺産相続の手続きで困っている方は、ぜひ、相続に強い弁護士に相談してください。