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最終更新日:2022/12/16

【投資信託など金融商品のトラブル】親が認知症で資産凍結になる前にすべき相続の手続きなどをご紹介

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 認知症による相続上の弊害について理解できる
  • 認知症によって引き起こされる資産凍結を回避する方法がわかる
  • 認知症対策に特化した相続サービスについて理解できる

2020年現在、日本において65歳以上の高齢者の認知症患者は約602万人、およそ6人に1人程度が認知症になっています。

認知症になると、認知症患者本人の生活が困難になるだけでなく、周囲の家族にとっても、様々な問題が発生してきます。

その中で最も頭を抱えることになるのは、認知症患者本人が保有する資産の管理・相続に関する問題でしょう。

今回は、認知症による相続上の弊害について説明したうえで、認知症によって引き起こされる資産凍結のリスクを回避する方法を紹介していきます。

資産凍結とは

まず、資産凍結とはどのような状態のことを指すのでしょうか。

資産凍結とは、資産の移動や処分が禁止、または制限されることをいいます。

代表的な例として挙げるならば、銀行口座から預金を引き出せなくなったり、他の口座へ送金できなくなったりすることです。

この資産凍結は、死亡した場合だけでなく、認知症の場合でも引き起こされます。

認知症になってしまうと、その認知症患者本人の金融資産については、亡くなるまで凍結されることになるのです。

現在、日本の金融資産の約7割は、60歳以上の世代が保有しているため、認知症による資産凍結リスクが高まってきているというのが実情です。

2030年には、認知症患者が保有する金融資産、すなわち凍結資産が、日本の金融資産全体の10%を超えるという見解も出てきています。

高齢化社会の現状に伴って、今後ますます認知症患者が急増していくと推測されているため、この資産凍結は非常に深刻な問題です。

認知症による相続上の弊害

ここからは、認知症による相続上の弊害について解説していきます。

認知症になってしまうと、すべてのことにおいて認知症患者本人が意思を表現して決定していくことが難しい状態になります。

また、その本人の意思を周囲の家族が正確に把握することも困難でしょう。

財産の管理・相続については本人の意思決定が必要不可欠ですが、認知症になった場合には法律上、意思決定能力がないものとして扱われています。

本人の意思決定ないことには、その財産について周囲が無断で取り扱うことはできず、たとえ家族であっても、本人が所有する財産を管理したり相続したりすることはできません。

認知症になると、相続上、主に次のような弊害が生じます。

  • ・認知症患者の法律行為が無効になる
  • ・認知症患者の相続対策ができない
  • ・法定後見制度では相続対策ができない

上記の弊害について、それぞれ説明しますので確認していきましょう。

認知症患者の法律行為は無効になる

認知症によって意思能力がない人、あるいは低下して衰えている人は、その法律行為自体が無効になります。

医師の診察により認知症の診断を受けた場合、民法上、認知症患者は「意思能力のない者」として判断され、認知症患者本人が行った契約行為などは無効、または取り消されるのです。

認知症患者の相続対策が無効になる

認知症患者本人が行う相続対策も無効として扱われます。

相続対策を行う上では、本人の意思決定に基づいて決定していかなくてはなりませんが、認知症になるとそもそもその意思を表すことができません。

具体的には、以下のような行為ができなくなります。

  • ・不動産の建設、売却、賃貸契約
  • ・預金口座の解約、引出し
  • ・生命保険加入
  • ・生前贈与
  • ・遺言書の作成
  • ・養子縁組
  • ・遺産分割協議への参加
  • ・株主の場合、議決権の行使

相続対策にとって、どれも非常に重要な行為ばかりです。

これらが不可能になるということは事実上、相続対策ができないということになります。

法定後見制度では相続対策ができない

法定後見制度とは、本人の意思決定能力が不十分である場合に、本人の利益を保護するため、裁判所が選出した後見人が、その本人に代わって意思判断を補う制度をいいます。

上述しましたが、たとえば、預金の解約や不動産の売買などを行う際、本人に判断能力が不十分であれば、本人にとって不利益な結果を招く恐れがあります。

それを防ぐ方法として、法定後見制度があるのです。

ここで重要となってくるのは、「本人の利益」ということ。

後見人が本人に代わって資産管理や契約行為を行うことができるのは、本人の利益に関するものだけに限られます

すなわち、「相続人の利益」のために行う相続対策では、法定後見制度によって後見人を立てても、本人に代わって相続対策をすることはできません

投資信託などの金融資産のトラブル

さて、昨今では、認知症による投資信託などの金融資産のトラブルも多発しています。

問題となっているのは、認知症で投資信託の契約をしてしまった場合、その契約は無効になるのかどうかということです。

認知症の場合で投資信託の契約をした場合には、その契約は無効となります

投資信託とは、投資家から集めた資金を大きく一つにまとめて、それを運用の専門家が株式や債券などに分散して投資・運用し、その運用成果を投資家に還元する金融商品です。

投資信託による利益や損失は、投資家本人に帰属します。

そのため、投資信託の契約をする際は、その商品についてきちんと理解しておくことが必要です。

しかし、認知症の場合には、投資信託の契約内容を正確に把握して判断することはできません。

認知症の場合に契約した投資信託を無効とするためには、その投資信託の販売会社へ、当時本人の意思能力がなかったことを販売会社に証明する必要があります

証明する際に、医師の診断書を添えて、認知症と判断されている旨を伝えるとよいでしょう。

金融商品取引法では、適合性の原則が定められていて、販売会社には顧客の知識・経験及び財産の状況・投資意向に適した金融商品を勧誘するよう義務付けられています。(金融商品取引法40条1項)

そのため、販売会社は金融商品の市場リスクや信用リスクなどの重要事項について十分に説明しなければならないことになっています。

投資家側がその商品について正確に理解していない場合は、売ることができないのです。

契約当時、判断力がなかったことを証明するのは容易ではありませんが、この点を踏まえて販売会社と話し合いをしましょう。

また、これらの問題解決に向けて、成年後見制度の利用や弁護士への依頼も検討されることをおすすめします。

認知症になる前にすべき手続きや認知症対策に特化したサービス

認知症になるリスクに備え、認知症になる以前に法的手続きを取っておくことで、万が一の際にも相続対策が可能です。

ここでは、その3つの方法について紹介していきます。

  • ・任意後見制度
  • ・家族信託(民事信託)
  • ・認知症対策特化型「金融資産信託サービス」

それぞれ解説しますので、確認していきましょう。

任意後見制度

任意後見制度を活用すれば、認知症に備えた相続対策が可能です。

成年後見制度には、前述した法定後見制度のほか、任意後見制度があります。

この任意後見制度は法定後見制度と異なり、本人の意思能力があるうちに、本人自身で後見人を選出して、あらかじめ後見人に与える権限の内容まで定めることができます。

事前に後見人との間で、相続の際に財産の処分を託すことを契約しておけば、本人が認知症になった場合、後見人が本人に代わって、その後の財産の管理を行い、相続対策を行うことが可能です。

ここで注意しておきたいのは、認知症と診断されてからでは、法定後見制度しか使えないということです。

後見人の意思能力がないと、任意後見制度で後見人を立てることはできません

したがって、認知症になる前に任意後見制度を利用して、相続対策を進めるようにする必要があります。

家族信託(民事信託)

認知症に備えた相続対策として、家族信託(民事信託)という方法もあります。

家族信託(民事信託)とは、信頼のおける家族に財産を託し、その財産の管理・運用、処分などを委ねる仕組みのことです。

通常、家族信託の当事者は次の3者で構成されています。

  • ・委託者(財産を託す人)
  • ・受託者(託された財産の管理運用や処分を行う人)
  • ・受益者(信託財産からの収益を受け取る人)

※委託者自身が受益者となるケースが一般的です。

また、受益者の権利や利益を保護するため、委託者は必要な状況に応じて、受益者に代わって受託者を監督する立場の者(信託管理人や信託監督人)を定められるようになっています

この仕組みを上手に活用すればスムーズな資産継承を実現でき、相続のトラブルを予防・回避しながら、本人や家族の権利を守ることができます。

認知症による資産凍結のリスクなどを未然に防ぐ対処法として非常に有効です。

なお、この家族信託も認知症と診断される前に契約をしなければ無効となるので、認知症になる前に早いうちから対策を取っておきましょう。

認知症対策特化型「金融資産信託サービス」

認知症対策特化型「金融資産信託サービス」を事前に設定しておけば、本人が認知症を発症した後でも、受託者が、その信託財産の管理・運用を行うことが可能です。

この認知症対策特化型「金融資産信託サービス」とは、金融機関や証券会社などが提案する民事信託を活用したスキームのことを指します。

認知症に特化しているため、金融資産を抱える高齢者本人の悩みや不安がある場合や、家族が実際に不安でお困りの場合には、認知症対策特化型「金融資産信託サービス」を検討するべきでしょう。

今後の資産管理、相続対策を検討する際には、本人のみならず、その家族にも様々な不安や心配が生じてくるものです。

本人であれば、自身の判断能力の低下への不安や、相続発生時への対処方法や資産承継についての悩み、本人の家族であれば、本人の意思決定能力が衰えたときにどう対処したらいいのかという不安があることでしょう。

実際に本人が認知症になってしまった後では、成年後見制度での事後対応しかできないうえに、本人が死亡して相続が終了するまで、本人の預金や証券取引口座が凍結されることになります。

金融機関や証券会社などでは、それらの不安や心配に備える方法として、認知症対策特化型「金融資産信託サービス」を打ち出しています。

この認知症対策特化型「金融資産信託サービス」は信託を活用して、財産の承継人や承継させる財産の金額、税対策も含めた資産承継の方法なども検討でき、特に急ぎの場合であれば、シンプルに資産管理の受託者を設定するだけで、認知症対策が可能です。

このサービスを活用する条件としては、意思能力があることが大前提です。

サービス自体の流れとしては、まず金融機関や証券会社などにおいて、資産や家族構成等を把握するための面談を行い、信託スキームを検討します。

その後、弁護士の確認のもとで信託契約書を作成したうえで、信託契約書を公正証書にします。

それを済ませたら最終的に、受託者が信託専用の口座を開設し、信託された資産をその口座へ移管します。

信託専用の口座へ移管された資産は、その口座内で、受託者が運用していくという仕組みです。

信託設定後は受託者が金融資産の管理を行いますが、実際の経済的な利益や損失については、引き続き本人に帰属するので、その点に留意が必要です。

親の認知症で相続に困ったときの対処法

認知症の親がいる場合や、認知症による相続問題でお困りの場合は、まず弁護士に相談してみることをおすすめします。

相続問題において豊富な経験を有している弁護士に相談することで、その様々なケースに応じて、適切なアドバイスを得ることが可能となります。

また、弁護士を成年後見人として選任することも可能で、認知症となった被後見人の代理として遺産分割協議などの手続きもスムーズに進めることができます。

認知症による相続問題でお困りになった際は、一度、相続専門の弁護士へ相談するのが得策です。

まとめ

今回は、資産凍結をはじめとする認知症による相続上の弊害について解説したほか、認知症になる前にすべき相続対策の方法について解説しました。

認知症になってからでは、相続対策はほとんどできないというのが現状です。

そのため、認知症による相続トラブルを防ぐには、任意後見制度や家族信託、認知症対策特化型「金融資産信託サービス」を活用して、あらかじめ対策を講じておくことが大切になります。

制度に関することや、今の段階でできることを知りたいという場合には、弁護士に相談することも検討してみましょう。

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