この記事でわかること
- 家族信託で不動産を信託する場合の登記がわかる
- 信託の登記に必要な信託目録を理解できる
- 家族信託のメリット・デメリットがわかる
不動産を相続したときや、不動産の売買のとき、登記が大切だということは、ご存知の方も多いでしょう。
家族信託で不動産を信託する場合も、信託の登記をします。
信託の登記は非常に特殊で、一般的な契約である売買や贈与にともなって行う登記と、性質が異なります。
家族信託で不動産を信託したいけれど、どんな登記をするのか、どのくらい費用が掛かるのか不安な方もいるでしょう。
そこで、この記事では信託の登記の基本的な知識を解説します。
家族信託のメリット・デメリットもお伝えするので、不動産を信託するか検討している方は、参考にしてください。
目次
家族信託登記とは
家族信託で不動産を信託する場合、不動産の信託登記をしなければなりません。
信託登記について基本的な内容を確認しましょう。
信託登記は所有権移転登記と同時に行う
一番大切なことは、信託登記は、委託者から受託者への所有権移転登記と同時に行われるということです。
「信託するだけなのに登記が必要なのか?」と思うかもしれませんが、信託財産である不動産は、所有権が委託者から受託者に移転するため必要なのです。
ただし、売買や相続などを原因とする所有権移転登記と、信託と同時に行われる所有権移転登記は性質が違います。
受託者はあくまでも「受益者のために信託不動産を管理・処分する」人であることを示す必要があるからです。
信託登記の場合の登記の目的とは?
「登記の目的」とは、簡単に言えば「どんな登記をするか」ということです。
登記には原則として「登記の原因」があります。
不動産を相続した場合の登記なら「登記の目的 所有権移転、登記の原因 〇年〇月〇日相続」です。
家族信託で不動産を信託すると、次のような少し変わった登記が行われます。
不動産を信託した場合の登記
登記の目的 | 所有権移転及び信託 |
---|---|
登記の原因 | 〇年〇月〇日信託 |
信託登記の必要書類
信託登記に必要な書類を確認します。
登記必要書類
- ・信託不動産の登記済証または登記識別情報(紛失した場合は代替え措置あり)
- ・委託者の印鑑証明書(住所地の市区町村発行 発行後3ヶ月以内)
- ・受託者の住民票
- ・登記原因証明情報
- ・信託目録
- ・固定資産評価証明書(不動産所在地の市区町村発行)
信託不動産が複数の法務局管轄に渡る場合は、印鑑証明書や住民票を多めに取得しておくと便利です。
登記申請書、登記原因証明情報や信託目録の作成方法については、ご自身で登記される場合、法務局の登記相談を利用するとよいでしょう。
法務局の登記相談は予約制なので注意してください。
信託目録とは
次に、家族信託で不動産を信託する場合の登記で作成される信託目録について見てみましょう。
信託目録と信託財産目録との違い
家族信託では「信託目録」と「信託財産目録」という似て非なる目録があるので注意しましょう。
信託目録と信託財産目録
信託目録 | 信託登記の際に作成される目録 |
---|---|
信託財産目録 | 信託契約書に付ける目録 |
信託目録は信託登記の際に作成され、一定の事項が記載されます。
信託目録の主な記載事項
- ・委託者に関する事項
- ・受託者に関する事項
- ・受益者に関する事項
- ・信託条項 信託の目的(信託財産の管理方法、信託の終了の事由、その他の信託の条項)
家族信託登記にかかる税金
信託登記をするとき、登録免許税という国に治める税金がかかります。
登録免許税について確認しましょう。
信託登記の登録免許税
信託登記は、不動産価格の1000分の4を乗じた額の登録免許税がかかります。
時価や路線価ではなく、固定資産税評価額が登録免許税算定の基準額です。
例えば、固定資産税評価額5,000万円の土地を信託した場合、登録免許税は200,000円かかります。
登録免許税は、登記の際に収入印紙を台紙に貼って法務局に納めるのが一般的です。
収入印紙の台紙を登記申請書と綴って契印する、収入印紙は割印しないなど、細かなルールがあります。
ご自身で信託登記をする方は、事前に法務局に確認するとよいでしょう。
所有権移転登記は非課税
信託登記と同時に行う所有権移転登記には、登録免許税はかかりません。
信託登記の登録免許税
信託登記 | 課税される |
---|---|
所有権移転登記 | 非課税 |
司法書士報酬
信託登記は、注意しなければならないことが多いので、不安な場合は司法書士に登記を依頼することをおすすめします。
司法書士の報酬は不動産の数や価格、登記だけを依頼するのかどうかなどによりケースバイケースです。
司法書士は通常、依頼を受ける前に、登録免許税や交通費などの実費と、報酬について詳しく見積もります。
見積額を確認したうえで、依頼するとよいでしょう。
家族信託のメリット
家族信託のメリットを見ていきましょう。
家族信託のメリット
- 1、早期の認知症対策
- 2、柔軟な財産管理ができる
- 3、財産管理者を自由に選べる
- 4、受託者の報酬は必ずしも発生しない
- 5、第二受益者を定められる
1 早期の認知症対策
認知症の方の財産管理方法には、成年後見制度の利用もあります。
しかし、成年後見開始の審判は、認知症が発症する前は申し立てることはできません。
一方、家族信託は、委託者が元気なうちに家族信託することができます。
家族信託は、早期の認知症対策としてメリットがあるということです。
そして、委託者が認知症になっても、信託財産の財産管理・処分の問題は生じません。
信託財産の所有権は受託者に移転するためです。
2 柔軟な財産管理ができる
積極的な財産の運用が行えるかどうかという点も、家族信託と成年後見制度の違いです。
老朽化した賃貸アパートの建て替え、金融資産の積極的な運用は、成年後見制度では認められていません。
一方、家族信託では、受託者は柔軟に信託財産を運用することができます。
財産管理の柔軟性も、家族信託が認知症対策としてメリットがあると言える理由です。
3 財産管理者を自由に選べる
家族信託では、委託者が自由に受託者を定めることができます。
しかし、成年後見制度では、家庭裁判所が成年後見人と成年後見監督人を選任します。
成年後見人と成年後見監督人の選任は、本人や家族の希望に沿うとはかぎりません。
本人や家族が見知らぬ弁護士や司法書士など専門家が選任されるケースもあり、戸惑うこともあるでしょう。
自由に受託者を定めることができる点も家族信託のメリットです。
4 受託者の報酬は必ずしも発生しない
成年後見制度を利用すると、家庭裁判所が成年後見人と成年後見監督人の報酬を定めます。
長期にわたり成年後見人と成年後見監督人の報酬を支払うのが負担となる場合もあるでしょう。
家族信託では、受託者の報酬も本人と受託者で定めることができます。
家族にとって負担とならない信託契約を結べるのも、家族信託の魅力です。
5 第二受益者を定められる
成年後見は本人死亡により終了しますが、家族信託なら本人死亡後も財産管理を継続できます。
例えば、委託者である夫が信託当初の受益者で、夫亡きあとは妻を受益者とする信託契約も可能です。
第2、第3と受益者を定めれば、委託者亡きあと、妻、子、孫のために家族信託を続けることもできます。
ただし、この受益者連続信託は、期間の制限があります。
自分の子や孫を連続して受益者にするときは注意が必要です。
家族信託のデメリット
最後に、家族信託のデメリットを確認しましょう。
家族信託のデメリット
- 1、身上監護権の問題
- 2、他の制度との併用が必要な場合もある
- 3、プラン設計、運用が難しい
1 身上監護権はない
認知症の方の介護契約や介護施設への入所契約などの権限を身上監護権といいます。
成年後見人は身上監護権を有しますが、家族信託の受託者には認められていません。
家族信託と成年後見制度のどちらがよいか、併用がよいケースかなど、財産管理を要する方の状況に合わせて検討しましょう。
2 他の制度との併用が必要な場合もある
家族信託はすべての相続対策に対応できるわけではありません。
遺留分権利者の権利を害する信託契約は、その効力が覆ってしまうケースもあるためです。
仮に、信託契約が無効とされると、受益者のための財産管理プランが崩れてしまいます。
また、前述した身上監護権の問題もあります。
高齢者の方の財産管理には、家族信託のみの利用を考えるのではなく、遺言、成年後見制度の利用などの併用も考えることをおすすめします。
3 プラン設計、運用が難しい
家族信託を行うには、民法、相続税・贈与税、法人税など税法の知識が必要です。
知識を備えずに家族信託プランを設計すると、余計な税金がかかる可能性があります。
また、資産運用のスキルを持っていない受託者が資産を運用すると、損をして資産が目減りしかねません。
プラン設計、運用ともに高度な知識とスキルが必要です。
専門家でも、法律や税金の知識はあるけれども、運用についてのアドバイスは苦手という人もいます。
専門家を利用するときは、何が得意かよく確認してプラン設計を頼むとよいでしょう。
まとめ
家族信託で不動産を信託する場合、どのような登記をするのか、登記にかかる税金、登記に必要な書類などを見てきました。
家族信託の登記は非常に特殊です。
しかし、所有権移転登記と信託登記を同時に行うという点を知ると、「信託の性質」を理解しやすくなります。
家族信託は成年後見制度や遺言とはまったく異なる制度です。
財産管理の手法として脚光を浴びている面もありますが、内容をよく理解したうえで利用しないと後悔しかねません。
受託者以外の家族との相続争いになったらそれこそ大変です。
家族信託の利用を検討する場合、できるかぎり専門家に相談し、綿密なプラン策定や信託契約書作成を依頼することをおすすめします。
「家族信託してよかった」と言えるように、ご家族でよく話し合いましょう。