この記事でわかること
- 家族信託の申告納税義務者は受益者とわかる
- 家族信託契約内容によって税金が変わるのがわかる
- 名義変更はタイミングによって書類が異なるのがわかる
家族信託契約は、家族間の当事者で決めることができます。
しかし、税金の確定申告は、委託者、受託者、受益者の関係によって適用される税金の種類が違ってきます。
契約内容をよく吟味しておかなければ、相続税対策には利用できなくなるため要注意です。
そこで今回は、確定申告をする際の注意点、家族信託時にかかる税金や提出すべき書類まで解説します。
目次
家族信託の税金の納税・申告義務者
家族信託における契約形態で最も一般的なパターンは、委託者(父親)、受託者(子)、受益者(父親) です。
税金に関して納税義務者は誰かということになります。
所得税では、10種類の所得に分類し、合計して年間の合計所得金額を計算します。
当然、収入を得ると納税義務者になりますから、申告する必要があります。
家族信託契約の場合、受託者は財産管理権を持っているだけとなります。
管理権限は財産の保守・修繕などをしますが、個人として収入は得ません。
収入を得ている人は受益者であり、収入を得る人は納税義務者となります。
そのため、一般的パターンでいくと、受益者(父親)が申告納税義務者となります。
契約形態によっては、受益者が変わる場合もあります。
受益者が委託者と一致している場合
受益者が委託者と一致している場合、委託者は収入を得ていますから、所得税の課税対象になります。
申告するのは受益者です。
この場合は、委託者が本人の名で確定申告をしなければなりません。
受託者は財産管理権限を行使しても、実質、無収入ですから申告対象になりません。
受益者と委託者が一致していない場合
受益者と委託者が一致していない場合があります。
これは家族信託契約において、受益者を委託者の配偶者に設定し、受託者を子にする場合です。
父親が委託者、母親が受益者、子が受託者として財産管理する場合、受益者は母親ですから、財産管理を委託した父親は一切、収入がありません。
そのため、財産管理者の受託者である子は父親と同様に無収入です。
このような契約形態にしたとき、受益者中心主義で考えると、母親が所得税を申告すればいいという税制論法が一般論になります。
そこで、父親が受けるべき収入が、母親に行ったと税法上に考えられ、受益者の母親は贈与を受けたと認定されます。
財産は父親の物であり、管理権限が受託者である子に移動しただけです。
そのため、財産から生じる利益は本来、父親の収益となりますが、前例では配偶者である母親が独占できる収益を持った納税義務者になります。
だからこそ、父親の収益を受益者の母親がもらう契約ですから、当然、財産をもらったとみなされ、母親が贈与税課税対象者になります。
この場合、父親は実質、収入を得ていませんから、所得税課税対象にはなりません。
考え方は、受益者が誰か、誰の財産からあがった収益かを基準として、税法を適用させるものです。
なお、不動産信託登記する場合、登録免許税は受託者負担となります。
家族信託でかかる税金
家族信託契約を行うとき、どのような税金がかかるか心配している人も多いでしょう。
委託者、受託者、受益者の3人のみならず、家族信託を行う際に不動産が財産としてあれば、不動産に関連する税金もあります。
なお、委託者は、受益者と一致していれば所得税・住民税の課税対象になります。
ここでは、さらに受託者・受益者の関する税金について詳しく内容を詳説していきます。
受託者に関係する税金
まずは、受託者に関係する税金について見ていきましょう。
家族相続財産は、財産管理権が受託者に移動する契約です。
当然、不動産などの固定資産に関係してきますから、税金という考え方からいきますと、固定資産税の賦課決定と納税は密接に関係します。
固定資産税は、所有権者に納税義務があります。
(1)登録免許税
家族信託を行うときには、委託者の不動産を所有権移転する必要があります。
これは信託登記と呼ばれるもので、売買や贈与を原因とするものではありません。
不動産所有権移転に伴い、法務局の登記手続き段階において、新たな所有権名義者(受託者)に税金がかかります。
ただし、信託登記の場合、通常の登録免許税の1/5と割安になっています。
(2)固定資産税
家族信託を行なうと所有権移転を行なう必要がある」とお伝えしましたが、不動産の名義は受託者となります。
そのため、受託者に納税通知書が届きます。
(3)不動産取得税
家族信託契約は委託者の存命中または期限契約でもあるため、いつか必ず終了します。
終了後、不動産所有者が変わる場合も想定されます。
ですから、信託内容によって不動産取得税が課税される場合があります。
ただし、信託契約終了後、委託者に所有権が戻ったら、名義が元に戻っただけなので不動産取得税はかかりません。
不動産取得税は、売買・贈与・増改築があったとき課される税金です。
家族信託終了後、信託内容に基づき、当該不動産財産を委託者以外に譲り渡すと記され実行すれば、贈与されたとみなされ、不動産譲受者または受贈者に不動産取得税がかかります。
受益者に関係する税金
(1)贈与税
受益者と委託者が一致しない場合、受益者は委託者の財産から生じた収益をもらっているため、委託者の財産を贈与されたとみなされます。
(2)相続税
受益者と委託者が一致している場合、受益者が亡くなってしまうとイコールで委託者も亡くなったということになりますので、信託契約上に特段の定めを規定しなければ通常の相続が開始されます。
相続人が相続税を支払いますが、信託契約上に新たな受益者を設定していれば、新たな受益者に相続税がかかります。
遺言に近い考え方といえます。
受益者が受益権を第三者に売った場合
実は、受益権は売買できる権利です。
信託受益権は、信託財産からあがった収益を受ける権利であり、家族信託の場合、受益者として設定されます。
しかし、受益者が権利を譲渡することもできます。
権利売買には譲渡資金が動きますから、場合によって課税項目が変わってきます。
信託受益権を譲渡した場合
受益者が信託受益権を譲渡する場合、有償と無償があります。
有償は金銭の授受があるため、受益権を売った受益者には譲渡所得が課税されます。
さらに、国税の所得納税と関連する地方税である住民税も課税されます。
受益権を買った新しい受益者は、金銭を払っているため、課税対象になりません。
信託受益権を贈与した場合
受益者が贈与した場合は、贈与者した受益者には税金がかかりません。
ただし、受贈者(贈与を受けた者)は権利に付随する利益をもらったわけですから、贈与税課税になります。
以上のように、譲渡か贈与かによって、課税が変わります。
権利は収益と一体化していますから、金銭授受の形態によって、適用税制が違ってきます。
家族信託における確定申告以外の必要書類
税金に関することは申告・納税により確定申告がすでに予定されています。
それでは確定申告以外に、どのような書類が必要になるでしょうか?
家族信託は信託契約を締結することにより、委託者は受託者に財産管理権限を移動させ、財産を管理してもらいます。
契約形式は家族の間で自由に取り決めできますが、法的効果と信用性を高く設定するためには、公正証書を作成します。
信託契約書を公正証書にすることにより、名義変更などの各種手続きを滞りなく進めることができます。
公証役場まで行かなければいけませんが、できれば弁護士などの専門家に依頼するほうが、手続きがスムーズに運びます。
公正証書作成に必要な書類
- (1)当事者の身分証明証
- (2)信託財産に関する資料
- ・不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
- ・固定資産税評価証明書
- ・金銭信託の場合は、銀行通帳の写し
不動産登記書類
- (1)委託者・受益者の印鑑証明証
- (2)信託不動産に関する権利証
- (3)受託者の住民票
- (4)登記申請書
- (5)信託契約書
- (6)信託財産目録
- (7)固定資産評価証明書
- (8)専門家に依頼した委任状
家族信託で困ったときの対処法
家族信託は、委託者、受託者、受益者として家族間で締結する信託契約です。
信託内容および条件によって、後で信託の財産の行方が変わる場合もあれば、課税される税金の種類も違ってきます。
条件設定が記されていなければ、将来における委託者の認知症対策や相続税対策にならないこともあります。
そのため、弁護士などの専門家に依頼したほうが、賢明なる判断ができるでしょう。
家族信託はまだ新しい信託契約のため、知識と実務に長けた専門家が必要です。
たとえば、金銭信託の場合、全国すべての銀行が銀行口座を取り扱う状態になっていないらしく、信託専用口座を開設する銀行選択にも苦労します。
税法と信託法が関係してきますから、法律の専門家および税務の専門家に相談したほうがいいでしょう。
まとめ
家族信託には様々な形で税金が関係してきます。
受益者は事実上財産から生じた収益を得ますから、所得になり、課税対象になります。
また委託者、受託者、受益者の関係によって申告納税義務者が変わる場合があります。
家族信託は家族間の信託契約ですが、委託者は自己所有財産を管理してもらう受託者、ならびに財産から生じる収益を得る受益者の設定を、当事者間で協議する必要があります。
必要書類を集めるなど、手間がかかりますから、専門家に委任したほうが手続きは進めやすいです。
同時に家族信託は、法的に認められていますが、実務上は極めて専門性の高さを要求してきます。
自力で行うには難しいと考えられます。
委託者の将来の状況を考え締結する契約ですが、契約期限の終了をいつにすべきかによって、契約終了後の状況も変わってきます。
ですので、弁護士などの専門家に相談することをおすすめいたします。