この記事でわかること
- 家督相続とは何かがわかる
- 家督相続が現代でも適用されるケースがわかる
- 家督相続のように相続する方法がわかる
- 家督相続のような相続を主張された時の対応方法がわかる
家督相続という言葉を聞いたことがありますか。
今でも「家を継ぐ」といった言葉があるように、戦前の日本では、長男が家を継ぐという慣習がありました。
そのため、戦前から戦後のほんの一時期まで有効であった旧民法(以下「旧民法」といいます。)では家督相続が定められていました。
戦後の民法改正によって、家督相続は廃止されましたが、家を継ぐという考え方が残っている場合もあります。
家督相続と現在の相続では、どこが違うのでしょうか。
現在でも、家督相続が関係してくることはあるのでしょうか。
ここでは、家督相続と現在の相続について、解説します。
目次
家督相続とは
旧民法では、家督相続という相続方法がとられていました。
家督相続とは、長男などの一人がその家の財産等を相続する制度です。
「家」の後継者となる者が、財産等すべてを受け継いでいました。
具体的にどのような仕組みになっていたのでしょうか。
家督相続の仕組みと歴史的背景
旧民法では、戸籍の筆頭となる「戸主」という位置づけがありました。
現在でいえば、戸籍の筆頭者にあたるものです。
旧民法では、その「戸主」が一家の財産等と引き継ぐとされ、前戸主が死亡あるいは隠居した時は、「戸主」の地位を受け継ぐものが相続人と定められていました。
次期戸主となった人は、一家の戸主としての権利義務と一家の財産を引き継いでいました。
現在では、死亡時に相続が発生しますが、旧民法では「隠居」という制度もあったため、死亡前に隠居して家督相続を行うというケースもありました。
その場合は、戸主が家督相続人に変更となり、隠居した前戸主は、相続人の戸籍に入っていました。
現在の戸籍では親と子のみの二世代しか記載することができず、子が婚姻または出産等をして孫ができると、子を筆頭とする新たな戸籍が作成されます。
旧民法では、三世代以上が同じ戸籍に入っており、長寿で生前に家督相続をしていない人のケースであれば、曾孫まで記載されているものもありました。
現在とはかなり違った戸籍制度です。
家督相続制度は、昭和22年5月の日本国憲法施行の際、応急措置法が施行されたことによって事実上停止され、同年12月までは、同法による暫定措置が取られました。
昭和23年1月施行の民法改正で、家督相続制度は完全に廃止され、現在の相続の形になりました。
家督相続と現在の相続の違い
現在でも事実上家督相続が行われている場合があるのではないかと思われるかもしれませんが、家督相続と現在の相続とでは制度に大きな違いがあります。
どのように違うのでしょうか。
相続の順位の違い
家督相続では、相続順位で同順位の相続人がいたとしても、一人のみが相続します。
家督相続の順位は、嫡出男子、庶出男子、嫡出女子、庶出女子などとなっていました。同順位では年長者が、相続人となりました。
たとえば、父母と長男長女がいて、父が亡くなった場合の家督相続は、下記の図のようになります。
父 = 母
(被相続人)
|
長男―――――長女
(家督相続人)
現在では、配偶者が常に相続人となり、第1順位が子、第2順位が父母、第3順位が被相続人の兄弟姉妹となります。
現在の相続では、上記と同じ状況であれば、相続人は下記の図のようになります。
父 = 母
(被相続人) (相続人)
|
長男―――――長女
(相続人) (相続人)
家督相続制度の財産留保
家督相続では、前戸主が生前に「隠居」や「入夫婚姻」で家督相続をした場合は、財産を留保できるという制度もありました。
留保した財産は、家督相続の対象から外されて、前戸主が亡くなった後に、家督相続の対象ではない相続財産として処理されていました。
現在では、亡くなって初めて相続が開始されるため、現在とは大きく異なっています。
家督相続は現在でも相続登記時に適用される場合がある
家督相続は旧民法の制度で、現在の相続では適用されることはほぼありませんが、旧民法時に発生した相続であって、その際に相続登記がなされていなかった場合には、適用される場合があります。
代々受け継いだ土地の登記においては、相続登記がなされていない場合があります。
そのような土地を現在の所有者へ相続登記する場合に、登記名義人が旧民法時に亡くなっていれば、旧民法下の家督相続制度によって相続が行われたこととなり、さらに、その後に新民法化で新たな相続が発生していれば、新民法の制度で新たな相続が発生したものとして、登記を行うことになります。
家督相続のように1人に遺産相続させる方法
現在では、長男だけが家を継ぐということは少なくなっていますが、代々の農業や商売など家業を継いだ子に財産を引き継がせたい、といったケースはよくあります。
家督相続制度はなくなりましたが、家督相続のように1人に相続をさせる方法はあるのでしょうか。
遺言書の作成を行う
生前に遺言書を作成しておくと、相続させたい相続人を指定することができます。
遺言書には、1人にすべて相続させると書くことができ、家督相続のような相続を指示することも可能です。
しかし、相続させる人以外に、配偶者や子など遺留分を持った相続人がいる場合は、注意が必要です。
現行民法では、最低限遺産を相続できる権利として遺留分が設定されています。
遺留分を持つ相続人は、遺留分がもらえなかった場合、遺産をもらった人に対して、遺留分侵害額請求を行うことができます。
そのため、1人のみに相続をさせてしまうと、後々遺留分をめぐって相続人同士でトラブルになる可能性もあるので、あらかじめ配慮しておくことが大切です。
家族信託制度を利用する
家族信託では、順位を設定して受益者を指定することができます。
家族信託は、生前に自分の財産による受益権をどのように指定した者に移していくのか設計することができます。
たとえば、自分の死後は長男、その後は孫などが受益者となることを指定することができ、不動産などの資産の受益権を代々受け継がせることができます。
信託制度を利用すると、相続財産とはならないため、自らが指定する者に相続財産を受益する権利を直接移すことができますが、手続きや制度を利用している管理の手間などリスクもあります。
また、家族信託により、相続財産による受益権を自分の指定する者に集中させたとしても、相続財産に対する遺留分侵害額請求権が消滅するわけではないので、他の法定相続人が受益権を集中的に得た者に対して遺留分を行使する可能性は残ります。
他の相続人全員と協議をして同意をとっておく
遺言書に相続人1人だけに相続させると指定しても、他の相続人から遺留分を請求されてしまったら、1人に受け継がせることはできなくなります。
他の相続人も1人が相続することに納得、同意していた場合は、トラブルにならずにスムーズに1人で相続できる可能性があります。
生前に同意していても、死後それを覆した、といったケースもありますが、生前から他の相続人の同意を得ておけば、1人に相続させることのリスクを減らすことができます。
家督相続をしたいと主張された時の対処法
家督相続をしたい、ということも少なくなってきましたが、やはり、まだ「長男だから自分が全部継ぐべき」と思っている人も中にはいます。
家督相続をしたい、家を継ぐから遺産を全部欲しいと主張された時、どのような対応をしたらよいのでしょうか。
遺言書の有無を確認する
まずは、遺言書がないか確認します。
「すべてを1人に相続させる」など、家督相続的な内容の遺言があった場合は、故人の意思を尊重してそれに同意する、という選択肢もあります。
しかし、1人がすべて相続することに納得がいかなかった場合、遺留分がある相続人であれば、すべての相続財産を相続した人に対して、遺留分を請求することができます。
遺産分割協議をする
遺言がなかった場合、基本的には法定相続分で分割しますが、分割方法については相続人同士で遺産分割協議をします。
家業を継いだなどの事情があれば、1人が相続することに他の相続人が同意したりするケースもあり得ます。
一方で、話し合いが一向に進まない場合もあります。
いつまでたっても平行線であることや、相手方と話し合いができない状態になった場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を行います。
裁判所が間に入ることで、話し合いが進む可能性があります。
まとめ
家督相続は戦前の相続制度で、基本的に長男が一家の財産などすべてを相続していた制度です。
家督相続には、生前に「隠居」して家督相続させる制度もあり、現在の民法とは大きく異なっています。
代々相続登記がされていない土地の登記などでは、対象の土地の登記名義人が旧民法の時に亡くなって、その相続について家督相続が適用されるケースもあります。
核家族が増え、「家を継ぐ」感覚が少なくなってきた現在の日本ですが、代々の家業を継ぐ際など、まだまだ「家」が意識されるケースもあります。
他の相続人から家督相続したい、と言われた場合は、納得すれば同意し、遺産すべてを1人に相続させることが可能ですが、納得できない場合は、遺産分割協議をする必要があります。
また、すべての遺産を1人に相続させると記述してある遺言がある場合、遺留分があれば、遺留分を請求することができます。
遺産分割協議では、話し合いがこじれることもあり、家庭裁判所で遺産分割調停をすることになるケースもあります。
遺留分の請求や遺産分割調停は、法律的な知識も必要で、他の相続人との関係もこじれてしまう可能性があります。
そんなトラブルになってしまったら、専門家である弁護士に早めに相談しましょう。
専門家の代理人が入ることで、お互い冷静になれる部分もあり、納得のいく解決方法が見つかります。