この記事でわかること
- 相続手続きを弁護士に依頼することのメリット
- 弁護士に依頼するタイミング
- 弁護士に依頼した場合の概算費用
身近な人が亡くなり、自分が相続人となるという場面は、人生でそんなに数多くあるものではありません。
そのため、いざ自分が親の財産を相続するとなった場合、親を亡くしたというショックも相まって、何をしたらいいのか、何から手をつけたらいいのかがわからなくなるということも往々にしてあるでしょう。
そのような場合に、弁護士などの法律の専門家に依頼するという方法も有効な手段として考えられます。
そこで、本稿では、相続関係の処理を弁護士に依頼することのメリットは何か、依頼した場合、どのくらいの費用がかかるかについて、見ていきたいと思います。
目次
相続手続きを弁護士に依頼するメリット5つ
相続手続きには様々な種類があり、家族を亡くしたばかりの相続人が行うのは大変な場合もあります。
相続手続きを弁護士に依頼すれば、遺族の負担を大幅に減らしミスなく相続手続きを完了できます。
相続手続きを弁護士に依頼するメリットを詳しく確認していきましょう。
相続手続きを弁護士に依頼するメリット
- 遺言書の確認や検認手続きのミスをなくせる
- 相続財産の確認や調査の手間を減らせる
- 相続人の調査・確定のミスをなくせる
- 相続人の代わりに必要書類の取得も任せられる
- 公平な遺産分割協議を行える
遺言書の確認や検認手続きのミスをなくせる
弁護士に依頼することによって、遺言の存否の確認や、その偽造防止、さらには、検認手続きをしてもらうことが期待できます。
遺言書の隠匿や改ざん防止が期待できる
故人の所有物を現実に整理して、遺言書がないかを調査することは、故人の身近にいた相続人が直接行うことが妥当であり、弁護士が直接関与するべき事項ではありません。
ただし、遺言書を発見した相続人の1人がその遺言書を隠匿したり、改竄したりという可能性も否定できないため、その調査に弁護士に立ち会ってもらうことは遺言書についての不正行為防止が期待できるといえます。
第三者への遺言書の有無を調査できる
故人が遺言書を第三者に預託していないかを調査する際も、関係先への問い合わせをするのは非常に手間であり、その労力も半端なものではありません。
そのような場合には、弁護士から関係先に一括して問い合わせをかけてもらうことにより、手続きを円滑、かつ迅速に進めることが可能となります。
検認の手続きも問題なく進められる
遺言書が見つかった場合の検認の申立は家庭裁判所に対して行います。
裁判所の手続きに精通している弁護士に依頼することによって、漏れの無い手続きを進めることが可能です。
相続財産の確認や調査の手間を減らせる
弁護士に依頼することによって、相続財産の管理を適切に行ってもらえることが期待できます。
手元の財産の管理や調査を弁護士に依頼できる
相続財産の確認についても、故人の手元にあった財産については、相続人が直接調査することが可能です。
ただ、これについても、最終的に遺産分割協議を行う際には、具体的にどのような財産があったかを明確にして、その価値を評価する必要があります。
そのためには、財産目録の作成などが必要です。
このような作業についても弁護士等に依頼することにより、相続人の負担は大幅に軽減されることになります。
また、これらの財産の管理についても弁護士に協力してもらうことで、一部の相続人が高価な財産を隠匿したり、勝手に処分したりなどを防止することが期待できるのです。
それ以外の財産の管理や調査も弁護士に依頼できる
銀行預金や有価証券、不動産などの調査については、預金通帳や納税通知書などから調査を進めたうえで、最終的には、実際にその金融機関に現在の預金額を問い合わせしたり、また、市区町村役場に名寄せ帳の交付を申請したり、登記事項証明書を取得するなどの手続きが必要となります。
これらも、弁護士に代行してもらうことによって、相続人の手間は軽減されるでしょう。
相続人の調査・確定のミスをなくせる
誰が相続人になるのかは民法という法律が定めています。
そして、弁護士はまさに法律の専門家ですから、それについて正確な知識を提供してくれます。
相続人の代わりに必要書類の取得も任せられる
相続人の調査に際しては、故人の出生から、亡くなったことまでが記載された戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍を取得する必要があります。
しかし、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍は読みにくいため(改製原戸籍などは特に)、一般の方ではその内容を正確に把握することが困難な場合が多々あるのです。
故人が本籍地を移していた場合には、その全ての市区町村に対して個別に申請する必要があり、非常に手間がかかる作業です。
そのため、これらの作業についても弁護士に依頼して、行ってもらうことが非常に有効となります。
公平な遺産分割協議を行える
遺産分割協議は、相続人全員が参加して行います。
そして、遺産分割協議に際しては、どうしてもお金の話となるため、親族間であっても利害関係の対立が激しくなり、感情的になったり、年長者だったり、声の大きい人の意見に左右され、公平・公正な処理がなされない可能性があるのです。
そのような場合に、弁護士がいると、以下のようなメリットが考えられます。
- ・法律に基づいた適切な助言をしてもらうことができ、年長者や声の大きい人の理不尽な主張や、不当な主張を抑えることができ、法律に従った解決が期待できる
- ・遺言があった場合でも、その内容が法律に抵触する場合がありえるが、弁護士がいると、そのような点を指摘し、法律によって認められている権利を保全することが可能となる
- ・弁護士に代理人として遺産分割協議に参加してもらうことで、自らが遺産分割協議の場で、直接、他の親族とお金の話について交渉することを避けることができ、精神的なストレスを回避できる
- ・相続問題に明るい弁護士の場合には、遺産分割の方法等についても、第三者的な立場からいいアイデア等を提供したり、遺産を売却してその金銭を配分する換価分割などを行ったりする場合でも、適切な売却先の紹介などをしてもらえることが期待できる
- ・弁護士は様々な交渉に慣れているため、円満な解決・合意に導くための交渉術にも長けている場合が多く、感情的なしこりを残さない解決を期待することができる
- ・遺産分割協議において合意に至った場合にも、適切かつ漏れの無い遺産分割協議書の作成を依頼することにより、その後の相続による所有権移転登記など、相続に関する手続きが円滑に進むことが期待できる
さらに、遺産分割協議がどうしても遺産分割協議において相続人間の合意がまとまらない場合には、最終的に裁判上の遺産分割手続きへと進むことも考えられます(民法第907条第2項)。
その場合にも、弁護士であれば裁判所への遺産分割の調停・審判の申立、その対応について一連の流れの中で対応してもらえるというメリットがあるのです。
相続手続きを弁護士に依頼するデメリット
相続手続きを弁護士に依頼するデメリットとしてあげられるのは、弁護士費用がかかることです。
弁護士に法律問題を相談するだけであれば、30分5,000円の相談料が発生するだけですが、相続などの手続きを依頼する場合は、これだけの負担で終わることはありません。
ただ、その金額がいくらになるのかは、最終的に相続手続きがすべて完了するまで確定しません。
場合によっては、ハラハラしながら弁護士に相続手続きを依頼するということもあるのです。
また、1人の相続人が弁護士に相続に関する依頼をすると、他の相続人の中にも弁護士に依頼する人が現れる可能性が高くなります。
複数の弁護士が、それぞれの相続人の立場に立って法律にもとづいた主張をするため、骨肉の争いがさらに激化することとなってしまいます。
弁護士に相続手続きを依頼した方がいいトラブルパターン
これまで、相続手続きを弁護士に依頼することのメリットやデメリットを述べてきましたが、その中でも最も多いのは、やはり、遺産分割協議の紛糾が予想される場合といえるでしょう。
具体的には、以下の様な場合が考えられます。
相続人が多数いる場合
相続人が多数いる場合には、それぞれの思惑があるため、利害関係の対立が尖鋭化しがちです。
そのため、それぞれが自分の主張をすると、いつまで経っても合意に至らない可能性があります。
そのような場合には、弁護士がそれぞれの論点を整理することで、円満な解決に導くことが期待できるといえるのです。
権利関係が複雑で利害関係の対立が激しい場合<
実子の他に養子がいたり、一部の財産について遺贈がなされていたり、相続人の中に生前贈与を受けたり特別受益を得ていた者がいたりする場合には、その権利関係を法律に従って適切に処理することが難しい場合があります。
その場合には、親族間で、遺産分割の具体的な内容を巡ってのトラブルに発展することも十分に考えられるため、弁護士に依頼して、それらを法律に従って適切に処理してもらうことが有効といえるでしょう。
相続財産に借入金が多数ある場合
故人に借金などのマイナスの財産が多数ある場合には、そのまま相続したのでは、相続人がその債務を引き継ぐことになってしまいます。
そこで、そのような場合には、相続放棄や限定承認をすることも選択肢の一つとなってきます。
ただ、これらの手続きも家庭裁判所への申立が必要であり、そのためには各種の書類をそろえる必要があります。
そのような場合にも、弁護士に依頼して行ってもらうことに大きなメリットがあるといえるでしょう。
相続手続きを弁護士に依頼するタイミング
弁護士に依頼するタイミングは非常に難しい問題です。
相続人の間でトラブルになっていないにもかかわらず弁護士を関与させると、逆に他の相続人から変な目で見られて、関係を悪化させる危険もあります。
一方で、トラブルになってから依頼したのでは、既成事実について再交渉することが難しくなっている場合もあり、手遅れになってしまう場合もあります。
そこで、第一段階としては、相続が開始した時点で、「相談」として相続における注意点や助言をもらうという形で弁護士に関わってもらう形がいいでしょう。
その中で、遺産分割協議における代理等以外の手続き(必要書類の取得など)の依頼を必要に応じて行うことは可能です。
そして、第二段階としては、相続人間での意見の対立や利害関係の対立が認められることがわかったときには、速やかに弁護士に相談した上で、正式に遺産分割協議における代理等を依頼することになります。
これとは別に、遺産の調査において、多額の債務があることが判明したときには、相続放棄・限定承認について早期に弁護士に相談することをおすすめします。
相続放棄・限定承認は相続開始から3か月以内に行う必要があり(民法第915条)、また、各債権者等への対応も必要になるため、早期に弁護士に依頼して必要な手続きをとる必要があるからです。
弁護士に依頼した際の費用相場と内訳
弁護士に関与してもらう場合に、どのような費用が必要になるか気になるところです。
ただ、これについては、現在は一律の基準はありません。
以下では、一般的な報酬体系と、現在はすでに廃止されていますが、旧弁護士報酬基準に従った場合の報酬がどのようになるかについて見てみましょう。
弁護士報酬の体系
従来は日本弁護士連合会が弁護士報酬基準を定めていたのですが、それが独占禁止法上問題があるということで、平成16年に廃止されました。
その結果、現在は、各弁護士が独自に報酬を定めています。
ただ、現在でも、基本的にはこの報酬基準に準じた報酬体系、報酬金額に基づいて報酬を決定している弁護士も数多くいらっしゃいます。
一方で、これとは全く異なる形で、たとえば、業務の処理に要した時間で一律に弁護士報酬を決定するという弁護士もいらっしゃいます。
したがって、弁護士報酬については、依頼する弁護士としっかり話しあって決める必要があるのです。
旧弁護士報酬基準
従来の報酬体系としては、基本的に法律相談については「相談料」、実際に案件の処理を依頼する場合には「着手金」と「成功報酬」となっています。
相談料は、30分ごとに5,000円から25,000円とされています。
ただし、現在では、無料相談を行っている弁護士も多数いらっしゃいますので、事前に確認してみましょう。
実際に依頼する場合については、依頼時に着手金、処理終了時に成功報酬を支払う形が一般的です。
この場合、依頼者が得られる経済的な利益の額によってその基準が変わってきます。
経済的な利益の額 | 着手金 | 成功報酬 |
---|---|---|
300万円以下の部分 | 8% | 16% |
300万円を超え3,000万円以下の場合 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円を超える場合 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
ここで経済的利益とは、依頼者が主張する自身の取り分、または、実際に解決した際に依頼者が取得した金額をいいます。
これとは別に、実費や、遠隔地に出張して業務を行った場合の日当の支払いが必要となる場合があります。
日当の相場は半日の場合には3万円から5万円、1日かかった場合は5万円から10万円程度とされています。
弁護士費用をできるだけ抑える方法
着手金が多額になる場合、それを直接支払うことができない場合もあるでしょう。
弁護士費用をできるだけ抑える方法をご紹介します。
着手金を分割払いにしてもらう
遺産分割事件の場合、最終的には遺産分割完了後に依頼者は一定額の相続財産を取得することが想定されています。
したがって、残金は遺産分割完了後に支払う形、または、何回かに分割して支払う形での分割払いを弁護士に相談してみましょう。
着手金を減額してもらう
本来、着手金として支払うべき金額の一部を成功報酬に上乗せする形で、着手金を減額してもらい、遺産を受領した後の成功報酬額を増額する形で対応する形です。
これに応じてくれるかは弁護士次第ですが、相談してみる価値はあるでしょう。
法テラスを利用する
日本司法支援センター(通称「法テラス」)が運営しているサービスで、弁護士等への依頼に際して必要な費用を、法テラスが立替えてくれるという制度があります。
その利用については、一定の条件などがありますが、着手金などの費用が捻出できない場合には、相談してみてください。
まとめ
相続に関して、弁護士に依頼することのメリット、および、その場合の費用の概要について見てきました。
相続は、一般の方はそれほど経験することがないだけに、正確な知識はあまり持っていない場合が多いです。
その結果、法律の知識がないために、一部の相続人の主張に振り回されたり、親族間ということで不当な要求に応じたりしないといけないなど、相続に関して不利益を被っているという例もあるでしょう。
そのような不利益を被らないためにも、必要に応じて、弁護士などの専門家を活用することも検討することをおすすめします。