この記事でわかること
- 教育資金贈与を行う場合のメリットとデメリットがわかる
- 教育資金贈与を適用した場合の手続きの流れを知ることができる
- 教育資金贈与を利用する際の注意点を知ることができる
教育資金を親や祖父母が支払うことは、扶養義務がある者にとっては当たり前のことです。
しかし、教育費を支払おうとする人が先に亡くなると贈与できないことから、教育資金贈与を利用することがあります。
教育資金贈与とはどのような制度で、どのようなメリットとデメリットがあるのか確認していきます。
また、教育資金贈与を利用した場合の手続きの流れについて解説していきます。
目次
教育資金贈与とは
教育資金贈与とは、教育費として利用するための資金を子や孫に対して贈与しても、贈与税が非課税になる特例制度です。
教育資金贈与を利用して非課税で贈与できる金額は、最大1,500万円とされています。
つまり、1,500万円までは税負担なしで贈与を行うことができるということです。
贈与する人は、父母や祖父母などの直系尊属とされています。
また、贈与される人は30歳未満の子や孫で、前年の合計所得金額が1,000万円以下などの要件が定められています。
なお、贈与者から受贈者の預金口座への振込や手渡しでは、教育資金贈与は成立しません。
銀行で教育資金の口座を開設し、その口座に贈与者が資金を預け入れる形で贈与が行われます。
教育資金贈与のメリット・デメリット
教育資金贈与の制度を利用して贈与を行った場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
また、教育資金贈与にはデメリットはないのでしょうか。
メリット
教育資金贈与には、多くのメリットがあります。
- ①多額の資金を無税で贈与できる
- 教育資金贈与のメリットは、多額の現金を子や孫などのために贈与できることです。
- 特に高齢の祖父母や曽祖父母から贈与を行うと、世代を飛ばして資金を無税で贈与できるため、そのメリットは大きくなります。
- 教育費の支払いは、扶養義務がある者にとって当然のものであり、そのこと自体は贈与ではありません。
- ただ、教育費として必要になった時に支払わず、前もって教育資金を渡しておくことは贈与になります。
- しかし、教育資金贈与の制度を利用すれば、将来の教育費を先に贈与しておいても、贈与税はかかりません。
- そのため、確実に教育資金を贈与することができる制度となっています。
- ②暦年贈与と併用できる
- 教育資金贈与を行った年に、教育資金以外の贈与を行うこともできます。
- この場合、教育費以外の贈与については暦年贈与が適用され、110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
- また、教育資金贈与を行った翌年に、教育資金以外の贈与を行うこともできます。
- 教育資金贈与を行った後も暦年贈与ができるため、何年もかけて税金のかからない贈与を多く行うことが可能になります。
デメリット
教育資金贈与には、デメリットも少なくありません。
- ①教育費以外の用途に使えない
- 教育資金贈与により贈与された資金は、教育費としてしか使うことができません。
- 贈与された資金については、教育費の以外の用途に引き出すことができないようになっています。
- そのため、教育費以外の用途でお金が必要な時に使えないというデメリットがあります。
- ②贈与された資金の残額に税金がかかる
- また、受贈者が30歳になった時に教育費として使い切れなかった金額があると、その残額に対しては贈与税が課されます。
- さらに、贈与者が亡くなった時には、その時点の残額に相続税が課されることもあります。
- そのため、贈与した教育資金に対して、必ず税金がかからないわけではないことに注意が必要です。
- ③教育資金として使うのに手間がかかる
- 教育資金贈与により贈与された教育資金は、すべてが銀行の管理下におかれます。
- 教育資金口座から勝手にお金を引き出すことはできず、教育費であるかどうかのチェックを受けなければなりません。
- そのため、贈与されたお金を使うのに手間がかかり、面倒というデメリットがあります。
教育資金贈与の手続きは面倒?
教育資金贈与を適用すれば、多額の贈与が非課税になります。
しかし、その分多くの手続きが必要とされています。
どのような流れで贈与を行い、どのようにお金を払いだすのか、確認していきます。
なお、ここでは贈与者である祖父から、受贈者である孫に対して教育資金を贈与したものとしていきます。
教育資金を孫に贈与する
教育資金をいきなり孫の預金口座に移しても、その贈与は非課税になりません。
教育資金贈与の特例の適用を受けるためには、以下の順に手続きを進めなければなりません。
- ➀贈与契約の締結
- 最初に、祖父と孫の間で贈与契約書を作成し、贈与契約を締結します。
- 贈与の事実がわかるよう、必ず書面で作成するようにします。
- ②教育資金口座の開設
- その後、銀行に行き、受贈者である孫の名義で教育資金口座を作成します。
- この場合、孫が未成年者であることも多く、この場合は親権者による手続きとなります。
- ③銀行に教育資金非課税申告書を提出
- 教育資金贈与の特例の適用を受けるには、非課税の範囲内の贈与であっても、申告書を提出しなければなりません。
- この申告書は、銀行から税務署に提出される流れとなります。
- そのため、銀行に教育資金非課税申告書を提出することとなります。
- ④教育資金を拠出する
- 贈与者は受贈者の教育資金口座に、教育資金として贈与する資金を入金します。
- 教育資金として拠出した金額は、最大1,500万円まで非課税となります。
教育資金を払い出す
教育費の支払いを行った場合は、受贈者が自由に使うことはできません。
受贈者が銀行で手続きを行うことで、その資金の払い出しを受けることができます。
- ➀受贈者が教育費の支払いを行う
- 受贈者は、教育費に該当する支出を行う場合、まずは自身の預金口座から支払いを行います。
- この時、支払先から領収書を受け取らなければなりません。
- ②銀行に領収書を提出する
- 受贈者は教育費の支払いを行ったら、受け取った領収書を銀行に提出します。
- 窓口での手続きとなりますが、郵送で対応可能な銀行もあるので、その銀行の手続き方法を確認しておきましょう。
- ③教育資金口座から払い出しを受ける
- 教育費の領収書を提出し、その中身が確かに教育費に該当することが確認されたら、その資金を払い出してもらいます。
- 受贈者はその金額を受け取り、自身の口座に入金することができます。
受贈者が30歳を迎えたら贈与税がかかる
教育費として支払っても残額がある状態で受贈者が30歳を迎えると、その残額には贈与税がかかります。
なお、30歳になってもまだ学校などに在学中の場合は、30歳になった時点では贈与税はかかりません。
その後、40歳になった時点では、学校等に在学中でも残額に贈与税がかかることとなります。
教育資金贈与を利用するときの注意点
教育資金の贈与は、手続きが複雑な他にも、注意すべき点がいくつかあります。
そもそも教育資金贈与を利用した方が本当にいいのかも含めて、様々な角度から検討してみましょう。
教育費の支払は贈与ではない
教育資金贈与の制度があるので勘違いする方もいますが、教育費の支払は贈与ではありません。
むしろ、子や孫の扶養義務がある父母や祖父母が、教育費を支払うのは当然のことといえます。
それでは、なぜ教育資金贈与の制度があるのでしょうか。
それは、今後使う予定の教育費を前もって贈与しておくと、贈与税の対象になってしまうからです。
教育費として支払う可能性のある金額は、子供1人あたり数百万円~1,000万円以上になることがあります。
そして、教育費の支払で贈与税がかからないのは、学費などが発生した都度、父母や祖父母が支払った場合です。
しかし、祖父母は孫の成長を見届けることなく亡くなってしまうこともあります。
この場合、生前に贈与しておけば教育資金を確保できたのに、遺産分割を行い、教育資金を確保できないことがあります。
そこで、生前にまとまった資金を贈与しても非課税とされるのが教育資金贈与の制度です。
一方で、教育費を支払い続けることができそうなのであれば、教育資金贈与を利用しない方が節税になります。
ただ、実際に相続が発生するかどうかはわからないため、より確実な方法として教育資金贈与を利用することもあります。
教育資金として贈与された資金の残額は戻せない
教育資金贈与により贈与された資金は、教育費として使わなければ贈与税の対象となってしまいます。
もし贈与を取り消したいと考えたとしても、残額を贈与者に戻すことはできません。
そのため、非課税枠の上限でいきなり贈与しないことが重要です。
非課税枠に余裕がある場合、後から追加で贈与することもできるので、少しずつ贈与することも考えておきましょう。
教育費となるものは幅広い
教育資金贈与により贈与された資金は、教育費に使わなければ贈与税がかかります。
ここで、教育費とは一般的に高校や大学に対する学費をイメージするでしょう。
しかし、実際には習い事の月謝や教材費、学校の通学に係る定期代、留学費用などにも使うことができます。
このような支払いをすべて含めると、かなり幅広い使い道があります。
そのため、教育費として認められる費用の範囲を熟知しておき、無駄な贈与税を支払わないようにしましょう。
まとめ
教育資金贈与の制度は、多額の贈与が非課税になる一方で、手続きが面倒というデメリットがあります。
しかし、銀行における払い出しの手続きは、徐々に使いやすいものになりつつあります。
最近では、スマホのアプリを利用したものもあり、払い出しの手間は少しずつ軽減されています。
また、教育費にならないと思っていたものが、教育費として認められるケースもあり、その範囲について調べておくといいでしょう。
まとまった資金を非課税で贈与する制度は、他に数えるほどしかありません。
対象となる子や孫がいる場合は、ぜひ利用を検討してみましょう。