この記事でわかること
- 相続で問題になる同時死亡の推定の考え方を知ることができる
- 同時死亡の推定でも代襲相続となるケースがあることがわかる
- 同時死亡が推定される場合の注意点や他の相続との違いがわかる
亡くなった人がいると、その人の財産や債務を誰が相続するのかは法定相続人の決定方法によることとなります。
しかし、中には2人以上の人がほぼ同時に亡くなっており、実際に亡くなった順番を確定できないことがあります。
このような場合、どのように相続人を決定し、その相続分をどのように確定させるのでしょうか。
ここでは、同時に亡くなった人の遺産を誰が相続するのか、そして相続分をどのように計算するのか、その考え方を解説します。
目次
同時死亡の推定とは
同時死亡の推定とは、2人以上の人がほぼ同時に亡くなり、その順番を確定できない場合、同時に亡くなったと考えることです。
同時死亡の推定が行われると、それぞれの相続人を決定する際に、同時に亡くなった人はいないものとして考えます。
少しわかりづらいので、以下の事例を使って解説していきましょう。
交通事故で、父と長男が亡くなりました。
この場合、どちらが先に亡くなったのかによって、相続関係が大きく変わることとなります。
法定相続人が変わらなくても亡くなる順番が変わるだけで法定相続人の相続分が変わるため、順番は重要なのです。
父が先に亡くなった場合
父が先に亡くなったことがはっきりしている場合は、まず父が亡くなって相続が発生し、その後に長男の相続が発生します。
まずは父が亡くなった際の相続で、母と長男・次男・三男の子ども3人の計4人が法定相続人となります。
この場合の相続分は、母が5,000万円、長男・次男・三男はそれぞれ1,666万円となります。
その後、長男が亡くなった時には、母が法定相続人となります。
そのため、長男の財産5,000万円と、長男が父から相続した1,666万円は母が相続します。
この結果、父の1億円、長男の5,000万円は、それぞれ以下のように相続分が発生します。
- 母 1億1,666万円
- 次男 1,666万円
- 三男 1,666万円
長男が先に亡くなった場合
長男が先に亡くなったことがはっきりしていれば、まず長男についての相続が発生し、その後に父の相続が発生します。
最初に長男の相続の際には、父と母が法定相続人となります。
この場合、父と母にそれぞれ2,500万円ずつの相続分が発生します。
その後、父が亡くなった際には、配偶者である母と次男・三男の子ども2人が法定相続人となります。
父の遺産1億円と、長男から相続した2,500万円の合計1億2,500万円が亡くなった時点の父の遺産となります。
この場合、母が6,250万円、次男と三男はそれぞれ3,125万円の相続分を有することとなります。
この結果、父の1億円、長男の5,000万円は、それぞれ以下のように相続分が発生します。
- 母 8,750万円
- 次男 3,125万円
- 三男 3,125万円
同時死亡の推定があった場合
父と長男の2人のどちらが先に亡くなったかはっきりしない場合は、2人が同時に亡くなったものと推定されます。
このことを「同時死亡の推定」といいます。
同時死亡の推定があると、それぞれの相続について、同時に亡くなった人はいないものと考えることとなります。
父の死亡については、母と次男・三男の3人が法定相続人となります。
そのため、父の遺産1億円については母が5,000万円、次男と三男がそれぞれ2,500万円の相続分を有します。
また、長男については母が法定相続人となるのです。
そのため、長男の遺産5,000万円は全額を母が相続します。
この結果、父の1億円、長男の5,000万円は、それぞれ以下のように相続分が発生します。
- 母 1億円
- 次男 2,500万円
- 三男 2,500万円
同時死亡の推定で代襲相続が発生するケース
子どもが先に亡くなると、法定相続人であった人が1人少なくなります。
また、他に子どもがいなければ、第二順位以降の相続人に相続権が移る場合もあります。
しかし、その子どもの子ども(つまり孫)がいると、代襲相続によって孫に相続権が生じます。
ところで、同時死亡の推定があった場合には、代襲相続が発生することはあるのでしょうか。
先ほどと同じく、実際の事例をもとに考えてみましょう。
先ほどの事例と同じく、父と長男が亡くなり、同時死亡の推定が適用されているものと考えます。
この場合、父の相続については、長男は最初からいないものと考えます。
ただ、長男の存在がまったくないものとするのではなく、長男の子は代襲相続をすることができます。
そのため、父の遺産については、母が1/2、次男、三男、長男の子がそれぞれ1/6の相続分を有します。
この考え方は、相続放棄した人がいると代襲相続もできないのとは異なります。
同時死亡の推定が適用される場合、代襲相続が発生することは重要なポイントとなります。
ちなみに、この事例で亡くなった長男の相続人となるのは、配偶者である妻と長男の子です。
また、この事例で長男の子がいない場合には、妻と母が法定相続人となります。
同時死亡の推定で注意すべきこと
同時死亡の推定が適用される場合は、その適用にあわせて注意しなければならない点がいくつかあります。
そこで、同時死亡の推定があった場合の注意点を確認していきます。
遺言書があった場合
複数の人が同時に亡くなった場合で、亡くなった人の中に遺言書を作成している人がいるとどうなるのでしょうか。
同時死亡したと推定される人が遺言書を作成していた場合、基本的にはその遺言書の内容が優先されます。
しかし、遺言に書かれた受遺者が同時に死亡してしまったと推定される時は、その遺言書を実現させることはできません。
この場合、遺言書の効力は発生しないこととなり、法定相続分にもとづいて相続分の計算を行うこととなるのです。
保険金の支払いがある場合
たとえば父が保険契約者・被保険者、子どもが保険金の受取人となっている場合で、この両者が同時に亡くなったとします。
すると、そのままでは保険金の受取人がいない状態となってしまうため、新しい受取人を定めなければなりません。
このような場合、受取人としての地位を引き継ぐのはその保険受取人の相続人(例で言えば子どもの相続人)となります。
保険契約者、あるいは被保険者の相続人が、保険金の新たな受取人となるわけではありません。
生命保険金は、受取人固有の財産であり、遺産分割によっても他の相続人が引き継ぐことはできません。
同時死亡の推定が覆される場合
同時死亡の推定は、あくまで「推定」であり、必ずしも同時に亡くなったことが確定するわけではありません。
そのため、同時に亡くなったように見えても、別々のタイミングで亡くなったと証明されれば、同時死亡の推定は適用されません。
一度は同時死亡の推定によって相続分が確定したとしても、その後に誰が最初に亡くなったかがわかることがあります。
このような場合には、一度決定した相続分の金額が変わることもあります。
そこで、後から確定した相続分に満たない相続人は、他の相続人に対して不当利得返還請求を行うことができます。
まとめ
事故や災害など、何らかの理由で2人以上の人が同時に亡くなることはあります。
このような場合も、本来は誰が最初に亡くなっているのかを確定させなければなりません。
しかし、科学的にも証明できないような場合は、同時に亡くなったものと推定して相続分の計算を行うこととなります。
どちらが先に亡くなったのか、後から判明する場合もあるため、様々な方法で検証し、手続きについて不明なことがある場合は早めに弁護士に相談するようにしましょう。