この記事でわかること
- 独身男女が養子縁組するための条件
- 独身男女が養子縁組するメリット・デメリット
- 独身者が養子縁組した時に相続に与える影響
- 独身者が養子縁組するときの注意点
独身の方が財産を引き継がせたい場合、養子縁組という方法があります。
養子縁組には、自身が望む相手に財産を引き継いでもらえる、相続税の基礎控除枠を増やせるなどのメリットがあります。
一方で、相続対策として養子縁組を行う場合には、いくつか注意点もあります。
今回は、独身の男女が養子縁組する場合について、条件やメリット・デメリット、相続に与える影響、養子縁組するときの注意点などを解説します。
独身男女でも養子縁組できる!その条件とは
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。
このうち、特別養子縁組は、養親が法律上の夫婦であることが要件の1つとなっています(民法第817条の3第1項)。
そのため、独身の方が利用できるのは普通養子縁組に限られます。
ここでは、普通養子縁組の条件をご説明します。
養親が20歳に達していること
まず、養親の年齢が20歳に達していることが必要です(民法第792条)。
この点、成人年齢を18歳に引き下げた2022年の改正民法施行以前は、婚姻歴がある場合、20歳未満でも養親になることが可能でした。
これは、以前は成人年齢(20歳)と婚姻年齢(男性18歳・女性16歳)の間に時間差があったため、20歳未満で婚姻した場合は成年に達したとみなされたことによります(成年擬制:旧民法第753条)。
つまり、以前の制度の下では、20歳未満で婚姻した場合に成年擬制により、普通養子縁組の養親になることが可能になっていました。
法改正により、成人年齢と婚姻年齢がともに18歳に定められ、婚姻擬制の規定は削除されました。
あわせて、普通養子縁組の養親の年齢要件を定めた民法第792条の規定も「成年に達した者」から「20歳に達した者」に変更されました。
現行民法の普通養子縁組の養親の年齢要件は、婚姻歴の有無に関係なく「20歳に達していること」に限定されています。
実際には、法改正により養親になれなくなった人は「婚姻歴のある18歳・19歳の人」に限られるので、問題になることはあまりないでしょう。
養子が養親の尊属または年長者ではないこと
尊属または年長者を養子とすることはできません(民法第793条)。
尊属とは、親・祖父母など、親族の中で本人より上の世代の人をいいます。
親・祖父母などの直系尊属に限らず、親の兄弟姉妹やその配偶者などの傍系尊属も含まれます。
たとえば、親と年齢の離れた叔父・叔母などは、本人よりも年齢が若いことがあります。
しかし、本人より年少であっても、叔父や叔母は尊属にあたるので養子縁組は認められません。
逆に、卑属(子ども・孫・甥姪など)の場合も、本人より年長の人とは養子縁組できません。
同年齢の場合は、誕生日で判断します。
養親、養子双方合意していること
養子縁組を行う上で、養親と養子の双方が合意している必要があります。
養子縁組は、届出によって効力が生じ(民法第799条、第739条)、届出は養親の住所地または本籍地の市区町村役場の戸籍課で行います。
戸籍課は、当該届出の記載が民法第792条~第799条の各規定に適合するか否かについて確認した上で受理します(民法第800条)。
しかし、その養子縁組が当事者双方の合意のもとになされたかどうかまでは審査できません。
そのため、養親となる人が養子となる人の同意を得ずに勝手に養子縁組の届出を行った場合も、受理される可能性はあります。
この場合は、民法第802条1号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」にあたるので、同条により縁組は無効になります。
未成年者を養子にする場合は家庭裁判所の許可を得ること
未成年者を養子にする場合には、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法第798条)。
ただし「自己または配偶者の直系卑属を養子にする場合」は家裁の許可を得る必要はありません(同条但書)。
これに該当するのは、多くは配偶者の前婚の子ども(いわゆる連れ子)と養子縁組する場合ですから、独身の方が未成年者を養子にする場合は、通常は家裁の許可を得る必要があります。
養親・養子に配偶者がいる場合は配偶者の同意を得ること
養親かつ、または養子に配偶者がいる場合は、その配偶者の同意を得る必要があります(民法第796条)。
独身の方が養子縁組する場合は、養子に配偶者がいる場合に同意が必要となります。
独身男女が養子縁組するメリット・デメリット
独身者が養子縁組を行うことには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
メリットとしては、以下のものが考えられます。
通常の相続税率で相続できる
独身者が相続財産を誰かに引き継がせたい場合、遺言書で特定の人を指定して遺産を贈与する「遺贈」という方法があります。
遺贈を行った場合、相続税額は20%増しになります(相続税法第18条1項)。
これに対して、養子縁組をすれば、実子と同じ扱いになるため、法定相続人として通常の相続税率で相続が可能になります。
相続税の基礎控除額が増える
相続税の課税対象となる遺産総額を算出する際、「基礎控除額」が差し引かれます。
基礎控除額は、【3,000万円+600万円×法定相続人の数】で算出されます(相続税法第15条1項)。
独身者が特定の人に財産を引き継がせたい場合、養子縁組ではなく遺贈を行った場合は、基礎控除額は3,000万円です。
一方、養子縁組によって相続した場合、相続人が養子1人であれば基礎控除額が3,600万円となります。
養子縁組によって、課税される遺産総額を減らして相続税を節税できる効果があります。
生命保険・死亡退職金の非課税枠が増える
被相続人が亡くなったときに支払われる生命保険金や死亡退職金には、【500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります(相続税法第12条5号イ)。
養子が1人いるとそれぞれ500万円分が非課税となるので、その分相続税の納税額を減らせます。
デメリット
一方、デメリットとして以下が挙げられます。
一度養子縁組すると簡単に離縁できない
養子縁組の場合、養親と養子の合意があれば離縁できます(民法第811条1項)。
しかし、一方が同意しない場合は、離縁を求める側が調停を申し立てる必要があります。
調停によっても合意が成立しなければ訴訟提起することになり、争いが長期化することは避けられません。
兄弟姉妹と揉める可能性がある
後述するように、独身者の場合、養子縁組しなければ兄弟姉妹のみが相続人となるケースが多くあります。
このケースで養子縁組すると、兄弟姉妹が相続人の地位を取得できなくなるため、兄弟姉妹と養子との間でトラブルになる可能性があります。
独身者が養子縁組したときに相続に与える影響
独身者が養子縁組した場合、相続には以下のような影響が生じます。
なお、ここでは養親となる独身者が養子よりも先に亡くなった場合のみを想定しています。
養子が先に亡くなった場合の相続の問題については、次章をご参照ください。
養子が第一順位の相続人となる
独身者が養子縁組した場合、養子は第一順位の相続人となります(民法第887条1項、第809条)。
前婚の子どもなどの実子がいれば、養子は実子と同等の相続人となります。
実子がいない場合、養子縁組によって、後順位相続人である親や兄弟姉妹(民法第889条1項)が相続できなくなります。
特に、独身者の相続の場合には、兄弟姉妹のみが相続人となっている場合が多くあります。
独身者が養子縁組したことを兄弟姉妹が知らなかった場合、相続でトラブルになる可能性があるでしょう。
実子がいる場合は実子の相続分が減る
独身者に、離別・死別した配偶者との間に生まれた子などの実子がいる場合、養子縁組していなければ実子のみが相続人となります。
養子縁組によって、養子が実子と同等の相続人となるため、実子にとっては相続分の割合が減ることになります。
たとえば、実子が2人いる場合、1人当たりの法定相続分は2分の1です。
しかし、被相続人が生前に1人と養子縁組をしていた場合、1人あたりの法定相続分は3分の1になります。
特に、実子が養子縁組の事実を知らない場合や、実子・養子の関係性がよくない場合などは、実子と養子の間でトラブルが起きる可能性があるでしょう。
養子2人までは相続税の基礎控除対象になる
相続税の基礎控除対象になる養子の人数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合は2人までです(相続税法第15条2項)。
独身者が養子縁組するときの注意点
独身者が養子縁組する場合、前述したこと以外にも、以下の点に注意する必要があります。
未成年者を養子にする場合は親権が養親に移る
未成年者(18歳未満)と養子縁組する場合、実親との親子関係は継続しますが、親権は養親に移ります。
このため、もし養子が未成年の間に養親が亡くなると、親権者がいなくなってしまいます。
また、未成年者は遺産分割協議に参加できないため、家庭裁判所に特別代理人選任申立ての手続きなどを行わなければなりません。
亡くなる直前に養子縁組すると節税できなくなる可能性がある
養子縁組の時期や養子に相続させる遺産の割合などによっては、税務署から「不当に相続税を減少させる目的で養子縁組した」とみなされる可能性があります。
亡くなる直前に養子縁組を行い、かつ養子に対しては相続割合を少なくする遺言を行っていたような場合がこれに該当します。
まとめ
法定相続人がいない独身男女が遺言を残さずに亡くなった場合、財産は国庫に帰属するケースもあります。
また、認知症などにより認識力・判断力が衰えてしまうと、遺言書を遺すことができなくなるでしょう。
独身の方は、できるだけ早い時期に相続対策を考えておきましょう。
独身者も普通養子縁組が可能で、養子縁組によって得られるメリットも多くあります。
一方で、実子など他に相続人がいる場合に相続トラブルが起きる可能性など、気をつけるべき点もいくつかあります。
独身の方が養子縁組する場合の条件や注意点などの詳細については、遺産相続を専門とする弁護士へのご相談をおすすめします。