この記事でわかること
- 相続同意書とはどのような書類なのかを知ることができる
- 遺産分割協議を行う際の全体の流れを知ることができる
- 相続同意書と遺産分割協議書の違いや必要な場面がわかる
亡くなった人の残した財産を相続人が引き継ぐ際には、遺産分割協議を行います。
遺産分割協議が成立した際には遺産分割協議書を作成し、すべての相続人が署名押印して、協議した内容を残しておきます。
ところが、遺産分割協議書とは別に、相続同意書が必要となる場合もあります。
本記事では、相続同意書とは何かや遺産分割協議書との違いを解説します。
相続同意書とは?遺産分割協議書との違いとは?
相続同意書とは、特定の遺産の分割方法を明らかにし、そのことについて相続人が同意していることを証明する書類です。
相続同意書は、とくに預金の払い戻しを行う場合や、個人に帰属する許認可を引き継ぐ場合に利用します。
相続手続きにおいて作成が必須になるというわけではなく、必要に応じて作成される書類です。
相続同意書の記載内容
相続同意書の記載内容のポイントは、以下の3つです。
- 1.すべての遺産を記載するわけではない
- 2.特定の遺産の分割方法を記載している
- 3.分割方法について相続人全員が同意している
これらのポイントに従って、相続同意書は作成されます。
相続同意書に記載された遺産については、相続同意書に書かれたとおりに遺産分割が行われることとなります。
相続同意書と遺産分割協議書の違い
相続同意書も遺産分割協議書も、ともに遺産の分割方法を明らかにするための書類です。
そのため、この両者には大きな違いはないように思われますが、明確な違いがあります。
その違いとは、遺産全体の分割方法が記載されているかどうかです。
相続同意書は、特定の遺産についてのみ記載されており、遺産全体についての記載はありません。
これに対して、遺産分割協議書はすべての遺産について、その分割方法を記載します。
そのため、相続同意書は特定の遺産についての相続手続きには利用できるものの、それ以外には利用できません。
また相続同意書は、法務局での相続登記を行う際に、登記申請の書類として使うことができません。
相続登記を行うのが1つの土地や建物であっても、必ず遺産分割協議書が必要となるのです。
相続同意書を提出するタイミング
上記のとおり、遺産分割協議書に比べて使用できる場合が限定される相続同意書ですが、実際にはどういった場合に提出することが認められているのでしょうか。
具体的には、相続財産全体について協議が整っていなくても相続手続きを進めなければならないまたは進めたい次の3つの場合が考えられます。
預貯金を解約するとき
相続同意書で手続きを進める代表例と言えるのが、預貯金を解約するときでしょう。
相続財産全体についての遺産分割協議は成立していないが、先に預貯金を相続する人だけが決まった場合や、遺産分割協議は成立しているが遺産分割協議書の作成に時間がかかる場合に、先に預貯金の払い戻し手続きを進めるために相続合意書を作成することがあります。
車の名義変更をするとき
次に考えられるのが、車の名義変更をする場合です。
運輸局のホームページでも特定の相続人に名義変更する場合は遺産分割協議書が必要とされていますが、そこに掲載されている様式は特定の車を相続することについてのみの同意を証する書面となっています。
タイトルは遺産分割協議書ですが実質的には相続同意書で足りると考えられます。
許認可が必要な事業承継を行うとき
最後は、許認可が必要な事業の承継を行うときです。
例えば、次のような業種については相続同意書で承継が可能です。
相続同意書で承継可能な業種
食品営業許可(飲食店、食品製造や食品販売など)
旅館業
たばこ小売販売業
理、美容業
クリーニング業
許認可に関しては所轄庁によって取り扱いが異なるので、承継の手続きをされる際は事前に所轄庁に確認することをおすすめします。
協議分割の流れ
相続同意書や遺産分割協議書を作成するのは、遺産分割協議を行う過程、あるいは遺産分割協議がまとまってからです。
ここでは、相続同意書や遺産分割協議書を作成する前段階となる、遺産分割協議の流れを確認します。
(1)誰が法定相続人になるか確定する
遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加する必要があります。
そのため、まずは誰が法定相続人となるのか、そして法定相続人となる人に漏れはないかを確認します。
法定相続人となる人が確認できて初めて、法定相続割合や遺留分の有無、相続税の基礎控除額などがわかります。
まずは誰が法定相続人となるのか、慎重に確認しましょう。
(2)遺産と債務を確定する
被相続人が残した、遺産や債務の内容・金額を確定させます。
遺産となるのは、預貯金や不動産・有価証券・車などの財産です。
また、借入金や未払金などの債務は、マイナスの財産として遺産に含まれます。
遺産や債務の内容を確認することは、相続人にとって大きな意味を持ちます。
それは、相続放棄を行うかどうかの判断材料となるからです。
相続した財産より債務の方が大きい場合、相続放棄も選択肢となります。
ただ、すべての遺産の内容がわかるまでは、相続放棄すべきか判断できない場合があります。
そのため、相続が発生し、葬儀や死亡届などの手続きが落ち着いたらすぐに遺産の内容を確認する必要があるのです。
相続放棄の申立ては、相続が発生してから3か月以内にしなければならないため、できるだけ早めに確定させましょう。
(3)法定相続人による遺産分割協議
法定相続人の全員で、遺産分割協議を行います。
把握しているすべての遺産と債務の内容を確認し、誰がどの財産を相続するかを決めていきます。
法定相続割合が決まってはいますが、必ずしもその割合どおりに遺産分割する必要はありません。
二次相続なども考えた上で、全員が納得のいく遺産分割の方法を考える必要があるのです。
なお、遺産分割協議がまとまったら、遺留分を請求することはできません。
最低でも遺留分に相当する財産を相続したい人は、必ず遺産分割協議の場で主張する必要があります。
(4)遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書には、すべての法定相続人が署名・押印をし、その分割案に賛成していることを意思表示することとされています。
手書きである必要はなく、通常はパソコンを使って作成されることが多いでしょう。
なお、相続人の住所や氏名・遺産の所在地などは、正確に記載する必要があります。
誤字・脱字は許されないため、慎重に作成しましょう。
相続同意書の書き方
前述したように、遺産分割協議により遺産分割の方法を決定した場合、遺産分割協議書を作成することとなります。
しかし、遺産分割協議が成立する前に相続同意書を使って名義変更などの手続きをすることもあります。
そこで、相続同意書の記載方法について確認していきましょう。
相続同意書の書式・雛形
相続同意書は、以下のような1枚の用紙となります。
作成する際、とくに注意すべきポイントをいくつか紹介していきます。
ポイント(1)被相続人の住所や氏名など
被相続人の住所や氏名・生年月日・死亡した日を記載します。
これらの情報を正確に記載することで、誰の遺産なのかを特定します。
ポイント(2)相続人の住所や氏名など
相続人の住所や氏名を記載します。
相続人全員が同意している必要があるため、記載漏れとなる人がいないように気を付けましょう。
また、氏名の後には必ず実印で押印を行います。
ポイント(3)特定の財産の分割方法
相続同意書に記載された財産の分割方法を記載します。
相続人1人で相続する場合もあれば、2人以上の相続人で分割する場合もあります。
とくに2人以上の相続人が関係する場合は、誰がどれだけの遺産を相続するのか、明確に記載しなければなりません。
ポイント(4)相続人が同意していること
相続同意書に書かれた遺産の分割方法について、相続人の全員が同意していることを明らかにします。
また、遺言書や遺産分割協議書がないため、ここに書かれた遺産については、相続同意書によって遺産分割を行うことを記載します。
ポイント(5)特定の遺産
この相続同意書には、遺産分割方法を決定する遺産を特定するための情報を記載します。
銀行預金の場合は、金融機関名・預金の種別・口座番号を記載します。
車両の場合は、自動車登録番号や車台番号を記載します。
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議を行った際には、必ず遺産分割協議書を作成しなければなりません。
この遺産分割協議書の書式について、作成上の注意点もあわせて解説していきます。
遺産分割協議書の書式
遺産分割協議書は、以下のような書式となっています。
記載する事項や注意点について、順番に確認していきましょう。
ポイント(1)被相続人の住所や氏名など
被相続人の住所や氏名など、誰の遺産について記載されているのかをわかるように記載します。
被相続人の戸籍謄本などを参考にして、住所や氏名に誤字・脱字がないように注意しましょう。
ポイント(2)法定相続人全員の氏名
遺産分割協議には、すべての法定相続人が参加しなければなりません。
そのため、法定相続人の氏名を記載し、全員によって遺産分割協議が行われたことがわかるようにします。
ポイント(3)遺産分割の内容
遺産にはどのようなものがあるのか、そしてどの遺産を誰が相続したのかをわかるように記載しなければなりません。
遺産が不動産の場合は、登記事項証明書に書かれたとおりに記載します。
また、預金口座の場合は金融機関名・預金の種類・口座番号を記載します。
有価証券の場合は、証券会社の口座を特定したうえで、個別の銘柄を記載が必要です。
また、債務がある場合はその契約の内容や債権者の名称の記載しましょう。
ポイント(4)後日判明した財産
遺産分割協議書を作成した時点では把握していなかった財産が、後日判明することもあります。
そのように後日把握できた財産の取扱いについて、記載しておきます。
あとから判明した財産について、特定の相続人が取得すると決めておくこともできます。
ポイント(5)法定相続人の住所や氏名
遺産分割協議に参加したすべての相続人の住所や氏名を記載します。
また、必ず実印で押印しなければなりません。
まとめ
遺産分割協議を行って、すべての遺産についての分割方法が決定するまでには、かなりの時間がかかります。
その間に、被相続人の残した預金の払い戻しを行いたい場合などは、相続同意書を作成して金融機関に提出する必要があります。
なお、遺産分割協議書とは異なり、不動産の相続登記に相続同意書は利用できません。
そのため、相続登記を行う際は、遺産分割協議がまとまるのを待つ必要があることに注意しましょう。