この記事でわかること
- 死後離婚をした場合に遺産相続することができるかがわかる
- 死後離婚しても相続放棄したことにはならないことがわかる
- 死後離婚した場合に遺族年金がどのような取り扱いになるかがわかる
死後離婚という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
一般的には、まだそれほど知られていない制度かもしれません。
しかし、この死後離婚をする人が、ここ10年の間に2倍以上に増えているのです。
そこで、死後離婚とはどのようなものなのか、そして死後離婚によりどのような影響があるのか、解説していきます。
特に、配偶者の死後に関係する遺産相続や年金については、多くの人に関係するため、よく確認しておきましょう。
目次
死後離婚とは?
夫婦の婚姻関係は、法的には婚姻届を提出することで開始され、離婚届を提出するかいずれかが死亡することで終了します。
離婚届を提出しなかった場合、一方が亡くなるまで婚姻関係は継続するものの、亡くなった後に離婚届を提出することはありません。
しかし、婚姻関係は終了しても、義理の父母や兄弟などとの関係は続くこととなります。
配偶者が生きている間であれば我慢して関係を続けていた人も、配偶者の死後はその関係を終わらせたいと考えることもあります。
そこで、姻族関係終了届を提出し、義理の親族との関係を終了させる手続きのことを死後離婚といいます。
死後離婚を行う理由
死後離婚を行い、姻族関係を解消することで、どのような効果があるのでしょうか。
たとえば、夫が亡くなった後の妻が死後離婚の手続きを行ったとします。
この場合、死後離婚を行うことで妻は夫の親や兄弟などとの関係が解消されます。
姻族関係が継続したままの場合、夫が亡くなってもその夫の親などの面倒をみなければなりません。
しかし、死後離婚を行えば、夫が亡くなった後に夫の親族の面倒をみる必要はなくなります。
具体的には、夫の親を介護したり、一緒に住んで身の回りの世話をしたりする必要はないということです。
ただ、子どもと夫の親族の関係には変わりはないため、たとえば夫の親子どもとの親族関係は以前と変わりません。
あくまでも、姻族関係終了届を提出した人と、その配偶者の親族との関係を終了させるためのものなのです。
死後離婚は増加傾向
死後離婚という言葉は、法律上の正式な用語ではありません。
実際には、配偶者の死亡により婚姻関係は終了しているため、死後に離婚届で離婚することはできません。
ただ、姻族との関係を終了させる際の手続きとして、死後離婚という表現はわかりやすいため、一般的に使われているのです。
死後離婚の件数は、ここ10年で増加傾向にあります。
「e-Stat政府統計の総合窓口」では、最新の情報として平成21年度から30年度までの種類別届出件数が公表されています。
この統計によれば、平成21年度の姻族関係終了の届出件数は1,823件だったのに対し、平成30年度は4,124件に増えているのです。
死後離婚を行って、配偶者の親族との関係を法的に終わらせたいと考える人は、年々増加しているといえます。
死後離婚すると遺産は相続できない?
生前の配偶者との離婚届を提出した場合、その婚姻関係は終了し、遺産相続の権利もなくなります。
一方、姻族関係終了届を提出して死後離婚を行うと、亡くなった配偶者の親族である姻族との関係が終了します。
この場合、遺産相続に影響はあるのでしょうか。
子どもがいる場合、その子どもの相続権がどうなるのかも含めて、死後離婚による遺産相続への影響を解説します。
配偶者への影響
死後離婚を行っても、その前に亡くなった配偶者に対する相続権が消滅することはありません。
配偶者との婚姻関係は残ったまま亡くなっており、亡くなった時点で配偶者であるため、そのまま相続権は残るのです。
すでに相続した財産についても、他の親族に返還する必要はありません。
子どもの相続権への影響
子どもは相続権を有していますが、死後離婚によりそれが影響を受けることはありません。
死後離婚により消滅するのは、配偶者の親族との姻族関係であり、親子の関係が消滅することはないからです。
そもそも、生前に離婚した場合でも子どもの相続権が消滅することはありませんし、死後離婚の場合でも影響は受けないのです。
死後離婚イコール相続放棄ではないので注意
死後離婚をするために姻族関係終了届を提出して、姻族関係を消滅させる時に、その手続きを相続放棄と混同してしまう方がいます。
しかし、死後離婚は亡くなった配偶者の親族との関係を終了させるための手続きであり、相続放棄とはまったく別の手続きです。
相続放棄は、被相続人の残した債務を相続しないために行われます。
ただ、相続放棄すれば債務を引き継がない代わりにすべての財産も相続できなくなります。
相続放棄は、被相続人の残した財産や債務について、一切の相続権を放棄するための手続きなのです。
もし、被相続人の債務を引き継ぎたくないのであれば、死後離婚ではなく、相続放棄をしなければなりません。
死後離婚しても相続権は消滅しない一方、死後離婚しても債務を引き継ぐ可能性があるのです。
死後離婚したら遺族年金はどうなる?
死後離婚する際に、多くの人が疑問に思うことの1つに、遺族年金を受け取ることができるのか、ということがあります。
死後離婚することで、遺族年金の受給権が消滅してしまうのであれば、死後離婚を行わないと考える人が多いためです。
この点については、死後離婚しても遺族年金の受給権は消滅せず、遺族年金を受け取ることができます。
また、死後離婚したからといって、受給額が減らされるようなこともありません。
遺族年金を受給することができる人は、配偶者などの親族とされています。
一方、死後離婚は、婚姻関係を消滅させるわけではなく、前述したように配偶者の姻族との関係を消滅させるためのものです。
そのため、死後離婚しても遺族年金を受け取ることができるのです。
死後離婚の手続きの流れ
死後離婚の手続きは、どこで行うのでしょうか。
その手続きに必要な書類や、手続きの流れについて確認しておきます。
死後離婚の手続きは市区町村役場で行う
死後離婚の手続きは、正式には姻族関係終了といいます。
そのために提出する姻族関係終了届は、市区町村役場の窓口に提出します。
提出期限はないため、配偶者が亡くなった後であれば、いつ提出してもいいこととされています。
必要書類を準備する
姻族関係終了届を提出するために市区町村役場に出かける際には、あらかじめ必要な書類を準備しておきましょう。
死後離婚の手続きに必要な書類は、以下のとおりです。
・姻族関係終了届
書類は役場の窓口に置かれています。
事前に入手する必要はないため、その場で記載して提出すれば問題ありません。
・戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)
本籍地以外の市区町村役場に、姻族関係終了届を提出する場合に必要となります。
基本的に、本籍地のある市区町村役場で入手する必要があります。
ただ、本籍地が遠方にあるため、簡単に本籍地の市区町村に行くことができない場合は、郵送でも入手することができます。
戸籍謄本が必要になる場合は、必ず事前に入手しておかなければなりません。
・印鑑
実印である必要はありません。
姻族関係終了届に押印義務はありませんが、訂正印として使うこともあるため、持参していきましょう。
・本人確認書類
姻族関係を終了しようとする方の運転免許証や健康保険証などの本人確認書類が必要となります。
死後離婚で旧姓に戻す場合
死後離婚を行っても、自動的に旧姓に戻るわけではありません。
そこで、死後離婚で旧姓に戻す場合は、復氏届を市区町村役場に提出しなければなりません。
復氏届を提出して名字が戻るのは、その届を提出した本人だけです。
子どもの名字や戸籍は変更されず、以前の名字のままとなり、親子で名字が異なる状態となります。
これでも日常生活に支障はありませんが、子どもが未成年の場合は、親権者と名字が異なるために不便なこともあります。
そこで、子どもの名字も変更するためには、家庭裁判所で「子の氏の変更許可申立て」を行う必要があります。
家庭裁判所で申立てが認められれば、子どもの名字が同じになり、同一の戸籍に入ることができます。
まとめ
配偶者が亡くなった後にも姻族との関係が継続すると、たとえば夫の親の介護を行うなど、大きな負担が生じることがあります。
特に、高齢化が進んだ結果、配偶者が亡くなってもその親が健在というケースが増えているのです。
そこで、死後離婚の手続きを選択する人が増えています。
死後離婚を行っても、遺産相続や年金の受給に影響はありません。
死後離婚の手続きは、それほど難しいものでもないため、姻族関係を終了させたい場合は、手続きを進めていきましょう。