この記事でわかること
- 遺産分割の割合の決め方や割合の目安を知ることができる
- 相続権を持つ相続人には誰がなるのかパターン別に知ることができる
- 相続分とは別に定められている遺留分とはなにか知ることができる
亡くなった人がいて相続が発生すると、相続人は遺産を分割して相続することとなります。
この時、誰がどれだけの遺産を相続するのかは、相続人同士の話し合いによって決められます。
相続分の目安となる法定相続分は、誰が相続人になるかによって計算方法が変わるため、確認しておきましょう。
また、相続分とは別に遺留分が定められているため、その内容と計算方法について確認していきます。
目次
遺産分割の割合の決め方と目安
遺産を相続人で分割する際には、何らかの方法で遺産分割の割合を決めなければなりません。
遺産分割割合を決定する方法は1つではありませんが、実際に相続が発生した時に自由に選べるわけではありません。
相続が発生した時は、以下の順に遺産分割の割合を決定することとなります。
遺言
被相続人が亡くなる前に遺言を作成していた場合、その遺言に従って遺産分割を行うこととなります。
遺言の作成方法は大きく分けて、取得する財産の割合を指定する「包括遺贈」と、取得する財産を指定する「特定遺贈」があります。
包括遺贈の場合、「配偶者、長男、次男にそれぞれ遺産の3分の1を遺贈する」というような記載方法となります。
この場合は、遺言によって割合のみが決定され、具体的に取得する財産の種類は相続人で話し合って決定します。
特定遺贈の場合は、「自宅は配偶者に遺贈する」というように、具体的な財産とその取得者が決定されます。
この場合は、遺言に書かれたとおりに財産を承継する手続きを進めることとなります。
遺産分割協議
遺言がない場合は、すべての相続人の話し合いによる遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議が行われるまでは、遺産はすべての相続人の共有財産であるとされます。
そして、相続人はいつでも話し合いによって遺産を分割することができます。
遺産分割協議による遺産の分割は、すべての相続人の同意が得られれば、法に反しない限りどのような分割方法でも認められます。
相続人の1人がすべての遺産を引き継ぐケース、あるいは何も引き継がない相続人がいるケースでも問題ありません。
問題となるのは、すべての相続人が遺産分割案に同意してくれるかどうかです。
もし1人でも遺産分割案に同意しない相続人がいれば、遺産分割協議は成立しません。
法定相続割合
遺言がない場合、遺産分割協議で各相続人の相続分を決定するのが原則です。
しかし、相続人同士の話し合いがうまくいかず、中には遺産分割協議が成立しないケースもあります。
このような場合には、遺産分割調停、さらには遺産分割審判を行うこととなります。
遺産分割調停は、家庭裁判所において行う相続人同士の話し合いです。
ただし、相続人同士が直接会って話すわけではなく、調停委員を介して話し合いが行われます。
また遺産分割審判では、遺産分割の方法を家庭裁判所が決定します。
なお、審判になると、基本的に各相続人の法定相続割合を基本として、遺産分割を行うこととされます。
【パターン別】遺産相続人になる人
相続が発生した時に誰が相続人になるかは、被相続人との関係によって自動的に決定されます。
どのような人が遺産相続人になるのか、そのパターン別に解説していきます。
配偶者は常に相続人になる
まず、亡くなった人に法律上の配偶者がいるかを確認します。
配偶者がいる場合、その配偶者は常に相続人となるからです。
配偶者としての要件は、法律上の婚姻関係にあることだけです。
たとえ別居していても、法律上の婚姻関係にあれば相続人となります。
また、亡くなる直前に婚姻関係が生じた場合でも、相続が発生した時点で配偶者であれば、相続人になります。
逆に、法律上の婚姻関係にない事実婚や内縁関係にある人は、長年連れ添った人であっても法定相続人にはなれません。
この点は、生活の実態などとは関係なく、形式的な要件が重視されているといえます。
子がいれば子が相続人になる
亡くなった人に子がいる場合、その子が相続人になります。
この場合は、配偶者がいるかどうかに関係なく、また他の親族の状況にも影響を受けません。
相続人となる子とは、実子だけを指すものではありません。
養子縁組により被相続人の養子となった人も、相続人になります。
また、子が先に亡くなっている場合でも、子の子、つまり被相続人から見て孫がいると、代襲相続が成立します。
さらに孫がいなくても、孫の子、さらにその子など該当する人がいる限り、代襲相続が発生します。
そのため、子がいなくても相続人となる人がいる可能性がある点に注意が必要です。
子がいなければ直系尊属が相続人になる
亡くなった人に子がおらず、代襲相続人となる人もいない場合には、直系尊属が相続人となります。
直系尊属にあたる人として、まずは両親が該当します。
ただし、両親がすでに亡くなっている場合には、祖父母が相続人です。
被相続人が高齢の方の場合、直系尊属はすでに亡くなっていることがほとんどです。
一方、若い方が亡くなった場合は、子がいないと両親などの直系尊属が相続人となることが多くあります。
子や直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人になる
亡くなった人に子も直系尊属もいない場合は、兄弟姉妹が相続人となります。
兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合でも、兄弟姉妹の子、つまり被相続人から見た甥や姪が代襲相続人となります。
ただ、兄弟姉妹の代襲相続人となるのは一代限りであり、甥や姪の子が代襲相続人となることはありません。
遺産分割の割合を保障する「遺留分」とは?
遺言により相続が行われる場合、その遺言の内容によってはまったく遺産を受け取れない相続人もいます。
ただ、このような相続人も遺留分を主張することで、一定の金銭(現行法によります)を受け取れる場合があります。
遺留分とはどのようなもので、その割合はどうなるのか解説していきます。
遺留分とは
遺留分とは、相続人が最低限相続することのできる遺産の割合のことです。
遺言は亡くなった人が生前に作成するものであり、内容について制約を受けることはありません。
そのため、特定の相続人だけが遺産を引き継ぐような極端な内容になっていることもあり得ます。
しかし、遺産をまったく相続できないことで、相続人の相続後の生活が不安定になることも考えられます。
そこで、特定の相続人については遺留分を有するものとして、最低限の相続分が保障されています。
なお、遺留分が主張できるのは、遺言によって遺産が遺贈される場合のみです。
遺言がない場合は遺産分割協議が行われ、その協議の場で自身の主張ができることから、遺留分を請求することはできません。
遺留分の割合
遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって計算方法が変わります。
そこで、相続人となる人の組み合わせごとに、遺留分の割合を確認しておきます。
①配偶者のみ
配偶者のみが相続人となる場合、配偶者の遺留分は遺産の1/2となります。
②配偶者と子
相続人が配偶者と子1人の場合、配偶者と子で合わせて遺産の1/2が遺留分となります。
そして、配偶者の遺留分は1/4、子の遺留分も1/4です。
子が複数人いる場合は、1/4をさらに均等に按分することとなります。
③配偶者と直系尊属
相続人が配偶者と直系尊属の場合、配偶者と直系尊属で合わせて遺産の1/2が遺留分となります。
そして、配偶者の遺留分は1/3、直系尊属の遺留分は1/6となります。
直系尊属が2人となることもあり、この場合の直系尊属1人あたりの遺留分は1/12となります。
④配偶者と兄弟姉妹
配偶者と兄弟姉妹が、亡くなった人の相続人になることがあります。
この場合、全体の1/2の遺産が遺留分です。
ただし、兄弟姉妹には遺留分が認められないことから、配偶者にのみ1/2の遺留分が生ずることとなります。
⑤子のみ
配偶者がおらず子のみが相続人となる場合、遺産の1/2が子の遺留分の金額となります。
子が複数人いる場合は、遺産の1/2の遺留分をさらに人数で均等に分割し、それぞれの遺留分を計算します。
⑥直系尊属のみ
直系尊属が相続人となる場合、遺産の1/3が直系尊属の遺留分の金額となります。
相続人となる直系尊属が1人の場合は、そのまま1/3が遺留分です。
また、直系尊属が2人いる場合は、それぞれ1/6の遺留分を有することとなります。
⑦兄弟姉妹のみ
兄弟姉妹のみが相続人となる場合、兄弟姉妹には遺留分は発生しません。
遺留分侵害額請求とは
遺留分があるにもかかわらず、遺言により遺留分に満たない遺産しか受け取ることができないことがあります。
この場合、遺産を受け取った他の人に対して、不足している遺留分を請求することが可能です。
これを遺留分侵害額請求といいます。
遺留分侵害額請求は、必ずしも裁判所での手続きによる必要はありません。
遺留分に満たない相続人から、他に遺産を受け取った人に対して直接請求を行うだけです。
ただ、話し合いでは解決しないことも多く、その場合は裁判所まで争いが持ち込まれることもあります。
なお、遺留分侵害額請求には時効があります。
遺留分が侵害された事実を知ってから1年が経過すると、その後に遺留分侵害額請求をすることはできません。
また、相続が発生してから10年が経過しても、時効が成立します。
遺留分侵害額請求を行う人は、時効といわれないよう、配達証明付内容証明郵便で請求を行います。
遺産相続人別の法定相続分の目安
遺産分割を行う際に遺言がない場合、相続人同士の話し合いによって遺産の分割方法を決定します。
遺産分割協議では、すべての相続人が納得する分割案であれば、どのように分割しても問題ありません。
ただ、1つの目安として法定相続分が用いられることもあるため、法定相続分の計算方法は知っておく必要があります。
そこで、誰が相続人になるかのパターン別に、法定相続分をご紹介します。
①子が相続人になる場合
被相続人に子がいる場合、その子が相続人となります。
また配偶者がいれば、その配偶者も相続人です。
そのため、配偶者と子の相続分は、それぞれ以下のようになります。
相続人になる人 | 配偶者の相続分 | 子の相続分 |
---|---|---|
配偶者と子 | 1/2 | 1/2 |
子のみ | – | 1 |
子が複数人いる場合は、子に割り当てられた相続分を均等に分けることとなります。
たとえば、相続人が配偶者と子2人(長男・次男)の場合、それぞれの法定相続分は以下の通りです。
配偶者 | 1/2 |
---|---|
長男 | 1/4 |
次男 | 1/4 |
②直系尊属が相続人になる場合
被相続人に子がおらず、直系尊属がいる場合は、その直系尊属が相続人となります。
この場合、配偶者がいればその配偶者はもちろん相続人となります。
そのため、配偶者と直系尊属の相続分は、それぞれ以下の通りです。
相続人になる人 | 配偶者の相続分 | 直系尊属の相続分 |
---|---|---|
配偶者と直系尊属 | 2/3 | 1/3 |
直系尊属のみ | – | 1 |
なお、直系尊属は両親のうちいずれか一方だけが生存している場合と、ともに生存している場合とがあります。
そのため、直系尊属の人数は1人または2人のいずれかとなり、直系尊属が2人いる場合はそれぞれ均等に分割します。
たとえば、配偶者と両親が相続人になった場合、それぞれの相続分は以下の通りです。
配偶者 | 2/3 |
---|---|
父 | 1/6 |
母 | 1/6 |
③兄弟姉妹が相続人になる場合
被相続人に子も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。
また配偶者がいる場合には、その配偶者も相続人となります。
配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合、それぞれの相続分は以下の通りです。
相続人になる人 | 配偶者の相続分 | 兄弟姉妹の相続分 |
---|---|---|
配偶者と兄弟姉妹 | 3/4 | 1/4 |
兄弟姉妹のみ | – | 1 |
兄弟姉妹が複数人いる場合、兄弟姉妹に割り当てられた相続分を人数で均等に分割します。
たとえば、配偶者と兄弟3人(兄・姉・弟)が相続人になる場合、それぞれの相続分は以下のようになります。
配偶者 | 3/4 |
---|---|
兄 | 1/12 |
姉 | 1/12 |
弟 | 1/12 |
まとめ
相続が発生すると、被相続人が保有していた遺産を必ず相続人に分割しなければなりません。
遺言があればその遺言に従って相続しますが、遺言がない場合は相続人による話し合いによります。
遺産分割を行う際には、法定相続分を目安とすることが多くあります。
ただし、必ずしも法定相続割合で遺産分割する必要はなく、相続人全員が納得できる方法によらなければなりません。
また遺言がある場合は、遺留分に満たない人は遺留分侵害額請求をできる点も注意が必要です。