この記事でわかること
- 失踪宣告を自分で手続きする流れや手続きに必要な書類
- 失踪宣告手続きの費用相場
- 失踪宣告の手続きをする際の注意点
相続にあたり、亡くなった人が遺言書を作成していない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
もし相続人の中に、行方不明になったまま生死がわからなくなっている人がいる場合、そのままでは遺産分割協議を開始できません。
遺産分割協議を行うためには、その相続人について家庭裁判所で失踪宣告を受ける必要があります。
この失踪宣告を受けるための申立ては、他の共同相続人や、その相続人の推定相続人などの「利害関係人」が手続き可能です。
今回は、親族の失踪宣告を自分で手続きする流れや必要書類について、費用相場や手続きをする際の注意点などとあわせて解説します。
目次
失踪宣告を自分で手続きする流れ・必要書類
失踪宣告の手続きは「利害関係人」が家裁に申立てを行い(民法第30条1項)、裁判所で調査・公示催告・審判を行うという流れになります。
以下、失踪宣告の手続きの流れや必要書類について見ていきましょう。
家庭裁判所に申立てを行う
失踪手続きには、普通失踪と特別失踪の2種類があります。
普通失踪(民法第30条1項)の申立ての要件は、「不在者の生死が7年間明らかでないとき」です。
これに対して、特別失踪(同条2項)の申立要件は、戦争や船舶の沈没事故などの危難に遭った人が生死不明となり、危難が去った後も1年間生死不明の状態が続いた場合です。
普通失踪の申立てが認められた場合、生死が不明になってから7年間経過した時点で失踪者が死亡したとみなされます(民法第31条)。
一方特別失踪の申立てが認められた場合は、「危難が去ったとき」に失踪者が死亡したとみなされます(同条)。
失踪者が死亡したとみなされる年月日は「みなし死亡日」と呼ばれます。
ここでは、普通失踪の手続きの流れをご説明します。
申立て方法
普通失踪の失踪宣告申立ては、行方不明者の生死が7年間不明の場合に、下記のような「利害関係人」が、行方不明者の最終住所地を管轄する家庭裁判所で行います。
必要書類
普通失踪の失踪宣告申立てには、以下の書類が必要です。
家庭裁判所の調査
申立てを受けた家庭裁判所は、申立てを行った親族等に対して調査を行い、行方不明者(失踪者)の生死不明の状態が続いていることを確認します。
公示催告手続き
調査終了後、当該裁判所は公示催告を行います。
公示催告では、下記の情報を官報に掲載します。
普通失踪の場合、公示催告を3カ月以上の期間官報に掲載することとなっています。
審判手続き
公示催告後、失踪者に関する届け出がなかった場合、家庭裁判所は失踪宣告の審判を行います。
審判が行われると、家庭裁判所から申立人宛てに審判書謄本などが送達されます。
失踪の届出
審判書が届いてから2週間以内に異議申立てがなかった場合、審判が確定します。
しかし、審判確定によって、自動的に失踪者の戸籍謄本が変更されるわけではありません。
審判が確定した後、申立人は10日以内に失踪者の本籍地または申立人の住所地の市区町村役場で届出をする必要があります。
失踪届を提出する際の必要書類は、以下の通りです。
失踪宣告の手続きにかかる費用相場
失踪宣告の申立てを行う場合、かかる費用は以下の通りです。
費用内訳 | 相場・金額 |
---|---|
申立費用(収入印紙代) | 800円 |
書類送達用郵便切手代 | 1,000円程度(裁判所により異なります) |
官報公告料 | 4,816円 |
戸籍謄本等の書類収集費用 | 1,000円~5,000円程度(必要な戸籍謄本等の枚数により異なります。) |
弁護士費用(自分で申立てを行う場合は不要) | 20万円~30万円程度(弁護士事務所により異なります。) |
失踪宣告の手続きをする際の注意点
失踪宣告の手続きをする際、以下の点に注意する必要があります。
行方不明期間が7年以下の時点で被相続人が死亡した場合
推定相続人の一人が行方不明になってから、7年経過していない段階で被相続人が死亡した場合は、7年経過するまで失踪宣告の申立てができません。
しかし、7年経過するのを待っていると、相続税の申告期限が過ぎてしまう恐れがあります。
そこでこの場合、「不在者財産管理人」を選任した上で、以下のように相続税関係の手続きを行うことをおすすめします。
不在者財産管理人を選任する
不在者財産管理人とは、家庭裁判所に選任され、行方不明者の財産を管理する責任を負う人のことをいいます。
不在者財産管理人候補として申立てができるのは、行方不明者本人と利害関係のない人です。
したがって、他の共同相続人は不在者財産管理人になることはできません。
候補者を選ぶのが難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼できます。
不在者財産管理人の申立てから選任決定までは3カ月~半年程度かかる場合が多いので、できるだけ早く申立てを行いましょう。
法定相続分で遺産分割した旨の相続税申告を行う
不在者財産管理人が選任されたら、一度「法定相続分どおりに遺産分割を行った」旨の相続税申告を行います。
この場合、残りの相続人との間で、失踪宣告確定後に再度遺産分割協議を行うことが前提です。
そのため、遺産分割協議が終わるまで、相続人が相続財産を処分することはできません。
失踪宣告確定後残りの相続人で遺産分割協議を行う
相続税申告の後、失踪期間が7年を超えた時点で、利害関係人が失踪宣告の申立てを行います。
失踪宣告審判が確定したら、残りの相続人全員で遺産分割協議を行ってください。
なお、失踪者に相続人がいる場合は、失踪者が持っていた相続分を相続するので、遺産分割協議に参加できます。
また、失踪宣告が確定しない段階においても、不在者管理人を行方不明者の代理人として、遺産分割協議を行うことができます。
各相続人が修正申告を行う
遺産分割協議後、最終的に決定した遺産分割割合に基づいて、各相続人が修正申告を行います。
みなし死亡日が被相続人死亡よりも前の場合
被相続人の死亡時点で失踪期間が7年を超えている場合は、みなし死亡日が被相続人の死亡日よりも前になります。
つまり、失踪宣告審判が確定すれば、「被相続人が死亡した時点で、失踪者はすでに死亡している」ことになります。
この場合、失踪者に代襲相続人がいる場合は、原則通りであれば被相続人の死亡後10カ月以内に相続税を申告しなければなりません。
しかし、失踪宣告申立てから審判確定まで3~6カ月程度時間がかかるため、相続税の申告期限に間に合わない恐れがあります。
この不都合を避けるため、通達により、代襲相続人の申告期限については「失踪宣告の審判確定を知ったとき」から10カ月と定められています(国税庁法令解釈通達27-4)。
相続税の申告後に失踪者の生存がわかった場合
もし、相続税の申告手続き後に失踪者の生存がわかった場合は、まず失踪宣告取消(民法第32条1項)の手続きを行います。
失踪宣告を取り消した場合も、すでに行った遺産分割協議は有効とされます。
失踪者の法定相続人が先の相続で、善意で財産を得ていた場合は、「利益を受けている限度においてのみ」その財産を失踪者に返還する義務があります(同条2項)。
「利益を受けている限度」については、手元に残っている財産に限られると解されています。
失踪宣告取消までに使った金銭や、すでに売却した不動産などは返還する必要がありません。
ただし、生活費に費消した場合は、現存利益があるとみなされる場合があります。
まとめ
相続人の一人が長い間消息不明になっている場合は、その状態が7年以上継続していれば失踪宣告の申立てが可能です。
失踪宣告の審判が確定すれば、失踪者は法律上死亡したものとみなされるので、残りの共同相続人で相続手続きができます。
失踪宣告の申立てにはそれほど手間はかからないので、親族が自分で手続きできるでしょう。
しかし、失踪宣告の審判が確定して失踪者の相続が発生した場合には、まず失踪者の財産調査が難航することが予想されます。
また、失踪者の財産に関して、誰が相続人になっているかの調査に困難が生じる可能性もあります。
失踪宣告確定後の相続トラブルを防ぐためにも、失踪宣告申立ての段階で相続問題を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。