この記事でわかること
- 認知症を発症した人が生前贈与できるかどうかがわかる
- 認知症を発症した場合でも生前贈与が認められる場合があることがわかる
- 認知症になった親に生前贈与をしてもらう際の流れがわかる
超高齢化社会となり、平均寿命は年々伸びています。
ただ、高齢化が進む一方で認知症になる人も数多くいるため、様々な問題が生じています。
認知症となった方は法律行為を行う際に制約を受けるため、贈与が成立しないことがあります。
認知症となった後に贈与できるのか、その場合にどのような手続きが必要なのか、ご紹介していきます。
目次
認知症発症後の生前贈与は無効になる恐れがある
高齢化社会の進展とともに、認知症になる人も増えている他、若年性認知症になる方もいます。
はたして、認知症になった人は生前贈与を行うことができるのでしょうか。
認知症になるとどうなる?
認知症を発症すると、記憶が失われるだけでなく、コミュニケーションが取れなくなることもあります。
また、整理整頓や複雑な作業をすることが難しくなり、問題を自分で解決することができなくなってしまう場合もあります。
このように、認知症を発症した人は、意思能力が失われているか大幅に低下している状態になることが多くあります。
しかし、認知症を発症したばかりの段階では、近くにいる人でもそのことに気付かないことが珍しくありません。
それほど、認知症になったことを他人が認識するのは難しいことといえます。
意思能力がない人は法律行為が無効になる
認知症を発症した場合のように、意思能力が失われた状態の人は、法律行為を行うことができません。
仮に法律行為を行ったとしても、意思能力のない人が行った法律行為は無効とされます。
生前贈与は、財産を贈与する人と受け取る人との間に締結される契約であることから、意思能力がなければ無効になります。
贈与だけでなく、遺言書の作成も後から無効とされることがあります。
生前贈与も遺言書の作成もできない状態になってしまうと、相続対策としてできることはかなり制約されてしまうでしょう。
軽症の認知症であれば贈与が可能
認知症を発症していても、その症状が軽症である場合には、完全に意思能力が失われているわけではありません。
そのため、認知症になっていても贈与が有効に成立するケースがあります。
ただし、意思能力があるかどうかの判断は非常に難しく、素人ではその区別がつかない場合もあります。
認知症が軽症である場合には、所定の流れに沿って手続きを行い、贈与が有効に成立することがあります。
贈与の有効・無効を判断するのは、最終的には裁判所となるため、贈与する場合は意思能力があると証明できるようにしておきます。
認知症になった親に生前贈与してもらう流れ・必要書類
軽度の認知症を発症した人は、完全に意思能力が失われているわけではなく、法律行為を有効に行える場合があります。
そこで、認知症の症状はあるものの、軽度で意思能力はあるということを証明した上で、贈与を行うことができます。
この場合、後から意思能力がなかったものとして贈与が無効になることのないよう、以下の流れで贈与を行いましょう。
医師の診断を受ける
軽度とはいえ、認知症を発症している状態にある場合には、意思能力があることを確認した上で贈与する必要があります。
しかし、家族や親族として長年見てきた人でも、意思能力の有無を判断することはできません。
そこで、専門家である医師の診断を受け、意思能力があることを確認してもらいましょう。
この時に診断してもらう医師は、できるだけ長年にわたって診てもらってきた主治医がいいでしょう。
主治医であれば、認知症の有無に関する変化に気付くことができ、その判断の信憑性も高くなります。
ただ、1人の医師の判断だけでは不安が残る場合には、セカンドオピニオンとして、別の医師の意見も聞いておくといいでしょう。
どのような理由でセカンドオピニオンを必要としているのか、主治医や患者本人には初めから伝えておいた方がトラブルを避けられます。
税理士にシミュレーションしてもらう
生前贈与を行う理由は人により様々でしょうが、どのような場合でも贈与税が発生することに変わりはありません。
ただし、贈与する財産の種類や贈与する時期によって、贈与税の税額が変わることが想定されます。
そこで、どの財産を生前贈与すると、どれくらいの贈与税が発生するのか、税理士にシミュレーションしてもらいましょう。
贈与税の税額を計算すること自体は、決して難しいわけではありません。
そのため、なぜ税理士にシミュレーションしてもらう必要があるのかと思う方もいるかもしれません。
しかし、このシミュレーションでは、贈与税の税額だけ計算すればいいわけではありません。
贈与と密接に関係のある相続税についても、生前贈与した場合にいくらになるのか、計算してもらうようにしましょう。
贈与契約書を作成する
シミュレーションの結果、生前贈与を行うこととした場合は、その贈与の内容を記載した贈与契約書を作成します。
贈与は、ただ単に財産を渡せば成立するというものではありません。
財産を渡す人と、受け取る人の同意があって初めて成立するものです。
贈与契約書なしに現金や預金を贈与しても、その財産は贈与されたとみなされない可能性があります。
名義預金といって、名義は子どもになっていても財産の実態は依然として元の持ち主のものと判断されてしまうことがあり得ます。
この場合には、相続が発生した時に元の持ち主の財産とみなされ、相続税の計算が行われます。
このように形式的に名義だけを移したものと判断されないよう、まずは契約書を作成しておくことが大切です。
贈与を実行する
贈与契約書を作成したら、その契約の内容に沿って贈与を実行します。
不動産の贈与を行った場合は、すぐに登記を行い、名義変更の手続きを行いましょう。
現金や預金の贈与については、単にお金を子どもや孫などに渡すだけで贈与は実行できます。
しかし、名義預金と判断されることのないように、贈与された財産を受け取った人が確実に管理している状態にしておきましょう。
贈与税の申告・納税を行う
贈与を実行した場合、贈与税が発生する可能性があります。
そこで、1年間に贈与された財産の金額が、110万円を超えるかどうかを確認しましょう。
もし110万円以下である場合は、財産を贈与されたとしても贈与税は発生しないため、申告や納税する必要はありません。
一方、贈与された財産の額が110万円を超える場合は、贈与税の申告・納税を行わなければなりません。
贈与税の申告は、財産を贈与された人が行うものとされています。
財産を贈与された年の翌年2月1日~3月15日の間に、管轄の税務署に申告・納税を行いましょう。
まとめ
認知症になった人も、その症状の状況によっては、財産を贈与するなどの法律行為を問題なく行うことができます。
しかし、意思能力があるかどうかの判断は素人では難しく、また後から問題になる場合も珍しくありません。
そこで、贈与する前に意思能力があることを医師に確認してもらってから、贈与を実行することがとても重要になります。
素人の判断で贈与を行い、後から無効と判断されることのないよう、慎重に進めていきましょう。