この記事でわかること
- 認知症を発症した後に利用できる成年後見制度について知ることができる
- 認知症発症後に成年後見制度を利用するメリットとデメリットがわかる
- 認知症発症後に成年後見制度を利用するための手続きを知ることができる
認知症を発症すると、判断能力が低下して様々な法律行為を行えなくなります。
また本人ができないだけでなく、その家族であっても代わりに法律行為を行うことはできません。
そこで利用を検討することとなるのが、成年後見制度です。
認知症になった後でも利用できる成年後見制度とはどのようなものか、解説していきます。
※「成年後見制度」は,法定後見制度と任意後見制度に分類されますが,本稿では特に断りのない限り,法定後見制度を指すものとします。
目次
認知症発症後の成年後見制度とは
認知症を発症してしまうと、正しい判断をすることが難しくなります。
そのため、判断能力がないとされた人の法律行為は、無効となることがあります。
このようにすることで、認知症になった人は一定の保護をされていると言えます。
その一方で、医療費やリフォーム代など物入りも発生します。
そのために、保有する財産を売却し、あるいは別の財産を購入することが考えられます。
ただ、判断能力が低下した人は法律行為を行うことは難しいため、別の人に代理してもらう必要があります。
そのための制度が、成年後見制度となります。
成年後見制度には、そのサポート内容によって3つのタイプがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
成年後見制度の種類①成年後見
成年後見は、重度の認知症や精神障害などにより、判断能力がないとされた場合に適用されます。
成年後見人は、本人に代わってすべての法律行為を行います。
成年後見制度の種類②保佐
保佐は、軽い認知症や精神障害などのため、判断能力が不足するとされた場合に適用されます。
保佐人は、より慎重な判断が求められる場合に、取消権と同意権の2つの権利を行使して、本人に代わってその判断を下します。
また、家庭裁判所が認める行為について、本人に代わって法律行為を行うこともできます。
成年後見制度の種類③補助
補助は、保佐人が必要なケースと比較して、判断能力が残っている場合に適用されます。
補助人は、保佐人と同じように取消権と同意権を有しています。
また、家庭裁判所が認める行為について、本人に代わって法律行為を行うことも変わりありません。
ただ、保佐人の場合と比較して、これらの権限が行使できる場面は限定されます。
認知症発症後の成年後見制度のメリット
前述したように、認知症になった人は判断能力が低下して、法律行為を行うことが難しくなってしまいます。
そのような状況で、認知症を発症した後に成年後見制度を利用することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
財産管理をしてもらうことができる
判断能力が低下した人は、自身の保有する財産について正確に把握することができなくなっています。
そのため、自身の財産を適切に管理することができません。
成年後見人などになった人は、本人の預金通帳などを保管し、適切に使われるように管理することとなります。
そのため、判断能力が低下した本人に財産が浪費されないようにすることができます。
本人に代わって法律行為を行うことができる
判断能力が低下した人は、自身で法律行為を行うことができません。
そのため、生活に必要なことであっても、自身では契約できないケースが出てきてしまいます。
その時、成年後見人などは本人に代わって、法律行為を行うことが可能となっています。
たとえば、認知症が進行してきたために介護施設に入所しようとしても、本人では契約できない場合があります。
このような場合、本人に代わって成年後見人などが契約を行うことで、無事に入所することができます。
同じようなことは、医療行為の契約や介護サービスの契約など、あらゆる契約に関係してきます。
不利な契約を取り消すことができる
判断能力が低下した人は、自身が一方的に不利な契約を締結してしまう可能性があります。
しかし成年後見人は、この契約を取り消す権限があります。
そのため、知らず知らずのうちに不利な契約を結んでしまい、不利益を被らないようにすることができます。
一方、保佐人や補助人については、すべての法律行為を取り消す権限は与えられていません。
そのため、特定の法律行為のみ取り消すことができます。
認知症発症後の成年後見制度のデメリット
認知症を発症した後で成年後見制度を利用することに、デメリットはないのでしょうか。
デメリットがまったくないわけではないため、その内容を確認しておきましょう。
財産を自由に使えなくなる
成年後見制度を利用すると、成年後見人などが就任し、本人の財産を守ります。
そのため、成年後見人が就任した場合、本人は自らの財産を自由に使うことができなくなってしまいます。
これは成年後見制度が、サポートを必要とする人の財産を保護するための制度となっているためです。
たとえば自宅をリフォームしようとしても、そのことが本人の財産や安全を守ることにならなければ、工事自体が認められません。
その他にも、自宅の売却が制限されるケースが存在します。
また、成年後見制度を利用して成年後見人などが選任されると、自身のお金を子や孫にお小遣いとして渡すことも難しくなります。
財産を守るための制度ですが、その反面、様々な制約が発生することで、デメリットを感じることがあるかもしれません。
報酬を支払わなければならない
成年後見制度を利用する際は、家庭裁判所にその申立てを行う必要があります。
家庭裁判所は、成年後見人・保佐人・補助人のいずれを選任するかを決定します。
また、成年後見人などに就任する人を誰にするかも、家庭裁判所が決定するのです。
そのため、成年後見人などに、弁護士などの専門家が選任されることがあります。
身内でない人が成年後見人・保佐人・補助人になる場合、報酬を支払わなければなりません。
ただし、身内が選任される場合は無報酬とするケースが多いでしょう。
認知症発症後の成年後見制度の手続き方法
成年後見制度を利用するには、家庭裁判所での手続きが必要です。
どのような手続きを行うのか、そしてどれだけの費用がかかるのか、確認していきます。
成年後見制度利用までの流れ
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所での手続きが必要不可欠です。
どのような流れで手続きを行い、いくらくらいの費用がかかるのでしょうか。
①申立て前の確認事項
申立てを行う前に、どの地域の家庭裁判所で手続きを行う必要があるのか、確認しておきます。
また、申立てができる人は本人や配偶者の他、4親等内の親族などの要件があるため、問題ないか確認します。
②申立てに必要な書類を準備する
成年後見制度の申立てを行う際は、家庭裁判所に数多くの書類を提出しなければなりません。
そのため、前もって必要な書類を準備しておきましょう。
また、書類だけでなく収入印紙や郵便切手も必要なため、忘れずに準備します。
③申立て先の家庭裁判所に書類を提出する
必要な書類などをすべて準備したら、家庭裁判所に書類を持参又は郵送します。
面接日より一定以上前に到着しなければ、面接ができないことがあるため、注意しましょう。
④面接を行う
家庭裁判所で、成年後見制度の利用に関する面接が行われます。
書類を準備する段階で予約しておき、当日は直接家庭裁判所に出かけましょう。
成年後見制度利用にかかる費用
成年後見制度の利用にあたって、家庭裁判所に申立てを行う際には、申立手数料800円が必要となります。
また、登記手数料として2,600円かかります。
この他、郵便切手代が裁判所の指定する金額分必要です。
なお、すべてのケースにおいてではありませんが、医師の鑑定が必要になる場合があります。
この場合、鑑定料として10万円程度の鑑定料が発生します。
認知症発症後の成年後見制度を利用するときの注意点
成年後見制度を利用することで、様々なメリットとデメリットがあることがわかりました。
最後に、どのような点に注意すべきか、解説していきます。
医療行為への同意はできない
成年後見人になった人であっても、医療行為に対する同意、具体的には手術などへの同意はできません。
医療行為への同意は、本人が難しい場合は家族が行う必要があります。
財産の管理と運用は異なる
成年後見制度の大きな目的の1つは、適切な財産の管理です。
ところが、成年後見人などになったら、本人の財産を資産運用して増やそうと考える方がいます。
しかし、積極的な運用は財産を減らしてしまうリスクがあり、そのような行為は認められません。
後見人には、後見人を監督する者が裁判所によって定められている場合があります。
この場合,万が一、後見人が運用を行った際には、監督者によって裁判所に報告され、その行為が発覚することとなります。
まとめ
認知症になってしまうと、自分で財産管理を行うことが難しくなります。
ただ、家族などが代わりに法律行為を行うこともできないため、何もできないままになってしまうことが多いのが現実です。
成年後見制度を利用すれば、一定の法律行為を行うことはでき、財産の適切な管理が可能になります。
ただ、リスクもあるので、注意点を理解した上で利用するようにしましょう。