この記事でわかること
- 相続税に認められる延納とはどのような制度か知ることができる
- 相続税の延納を利用する際の条件や申請方法がわかる
- 相続税の延納が認められる金額や年数の計算方法を知ることができる
相続税の納税をする人は、被相続人の財産を相続した人です。
相続した財産があれば、その財産から納税をすることができるため、税金が発生しても困らないと思うかもしれません。
しかし、実際はその真逆で、期限までに相続税の納税が困難な場合もかなりあります。
そこで、相続税には延納が認められています。
その名のとおり納期限を延ばす制度なのですが、はたしてどのような場合に利用できるのか、解説していきます。
目次
相続税の延納とは?物納との違いは?
相続税の延納とは、金銭で納付することが困難である一定の理由がある場合にその納税を分割払いとすることができる制度です。
通常、どの税金も現金で納付することが原則とされており、また納付期限までに一括で支払わなければなりません。
ただ、相続税の場合は不動産だけを相続した人にも相続税が発生する場合のように、相続税の納付が難しい場合があります。
そこで、一定の要件を満たせば分割で納税することを認める制度があるのです。
なお、相続税には延納のほか物納という制度もあります。
物納は、現金ではなく、不動産や有価証券などの財産を国に納付する制度です。
物納が認められるのは、現金での一括納付が困難で、かつ延納も困難な場合です。
また、どのような財産でも物納に使うことができるわけではないなど、多くの要件が定められています。
そのため、現金での一括払いが難しい場合は、まず延納を検討しなければならないのです。
相続税の延納をするメリット・デメリット
相続税の延納を利用することのメリットとデメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。
ここでは、そのメリットとデメリットを確認していきましょう。
相続税の延納のメリット
相続税の延納のメリットは、納付期限までに納税資金を準備できなくても、納税漏れとならないことです。
相続税の申告・納付期限は、相続が発生した日の翌日から10か月とされています。
亡くなってから様々な手続きを行う中で、遺産分割を行い相続税の申告書を作成するにはあまりにも短い時間です。
この間に相続財産を処分して現金を用意することは現実的に考えて非常に困難です。
延納の制度を利用すれば、納付期限までに現金が用意できなくても問題はありません。
その後も毎月決まった金額を納付していけば、ペナルティが科されることもないため、資金繰りの心配はほとんどなくなります。
相続税の延納のデメリット
相続税の延納を利用すると、一般的な利息に相当する利子税が発生します。
分割払いを利用する以上は、国に対する支払いであっても利息は発生してしまうのです。
ただ利子税の税率は、延滞税の計算に比べると低い税率に抑えられています。
これは延滞税が発生する場合とは違い、納付する意思はあること、そして国に認められた制度を利用しているためと考えられます。
なお、その税率は相続財産に占める不動産の割合によって変わりますが、最も低い税率の場合0.1%となることもあります。
銀行で借り入れした場合と比較をして、より有利になる方を利用するといいでしょう。
相続税を延納する条件
相続税の延納制度は、納税資金を準備できない場合に非常に有効な制度といえます。
しかし、本来の納期限より大幅に遅れて納税をすることとなるため、誰でも利用できるわけではありません。
相続税の延納をするための条件について確認していきましょう。
相続税額が10万円を超える
相続税額が10万円以下の場合は、延納が認められません。
たとえ相続財産に現金や預貯金が1円もなかったとしても、相続人が保有していた現金で納付する必要があります。
もっとも、相続人としても税額が少なければ延納とするメリットはなく、また税額が10万円以下となるケースもきわめてまれです。
そのため、形式的に要件と定められていますが、実際にはほとんど気にする必要はないといえます。
金銭で納付することが困難な事由がある
延納を利用する最大の理由は、現金で一度に納付することができないためです。
そこで、金銭で納付することが困難な状況を税務署に説明しなければなりません。
ただお金がないという状況を税務署に伝えれば、それで延納が認められるというわけではありません。
具体的に、現金をいくら相続したのか、相続人はいくらの現金を持っているのかを税務署に報告しなければなりません。
その上で、生活費やローンの支払いで必要なお金がいくらあるかを示し、相続税の支払いが困難な金額を具体的に計算するのです。
相続人自身が持っている現金についても、相続税の納税にあてる必要があります。
そのため、単に相続税をすぐに払いたくないからという理由では延納は認められないのです。
延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供する
延納とは本来支払うべき税額を分割払いにして、支払いを先延ばしにする制度です。
支払いを先延ばしにしても、そのまま払い続けていけば問題はありませんが、場合によっては支払いが滞ってしまうことがあります。
その時のために、担保となる財産を国に提供しなければなりません。
担保がなければ延納制度を利用することはできないのです。
担保に提供することができる財産には決まりがあり、以下の6種類とされています。
- (1) 国債及び地方債
- (2) 社債、その他の有価証券で税務署長が認めるもの
- (3) 土地
- (4) 建物、立木、登記された船舶などで保険に附したもの
- (5) 鉄道財団、工場財団などの財団
- (6) 税務署長が確実と認める保証人の保証
ただ、実際に担保として提供するものはほぼ土地です。
相続した財産でも、相続人がもとから保有していた財産でも、どちらでも担保とすることができます。
また、延納する税額が100万円以下、かつ延納期間が3年以下の場合は担保の提供は不要です。
延納申請期限までに延納申請書を提出する
延納申請書とは、相続税の延納を行うために税務署に提出が必要となる書類のことです。
この申請書と担保提供関係書類をあわせて、相続税の申告期限までに提出する必要があるのです。
相続税の延納の申請方法・必要書類
相続税の延納を利用するためには、税務署に申請を行う必要があります。
この手続きの流れと、必要書類を確認していきましょう。
(1) 延納できるか要件を確認する
そもそも延納制度を利用できなければ、様々な手続きを始めることに意味はなくなります。
「相続税を延納する条件」にあげた要件をすべて満たしている必要があるため、まずはその要件を確認することから始めましょう。
(2) 担保を保有しているかを確認する
延納できるかどうかの要件を確認する際に最も重要なのが、担保となる財産を保有しているかです。
担保となる財産の種類は、実務上、土地がほとんどであることは紹介しましたが、それ以外にも注意すべき点があります。
まず、その土地に抵当権が設定できなければなりません。
土地を担保とすることで、延納している相続税の支払いができなくなった場合には、その土地を国が売却して代金を回収するのです。
そして、担保とした財産をその所有者が勝手に処分してしまわないよう、抵当権を設定する必要があるのです。
抵当権が設定できない土地の場合は、担保に提供することはできません。
次に、土地に延納する相続税や利子税の額を支払うことができるだけの価値がなければなりません。
仮に相続税の支払いができなくなった場合には、その担保を売却して回収する必要があるためです。
なお、担保価値は土地の時価そのままで計算されるわけではありません。
土地の場合は時価の8割以内とされているため、それだけの価値があることを確認しておくようにします。
そして、担保に提供する土地は売却できるものでなければなりません。
たとえば、道路に面していないような土地の場合は、一般的に買い手が見つからないため、担保にはならないのです。
(3) 必要な書類を作成する
延納の申請に必要となる書類には、いくつかの種類があります。
まず、誰でも必ず作成するものが以下の3種類です。
- ・相続税延納申請書
- ・金銭納付を困難とする理由書
- ・不動産等の財産の明細書
また、土地を担保に提供する場合には、以下の書類も作成する必要があります。
- ・担保目録及び担保提供書
- ・担保提供関係書類チェックリスト
- ・登記事項証明書
- ・固定資産税評価証明書
相続税申告書の申告期限である相続開始の日の翌日から10か月以内に提出しなければなりません。
なお、延納の申請を期限内にできない場合には延長申請書を提出することができます。
延長申請を行えば、3か月その期間を延長することができます。
(4) 申請後の流れ
延納申請書を税務署に提出すると税務署長が審査を行い、3か月以内に許可または却下を決定します。
また、担保に提供する財産の内容によっては、審査が6か月まで延長されることもあります。
延納の申請が許可された場合には、相続税延納許可通知書が送付されてきて、延納が開始されます。
相続税の延納許可限度額の計算方法
相続税の延納が認められるためには、現金で納付することができない理由が必要とされます。
そして延納が認められる金額についても、その計算方法が定められています。
相続税の総額から、相続人が現金で納付できるものとされる金額を引いた後の金額が、延納許可限度額となります。
現金で納付することができる金額の計算方法は、以下のようになります。
(1) 保有しているすべての財産を計算する
相続した財産と、以前から相続人が保有している財産の合計について計算する必要があります。
なお、この財産には、現金、預貯金、そして換価が容易な財産が含まれます。
保険金や積立金などのように解約が容易であり、解約すれば現金になるものが含まれます。
一方、不動産などは換価が容易ではないため、ここにいう財産には含まれません。
(2) 事業や生活費に使う資金を計算する
すべての現預金を使って納税してしまうと、事業上の運転資金や生活費もなくなってしまいます。
そこで、事業継続のために必要な運転資金や、3か月分の生活費を納税資金から除外することが認められます。
(3) (1)から(2)を引いて計算した金額が現金で納付できる金額となる
ここで計算した金額は現金で納付することができる金額となりますが、言い換えれば現金で納付しなければならない金額です。
相続税額から現金で納付しなければならない金額を除した金額が、延納許可限度額となります。
相続税の延納が認められる年数
延納ができる金額だけでなく、その年数についても計算方法が定められています。
延納税額を10万円で除して計算された数(1年未満の端数は切り上げ)に相当する年数とされます。
たとえば、延納税額が168万円の場合、168万円÷10万円=16.8→17年となるのです。
まとめ
相続税の納期限は、原則相続開始の翌日から10か月とされています。
しかし、この間に納税資金を準備することは簡単なことではなく、手続きを怠ると未納となってしまいます。
相続税の納付が難しそうな場合には、事前に延納を利用できるかを確認しておくことが重要です。
ただ、延納の手続きをするためにも期限が定められているため、納付期限ギリギリではなく、できるだけ早くから準備を始める必要があります。