この記事でわかること
- 公正証書遺言のメリット・デメリットがわかる
- 公正証書遺言の作成方法や費用がわかる
- 公正証書遺言作成の注意点がわかる
高齢でもアクティブに趣味や仕事に活躍されている方が多い時代となりました。
しかし、人生100年時代とは言っても、いつか来るときに備えてエンディング・ノートの用意など、終活を始めた方もいるかもしれません。
遺言は、終活の花形です。
自分亡き後の財産を誰にどう分けるかなど、生前に自分の意思を残す作業だからです。
しかし、遺言書を書きたくても、書き方がわからなかったり、改ざんされたらどうしようと不安を抱いていたりする方もいるのではないでしょうか。
遺言書は、民法により書き方が厳格に定められているので、民法のルールに沿った書き方がなされていなければ無効となってしまいます。
また、遺言の保管方法によっては、改ざんを100%阻止することはできません。
そこで今回は、民法で定められた形式を守っているかどうか、安全に保管されるかどうか不安のない公正証書遺言について詳しく解説します。
まだ終活を始めたばかりの方も、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらを書くか悩んでいる方も、参考にしてください。
目次
公正証書遺言とは
遺言には普通方式と特別方式がありますが、公正証書遺言は、普通方式遺言のひとつです。
普通方式遺言は、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
公証人が作成する信頼性の高い遺言書
公正証書遺言は、公証人が作成する遺言です。
公証人というと聞き慣れない言葉かもしれませんが、公証人は、私たち国民にとって大切な文書を作成し、証明する役割を担っています。
公証人はどこに勤めている人?
公証人は、東京法務局、大阪地方法務局など、全国の法務局や地方法務局に所属しています。
これら所属する法務局が管轄する区域に設置された公証役場で業務を行うのが公証人です。
公証役場は約300か所あり、公証人は全国で約500名いますが、公証人は一定の地域内であれば出張することができます。
公正証書遺言の作成を依頼する公証役場に制限はありません。
自分が公正証書遺言を作成したことを知られたくないなどの理由で、遠方の公証役場に赴いてもかまわないのです。
ただし、公正証書遺言を作成したことを相続人に知らせずに他界すると、相続人は公正証書遺言の存在に気付かず相続手続きをすることもあります。
公正証書遺言を作成する公証役場をどこにするかは、よく検討しましょう。
公証人はどんな人が任命される?
公証人は、公証人法という法律の定めに従って選任された実質的に国家公務員と同様と考えられる人です。
司法書士などとの兼業は禁止されています。
兼業が禁止されていることからもわかるとおり、公証人は中立・公正な立場で業務を行うので、遺言書作成も安心して任せられます。
また、公証人は守秘義務(依頼者の秘密を守る義務)を負っているので、依頼内容を漏らされる心配もありません。
公正証書遺言は証拠力が高い
個人や会社から依頼を受けて、公証人が作成する文書を「公正証書」と言います。
公正証書遺言は、まさにこの「公正証書」です。
公正証書は公文書なので、私文書よりも証明力が高いとされています。
証明力というと少し難しいですが、簡単に言えば、訴訟での力とイメージしてください。
契約書などの文書を証拠として提出した場合、その文書が偽造だったら、証拠として意味がありません。
訴訟で提出された文書が偽造かどうか一つ一つ証明するのは大変です。
そこで、「文書の成立について真正である」と考えてもらえる「推定力」という力があります。
公文書である公正証書遺言にはこの推定力があります。
もし、相続人の一人が訴訟で公正証書遺言の成立を争っても、よほど強く反証しない限り、公正証書遺言が真正に成立したことを覆すことはできません。
自分亡きあと、相続人間の無用な争いを避けるためにも、遺言書作成を考える場合、公正証書遺言がいいでしょう。
公正証書遺言には何が書ける?
遺言は、自分自身の財産を、自分の死後に誰にどう分けたいかなど、自分亡き後の希望を残すためのたいせつな手段です。
では、遺言書に書いたことは全て効力を持つのでしょうか。
残念ながら、効力がないこともあります。
たとえば、愛犬に財産を遺贈すると遺言書に書いても、その遺贈は効力がありません。
民法では、財産を持つことができるのは「自然人(人間)」と「法人(会社)」としています。
愛犬は、財産を有することができる「人」とは認められません。
また、葬儀の方法など法定記載事項以外のことを遺言書に記載しても、法的効果はありません。
ただし、相続人に強く意思を伝えるという観点で考えれば、付言事項と呼ばれる法定記載事項以外のことを、遺言書に書く意義はあるでしょう。
公正証書遺言なら、何が法定記載事項で、何が付言事項か、公証人に確認しつつ、遺言書の内容を練ることができます。
<遺言書の記載事項>
法定記載事項の例 | 付言事項の例 |
---|---|
・相続人の廃除(推定相続人から虐待を受けた場合) ・相続分の指定 ・遺産分割方法の指定と分割の禁止 ・相続財産の処分(遺贈)に関すること ・子の認知(遺言で認知を行える) ・子が未成年の場合、離婚などで自分以外に保護者がいないときは、後見人の指定 ・遺言執行者の指定または指定の委託 |
・葬儀の方法 ・家族への感謝の気持ち ・のこされる妻(夫)の面倒を誰が見るか ・ペットの世話 ・先祖の墓参り ・唱えてほしいお経の種類 |
公正証書遺言のメリット・デメリット
ここまで見てきたとおり、公証人により作成される公正証書遺言は、非常に信頼性の高い遺言書です。
反面、自筆証書遺言よりも費用がかかります。
公正証書遺言のメリット・デメリットを見てみましょう。
公正証書遺言のメリット
まず、公正証書遺言のメリットを確認しましょう。
正確性、証明力
先述した通り、遺言書の成立に関して争いになったとき、公正証書遺言は証明力が高いことがメリットの1つです。
また、公正証書遺言は公務員である公証人が作成するので、法律で定められた遺言書の形式が守られているか心配ありません。
形式面だけでなく内容についても安心です。
法律のプロが作成する文書なので、基本的に、遺言の有効性に問題があるような内容は記載されないでしょう。
保管の安全性
遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
自筆証書遺言は、通常、遺言者の自宅で保管するので、相続人が発見できないこともあります。
また、自筆証書遺言を発見した相続人が勝手に開封し、改ざんする恐れがないとは言えません。
公正証書遺言は、保管の安全性が確保されていること、改ざんの恐れがないこともメリットです。
なお、遺言者には公正証書遺言の謄本が交付されます。
公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言をするには証人2人が必要であることがデメリットと言えるでしょう。
証人2人以上が必要
この証人は家族の誰でもいいわけではありません。
証人には欠格事由が定められているからです。
推定相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族は証人になれません。
他に証人が見つからない場合、弁護士や司法書士に依頼するか、公証役場に依頼することもできます。
費用
公正証書遺言作成には、手数料がかかる点がデメリットです。
この手数料は政令で定められているので、公証人が自由に決めることはできません。
どの公証人に頼んでも手数料は同額です。
公正証書遺言が無効になるケースがある?
まれに、公正証書遺言が無効になるケースがあるので、見ておきましょう。
証人が欠格事由に当たる
まず、証人が欠格事由に当たるケースです。
証人は公正証書遺言作成の日に公証役場に行くことになりますが、多くの場合、いきなり公証役場に行って公正証書遺言を作成してもらえるわけではありません。
遺言者が希望する遺言の内容について事前に公証人と打合せます。
打合せたあと、内容を考えなおしたり、不足書類を取り寄せたりして、正式な公正証書遺言作成日を予約します。
公正証書遺言作成日には、先述した通り、公証役場に証人2人を呼ぶ必要があります。
この証人が欠格事由に当たっていた場合、公正証書遺言は無効です。
推定相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族は証人になれません。
これらの者は、遺言の内容に利害関係が深いため、欠格事由とされています。
公正証書遺言作成の証人になれる人については、念のため、事前に公証人に確認するといいでしょう。
なお、推定相続人など言葉の意味は以下の通りです。参考にしてください。
推定相続人 | 配偶者(妻、夫)は常に相続人 第1順位の相続人…子(または子の代襲者) 第2順位の相続人…父母など直系尊属 第3順位の相続人…兄弟姉妹 |
---|---|
受遺者の意味 | 遺言者から遺贈(遺言による贈与)を受ける者 |
直系血族の意味 | 子、孫など |
裁判で無効とされたケース
公正証書遺言による遺言書でも、裁判により無効と判断されたことがあります。
裁判例や注意点を紹介します。
裁判例 遺言者の口授があったかどうか
昭和52年6月14日に最高裁判所第三小法廷で出された遺言無効確認についての判決をご紹介します。
遺言者の遺言者が、公正証書で遺言を作成するにあたって、遺言者が実際に口授していなかった事例です。
問題とされたのは、次の点でした。
- ・公証人があらかじめ筆記した遺言内容を読み聞かせたのに対し、遺言者が単に頷くのみだった
- ・立会い証人の一人が遺言者の真意を十分に確認することができなかった
(立会い証人は、すでに遺言内容の筆記が終わった段階から立ち会った)
公正証書遺言作成には、遺言者の口授が必要ですが、このような方法で口授があったといえるでしょうか。
このケースでは、公正証書遺言は無効とされました。
遺言は厳格に法定の手続きを守らなければ、その有効性さえも危うくなります。
高齢の親に公正証書遺言を作成してほしいと思う場合、遺言をする親が公証人にきちんと口頭で内容を伝えられないようであれば、注意しなければなりません。
細かい事実関係はわかりませんが、このケースでは、遺言により不利益を受ける相続人が、遺言の有効性を争ったのかもしれません。
他にも、口授について問題とされ、公正証書遺言を無効とした裁判があります。
遺言による認知につき争った例です。
公証人の質問に対し単に肯定または否定の挙動を示したにすぎない場合、口授があったものとはいえないとされました。
注意!遺言者の判断能力
遺言者が遺言時に判断能力があったかどうかは、公正証書遺言を作成した場合でも、相続人間で争いになるケースが後を絶ちません。
民法では、15歳以上であれば制限行為能力者であっても、遺言をできるとされています。
<参考:制限行為能力者の意味>
未成年者 | 満20歳未満の人(婚姻している者を除く) |
---|---|
成年被後見人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた人 |
被保佐人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な人で、家庭裁判所による補佐開始の審判を受けた人 |
被補助人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な人で、家庭裁判所による補助開始の審判を受けた人 |
たとえば、成年被後見人であっても、遺言能力が認められています。
痴ほう症の方でも、痴呆症の程度が軽ければ遺言能力ありとされる場合もあります。
しかし、遺言能力に欠ける方の遺言は、公正証書遺言であっても無効です。
裁判例などから導かれる遺言能力は、おおむね「遺言の内容と遺言によって発生する効果がわかる能力」とされています。
遺言能力の有無を判断するには、医師の診断書なども参考になりますが、絶対的な基準ではありません。
遺言能力に不安がある方が遺言者である場合、遺言者本人や家族が公証人に相談するなど細心の注意を払いましょう。
注意!証人の遅刻や退席
2つ目は、証人の遅刻や退席です。
証人は公正証書遺言を作成する手続きの始めから終わりまで立ち会わなければなりません。
証人が遅刻したり、途中で退席したりして作成された公正証書遺言は、無効となるケースがあり、裁判でも争われたことがあります。
証人になる方には、お手洗いや携帯着信での退席も控えてもらうよう、依頼するときに伝えておきましょう。
公正証書遺言の作成方法とその流れ
公正証書によって遺言をするには、次に挙げる方式に従わなければなりません。
事前相談が大切
法律上は、「今から公正証書遺言を作成してください」と、いきなり公証役場に証人2人を連れていき、公正証書遺言を作成することができそうです。
しかし、それでは、公証人が遺言内容の確認や手数料の計算ができません。
通常、公正役場に公正証書遺言作成の希望を連絡し、面談日時を予約します。
その際、できれば事前に準備してほしい書類を指示されるので、できるかぎり取り寄せておくと、公正証書遺言作成手続きがスムーズに進みます。
公証人は、遺言者の真意を正確に文章にまとめるため、面談では様々なヒアリングを行ってくれます。
ただし、家族についての事情、たとえば長男と次男の仲が悪いとか、嫁が気に入らないなど込み入った事情を全て聞いてくれるかどうかわかりません。
公証人は中立・公正な立場で公正証書遺言作成のために必要なアドバイスはしますが、誰かに肩入れするようなことはしないためです。
また、遺言者それぞれの事情を深く聞くのは、公証人の業務ではありません。
相続税についても同じで、公証人の業務に税務相談は含まれません。
家族の細かな事情に基づいた最善の遺言や、相続税対策についてもアドバイスを受けたい方は、弁護士に相談したうえで、公正証書遺言を作成しましょう。
一般的な手続きと流れ
遺言者が行うこと、証人が行うこと、公証人が行うことに分けて確認します。
<公正証書遺言作成で行うこと>
遺言者が行うこと | 遺言の趣旨を公証人に口授する(面前で伝える) 筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、押印 |
---|---|
公証人が行うこと | 遺言者の口述内容を筆記 遺言者および証人に読み聞かせて閲覧させる 方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、押印 |
証人2人以上が行うこと | 遺言手続きの最初から最後まで立ち合い 筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、押印 |
公証人の出張
次のような方が公正証書遺言を作成したい場合、公証人に出張を依頼することができます。
- ・遺言者が高齢で公証役場に出向けない
- ・遺言者が病気で入院中
この場合、公証人に遺言者の自宅や病院に出張を依頼し、公正証書遺言を作成することができます。
なお、公証人が職務を行える地域は、法律で限定されています。
原則として、公証人が所属する公証役場の管轄内で職務を行いますが、例外もあります。
詳しくは公証役場で確認してください。
手続きの例外
公正証書遺言作成は、遺言者が遺言の内容を口授しなければなりませんが、これには例外があります。
口授の例外
次のような方でも公正証書遺言を作成できるようにするため、口授の方法に例外が設けられています。
- ・脳梗塞で倒れて話せない方
- ・生まれつき耳が不自由な方
話すことができない方(民法上は「口がきけない方」)が公正証書によって遺言をする場合、口授に代える方法をとることができます。
遺言者は、公証人および証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述または自書することができるのです。
また、口がきけない方がこの方式により公正証書遺言を作成する場合で、遺言者または証人が耳が聞こえない方であれば、次の特例があります。
公証人は、筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えることで読み聞かせに代えることができます。
署名の例外
遺言者が高齢で、自分で署名できない場合でも、公証人に代書を依頼することができます。
体力が弱っている方や病気で署名できない方も、公正証書遺言を利用できるようにするため、このようなルールが設けられています。
作成にかかる費用と必要書類
公正証書遺言作成には費用がかかりますが、どのくらいかかるのでしょうか?
また、公正証書遺言作成に必要な書類についても見ていきましょう。
公正証書遺言作成の費用
公証人の手数料は、下記の表に示す財産価額により定まります。
<公証人の手数料と財産額>
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 43,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
ただし、以下の方法により具体的な手数料を算出します。
- 1.財産の相続または遺贈を受ける人ごとにその財産の価額を算出
- 2.1を下記の基準に当てはめて手数料額を求める
- 3.相続人や遺贈を受ける人の手数料額を合算
この計算により、公正証書による遺言書1通の手数料を算出します。
なお、次の費用も掛かるので注意が必要です。
- ・全体の財産が1億円以下のときは遺産加算あり(上述した計算方法で算出した額に、1万1,000円を加算)
- ・正本と謄本の交付手数料(1枚につき250円)
- ・公証人が高齢の遺言者の自宅等に出張して公正証書遺言を作成する場合、手数料に50%加算、現地までの交通費も必要
これに加えて、原本の枚数が4枚(横書きの場合は3枚)を超えると、1枚ごとに250円を加算されるなど、公正証書遺言の枚数によって細かな費用がかわります。
実際にいくらかかるか確定するには、公正証書遺言の内容が確定した段階で公証人に確認しましょう。
公正証書遺言作成に必要な書類
公証役場に相談すると、公正証書遺言作成に必要な書類を指示してくれますので、用意しましょう。
<公正証書遺言作成のために用意する書類>
遺言者の本人確認資料 | 印鑑登録証明書または運転免許証、マイナンバーカード等 |
---|---|
戸籍謄本 | 遺言者と相続人との続柄がわかるもの |
財産の中に不動産がある場合 | 登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産評価証明書など |
遺言者の方で証人を用意する場合 | 証人予定者の名前、住所、生年月日及び職業をメモしたもの |
ただし、これ以外にも実際に公正証書遺言作成に至るまでに、必要となる書類が出てくることがあります。
詳しいことは、公証人に確認するようにしましょう。
自筆証書遺言との違いとは
公正証書遺言と自筆証書遺言には、検認の要否や保管の安全性など大きな違いがあります。
検認の要否
まず、検認について見てみましょう。
<自筆証書遺言と公正証書遺言の検認の要否>
自筆証書遺言 | 検認要 |
---|---|
公正証書遺言 | 検認不要 |
検認は、遺言書の偽造・変造防止などを目的として行われます。
自筆証書遺言を発見した相続人による変造がなされないよう検認を要するのです。
正確性の違い
また、公正証書遺言と自筆証書遺言の大きな違いは、正確性です。
自筆証書遺言の場合、遺言の形式や内容が法律に従っているかどうか担保はできません。
先述した通り、遺言の内容には法律上の制約があるため、自分の死後に法的な効力が発生しないことを記載する可能性もあります。
自筆証書遺言の形式(自書、署名、押印、日付や氏名の記載など)を守った遺言を書かなければ、遺言書として効力がありません。
手軽な遺言を選ぶのもひとつの方法ですが、より確実に財産の行く末を決めておきたい方は、公正証書遺言作成をおすすめします。
保管の安全性
公正証書遺言の原本は公証役場に厳重に保管されるので安心です。
これに対して、自筆証書遺言は紛失や滅失の恐れもあります。
公正証書遺言は、天災や不可抗力により滅失した場合に備えて、原本が二重保存されています。
また、公正証書遺言は原本と正本、謄本の3部が作られることも、紛失の恐れが低い理由です。
その他
自筆証書遺言は、文字通り、自書しなければならないので、高齢で自書できない場合は自筆証書遺言を利用することはできません。
高齢でも自分亡き後のことをきちんと形にのこしたいという方は、証人と費用はかかりますが、公正証書遺言を検討するといいでしょう。
まとめ
この10年で、公正証書遺言の作成数は30,000件以上増えています。
日本公証人連合会の統計によれば、平成21年の1年間に全国の公証役場で作成された公正証書遺言は、77,878件でした。
平成30年には、1年間に全国で作成された遺言公正証書は、110,471件となっています。
遺言書の必要性や公正証書遺言作成のメリットが、広く知られたことが要因かもしれません。
また、公正証書遺言は、裁判官、検察官、法務局長や弁護士、や司法書士など長年に渡って法律専門家を務めてきた公証人が関与します。
この信頼性も、公正証書遺言作成が選ばれる理由のひとつでしょう。
ただ、公正証書遺言を作成する前に、家族関係や資産を把握したうえで遺言内容を考えなければ、遺言を巡る相続人間の争いに発展する可能性があります。
また、少額の資産であっても相続税対策を考えずに遺言をのこすと、残された家族が多額の相続税を支払うことになります。
自分亡きあと、愛するペットの面倒を安心して第三者に任せる方法の模索など、公証人に相談するだけでは足りないこともたくさんあります。
公正証書遺言の細かな手続きの知識も大切ですが、実質的にどのような遺言をすべきか、早めに弁護士など専門家に相談することが大切です。
満足できる内容を固めたうえで、信頼できる友人や弁護士に証人を依頼して準備万端整え、公証役場で公正証書遺言を作成することをおすすめします。