この記事でわかること
- 相続税の申告ミスや脱税があった時のペナルティについてわかる
- 相続税を脱税しても税務署にバレる理由を知ることができる
- 脱税と判断されるケースや税務調査が行われるケースがわかる
国税庁の統計によれば、令和元年分の相続税申告件数は、約11万5千件です(「令和元年分 相続税の申告事績の概要」参照)。
年間にこれだけの相続税の申告が行われているのであれば、仮に申告しなくてもバレないのではないかと考えるかもしれません。
しかし実際には、申告していなかった場合や正しい申告がされていない場合、税務調査によりその誤りが指摘されることとなります。
どうして相続税の脱税や無申告が税務署にバレるのでしょうか。
目次
相続税の脱税・未申告にかかるペナルティ
相続税の申告を行う際に、その税額が思った以上に大きくなったため、相続財産の一部を申告しないのは一般的には申告漏れといわれます。
また、申告・納税義務があるのに、それを無視して申告しない場合は、一般的には脱税といわれます。
この両者は、普通に考えれば脱税の方が悪質であると考えられます。
ただ、税務署が悪質かどうかを判断する際には、その行為だけでなく、金額や納税者の脱税の意図なども総合的に勘案して判断されます。
そのうえで、悪質ではなく申告上のミスと判断するか、悪質であると判断するかによってそのペナルティは異なります。
脱税ではないと判断された場合のペナルティ
申告書の誤りは、納税者の悪質な意思により発生したものではなく、作成上の不注意やミスにより発生したものと考える場合です。
このような場合でも、納税者に対しては一定のペナルティが課されます。
このような場合、当初の申告は正しく申告をした場合と比較して税額が不足していると考えられます。
そこで、修正申告により追加で納付した税額をもとに、過少申告加算税や延滞税の計算を行います。
過少申告加算税や延滞税の額は、追徴税額が大きいほど大きくなるため、当初の申告で正しく計算することがとても重要なのです。
脱税と判断された場合のペナルティ
申告書の誤りが納税者の意図によるものであり、税負担を免れるために相続財産をわざと少なく申告したと考える場合です。
この場合、納税者は税金が少なくなるように操作をしたわけですから、そのことに対してペナルティを受けるのも当然といえます。
脱税と判断された場合、過少申告加算税ではなく重加算税が課されます。
この重加算税の税率は、過少申告加算税の税率と比較するとかなり高いため、より大きな負担が発生することとなります。
また、脱税と判断された中でもきわめて悪質な場合には、刑事罰を受けることもあります。
いきなり実刑とはならなくても有罪判決を受けることとなれば、その後の生活には大きな影響が出ることとなります。
相続税の脱税が税務署にバレる理由
『令和元年分 相続税の申告事績の概要』によれば、令和元年中に130万人以上の方が亡くなり、11万件以上の申告が行われています。
これだけの人数が亡くなり、申告をしているという実態があるため、申告しなくてもわからないのではないかと思ってしまう人もいるでしょう。
しかし、実際には申告漏れや脱税の指摘を受け、重いペナルティを課されることとなるケースが後を絶ちません。
これは、どうしてなのでしょうか。
税務署には多くの情報が集約されている
税務署にはKSKシステムと呼ばれる情報集約システムがあります。
KSKシステムとは「国税総合管理システム」のことで、納税者の申告状況や税金に関する情報が一元的に集約されているのです。
過去に多額の所得が発生していた人が亡くなったのに相続税の申告が行われなかった場合、本当に財産がないのか疑問が生じます。
贈与が頻繁に行われていたのであれば、財産はすでに相続人などに渡っていると考えられます。
しかしそのような情報がなければ、相続税を脱税している可能性も考えられます。
そうした場合、税務署はKSKシステムを使って相続税の申告がないことに疑問がないのか、簡単に調べることができるのです。
数多くの調書で税務署に情報が集められる
税務署がKSKシステムを使って情報を管理しているといっても、肝心の情報が集められなければ意味がありません。
しかし、この点についても税務署に多くの情報が集まるような制度となっているのです。
納税者から提出された申告書については、KSKシステムにその情報が毎年集約されていきます。
それだけでなく、保険会社や証券会社などから提出された支払調書の情報もKSKシステムに登録されていきます。
もし納税者が正しく申告をしていなかったとしても、保険会社や証券会社などからの情報を照らし合わせることができるのです。
税務調査にも種類がある
税務調査というと、税務署員がいきなり自宅に来て、現金が隠されていないかを調べるというイメージがあるかもしれません。
しかし、このようなケースはまれで、ほとんどは「〇月〇日に〇人で行きます」という打ち合わせの後に実地調査が行われます。
ただ、税務調査はその前の段階からすでに始まっています。
税務調査には他にも、金融機関や保険会社などに対して情報開示を求める反面調査を行う場合があります。
金融機関だけでなく、個人や取引先などに反面調査として税務署の調査が行われることもあります。
反面調査も行って、より脱税や申告漏れの可能性の高い人に実地調査を行うということもできるのです。
相続税の脱税と判断されてしまう要注意ケース
脱税というと、悪意を持って行われるものであり、普通の人は脱税など行わないと考えるかもしれません。
しかし、最終的には税務署の判断によるため、思わぬ形で脱税と指摘されることもあります。
ここでは、脱税と判断される可能性のあるいくつかのケースをご紹介します。
亡くなる直前に預金を引き出した
被相続人の預金口座から、家族が生活費や葬儀費用のためと考えて預金を引き出すことがあります。
預金を引き出した直後に亡くなった場合、引き出したお金を相続財産に含めないというケースが少なくありません。
しかしこの場合、税務署は脱税と判断して、重いペナルティが課されることとなるのです。
子ども名義の預金口座を申告しなかった
子ども名義の預金口座は、被相続人の名義ではないことから相続財産にはならないと考える人も多いでしょう。
しかし子ども名義でも、その原資を被相続人が負担しており、口座の管理も被相続人が行っていれば、それは相続財産となります。
このような他人名義の口座のことを「名義預金」といい、相続税の調査の際には重点的に調べられます。
名義預金があることが発覚した場合、重いペナルティが課される場合もあるのです。
現金が残されていたが申告しなかった
預貯金については、金融機関に確認すればその残高がわかるため、正しく申告しなければすぐにバレてしまいます。
ただ、現金については申告しなくてもバレないと考えるかもしれません。
しかし、現金についても税務調査で見つけ出すことがあります。
多額の現金が引き出され、あるいは不動産の売却で現金を受け取っているのに現金が申告されていない場合、調査されます。
その結果、申告されていない現金が見つかると、重いペナルティが課されることとなります。
相続税に関する税務調査が行われやすいケース
相続税の税務調査が行われやすい場合とは、その相続財産の中身に不明点や疑問点がある場合です。
税務調査を行って、その申告の内容が正しいかどうかを確認したいと税務署に思われるようなケースは、以下のような場合です。
(1)所得金額に対して相続財産が少ない場合
いくら以上の所得があれば、いくら以上の財産があるはずと断定的にいうことはできません。
ただ、税務署では他の人と簡単に比較できるため、あまりにも申告された財産が少ない場合は、その確認をしたいと考えます。
(2)専業主婦である被相続人の妻が多額の財産を保有している
専業主婦であれば、多額の収入を得ることは難しいと考えられます。
しかし、そのような人が株式や不動産などを多数保有している場合、そのお金の出所について税務署は疑問を持ちます。
贈与の申告なども行われていないのであれば、何らかの脱税行為が行われている可能性もあるのです。
(3)預金からまとまったお金が頻繁に引き出されている場合
被相続人が亡くなる前に、預金口座から頻繁に出金がある場合、そのお金はどこに行ったのか疑問を持たれます。
中には、相続財産として申告すべきものはないのかとも考えられます。
そのような確認をするために、税務調査が行われることもあるのです。
税務調査が行われる時期・流れ
相続税の税務調査は、一般的に相続税の申告を終えてから1年~2年が経過した頃に行われます。
また相続税の申告は、申告期限となる「亡くなってから10か月後」の間際に行われることが多いようです。
そのため、税務調査は亡くなってからは2年ほど経過したタイミングで行われるのです。
税務署側の事情で、9月~12月頃に税務調査が行われることが多くなります。
税務署側の事情とは、7月に行われる人事異動のことです。
毎年7月に人事異動があり、その後8月から調査先の選定が行われます。
また、翌年7月の人事異動により担当者が別の税務署に行ってしまうこともあるため、それまでに調査を終えるようにします。
そのため、秋頃に税務調査が集中して行われるのです。
まとめ
相続税の申告を正しくしなくても、誰にもばれないのではないかと考えるのは大きな間違いです。
税務署では、脱税がわかるようなシステムを利用して、被相続人の財産についても多くの情報を集めています。
もし正しく申告しなかったことが発覚した場合には、その代償はあまりにも大きいものとなります。
そのため、相続税の申告をする方は、正しい申告を心掛けるようにしましょう。