この記事でわかること
- 代襲相続人を無視した遺産分割協議は原則として無効
- 代襲相続人と他の共同相続人との間のトラブルの解決方法
- 代襲相続のトラブルをあらかじめ避ける方法
代襲相続人とは、本来相続人となるはずだった人(被相続人の子など)が相続開始時点で既に亡くなっていて相続権を失っていた場合に、その人に代わって相続人となる人を指します。
代襲相続人は、他の相続人と世代が異なり、また関係も疎遠であることが少なくありません。
そのため、共同相続人が代襲相続人の存在を知らずに、あるいは知っていながら無視して遺産分割協議を行うなど、遺産分割をめぐるトラブルが起こりやすくなっています。
今回は、代襲相続人を無視した遺産相続の有効性や、代襲相続が発生した場合に起こりやすいトラブルとその解決策、予防策などを解説します。
代襲相続人を無視して遺産分割はできない
相続人調査に手間がかかることや、日程調整が難しくなることなどを理由に、代襲相続人を無視して遺産分割協議が行われることがあります。
しかし、代襲相続人を無視して遺産分割協議を行うことは原則として認められません。
ここでは、代襲相続人を無視して行った遺産分割協議の有効性について解説します。
代襲相続人を無視して行った遺産分割協議は無効
遺産分割協議は、共同相続人全員によって行われなければ有効に成立しません(民法第907条1項)。
代襲相続人を無視して遺産分割協議を行った場合、その協議は無効になります。
遺産分割協議が無効であれば、代襲相続人も含めた共同相続人全員で協議をやり直さなければなりません。
また、代襲相続人を遺産分割協議に参加させた場合でも、以下の場合には裁判により遺産分割協議が無効となる可能性があります。
- 他の相続人だけで協議を行い、代襲相続人に対して協議内容への合意を強要した場合
- 相続財産の全容を知らせず、財産を隠す
例外的に代襲相続人が除外される場合
例外的に、以下の場合には代襲相続人を遺産分割協議から除外できます。
被代襲者が生前に相続放棄していた
被代襲者(相続人となるはずだった人)が、生存中に相続放棄していた場合は、代襲相続が発生しません。
この場合、被代襲者に子どもや孫がいても、代襲相続人として遺産分割協議に参加させる必要はありません。
代襲相続人が相続放棄した
代襲相続人が相続放棄した場合は、代襲相続が発生しなかったことになります。
この場合も、代襲相続人は遺産分割協議に参加できません。
ただし、相続放棄はあくまでも、相続人本人の意思に基づいて行われる必要があります。
他の相続人が代襲相続人に対して相続放棄を強要した場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行った後でも取消しの申立てが可能です(民法第96条1項)。
代襲相続人とのよくあるトラブル
ここでは、代襲相続人とのよくあるトラブルを5つ紹介します。
代襲相続の制度や代襲相続人の存在を知らずに遺産分割協議を行った
相続人が「代襲相続」という制度を知らず、あるいは制度は知っていても代襲相続人の存在を知らなかったために、代襲相続人を参加させずに遺産分割協議を行ってしまうというケースです。
この場合、遺産分割協議は無効なので、代襲相続人を参加させて協議をやり直す必要があります。
代襲相続人との関係が疎遠で連絡が取れない
代襲相続人が遠方に住んでいる、他の相続人とまったく関わりがなかったなど、関係が疎遠であるために代襲相続人の連絡先がわからないというケースもあり得ます。
この場合、代襲相続人の連絡先を知るには、被相続人や他の相続人の戸籍の附票を取得することにより住所地を確認するという方法があります。
住所地を確認したら、相手が代襲相続人となること、相続手続きを開始するので遺産分割協議に参加してほしい旨を記載した手紙を送りましょう。
代襲相続人から返答があれば、相続手続きを開始できます。
代襲相続人の存在を知っていながら遺産分割協議に参加させなかった
他の相続人が、代襲相続人の存在を知っていながら、故意に遺産分割協議に参加させなかった場合、行われた遺産分割協議は無効です。
必ず代襲相続人を参加させて、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
遺産分割協議をやり直すにあたっては、相続税の申告期限(相続開始から10カ月後)までに遺産分割を終えられるよう日程を組むようにしてください。
代襲相続人にとって不利益な内容の遺産分割協議書への署名を強要した
代襲相続人を遺産分割協議に参加させているが、その相続割合を不当に少なくする内容の遺産分割協議書への署名を強要するケースです。
この場合、代襲相続人は強迫による意思表示の取消(民法第96条)や、遺産分割協議の無効を主張できるため、相続人とトラブルになる可能性が高いでしょう。
代襲相続人が非協力的で遺産分割協議が進められない
代襲相続人が被相続人と疎遠だった場合などで、他の相続人からの連絡を無視する、遺産分割協議への参加を拒否するなど、非協力的な態度をとるケースがあります。
代襲相続人が遺産分割協議に参加できるよう、メールや手紙などで説得するとともに、協議の形式についても柔軟な対応が望まれます。
代襲相続でのトラブルの解決方法
ここでは、代襲相続のトラブルの解決方法をご紹介します。
代襲相続人に「判子代」を支払って相続放棄してもらう
代襲相続人が被相続人とほとんど関わりがなかった場合など、相応の理由がある場合は、代襲相続人に「判子代」を支払って相続放棄してもらう方法があります。
判子代とは、「法的な支払義務のない人が、物事を円滑に進めるために相手方に対して支払う金銭」のことです。
相続においては、相続放棄する人や、相続割合の少ない人に対して、遺産分割協議書に署名捺印してもらうために支払う金銭を意味します。
判子代の金額について決まりはありませんが、相場は10万円~30万円程度といえるでしょう。
110万円を超える場合、受け取る側に贈与税が課されるため、注意が必要です。
なお、被相続人が債務超過の場合は、相続放棄自体にメリットがあるため、判子代は支払われません。
遺産分割協議を弁護士に依頼する
代襲相続人と他の共同相続人が対立して協議がまとまらない場合は、遺産分割協議の代理を弁護士に依頼することをおすすめします。
法律の専門家で、第三者的な立場にある弁護士が介入することで、建設的な話し合いが可能になり、解決が近づくでしょう。
代襲相続のトラブルをあらかじめ避ける方法
代襲相続が発生するとトラブルが起こりやすくなるので、以下のような方法で可能な限りトラブルを避けるようにしましょう。
代襲相続人と他の相続人の間であらかじめ話し合う
代襲相続人は、世代の違いなどから他の相続人と関係が疎遠であるケースが少なくありません。
遺産分割協議をオンライン会議などで行う
遺産分割協議は、必ず対面の話し合いである必要はありません。
メールや電話、LINE通話やzoomなどのオンライン会議形式で行うことも可能です。
代襲相続人が遠方に住んでいる場合の他、移動が困難な相続人がいる場合など、相続人の事情を考慮して、柔軟に対処しましょう。
代襲相続人に遺産を渡さない旨の遺言書を作成する
被相続人が「疎遠な孫よりも、関係が深かった子どもに相続させたい」意思があるとすれば、代襲相続人に遺産を渡さない旨の遺言書を作成しておく方法があります。
ただし、代襲相続させない旨の遺言書を作成する場合には、代襲相続人の遺留分に配慮する必要があることに注意しましょう。
遺留分が保障されているのは、代襲相続人が甥・姪以外の場合です(民法第1042条1項)。
まとめ
代襲相続が発生する場合は、代襲相続人と他の相続人の間でトラブルが起こりやすく、訴訟に発展する可能性もあります。
早い段階で、専門家のサポートを受けるようにしましょう。
「代襲相続人がいるかどうかを知りたい」「連絡の取れない代襲相続人がいる」「遺産分割協議書への合意を強要された」など、代襲相続について疑問やお困りの点があれば、遺産相続を専門とする弁護士にご相談ください。