この記事でわかること
- 代襲相続が発生したときの遺産分割協議書の書き方
- 代襲相続発生時に遺産分割協議書を作成する流れ
- 代襲相続発生時に遺産分割協議書を作成するときの注意点
相続が開始した時点で、相続人となるはずだった人がすでに死亡していた場合※に、その人の直系卑属が代わりに相続することを「代襲相続」といいます(民法第887条)。
100歳以上の人口が9万人を超える現在、孫が代襲相続人になるケースも多くあります。
代襲相続が発生する場合、遺産分割協議書の記載事項や作成方法に通常と異なる点があるでしょうか。
今回は、代襲相続が発生した場合の遺産分割協議書の書き方について、遺産分割協議書作成の流れや作成上の注意点とあわせて解説します。
※相続欠格(民法第891条)または廃除(同第892条)により相続権を失った場合も代襲相続が発生します。
目次
【記載例付】代襲相続が発生したときの遺産分割協議書の書き方
代襲相続が発生した場合は、代襲相続人を含めた共同相続人全員で遺産分割協議を行い、協議の結果をまとめた遺産分割協議書を作成します。
ここで、代襲相続が発生した時の遺産分割協議書の書き方について、記載例とともにご説明します。
必要記載事項は通常の相続の場合と変わらない
代襲相続が発生した場合も、遺産分割協議書の必要記載事項は通常の相続の場合と変わりません。
相続人を特定する
遺産分割協議書作成に際して、相続人を特定する必要があります。
相続人の特定は、冒頭で「配偶者〇〇、子〇〇を相続人とする」などと定義する、または各条項で「〇〇は~を相続する」と述べる方法で行いましょう。
遺産の内容を特定する
相続対象となる遺産の内容も、協議書の記載によって特定しなければなりません。
遺産の内容は、種類が多い場合は別紙で財産目録を作成し、協議書の条項では「別紙財産目録に挙げる通り」などと記載しましょう。
種類が少ない場合は、各条項で「〇〇が以下の財産を相続する」旨記載するとよいでしょう。
どの相続人がどの遺産を取得するかを明記する
また、各相続人が取得する遺産を明記してください。
相続人全員の合意があれば、特定の相続人が「上記(他の相続人が相続する特定の財産)以外の一切の財産を相続する」旨の記載を行っても問題ありません。
遺産分割協議後に存在が判明した遺産の取扱いを明記する
遺産分割協議に先立って、相続財産調査を行っていても、協議後に新たに遺産の存在が判明する可能性は否定できません。
協議をやり直す手間や、財産をめぐるトラブルを避けるために、協議後に判明した遺産の取扱いについても協議した上で、明確に記載しましょう。
遺産分割協議書の記載例
ここで、代襲相続が発生した場合の遺産分割協議書の記載例をご紹介します。
この記載例は、被相続人・甲田正、相続人は妻・甲田花子、長男・甲田一郎の代襲相続人・甲田正彦、及び次男・甲田次郎の3人という設定に基づいています。
代襲相続発生時に遺産分割協議書を作成する流れ
代襲相続発生時、遺産分割協議書は以下の流れで作成します。
遺言書の有無を確認して財産調査を行う
まず、遺言書があるか確認しましょう。
遺言書がある場合は、原則として遺言書に従って遺産分割を行います。
遺言書がない場合は、被相続人の財産調査を行い、財産を明確に把握する必要があります。
財産は、不動産や預金などのプラスの財産だけとは限りません。
借入金、保証債務、未払いのサービス利用料などのマイナスの財産がある可能性もあります。
調査方法としては、通帳の記載を確認するという方法があります。
しかし最近では、金融機関が通帳を発行しない場合もあるので、スマホのアプリなども確認が必要です。
ただし、ログイン情報がわからない場合もあるので、金融機関から届いた通知などを確認して問い合わせることをおすすめします。
法定相続人を確定する
法定相続人を確定するには、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です。
代襲相続発生の事実を戸籍謄本で調べる
代襲相続が発生するのは、戸籍謄本の記載によって以下の事実がわかる場合です。
- 被相続人が亡くなる前に死亡した子がいる
- その子どもの直系卑属(子または孫:親等が近い方が優先する)が生存している
- 被相続人が独身で、子や子の代襲相続人が存在せず、両親及び兄弟姉妹の1人以上が死亡していてその子(甥・姪)が生存している
相続欠格・廃除の事実の調べ方
相続欠格及び廃除があった場合は、それらの事実は戸籍謄本に記載されません。
相続欠格や廃除の事実を確認する方法としては、以下があります。
-
相続欠格
・欠格者が自身の欠格事由を認めていた場合:欠格者本人が作成した相続欠格証明書
・欠格者が欠格事由を認めなかった場合:相続権不存在確認訴訟の確定判決謄本 -
廃除
・家庭裁判所が発行した廃除審判謄本
代襲相続発生時に遺産分割協議書を作成するときの注意点
代襲相続が発生する場合に、遺産分割協議書を作成するにあたっては、以下の点に注意する必要があります。
遺産分割協議には代襲相続人も参加させる
遺産分割協議は、共同相続人全員が参加して行わなければなりません。
1人でも参加していない相続人がいる場合、遺産分割協議及びそれに基づく分割は無効になります。
代襲相続が発生する場合、関係が疎遠で、連絡先がわからないこともよくあります。
しかし、代襲相続人も相続人である以上、遺産分割協議には必ず参加させなくてはなりません。
代襲相続人が未成年の場合は、代襲相続人の親権を有する法定代理人が代わりに遺産分割に参加します。
代襲相続人の法定相続分を正しく計算する
代襲相続人の法定相続分は、被代襲者(死亡、相続欠格、廃除によって相続権を失った者)と同じです。
代襲相続人が複数いる場合は、人数によって法定相続分を按分します。
たとえば、相続人が実子A及び、すでに死亡していたBの代襲相続人C・Dの3人である場合、CとDの相続分は2分の1×2分の1=4分の1となります。
代襲相続人の人数を正確に把握した上で、法定相続分を正しく計算しましょう。
まとめ
代襲相続が発生する場合、遺産分割協議書の記載事項は通常の場合とほとんど変わりません。
一方、代襲相続人がいる場合、そもそも遺産分割協議に参加させなかったために後でトラブルになることがよくあります。
代襲相続人は他の相続人と年齢が離れていることも多く、存在や連絡先がわからないことも多いでしょう。
しかし、代襲相続人も相続人である以上、遺産分割協議に参加しなければ協議も無効になってしまいます。
トラブルを防ぐため、代襲相続人がいることがわかった段階で、弁護士などの専門家へのご相談をおすすめします。
また、被相続人が生存中であれば、代襲相続人の相続分も含めた遺言書を作成してもらうという方法もあります。
遺言書を作成する場合は、内容や形式の不備を防ぐため、弁護士に相談しながら行うとよいでしょう。