この記事でわかること
- 夫婦間で預金の預け替えをすると贈与税がかかるケース
- 夫婦間の口座移動を行った場合に贈与税が発生する金額
- おしどり贈与の上手な利用法
夫婦間ではお金のやり取りが頻繁に行われるため、贈与税が気になった方がいるかもしれません。
夫婦間の金銭の移動であっても、贈与税がかかる場合があります。
一方、控除制度の適用を受ける資金移動もあります。
どのような場合に贈与税の申告が必要になるか把握しておきましょう。
今回は、夫婦間での預金預け替えや口座移動に贈与税がかかるか否かの問題や、夫婦間に適用される控除制度の要件などを解説します。
目次
事実婚を含む夫婦間の口座移動には原則贈与税がかかる
夫婦間であっても口座移動すると、贈与税が発生します。
預貯金を受け取った側は、管轄の税務署に申告を行い、贈与税を納付しなければなりません。
居住用不動産を購入するための資金であれば、配偶者控除が適用され、課税されないケースもあります。
ただし、事実婚の夫婦では配偶者控除は適用されないため、居住用不動産の購入資金であっても贈与税が発生します。
夫婦間で口座移動した場合に贈与税が発生する6つのケース
夫婦間の口座移動・預け替えで贈与税がかかるのは、以下の6つのケースです。
6つのケースについて、それぞれ見ていきましょう。
夫婦間の高額の現金移動
夫婦間で、1,000万円や1億円といった高額の預貯金の移動を行うと、贈与とみなされる可能性が高くなります。
日常生活に必要な額を超える金銭の授受は、たとえ夫婦間であっても贈与とみなされるためです。
夫婦間で高額の口座移動をすると、非常に高い贈与税がかかる恐れがあります。
口座移動をする場合は、資金移動の必要性をよく考えたうえで行いましょう。
夫婦間の金銭の貸し借り
「口座移動をすると贈与とみなされるなら、お金を貸したとすればよい」と考える方もいるかもしれません。
しかし、夫婦間での返済できないような金銭の貸し借りには、贈与税がかかる場合があります。
とくに、利息・返済期間などが定められていない、定期的な返済の実績がないなどのケースは、贈与とみなされる可能性が高いでしょう。
金銭の貸し借りをおこなう場合、夫婦間であっても契約書を取り交わして返済条件などを詳細に定める必要があります。
契約書を作成しても、元金と利息を期日ごとに返済しなければ実質上の贈与とみなされるケースもあるため、返済するようにしましょう。
住宅ローンの繰り上げ返済など
住宅ローンは、通常の生活費とは認められません。
そのため、夫が借りた住宅ローンを繰り上げ返済するために、妻が夫の口座に高額の預金を移動するケースは、贈与とみなされます。
詳しくは、住宅購入資金に関する贈与税の記事をご覧ください。
夫婦間で口座移動した預貯金を使った株や金融資産の購入
家計のやりくりを任せる目的で、夫が妻の口座へ入金する例はよくあります。
生活費として妥当な額であれば、夫婦間の口座移動でも贈与にはあたりません。
ただし、移動後の預貯金で妻が株や金融資産を購入した場合、金融資産の購入資金を贈与したとみなされ、贈与税がかかる可能性があります。
また、専業主婦が生活費として使った残りをへそくりにするケースもあります。夫が死亡したときに、へそくりが夫の相続財産にカウントされるかもしれません。
税務署は「収入がない専業主婦の口座にまとまった資金があるのはおかしい」と考え、妻ではなく夫の財産と判定するためです。
死亡保険金の受取
死亡保険金の契約者・被保険者・受取人がすべて異なる場合、受取人に贈与税が課される場合があるため注意が必要です。
該当する例として、「子どもが死亡保険金を受け取れるように、夫に保険をかけて、妻が保険料を支払っていた」ケースがあります。
この場合、妻が契約者、夫が被保険者、子どもが受取人となります。
実際に夫が死亡して子どもが保険金を受け取る際に、子どもに対して贈与税がかかります。
保険金が妻から子どもへの贈与とみなされるためです。
死亡保険金の受取人に対する贈与税課税を回避するためには、契約者と被保険者を同一にしておきましょう。
契約者と被保険者が同一である場合、被保険者が死亡すると保険金は贈与税ではなく相続税の対象となります。
相続税は贈与税に比べると控除額が大きく、保険金への課税を回避できる可能性が高くなるためです。
離婚成立前の贈与
離婚時の財産分与については、基礎控除額を超える財産のやり取りがあっても非課税となります。
しかし、非課税となるのは「離婚成立後の」財産分与です。
離婚が決まっている夫婦間でも、離婚成立前に財産分与が行われると、贈与とみなされます。
離婚時の財産分与が、解消された婚姻関係の清算や、民法上の財産分与義務に基づいて行われる財産の授受であるためです。
つまり、離婚成立後に行われる財産の無償譲渡は、贈与ではなく「分配」とみなされるために、課税対象から外れているといえます。
財産の無償譲渡であっても、離婚成立前に行われたら贈与になります。
夫婦間で口座移動した場合に贈与税が発生しない4つのケース
夫婦間の口座移動・預け替えで贈与税がかからないのは、以下の4つのケースです。
ここからは、4つのケースを紹介します。
生活費
通常の生活費の支払いにあてるために夫婦間で口座移動をするケースは、贈与税はかかりません。
夫婦には互いに扶助義務があるためです(民法第752条)。
いくらまでなら贈与税がかからないという決まりはありません。
しかし、高額な指輪や自動車などのプレゼントを買うために資金を移動すると、贈与税がかかる可能性があるため注意しましょう。
子供の養育費・教育費
通常の子供の養育費や教育費は、夫婦の双方が負担すべき費用です。
子供の養育費や教育費支払いのために夫婦間で口座移動をしても、贈与税は発生しません。
なお、離婚した夫婦間であっても、子供の養育費や教育費のための口座移動であれば、贈与税はかかりません。
夫婦の共通口座にある預貯金
夫婦で共通の口座を開設している場合、その口座への入金は贈与が課されない場合があります。
共通の口座は生活費や教育費の支払いのために利用される場合が多く、その口座への入金は夫婦間の扶養義務を果たしているためです。
しかし、日本では2人の名義で共通口座を作れません。
実際には、口座は夫婦のどちらか一方の名義で開設されます。
したがって、多額の預け替えを行うと贈与税が課されるため、税負担が心配な方は控えましょう。
離婚後に財産分与される財産
離婚が成立した後、預貯金などの共有財産を元夫婦の2人で分割する財産分与が行われます(民法第768条)。
財産分与は贈与税の対象にならないとされ、多額の財産分与が行われた場合でも贈与税は発生しません。
離婚した後に慰謝料が発生する場合もありますが、慰謝料に対しても贈与税や所得税などの税金は課されません。
なお、離婚が成立する前に財産分与を行ってしまうと、贈与税が課されます。
夫婦間の口座移動における贈与税を削減する方法
ここからは、生活費・学費以外の目的で夫婦間の口座移動を行った場合、いくらから贈与税が発生するのかを解説します。
また、贈与税がかかるケースでも、税負担を軽減する方法を見ていきましょう。
暦年控除
暦年控除とは、次の条件に該当する場合は贈与税がかからない基礎控除です。
毎年110万円以下の基礎控除(暦年控除)
毎年110万円以下の基礎控除(暦年控除)
- 1年間にもらった財産の合計額が110万円以下
- 1人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額
暦年控除を利用しても、確定申告をする必要はありません。
おしどり贈与の特例
おしどり贈与(贈与税の配偶者控除の特例)とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間の贈与で、2,000万円まで控除される制度です。
おしどり贈与の特例の適用を受けるための主な要件は、次のとおりです。
贈与の目的 | 目的居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた ・居住用家屋のみ、居住用家屋の敷地のみの贈与でも良い(配偶者控除の適用には、夫または妻が居住用家屋を所有していることなどが条件) ・国内の不動産の取得目的である |
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控除額 | 最高2,000万円 |
贈与の時期 | 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われた |
居住要件 | 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に住み、引き続き住む見込みがある |
おしどり贈与の特例を利用できる回数は、同じ配偶者からの贈与は一生に一度のみです。
内縁の配偶者間では、利用できません。
とはいえ、おしどり贈与の特例を利用した贈与が、相続税対策となるケースもあります。
おしどり贈与の特例は、相続税計算の際に行われる生前贈与加算の対象外になるためです。
ただし、相続税対策は、税金面だけでなく他の相続人との話し合いも重要です。
おしどり贈与をしたせいで家族間のもめ事にならないようにしましょう。
夫婦間で贈与をしたらバレる?
夫婦間で行われた贈与であっても、贈与税の申告を怠った場合は税務署にバレる可能性が高いです。
不動産については、登記情報が税務署に提供されます。したがって、不動産の贈与を行ったのに贈与税を申告しなければ確実に税務署に知られるでしょう。
不動産の贈与はなかったとしても、ほとんどの高額贈与は相続のときにバレてしまいます。
なぜなら、税務署は死亡した人の口座や預金の流れを調査できるため、被相続人の口座から多額の現金が引き出された履歴なども把握できるためです。
まとめ
夫婦間のお金のやり取りの中で、生活費や子どもにかかる費用については、金額にかかわらず贈与税がかかりません。
また、離婚後に行われる財産分与については、財産の清算・分配の目的で行われるため、贈与とはみなされません。
一方で、以下の場合は贈与税がかかる可能性があります。
贈与税がかかる可能性があるケース
- 生活費や子どもにかかる費用以外で高額の現金の授受や貸し借り
- 口座移動した資金による株や金融資産の取引
- 契約者・被保険者・受取人すべてが異なる死亡保険金
- 離婚成立前の財産分与
贈与税の課税を回避するためには、暦年贈与の基礎控除枠や、居住用不動産の控除制度などを活用しましょう。
特に、生活費や子どもにかかる費用以外の高額の金銭のやり取りに対しては、税務署に知られる可能性が高いです。
夫婦間の金銭授受で気になる点があれば、弁護士や税理士などの専門家へのご相談をおすすめします。